戦闘終結と増える疑問
冒険者と傭兵は反発し合う、真逆の存在、正に水と油。
共に行動すれば、このラップスの厄災ももっと早く終息できたはずなのだ。
冒険者は特に、救う人を選びがちだ。
得にならない者は切り捨てたりする。
それは傭兵も似たような所はあるが、栄誉や名誉を重んじる冒険者が、その思想を持ってはいけない。
しかし、それこそがギルドの基本理念なのだ。
神ではないものに、全ては救えないのだからと。
それでも、アルは救う人を選ばない。
それは、白の君主の思想をトレースしているから。
憧れの余り、崇拝に近い感覚になっている。
すごいスピードで直される壁。
「すげえな…」
「何と言う…」
アルの作業スピードは常軌を逸していた。
「ふん!ほい!そいや!」
その光景は、逆再生の動画を視ているようだった。
その間、ゴブリンの侵入を許さないように、二人は排除し続ける。
壊れた壁の幅丁度に作り直された、新しい壁。
戦う二人の邪魔にならないように、少し手前にそれは作られた。
「出来ました、二人共、どいて下さい」
その一言に素早く後ろへ飛ぶシンとバルダン。
「よし、そい!」
その巨大の壁を押し歩くアル、ゴブリンを弾き飛ばしならが前進する。
揺れる地面、カチッとハマる壁、拳を突き上げて勝利宣言するアル。
「ホントにやっちまったよ…」
シンは開いた口が塞がらない。
「何なんですか?この少年は?」
バルダンは目を白黒させる。
「話せば長くなる…」
「…そうか」
黙る二人。
「終わったんで、僕は行きますね」
「「あぁ、ありがとね…」」
アルは疾風となり、その場から消え去った。
「「………」」
「おわ!どうしたんだい?!」
急に戻ってきた黒髪の少年、アルを見て驚きを隠せない赤い仮面の少女トワ。
「まぁ、ラスボスとの闘いですかね」
アルは首と拳を鳴らす。
「ボクをラスボスだと?」
少し嬉しそうなトワ。
「じゃ、中ボスでいいですけど」
「何か言い方良くないよ…それで、壁を諦めて戻ってきたということかな?」
口を尖らせながら、赤い仮面をつけた小柄な少女、トワはアルに問い掛ける。
「壁は埋めましたよ、強度を増して」
「嘘でしょ…ほんの数分じゃん」
「数分あれば充分でしょ、冗談言わないで下さいよ、ははは」
無表情でアルは吐き捨てる。
「え?マジでか…嘘でしょ?え?マジ?」
仮面の下の目を丸くするトワ。
「それより…君って」
アルはじっと、トワを見つめる。
「なんだい?そんなに見つめられると照れるんだけど」
「僕達がこの国に入国する時…沿岸警備隊と揉めてた時に、岬から船を見てた人ですよね?」
「………は?船の上からボクの事を視認してたの?」
「まぁ、はっきりと見えてましたよ、隠れてなかったし」
「君達の船からボクのいた岬まで、何kmあると思ってるんだい?普通見えないよ?」
「まぁ、鍛えてるんで」
鍛えても通常視力は良くならないが、何故か反論出来ないトワ。
アルは無表情で答える、その感情は誰にも分からない。
「そうだよ、ボクはあそこから君達を見ていた、面白そうな人達が来たと思ってね」
トワは仮面下で、悪い顔で微笑んだ。
「…何言ってるか分かりませんけどね」
じっと、トワを見るアル。
「まあ良いけどさ…で、ボクと戦うの?」
「あなたをボコボコにすれば、あの木は止まります?
「止まるよ…」
それを聞き終える前に、アルはトワの眼前に迫ると拳を振り抜いた
「ちょ!女の子をそんなに躊躇なく殴れる?普通!!」
ギリギリ避けられ、舌打ちをするアル。
「普通の女の子は変な仮面を被らないし、木も操らないよ」
「そう言われればそうだね、じゃやろうか」
トワは仮面の下の目を細め嗤う。
「とっとと終わらせないと」
皆が危ない、もう余り体力が残ってそうにない、エントを倒せるかどうかも分からない、無表情ではあるがアルは確かに焦っていた。
「ふん、邪術∶影の焔」
突如、アルの眼前に黒い炎が立ち上った。
「ふん!」
それをロシアンフックで掻き消すアル。
「バケモンじゃないか、はは」
アルの実力に、仮面の内の目を見開き、乾いた笑いが漏らす。
「でも、次!影氷!」
三本の、2m程の細長い黒い氷柱がアルに迫る
二本を両手で掴み、難なくトワに投げ返すアル。
それを華麗に避けるトワ。
「後一本は防げな…え?」
後一本はアルの額に当たると、ガラスが割れるような音を残して砕け散った
「嘘でしょ、鋼鉄すら貫く威力なんだよ…」
「僕の肉体が、鋼鉄みたいに脆いわけないじゃないですか、冗談言わないで下さいよ、ははは」
鋼鉄が脆いと嘯くアルは、無表情でそう笑う。
「冗談言うほど、余裕はないんだけどね…」
「もう、飽きたんで終わらせます」
無表情と言うより、真顔になったアルの目に、遂に殺気が宿った。
「ちょい!飽きた?」
「武器使いますね、死んだらごめんなさいだけど」
アルは一度決めたら躊躇はしない。
