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アルブス  作者: シバザキアツシ
復活編

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27/32

盗人と祭

「何で私が、こんな事…!追っかけられるなんて!」

少女は走る、暗い森の中を、全力で。

捕まれば終わる、その事が少女の足を動かし続けられる原因である。

とうに限界が来ているにも関わらず、荒い息を吐きながら、懸命に走る。

「絶っ対!逃げ切ってやる!」

大事そうに、小脇に抱えた黒い物体を落とさぬよう、細心の注意を払いながら、突き進んで行く。

「私…何で逃げてるんだっけ?あれ?」

瞳から生気が抜け、何かに操られるように、少女は森へと溶け込んでいった。



ラップスの騒動を収めた後、アル一行は更に北へと向かっていた。

「今度はそんなに時間は掛かりませんよ」

そう言うのは、御者を買って出た小柄な男のユタ。

二階建ての大型獣車を、小気味よく走らせる。

「ふぅん、どれくらい?」

興味なさげに聞く、橙髪のラインハルト。

窓から顔を出し、短髪を揺らせている。

「平地なんで二時間程ですよ」

「そうかい…」

やはり興味は持てないらしい。

カラカラと、車輪の回る音が車内に響いていた。


死の森のお膝元、ヌークの町へと辿り着いた。

挿絵(By みてみん)

