風の塔
「と、言う事で、船を作るしかなくなったわけじゃな」
クラーケン戦後、イカパの後。
リイア達の乗ってきた船は、クラーケンにより粉々にされ、残ったのはローレア王国のエンブレムだけになってしまった。
これでは、旅に出るどころの話ではない。
「は?」
「作るって?じいちゃんどうやって?」
「実はこの島には、【船の材料】が各所に分けて隠してある」
「始めて聞いた…」
僕は驚いて、それ以上言葉が出てこなかった。
「始めて言ったからの、全部で3カ所じゃ」
指を三本前に出すじいちゃん。
「えと…?」
「では、張り切っていってこい」
「は?」
「じいちゃんは手伝ってはくれないの?」
「甘えるんじゃない、わしが出る幕じゃない、お前らで何とかするんじゃ」
じいちゃんの鋭い眼光が、五人を射すくめる。
「う、まぁ、当然っちゃ当然だな」
じいちゃんの正論に、何故か後ずさるラインハルト。
「船が作れると分かっただけでも有り難いです、これ以上の助力は申し訳なさすぎます」
ジルはじいちゃんに頭を下げる。
「制作自体はわしがしてやる、心配せんでいい」
「ふん、我々だけで問題なかろう」
ヤーツはくいっと眼鏡を押し上げ、自信を示す。
「お前も残ってても良いぞ、じいさんと茶でもしてろよ」
ラインハルトのテーブルのカップを弄びながらの一言に、ヤーツが激昂する。
「ふ!ふざけないで下さい!ワタシは騎士として…」
「熱くならないでヤーツ」
リイアはヤーツを窘める。
「そうだぞヤーツ、大人なんだから」
更に油を注ぐラインハルトは茶を啜る。
その姿にヤーツは青筋を浮かべる。
「誰のせいでこ「ヤーツ!?」」
リイアは下から、ヤーツの目を覗き込む。
リイアの眼力にヤーツは折れ、降参とばかりに両手を上げた。
「分かりました…すみせんでした、大人気なかったです」
「ラインハルト、貴方もいちいち突っかからないで下さい」
「へいへい」
「ひとつ、確認したいのですが?」
「なんじゃね?」
「貴方の正体が知りたい」
「唐突じゃな」
ジルの緑翠の目で、じいちゃんの黒瞳を真っ直ぐ覗く。
正体の分からない人物の情報を信じられないとか、そう言う事ではない、ただ、単純に時折見せる絶対的強者の風格が、気になって仕方がなかっただけ。
「しょうがない奴じゃなぁ」
皆が固唾を呑んで見守る中、じいちゃんは一つ咳払いをして一気に言う。
「わしはローレア王国、国王直属の親衛隊、元【十二臣将】、【序列】4位、【大僧正】、チュルパン=スザーラじゃ」
思いがけぬ大物の出現に、冷や汗が止まらない面々。
「…まさかそんなに素直に教えてもらえるとは思っていませんでした」
「おいおい、超大物じゃねぇか!」
ジルは嘆息し、リイアは固まり、ヤーツは目を閉じ、ラインハルトは歯を鳴らす。
「なに、昔の話じゃからな」
じいちゃんは片目を瞑る。
時間が惜しいという事で、3手に分かれる事にした。
思わぬ大物の登場の熱がまだ冷めぬ中、行動に移す。
ターマス島、最北部、【風の塔】。
「思ってたより、低いな」
外から塔を見上げる二人。
「全5階らしいからね」
「ちゃちゃっとやっつけよう」
とラインハルト
「そう簡単にいくかなぁ?」
とリイア
「まぁ、最上階のボス次第だな」
風の塔、ボス。
【ジン】∶風の精霊。
手に入れるべきは、船に張る【風の帆】。
アルの祖父、チュルパンに塔の攻略法は教わった。
一階。
「【コボルト】がいっぱいだな」
コボルト、犬人の魔獣。
「そうみたいね、どうする?」
正直、雑魚に構っている暇はない。
「全部相手してる暇はねぇな、邪魔な奴だけ斬り捨てて走り抜けるぞ」
そう判断を下すラインハルト。
「りょ〜かい」
ラインハルトの後を追うリイア。
二階。
「【オーク】がいっぱいね」
オーク、豚人の魔獣。
「ここも通り抜けよう」
動きが遅いので、難なく通り抜ける二人。
「は~い」
三階。
「これはちょっと…」
「倒すしかねぇな」
【トロール】が二体、完全に道を塞いでいる。
避けて通る隙間はない。
毛むくじゃらの巨人の魔獣は、二人に気付いてゆっくりと立ち上がる。
トロールが口を開けると、臭い息が部屋に充満する。
「うえ…」
「なんつー刺激臭だよ!」
ラインハルトは二本のダガーを構える。
リイアは一歩下がって、メイスを掲げる。
「一気に行くぜ!二刀流、さらに固有スキル加速!」
ラインハルトの身体が軽くなり、瞬時に一体目の懐に入り、ダガーを乱れ撃つ。
