傭兵と冒険者
この世界に於いて、傭兵と冒険者は仲が悪い事は常識となっている。
その理由はというと。
傭兵は金の為に仕事をする、仕事は選ばない。
時には汚れ仕事だってする、生きる為にはしょうがない事だった。
対して冒険者は、夢や名誉の為に仕事をする。
それなのに、冒険者の方が報酬が良い。
それは何故か。
両ギルドの後ろ盾と関係がある。
冒険者ギルドの後ろ盾は、男爵であるルク家。
そのルク家の当主は、セドリア=ルク。
セドリアの父、イアファ=ルクは元十二臣将である。
イアファは十二臣将時代に、数々の武勲を挙げており、多大な報酬を得ていた。
その為、大量の財産を保有している。
相場を気にせずに、冒険者に還元出来るという事だ。
次に傭兵ギルドの後ろ盾は、伯爵であるシーザー家。
そのシーザー家当主は、十二王の一人、ガブリエル=シーザー。
ガブリエルは名誉を重んじる為、報酬では動かない男として有名である。
その為、傭兵への報酬は渋くなっている。
下で働く傭兵達は、あくまで金の為に仕事をしていると言うことを、当主は知らない。
冒険者は冒険者で、名誉や名声が欲しいのに、報酬が高いのはどうなのだろうと、自問自答する日々が続いている。
完全にあべこべである。
両ギルド共に面倒なトップだった。
傭兵ランクの上げ方は、地道に依頼をこなす事。
手っ取り早いのは、緊急依頼、特殊依頼をこなす事。
傭兵ランクを上げる事は、アルにとっては重要事項であった。
ランクが上がれば、それだけ白の君主に近付く事になる。
目指すはS級。
白の君主が直々に、S級の授与式を行うとされているからである。
爆発の振動にフロアの人々の動きが止まる。
「これは!?」
ジルが素早く辺りを見回す。
「また、厄介事か」
シンは頬を歪め、窓に近寄る。
「………」
下の光景を見て考え込むシン。
「行かなくちゃ」
シンの隣で、下を見ていたアルが呟く。
「どうしてだ?」
「きっと白の君主なら迷わず助ける」
「だろうよ」
「シン様は白の君主とお知り合いですか?」
ジルが慎重にシンに問い掛ける。
「知り合い…と言うよりは戦友だな、第二崩壊時に、お互いに始まりの地にいた、それより…」
「…始まりの地」と口の中でだけ呟くジル。
シンはアルの目を真っ直ぐ見つめる。
「うん、行くよ」
「ったく、誰かさんみたいな目をしやがって」
シンは僅かに微笑んだ。
「行ってこい!」
アルは頷くと、窓を空け空に身を躍らせた。
「………」
フロアは、色々な種類の悲鳴であふれていた。
「ここ…地上二十階なんだが?」
カクカクした動きで、ラインハルトの方を向くシンが、目を見開いている。
「細かい事は良いじゃねぇか、俺らも行くぞ!」
「細かい…?」
言っている意味が分からないシンと、うずうずしているラインハルト。
「飛び降りるの?」とリイア。
「バカか!?普通に死ぬわ!エレベーターで降りるわ!」
「…そうよね」
その時、見ていた景色の違う方向から、更なる爆発音が鳴るのだった。
「今度は何ですか!?」
「やれやれ、話はまた今度だな」
シンはこの会合打ち切りとし、急いで階下に向かうのだった。
町全体に響き渡るサイレン、避難を急ぐ住人。
クラウンゼリー出現時に、既に避難をしていた住人がいたのが、不幸中の幸いだった。
避難誘導に裂く人員が削られたのは、素直に助かった。
戦闘に集中出来る人員が増える。
町内放送で緊急依頼が出された。
『公園に突如表れた、エントを討伐せよ』
上ずった声でそう宣言された。
エントとは木の魔獣。
意志を持つ植物であり、悪魔と言われることもある。
「圏内で魔獣とはね、領主や貴族どもは何をやってんのかね」
シンは、二回目に起こった爆発の東の壁へと向かっていた。
「他の魔獣が忍び込む前に、防げるか?」
重い足取りで駆けるシン。
「やっぱ、ちったぁダイエットしなきゃなんねぇなかぁ…」
揺れる腹に吹き出る汗、しかし、歩を止める訳にはいかなかった。
商業施設の周り、異常事態に傭兵が既に展開している。
やはり冒険者は出て来ない、傭兵ばかりが対応に追われる。
「くっそ冒険者どもめ!仕事選ぶなっての!敵を目視!被害の確認急げ!」
非常時に、スタンスの違いとか言ってる場合ではないのだが。
このラップスの町には傭兵団がないので、傭兵ギルドにいた、個人の傭兵が集まり事にあたる。
「な…んだ…これは?」
一人の傭兵が見たものは、のた打ち回る巨大は蛇。
「蛇…いや」
その蛇を観察すると、あることが分かった。
地面から生えていて、口も目もない。
「これは…根っこ?」
木の根が上下左右に暴れている。
蠢く度に風切音が鳴る。
それ程素早く動いていた。
「くそ!こっちにも応援くれ!対処しきれん!」
商業施設周りに出現したのは、気味の悪い赤く染まった根だった。
