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アルブス  作者: シバザキアツシ
復活編

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26/33

カミラ=シーザー

戦いの後、ラップスの町は、公爵であるシン主導で既に復興作業が始められていた。

「気にせんでいい、君達はやらねばならない事があるんだろう?」

目処がつくまで手伝うと言ったら、シンに断られてしまった。

「お気遣い感謝します」

丁寧に頭を下げるジル。

「こちらこそだ!今度落ち着いたら、またゆっくりバーガーを喰おう!」

普段から声が大きいが、今は更にデカい、機嫌が良いのだろう。

「別のモンでもいいんだぞ?」

ラインハルトは、貴族の食事に少し興味がある、バーガーなどいつでも食える。

「僕はバーガーでもいいよ」

どっちでも良いアル、食事にあまり興味はない。

「私としては、もうちょっとオシャレな店の方が…」

リイアが意見を言おうとした時。

「よし、またな!」

話しを打ち切られてしまった、片手を上げてシンは去って行ってしまった。

「もう!」

リイアは頬を膨らまし、足を踏み鳴らす。

貴族のトップともなると、当然忙しいのだろう。

こっちの王族は、王族らしからぬ挙動。



ナッツはアル達と別れた後、この国最北端の町、チムフトへと辿り着いていた。


父はセッツ=キドナー。

刃月の四神の中で、最弱と呼ばれた存在だった。

裏の業界では、笑う暗殺者として恐れられていた。


幼少期の記憶。

「ナンシェ、こっちへおいで?」

父と過ごした記憶は既に掠れて、完全には思い出せなくなっていた。

それでも。

近くに来たあたしの頭に、優しく手を置きながら話す父。

「綺麗な花があるだろう?」

語尾が半音上がってしまう癖を覚えていた。

不思議とそれを、不快とは思わなかった。

「この花には毒があるんだ?」

真っ赤な大きな花だった気がする。

「………」

「根っこは更に強力な毒なんだよ?」

「………」

普通の親子関係ではなかった。

遊んだり、遠出したこともあるが、最弱とは言え刃月四神の一人、頭のネジは一つも二つも失っていた。

セッツは事あるごとに、暗殺の知識をナッツへ教えた。

その結果、五才にして、立派な暗殺者が仕上がってしまった。

自身は、暗殺者になどなりたくなかったのにだ。

だから、拳算士という意味不明な、とても暗殺者には向いてないユニーク職になれたのは、とても嬉しかったと覚えている。

父は何故か、困ったような顔をしていたと記憶している。


蔑まされる。

見下される。

叩かれる。

後ろ指をさされる。


一般的なジョブ差別は日常茶飯事だった。

使えないユニーク職、三次職にも劣るユニーク職、嘲笑には最早何も感じなくなっていた。

十才の頃、もう人生どうでもいいかと思い始めた時、父が死んだ。

母も既に他界しており、天涯孤独となった。

実際に見た訳では無い、死んだらしい事を聞かされた。

誰に聞かされたかは覚えていない。


自由になった。

自由になってしまった。


それは、人生初の事だった。

幸い父の残した遺産は、それなりにあったので、路頭に迷うような事はなかった。


自由に旅をして、二年後には自身をギャンブラーと名乗るようになっていた。

そして、呼び名をナンシェからナッツへと変えた。

父の事、刃月の事を知っている奴らに出くわしたら、面倒な事になると思い、偽名を使う事にした。

特にナッツにした理由はない、何となくだ。


そうして、各地を転々としながら、暗殺とは無縁のギャンブラー生活を謳歌していた時、彼女と出会った。


ナッツ=キドナー、十二歳、春。

テズヴァイス公国、本島最北端の港町、チムフト。

傭兵ギルド兼食堂。

そこの端のテーブルを借りて、カードで荒稼ぎをしていた時、彼女と出会った。


