旅立ち
「準備はいいですか?」
船上で舵を握るジルが、皆に確認する。
「ええ」
リイアは海を眺めながら返事する。
「大きい船は始めてだ…」
目を泳がすラインハルト。
「僕も…」
僕は小刻みに震える。
四人は船に乗り込んでいた、その外の岸にはじいちゃんが。
ヤーツは本国へ向かう為、別行動となる。
旅立ちの数日前。
「でだ、集めた素材をどうやって船に組み立てるの?」
僕はじいちゃんに問う。
「それは、わしがやってやろう」
「え?できんの?」
じいちゃんが造船とか、想像出来ない。
「島の中央の湖なら可能じゃ」
「湖で組み立てて、どうやって船を海まで運ぶんですか?」
ジルが当然の質問をじいちゃんに投げる。
「そこは問題ない、海とつながっておるからな」
「なる程、【汽水湖】だったんですね」
納得顔のジル。
「キスイコ?」
ラインハルトは何のことか分からない。
「船旅中に教えて上げますから、今は話を続けましょう」
「ウン、ワカッタ」
「では、一先ず湖へと移動しようか?」
ターマス島、中央部の湖。
乾いた風が画面を撫でている。
「さて、取ってきた材料を出してくれ」
三つの材料を湖の畔に集めた。
「そもそもどうやって造船を?」
「それは神の力を借りるんじゃ」
「例のスキルですね?」
じいちゃんは親指を立てる事で返事とした。
「これからこの材料で造船する、その間、わしは無防備になるから、守ってくれ」
「何から?」
「さぁな、だが、途中でスキルが止まると全ての素材が無駄になる、一からまた探さなくてはなくなる」
「それは…そんな時間はないですね」
「では、しっかり護衛を頼むぞ」
「神働術バン・ラッバ、建築」
じいちゃんが、両腕を開きスキルを発動すると、両手の間に光球が現れる。
その光球の中から大量の小人が湧いてきて、素材に群がるとそれぞれに動き出した。
「あら、可愛い」
リイアは小人に興味津々だ。
じいちゃんは目を瞑り、あぐらをかいて集中する。
「おい」
「なんですか?」
ジルは問い掛けに顔を向けると、ラインハルトが下を見たまま固まっていた。
「湖、濁ってきてねぇか?」
リイアも湖面に視線を向ける。
「あら、ほんと」
「…湖の中央に何かいる」
僕は湖面に何かを発見する。
「船?」
「朽ちた船…【死霊の海賊船】か!」
「おいおい、船から何か出てきたぞ!」
海賊船の後部から、小舟が次々と出て来る。
「迎撃用意!」
ヤーツが叫ぶと、全員瞬時に戦闘態勢を取る。
「僕は船を沈めます、皆さんはここで、じいちゃんを守って下さい!」
そう言うと僕は、屈伸の要領でしゃがみ込む。
「おい、お前…」
ラインハルトの呼びかけは届かず、地面が割れる音と共に身体が射出された。
「飛んでったな…」
「そうね…人って飛べるのねぇ…」
口を空け、アルが飛んでいった先を見ている、ラインハルトとリイア。
「ボーっとしてる暇はありませんよ!」
ジルの言葉に正気に戻る二人。
「分かってら!」
僕は船の甲板を凹まして、爆音と共に着地する。
激しく大きく揺れる船は、湖面に新たな波を生み出し続ける。
「船長は…どこだ?」
大抵の大群は、ボスを倒せば統率を無くす。
僕は周囲を素早く見回す。
「いた」
隠れるつもりがないようで、操舵の前で悠然と腕を組んでいる。
【死霊船長】を目視。
『何者だ?』
「いや、こちらが聞きたい方なんだけど?」
『何者だ?』
「これテンプレ繰り返すだけのやつだ」
取り敢えず叩いてみる為に近付く。
『何者だ?』
「………」
『何者だ?』
「うっさい、えい」
死霊船長の頭を叩いてみるが、微動だにしない、ダメージは通ってないようだった。
「あれ?」
『何者だ?』
「答えないと進まないタイプのイベントね…めんど」
『何者だ?』
「わかったよ…僕はアル、あなたは?」
『俺はジャック、この船の船長だ、何用だ?』
「ここから去ってもらえますか?」
『何を言っている?分かって言っているのか?』
その時、海賊船の後ろが開き、そこから更に小舟が出て来た。
「ちょっと、話聞いてます?」
『俺は海賊だ、海からは出られない』
小舟で陸へ向けて出る敵、その数100。
「ここ、海じゃないてすけど…湖ですが?」
僕の一言に、死霊船長の動きが一瞬止まった。
『………』
「どうしました?」
『勝負だ!』
「唐突だぁ…」
呆れ顔の僕はため息を吐く。
死霊船長はサーベルを構えた。
「ヤバい!持たないぞ!数が多い!」
ラインハルトがチラリとチュルパンをを見てみると、未だ座して動かない。
「まだ、船は完成してない!急いで退治しないと」
小人達は元気に走り回って、頑張って船を造っている。
何故か、造船中の船の周りに敵は来ない。
後ろへ回り込み、死霊船長の頭部を掴む。
『え?』
僕は躊躇なく死霊船長の首をもぎ取り湖へ捨てる。
残った身体はその場に崩れ落ちた。
次の瞬間、岸の方に振り向き、首からぶら下げていたスフィアを握り手を合わせる。
「【ウルちゃん】、お願い!」
湖の底から三つの光体が、高速で浮かび上がって来た。
「今度はなんだ!?」
ラインハルトは叫ぶが、光体は止まらない。
「これは…ウィルオーウィスプ?」
ジルは文献でしか知らない、初めて見る精霊に目を見開く。
三つの光球は水面から離れ、空中をゆっくり回っている。
死霊達の船の前に立ちはだかり、光量を強くする。
弾ける光に、目が眩み世界が白に染まる。
それが消えると、海上の死霊は全て消えていた。
「ふぅ…間に合った」
僕は息を吐き、力を抜いた。
「出来れば、陸の奴も倒して欲しかったんだがな!」
愚痴を零すラインハルトは、次々死霊を斬り伏せる。
後は自分達でやれとでも言うように、三つの光体は二三度明滅し湖に沈んだ。
「これだけでも充分有り難いですよ!」
「そうね、後十体なら私達だけで退けられるわ!」
ジルとリイアは前向きに捉える。
「ちっ!しょうがねぇな!加速!」
ラインハルトは固有スキルを発動して身体を光らす、速度を上げて死霊達へ突っ込んで行った。
数分後、戦闘は終了し船は完成した。
美しく青く輝く船体。
少し小柄だが、四人で旅をするには充分といえた。
「後は、任せたぞ」
じいちゃんは、汗を拭い大地に寝転がった。
死霊達が現れた原因は分からない。
冒頭へ戻る。
「準備はいいですか?」
ジルが皆に確認する。
「ええ」
「船は始めてだ…」
「僕も…」
四人は船に乗り込んだ。
「さて、では、出航しますよ」
ジルは舵を握る。
「お願いね」
潮の匂いがする風を全身で感じ、新たな世界への希望に胸を高鳴らせるアルだった。
出航した瞬間、アルの震えは収まった。
綺麗な海の青、この日アルは始めて本当の色を知った。
向かうはテズヴァイス公国の本島である。
【汽水湖】
海と繋がった湖。
【死霊の海賊船】
通常は海に出るのだが、何を間違ってか湖に現れた。
【死霊船長】
船のキャプテン、主に指示出し役である。
【ウルちゃん】
王獣の一体。
ウィルオーウィスプの事。
アルの修行相手。