「動きが速すぎる!」
傭兵達は、それぞれの得物で戦うが、根の動きが速すぎて当たらない。
「おりゃ!」
根の地面から出ている所を攻撃しようとすると、他の根が邪魔をする。
「うぉ!」
「どうすんだよ…こんなの」
そして、避け続けていた根が一際赤黒く染まりだし、動きを変えた。
「な!?」
一人の傭兵の頬が切れ、一筋の赤が流れる。
根の一本が高速で顔を掠めたのだ。
「やばい!攻撃に転じたぞ!一つの根を複数で対処するんだ!」
動きの速い根に一人で対処しようとしても、攻撃は当たらず、更には反撃を喰らう事になる。
下手な位置に根の攻撃が当たれば、戦闘不能、更に最悪な事態も予想された。
状況は余りにも悪かった。
「また…増えやがった」
商業施設周りの極太の根は、八本に増えていた。
町の南東部は、冒険者ギルドが近いため、冒険者も対応にあたる。
「いや、どっちかって言うと、貴族街が近いからだろ?」
傭兵が冒険者にツッコみを入れる。
「そうだ、何が悪い?」
冒険者に、悪怯れる様子は微塵もない。
「いっそ清々しいわ!まぁいい、一先ず、あの気持ち悪い青い根をやっつけるぞ!」
南東部に現れたのは、食欲を無くす、鮮やかな青色だった。
「命令するんじゃない、傭兵ごときが」
「いちいち噛みついてくんなよ、もういいから、勝手に対処してくれ、こっちはこっちで何とかするわ!」
冒険者の答えを聞く前に傭兵は走り去った。
冒険者は舌打ちをする。
これが、一般人の冒険者に対する正しい対処である。
話しを聞くと面倒だからと、一方的に言って逃げるに限る。
「この野郎!ファイアブロウ!」
傭兵の手から、火属性のスキルの風が放たれる。
それが根に当たり、燃え上がり。
「燃えない?」
根に当たった瞬間に、スキルは霧散した。
「どういう?」
スキルを受けた根が、より濃い青色となり反撃に転じた。
「うぉ!」
仰け反りギリギリ躱す傭兵。
避けなければ額を貫かれていた。
「コレは…ヤバくね?」
傭兵は一旦その場を離れた、全速力で。
冒険者に任せよう、そうした方が良いと自身に言い聞かせて、傭兵は走り去った。
「あいつら!逃げやがった!」
冒険者達は、貴族を守る為に必死に戦う。
「斬撃波!」
青い根に当たった瞬間、衝撃波は消え去った。
「何だと?」
周りの戦場を確認すると、あることが分かった。
撃つスキルが尽く無力化されている。
「スキルが吸収されている?」
青い根にスキルが当たると、霧散する。
霧散した瞬間に、根は太くなる。
「皆聞け!スキルを使うな!吸収されるぞ!」
「つっても、スキルなしで…どうやって?」
八本に増えて太くなった根は、のた打ちながら一斉に攻撃に転じた。
公園での根の暴走を必死で傭兵が食い止めている。
「この!」
傭兵は斧を振り下ろすが、硬い音が鳴り、刃は弾き返された。
「硬すぎる…」
黒い根の動きは然程速くはないが、刃が入らない。
傭兵達は次々と攻撃を当てるが、効いてる雰囲気はない。
木の根なので、そもそも効いてるか分かり辛いのだが。
「どうすんだよ…こんなの」
重たく硬い根が、這いずる毎に地が割れる。
弾ける地の破片を、避けるだけでも体力は削られていく。
アルが公園に着いた頃には、地から無数の根が出て来て、のた打ち回っていた。
「取り敢えず、引っこ抜いてみよう」
一本の根を掴み、背筋を使い一気に引き抜く。
「スキル∶横抱え式バックドロップ」
途中で千切れた黒い根が、先端から垂直落下で地面に戻される。
黒い根の動きは停止した。
周りの傭兵が、その光景を見て絶句している。
集まる視線に気付いたアルは、声を上げる。
「今の見てた人、同じようにすれば倒せますよ」
「「「出来ねぇよ!」」」
傭兵達の絶叫が、ラップスの町に響き渡った。
黒い根の群れは、纏めて攻撃に移った。
数十人の傭兵は、既に満身創痍という状況だ。
アル一人で対処するにも限界がある。
町全体が戦場となる。
応援は期待できない、北のヌーク、南のスリアル共に距離が遠い。
駆け付けるまでには、時間が掛かり過ぎる。
この町の戦力でどうにかするしかなかった。
間の悪いことに、破壊された東の壁から、ゴブリンの群れが侵入して来た。
緑色の体表の子鬼の魔獣。
「ちゃあ、間に合わんかったか」
遠目にゴブリンの群れが見える。
「取り敢えず、入ってくる奴らを殲滅するか」
シンは背負っていた筒、魔新銃を取り、肩に担いだ。
「通常MP弾、連射モード」
シンはスコープを覗き、照準を合わせ引き金を引いた。
更に黒い根を引っこ抜こうとした時、アルの目に、町の南側にある冒険者ギルドが、破壊される瞬間が見えた。
爆発したように見えたが、地下から巨大な木の魔獣が現れたのだと分かった。
木の魔獣、ヒュージエントの本体の出現であった。