再び現れたエントと対峙するジルと傭兵。
「全く…もう殆ど力が残ってないと言うのに」
呟くジルは、今にも膝を着きそうな程疲弊している。
「あんたは座ってそこで待っていてくれ、通常サイズの…一般的なエントならば俺達だって対処できらぁ」
「はぁ…今度は自分が休ませて貰います…」
「そうしてくれ、守られてばっかじゃ、傭兵がすたるってもんだ」
そう言うと、傭兵達はエントへと殺到した。
「黒い根が消えたと思ったら、今度は通常サイズのエントかよ…」
「まあ、これぐらいなら、あの黒髪の少年の力を借りなくても何とかなんだろ」
「そうだな」
先程の絶望は既に消えていた。
冒険者も傭兵も、同じ理論の生き残る術は持っている。
「くそ!どんどん湧いてきやがる!どうなってんだ」
悪態をつきながらも、両手のダガーで手際良くエントを捌いていくラインハルト。
「リイアもどっか行っちまうし…皆どこにいんだよ!?」
そう叫びながらも、手を止めないラインハルトだった。
「貴族街には、絶対に侵入を許すな!」
統制を取り戻した冒険者は、無駄な動きなくエントを狩り続けていた。
元々パーティ戦は、傭兵よりも得意な冒険者。
こうなれば、格下の相手に後れを取る事はない。
「よし、この程度なら、我々だけでなんとかなるな」
弱い相手には強気な冒険者だった。
アルは流星牙の片方の刃を、トワへと投げた。
ジャラジャラと、死に導く鎖の音が鳴る。
それは音速となり、空気の壁をぶち抜く音が周囲に響く、トワの仮面を砕き、その顔面を貫く
。
「ダメよアル、殺しちゃ」
筈だった。
「痛っ!!」
咄嗟にリイアが、浮いていたトワの足を引っ張って、流星牙の軌道から外した。
何かを感じ、咄嗟にラインハルトに戦場を預け、ヒュージエントの現れた場所に駆け付けたリイア。
「リイア?」
鎖を操り刃を手元に戻したアルは、二人を見守る。
リイアに前から足首を掴まれて、思い切り引っ張られたトワは、しこたま後頭部を地面に打ち付けた。
トワの目に星が飛び、同時に仮面も飛ぶ。
地に落ちた仮面は三分割された。
頭を擦りながら起き上がるトワ。
「え?」
「は?」
トワとリイアが見つめ合う形になった
「トア…姉様?」
壊れた仮面の欠片を、慌てて被り直すトワ。
「何をいってるんだ君は、ボクはトワだ、変な名で呼ばないで欲しいな」
ビシッと、リイアに向けて指をさすトワ。
「偽名でも、もうちょっと分かりにくい方が良いかと思いますよ…姉様」
「う、うっさい!またね!…また、愚者の記録通りにいかない…もう!」
そう言うと、トワと名乗るものは影の中に消えた。
「またねって…」
トワが消えた瞬間、エントの群れも消え去った。
騒動が収まり、再び集合したアル一行。
「明らかに魔法…でしたよね」
遠目から、アルとトワの戦闘を見ていたジルは、アレは魔法だと判断した。
既に治療を終え、疲労以外は回復しているジル。
「ということは?アレが探していた魔力の人?」
アルは首を傾げる。
「多分違うと思う…」
アレが魔法ならば、預言者の言っていて事と違う。
預言者の言が間違ってないなら、アレは魔法ではない。
断じて違う。
「だよな、あの赤仮面を味方にして一緒に歩くとか…恥ずか過ぎんだろ」
「………」
吐き捨てるラインハルトに、何故か同意しかねるリイアだった。
実は、ギルド同士の仲は、決して仲は悪くない。
というか、冒険者、傭兵、双方のギルド長は同じ人物、バルダン=デルグラートなのだから。
「親父…」
同じ髪の色をした二人が向かい合う。
「色々言いたい事も、聞きたい事もあるが、今は処理しなければならない事が多すぎる…」
「わかってんよ…」
視線を下にし、目線を合わせないラインハルト。
「悪い…話はまた今度だ」
そう言うとバルダンは、息子、ラインハルトの前から踵を返して去って行った。
「まあ、しょうがないわな、ギルド長だもんな」
シンがラインハルトの横に立ち、バルダンを見送りながら呟いた。
かなりの広範囲の戦闘ながら、被害は少なく済んだと言っていいだろう。
数軒の住宅やら店舗やらが破壊されたが、人的被害は皆無だった。
この一件はアル達の勝利で幕を閉じた。
結局、誰がゴブリンを操っていたかは分からず終いだった。
「黒い7と名乗ったのですね?」
アルは首肯する。
「となると、ターマスで遭遇したリンナという少女、湖で会ったラウラと同じ組織という事になりますね」
「姉様が…何でそんな怪しい組織に?」
「さぁな、次会ったら直接聞いてみるんだな」
リイアにそう言うラインハルトは、いつもの元気はない。
「まぁ、考えても分かんないなら、次に行きましょう」
アルの提案が正しい事は分かっているが、重い気持ちを抱えた面々は、暫く動けなかった。
「?」
アルは皆の気持ちが分からず、佇むばかりだった。
黒い7の目的とは、愚者の記録とは何なのか。
疑問は増えるばかりだった。