日は一番高い時間帯。

出入り口は町の北西にある門、一カ所。

「済まないが、今は出入りは出来ん」

「事情を聞かせて貰っても?」

「実は、この町のシンボルの月の神の像、エンズの像が盗まれたのだ、犯人はまだ町の中にいると思われる」

「だから、出入り禁止と言う事ですね」

首肯する大柄の門番。

「それ、依頼は出てんのか?」

「傭兵ギルドで出ている」

目だけを動かして、ラインハルトを見る門番。

「なら、俺らが受けてやるから、町に入れてくれ」

「…ランクは?」

ラインハルトは、ライセンスを門番に見せる。

それを見た門番は目を輝かせる。

「B級!願ってもない、直ぐにギルドへ向かってくれ!」

「お…おう」

180度態度を変える門番に、困惑するラインハルト。

一行はラップスの町を出る前に、傭兵ギルドでランクアップしていた。

通常は、最下級のF級から始め、B級に達するまで、数年から数十年かかると言われている。

それに届かない者も多い。

それがこのパーティは、数カ月で成していた。

異常なスピードで躍進する一行だった。

ラップスの件での功績により、ユタ以外の全員が、傭兵ランクB級へと昇級していた。


二つの検問を抜け、ヌークの町中へ入る。

門番の緊迫感とは裏腹に、町中はお祭りモードだった。

いや、実際に祭が催されていた。

「中央の広場でなんかやってんな?」

近くにいた町人に話を聞く。

「これ、何やってんの?」とラインハルト。

「あぁ、月の神祭だよ、今は力比べの真っ只中さね」

「力比べ…」

「そ、今年はいいねぇ、三次職でも上位の三人が出てるからね」

町中央に広場があり、そこに武舞台が設置されている。

「ほう、それはそれは」

少し気になるジル。

「行ってみる?」

「少し見るくらいなら、いいんじなねぇか?」

興味が勝ち、全員で中央広場へ向かう。


傭兵対冒険者で試合をしていたが、早々に冒険者が敗れ去り、次なる対戦相手を探していた。

「他の挑戦者はいねぇのか!!」


「ってか、月の像の依頼はどうしたんだよ?」

武舞台に立つ傭兵三人に、舞台下から正論をぶつけるラインハルト。

「まず、祭だ!依頼はその後だ!!」

即答、いっそ清々しい。

「いや、先に依頼こなせよ」

「俺らは先ずはギルドに行って、依頼受けてくるわ」

ラインハルトが背を向けて去ろうとするのを、一人の男が呼び止めた。

「待て!」

「何だよ…?」


「よし!俺達に勝ったら手を貸してやる」

ビシッとラインハルトに、指を突き付ける舞台上の男。

「そうだな、まずは祭を盛り上げてくれ!」

周りの男どもも賛同する。

「意味が分からんが、協力してくれるのは正直ありがたい」

「しょうがない…やりますか」

ジルも参加を決意した。


三対三の団体戦、二戦取った方が勝ち。

三つある武舞台全部を使い、一斉に開始する。


副都レイラインの傭兵団、ウロの副長、サエル=レルート対アル。

「ルールは簡単、この円形の闘技場から外に相手を出せば勝ちだ!戦闘不能や降参もありだ!」

「ふむ、簡単ですね」

黒髪の前髪で右目を隠している少年は、抑揚なく言う。

「後は、武器とスキルの使用は出来ない」

「つい、出ちゃったり?」

「この武舞台は、アンチスキルの魔鉱石で出来ている、スキルは発動しない!」

「分かりました、それと上半身裸の意味は?」

勝ち残った傭兵三人は、皆、上半身裸であった。

「ない!」

そんな気はしていた。

「………はい」

元々、アルはスキルが使えないので、関係はないのだが。

「始め!」

審判らしき人が開始を告げて、武舞台から降りた。

サエルは全身鍛え上げられているが、柔らかそうな肉体は、まるで体操選手のような筋肉で覆われていた。

「先手!」

「ほい」

右ストレートを放つサエル、それを少し頭を傾げるだけで躱すアル。

「やるじゃないか!」

サエルは連打を叩き付ける。

「一発受けてみますかね」

顔をガードして、わざと腹を開けるアル。

「そこだ!」

アルの腹筋に拳を叩き付けるサエル。

ヒットした瞬間、竹の割れるような音が響いた。

「ぐあぁ!」

サエルの拳が粉砕された音だった。

「脆すぎませんか?」

「こ、この程度で勝ったと思うなよ!」

痛みを堪えてアルにタックルをするサエル。

「え?」

ビクともしないアル。

見た目の軽さは微塵もない、まるで石像のようだ。

「あの…あなたの体重って?」

丁寧に聞くサエル。