カミラ=シーザー。


白い肌と白い髪が特徴的な少女だった。

同年代の少女に興味を持ち話し掛けたが、見事に惨敗した。

「オラはオメになど興味はないけ、どっかいけ」

とりつく島もないとはこの事だろう。

「なっ…」

「空っぽの奴ぁ、場を乱すけ」

冷たい視線に射抜かれ、身動きが取れない間にいなくなってしまった。

空っぽ、その一言に胸がざわついた。


自分には友達も作れないのかと、絶望しふらふら彷徨っていた時、街頭でアクセサリーを売っている店が、ふと目に入った。

どこにでもある露店。


そのありふれた店に、何故か引き寄せられた。


「どうだい嬢ちゃん、何か買ってくかい?安くしとくよ」

人好きのする笑顔の店主。

「…これって?」

あたしは、欠けた球体がどうしても気になってしまった。

「あぁ、これはローレア王国を旅してた時に手に入れた物だよ」

「どう言う物なの?」

気になって仕方がない、どうしてかは分からない。

「ローレア王国の、スサン寺院の近くの平原で拾ったんだ、後に鑑定師に調べてもらったら、召喚獣のアサルッヒのコアの欠片だと分かったんだ」

「何かの効果とかなんかある?」

「いんや、何もないよ、ただ珍しいってだけだな、ただ…」

「ただ?」

「このコアはキレイに斬られている、刀傷らしい、詳しい人物に聞いたら、業物の刀で斬られたものらしい、それも飛びっきりの手練れに」

「誰かは分からなかったの?」

「噂、程度だがな…そいつは、恐らく刃月の刀使いだって話だ」


その一言に衝撃を受けた。

父がいた。

こんな所で父の痕跡を発見してしまった。

発見してはもう、目を背ける事は出来なかった。

好奇心と言っても良かった。

父の死の真相を、どうしても知りたくなった。

そのコアを言い値で買った。


情報屋を探し出し、コアに詳しい者がいないか聞き回った。

テズヴァイス公国に、今いるこの国に、コアハンターがいる事が分かった。

直ぐに行動に移した。


ナッツ=キドナー、十三歳、夏。

テズヴァイス公国、ノームダイト、コゴーダン墓所。


情報屋に言われた通り、午前三時に墓所の南東の祠で、線香を焚いた。

音も無く深い影から、人が滲み出てきた。

その人は自身の事を、パンサーの一人だと言った。

パンサーとは義賊と言われている団体だが、実際の所は不明、何の活動をしているのかも、隠されている。

それはいい、情報さえ得られれば。

連れてこられたのは墓所の地下。

薄暗く、空気も淀んでいる、吸うだけで身体に異常がきたすかと思われる程に。

袖で鼻と口を防ぎながら、前の影に続いた。

元は赤い6の研究所だったらしい。

赤い6(クリムゾンナイトメア)、第三崩壊前に存在した世界最大のマフィアだという。

ここから魔薬が製造され、各地に流されたらしい。

そのマフィアも数年前に、ガードという世界警察のような役目を持つ団体に、壊滅に追い込まれた。

最奥の小部屋に通信機械らしきものが、ポツンと一つ、小さい丸テーブルの上に置いてあった。

その装置を使い、コアハンターに連絡を取ってもらった。

この通信機器でしか、連絡が取れないという。

パンサーの一人に代金を払い、コアハンターの居場所を聞いた。



ナッツ=キドナー、十五歳、冬。

ローレア王国、王都キンガスの西にある砦。

朽ちた砦、レヴス砦。

ボロボロの五階建ての砦。

中に入り、一歩進む毎に床が鳴る。

踏み抜かないように、白い息を吐きながら、ナッツは慎重に歩を進めた。

時折、凍っている地面に注意しながら。

深夜、その最上階の一室にその人はいた。

「あなたが…コアハンター?」

月明かりの逆光で、顔は確認出来ない。

計算づくなんだろう。

「そうだ、何が知りたい?」

懐から欠けたコアを取り出し、目の前の人に渡した。

近付いても顔は見えない。

それを暫く眺め、口を開くコアハンター。