「僕ですか?250kg程ですよ」

「はっ?」

アルはサエルの頭を左脇に抱え込む。

右手は腰のベルトを掴むと、一気持ち上げた。

「!!?」

真っ直ぐに逆さになったサエルを、そのまま下に落とす。

「や、やめ…!」

垂直落下ブレーンバスター。

サエルの頭と武舞台の一部が砕けた。

サエル戦闘不能、勝者アル。

無表情で右拳を上げるアルだった。



カイティアクの町の傭兵団、斧の鞘副長、トロイ=マクワ対ジル。

「オレは、まだるっこしい事は嫌いだ」

トロイはドワーフの戦士だ、身長は低いが鍛え上げられた肉体は鋼のようだ。

「出来れば自分も早めに終わらせたいですね」

鎧を脱いで、身軽になったジルはトロイの意見に同意する。

「よく言った!」

二人は両の手を合わせての力比べを始めた。

「ぐぅう!!!」

最初はトロイが、ジルの手を上から押す展開。

「そろそろ!攻守交代です!」

じわりじわりと元の位置に戻していく、今度はジルが上から押す。

「ぐぬぅ!!」

「押し切らせて貰います!」

トロイが片膝をつく。

「こっのお!!」

押し返そうとするが、そのトロイの力を上回り上から押し続けるジル。

「そい!」

トロイの膝が武舞台にめり込みだす。

「ぐぉおお!!」

ジルの緑眼がキラリと光る。

「そおい!!!」

石が砕ける音が鳴り、トロイの身体は完全に武舞台に埋まった。

「ぬぅ…まさか、ドワーフがヒトに力で負けるとは…」

意気消沈のトロイ。

首から上と両手だけが武舞台から出ている上体、勝負ありだった。

トロイ戦闘不能、勝者ジル。

ジルはトロイを一瞥すると、無言で武舞台をおりた。



ドゥーマの町の傭兵団、グランドホール団長、ライナス=ケットウェイ対ラインハルト。

「スマートにやろうぜ!」

先の二人に比べれば細身だが、高い身長が威圧感を出す。

「スマートねぇ…」

ライナスが先手を奪う。

ラインハルトの懐へ潜り込み、拳を突き上げる。

「うぉ!」

顎を上げギリギリ躱すラインハルト。

次の瞬間ライナスは、水面蹴りでラインハルトを転がす。

「ぬ!」

ラインハルトは後ろ向きに倒れ、それを追いライナスが、全体重を掛け肘を落とす。

「この!」

身体を転がせて、それを躱すラインハルト。

ライナスの肘が武舞台を打つ音が響く。

「中々速いじゃないか」

二人共立ち上がり、元の位置に立つ。

「打った肘は痛くねぇのかよ?」

「勝負の最中に心配されるとはね…問題ないよ、多少痛むだけだ」

「それなら良かった、スピードを上げるぜ!」

「え?」

ライナスの目に、ラインハルトは映っていない。

「どこへ!?」

後ろへ回ったラインハルトは、ライナスの腰に取り付き、一気にヘソで投げる。

それを呼んでいたライナスは自ら飛び、一回転して着地する。

転がったラインハルトの腕を素早く取り、腕ひしぎ十字固めに移行する。

しかし、ラインハルトはそれをさせまいと、強引に腕を抜く。

三度、元の位置へと戻る両者。

「はぁ…はぁ…やるじゃないか?」

「息切れしてんぞ、大丈夫か?」

息切れするライナスと、まだ余裕があるラインハルト。

「また、敵の心配かい?舐められたものだね」

今度は小細工なく、タックルをするライナス。

体重差でゴリ押せると判断したのだろう。

しかし、そう簡単にはいかない。

ライナスの頭を右脇で捕らえて、一気に下へ落とす。

「なに!?」

D(デンジャラス)D(ドライバー)R(ラインハルト)!」

額と武舞台が打ち付けられ、意識を飛ばすライナス。

勝負あり。

ライナス戦闘不能、勝者ラインハルト。

「体力が保たなかったか、最後は無理が過ぎたぜライナスさんよ」

ラインハルトは両腕を上げ勝利宣言した。



アル達の三連勝で、祭のメインイベントは幕を閉じた。

大いに盛り上がった。


観客席で試合を観ていたリイア、その隣には小柄な女の子がいた。

この町の傭兵団、夜金師の団長、ムツミである。

「…くだらなぁ」と、少女は白い目で吐き捨てた。



試合の後、依頼の仕切り直しをする。

寺に祀られている、エンズ、月の神の像が盗まれた。

町からはまだ、出ていないはず。

これを取り戻せと言う依頼である。

一行はこの依頼を快諾。

一先ずギルドへ行き、事情を聞く。

日は既に落ち、町は闇に包まれていた。


通常ギルドは一日中開いている、まず閉まることはない。

大体のギルドは食堂と併設されており、二階、三階は宿となっている事が多い。