「このアサルッヒのコアは、守りの民の召喚師が持っていたものだ」

よく見ると球体に、不思議な紋様が刻まれていた。

その紋様が、守りの民の用いるものらしい。

「守りの民…」

ナッツは口の中でだけ呟く。

「魔神と戦ったその召喚師は、アサルッヒを倒され窮地に陥った時、刃月の笑う暗殺者に助けられたという、何かの間違いで、刀の軌道にコアが侵入してしまったのだろう」

それでキレイに斬られていたのだ。

全身に衝撃が奔った。

この人物は何故この物語を知っているのかは、聞かなかった。

何故か本当の事だと感じた。

「笑う暗殺者の事が知りたいなら、ここから南にあるスサン寺院に行くといい」

「情報、ありがと…」

置いてあった丸テーブルに、袋に入った金を置き、ナッツはその場を去る。

全身の汗がやけに冷たい、気温のせいだけではないだろう。


父の最後の目撃場所、スサン寺院には次の日の朝、辿り着いた。

夜通し歩き続けた、疲れは感じない。

何故、自分はこうまでして、父の痕跡を追っているのか。

最早、自分でも分からなくなっていた、強迫観念に近いものだと自己判断する。


本殿に繋がる長い長い階段の途中で、白銀の鎧を纏った騎士とすれ違った。

「…貴女は、ナンシェ殿か?」

その美麗な騎士に声を掛けられた。

「…どこかで会いましたか?」

ナッツはかつての名前に、懐かしさを覚えながらも、どこか胸が痛むのも感じていた。

「以前、一度だけ、貴女の父上と王城でね」

「あたし、王城にいったことあるの!?」

記憶にない真実に、思わず声がうわずった。

「話しをしていたい所ではありますが…申し訳ないが今は時間がない、後日、本部に連絡を貰えれば時間を取りましょう」

「…ありがとうございます」

それだけ絞り出すと、ガブリエルに連絡先の書かれた紙を渡された。

「ガブリエル=シーザー宛に連絡をしてくれ」

美しい金髪と白銀の鎧を輝かせながら、ガブリエルは去った。

「分かりました」

反射する光に目を傷める。

渡された紙を見ると、綺麗な文字でこう書かれていた。

(有)ガード、代表(リーダー)ガブリエル=シーザー。

「あの組織…有限会社なんだぁ…」

スサン寺院に訪れる意味がなくなり、暫くそこに留まった後、階段を下りることを選んだ。


テズヴァイス公国へ戻る途中、客船内の端末でガブリエル=シーザーの事を調べると娘がいる事が分かった。

アウトローな生活をしていた為、ちょっとしたハッキング位は出来るようになっていた。

「子供…いるんだ」

じっと液晶を眺める、その子供の画像はボカシが入れられており、顔は確認は出来なかったが、どこかで会ったことがあると本能が感じ取った。



この後、数年は父の痕跡を集めて各地を周った。


ナッツ=キドナー、十九歳。

テズヴァイス公国、スリアル。

「一先ずは、資金か…」

既に父の遺産は使い果たした。

カミラはナッツを振った後、ノームダイトの山に住む事になったらしいと聞いた。

旅費を稼ぐ為、ギャンブルをしていた時にアル達と出会った。


スリアルに留まっている間に調べた結果、ノームダイトの山には、魔神が封印されている事が分かった。

その魔神は、刃月の刀使いを屠ったと知る。

魔神の封印を守っているのが、カミラ=シーザーだと言うことも分かった。

あのボヤケた画像はカミラだった。

そもそもシーザーの娘が何故、辺境の山の巫女などしているのか。

しかし、何故カミラが封印を守っているかまでは、誰に聞いても答えを得られなかった。

「それでも…」

ナッツは封印を解くアイテムを手に入れたのだった。

「お手並み拝見やわ」

アルと別れた後、ナッツは姿を消した。


「こっちもまだ、ぎょうさん調べなあかん事があんねん」

ナッツは力強く笑った。



アル達一行はラップスを離れ、北にあるヌークの町への道中である。

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