今、傭兵ギルドの食堂の一角を借り、臨時会議が開かれている。

参加メンバーは、アル一行、力比べに参加していた傭兵団、この町の傭兵団、夜金師の団長。



意見を交わしていた時、急にアルが皆の会話を手で制する。

「どうした?」

耳に集中するアル。

「…(ウォール)の外に人の気配がある、東側」

話し合いの最中、アルが妙な気配を察知した。

「こんな夜にお出かけか?ちょっと話しを聞きに行こうか」

ラインハルトとアルが立ち上がる。

「ちょっ…!」

金髪を揺らせて焦るリイア。

「俺とアルで行く、二人は町中を頼む!」

「承知しました」とジル。

そう言うと二人は走り出した。

他の参加者の意見を聞く暇もなかった。


謎の人影を追うアルとラインハルト。

アルは東の壁を飛び越え、逃走者の痕跡を追う。

人影は死の森へと入っていった。

「夜の森とか、ぞっとしないな…」

ラインハルトは死の森で、フランキンセンスの香りを嗅ぐ。

「これは…?」

聖塔教会で使っているものと、同じものだと分かる。

「なんでこんなとこで?」


走り続け、突如開けた場所に、龍の死骸が佇んでいた。

巨大な龍だ、死してなお威厳を保っているように感じられる。

「な…んだ?コレは?」

目を丸くするラインハルト。

淡く橙色に光る龍の骨、不思議な力を感じる。

「ライさん!」

アルがラインハルトに追いつく。

「どういう事?」

「気配が消えやがった…何をしたんだ?」

追ってきた人影は、夜の森に溶けるように消えた。

「恐らく転移されたな、予め森の中に用意されてたんだろうな」

魔法陣のようなものが。

「むぅ、やられた…ところで…」

言葉を切り周りに集中するアル。

「あぁ、囲まれたな」

ラインハルトもそれに気づいた。


龍の死骸の周りを、地竜が囲む。

明らかな敵意を、アルとラインハルトに向けるヴィーヴルの群れ。

アルとラインハルトは、それと戦闘する事になってしまった。


戦闘態勢を取る二人の上空から、突如、道化が降ってきた。

「は?」

「ピエロだ!」

喜ぶアル。

まさにピエロ、顔を白く塗り、妙な仮面を被る長身細身の男。


「ピンチかなぁ?」

理由は分からないが、何故かヴィーヴルは動きを止めた、警戒は解いてないようだが。

「なんだてめぇは?」

ラインハルトは突然の乱入者を警戒する。

「ぼぉくは、この国を憂う者、と言っておこうかな」

「意味が分かんねぇ」

「まぁいい、今はまだね」

ピエロは仮面の下の目を細めた。

「一つ聞きたい事があるんだ」

人差し指を立て妙な抑揚を付けて喋れるピエロ。

「何だよ?」


「君達がこの国に来た理由は?」

一つ声のトーンを落とした、道化からの質問。

「今は、北の魔女の討伐へ向かってる最中だ」

間違ってはいない、何故かこの道化には、本来の目的を言ってはいけない気がするラインハルト。

理由はない、本能だ。

リイアが集めている、七つの力の事は伏せておいた。

アルも察して、口を開かない様にしている。

「なんだ関係ないじゃん」

道化の警戒の気配が消え失せた。


突如、ヴィーヴルの群れが動き出した。

アルとラインハルトに襲い掛かる。

「こんなもんでピンチになんかなるかよ?」

直ぐ様、地竜を片付ける二人、殺してはいない、八頭もの魔獣を数秒で戦闘不能にする二人の力は凄まじい。

「あらら、コレはトンズラですねぇ」

二人が戦闘している隙に逃げたピエロ。


「なんだったんだ?アイツは?」

「この龍のミイラはなに?」

アルとラインハルトは、違う理由で首を傾げる。

目の前にあるのは、この地を守り続けていた十二王が一人、龍王の死骸である。

それは“王骸”と呼ばれる、この国を守る重要な存在だった。

この王骸がなければ、とうの昔にこの国は滅んでいた程の存在。


「なんでこんなに不用心なんだよ?」

ラインハルトの当然の疑問。

ただ地面に寝かされているだけ、壁も建物も結界もない。

雨ざらし状態。


「つい先日までは、あったんじゃよ」

突然声を掛けられて、身体を強張らせる二人。

気配はなかった。

「なに者だよ?じいさん」

白いふさふさの眉に隠れた瞳を、アルに向ける老人。

「王骸が破壊されれば、この国は終わる」

「どう言う…?」

「これを守るんじゃよ、結界を張れる奴を知っている」

「あんた一体何者なんだよ?」

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