『ぐあぁあ!!』
腹を裂かれ前のめりに倒れる一体目、その脇をすり抜け二体目の背後に回り、その背中をやはりダガーで乱れ撃つ。
『ぐおぉおん!!』
「断末魔も臭え!!」
「うぷ…」
鼻をつまみながら、急いで階上へ向かう二人だった。
四階。
「また、厄介な…」
「今度は一体だけね」
「【キマイラ】だ、今までとはレベルが違う」
目の前の魔獣はキマイラ、本体は獅子そのものだが、首の辺りから山羊の頭が生え、尻尾は蛇となっている合成獣である。
「こっから本気って事ね」
乾いた唇を舐めるリイア。
「次の階が残ってる、出来るだけ温存しておきたい所だが…」
それは相手の力量次第と言うことは、分かりきった事だった。
キマイラはこちらに気付き、一つ唸りを上げた。
二人は敵と認識されたようだ。
「スキル∶二刀流、固有スキル、加速!」
ラインハルトは、二つ同時にスキルを発動する。
「スキル、光の波動」
眩い光が部屋を覆う、視界が白に染まった。
キマイラは視力を一時的に失うが、背後に光を浴びるラインハルトには効かない。
風のように加速したラインハルトは、キマイラの蛇を斬り裂いた。
『うぉおあ!』
叫ぶキマイラは獅子の口を大きく開け、瞬時に毒のブレスを吐いてきた。
「やば!」
「私の後ろへ下がって!」
「お前は!?」
「問題ないわ」
自信満々の発言に、ラインハルトは言われるがまま、超速でリイアの後ろへと回った。
女の子の影に隠れる日が来るとは、何とも言い難い屈辱を感じるラインハルト。
「反射」
ブレスは回れ右をしてキマイラへ直撃した。
「何その反則技!?」
ラインハルトは目を見開く。
「攻撃スキルがない分、こういうのが多いのよ」
リイアは片目を瞑る。
「何にせよ助かった」
ラインハルトはリイアの前へ飛び出る。
「トドメを宜しく」
「任せとけ!」
加速するラインハルトは、アクティブスキルを発動する。
「天下無双ぉ!」
左右のダガーで回転しながら、無数の斬撃を放つスキル。
キマイラは無す術なく切り裂かれる。
『ぐおぉお!!!』
ラインハルトが剣舞を終了し、ダガーを納めた。
一瞬遅れて、キマイラの巨体は床に沈んだ。
地鳴りとともに戦闘は終了した。
「はぁ、はぁ」
息を切らすラインハルト、体力を使い過ぎたかも知れない。
「次は最上階ね」
「ボスのお出ましだな」
汗を拭い、息を整え、不敵に嗤うラインハルトは指を鳴らした。
五階、白い部屋。
20m四方の部屋の奥に、一体の人型の魔獣が浮いていた。
「これが…」
「風のジン!」
人型の魔獣で身長は170cm程、上半身は布を斜めに掛けただけの半裸、下半身はダボッとした白い衣を履いている。
輝く鋭い目が二人を捉える。
不気味な顔は、耳や鼻と言う、目以外のものが存在してなかった。
ジンは風を纏い、敵と見定めたラインハルトへ迫る。
音も無く、空中を凄い速度で走る。
避ける余裕はない、ダガーを交差して堪える。
「くそ!」
掌底を腕に喰らっただけなのに、ラインハルトは壁際まで吹き飛ばされる。
身体の至る所に薄い切り傷が付いていた。
ジンの纏っている風は、カミソリのように鋭かった。
「コイツ、力も強い!」
速いだけと高を括っていたが、とんでもない誤算だった。
「どうすんのよ」
「スキル無効フロアじゃ、正直しんどいが…事前に打ち合わせた通りだ!」
「あぁ、そ〜だったわね、了解!」
忘れていた事に驚愕だが、リイアは気にせず親指を立て返事とする。
攻略前に、チュルパンから風の塔の事を聞いていたおかげで、対策を練る時間が取れた。
「こっちよ!」
『!?』
リイアの瞳を見てしまったジンに、魅了が発動する。
これは体質でありスキルではない為、発動は出来る。
いわゆる賭けであったが成功したようだ。
しかし、当然ジンには耐性がある為弾かれる。
「それでも、一瞬隙ができる!」
ジンは一瞬動きを止めた。
魅了を弾く1秒で、ジンの真横に迫ったラインハルトは、両手のダガーを振り回す。
「おらぁ!!」
三撃命中したが、後ろへ飛んで距離を取られてしまった。
全ての傷は右肩に集約されていた。
「致命傷には程遠いか…やっぱスキル使えねぇのは痛いな」
距離ができた両者、遠距離はジンの得意な範囲だ。
「反撃…くるわよ!」
ジンは右手を前に出し、二人に向けスキルを放つ。
『斬風』
目に見えない斬撃が二人を襲う。
「横へ飛べ!!」
掛け声と共に、二人は左右に分かれて跳んだ。
「!!」
直撃は避けたが、リイアの右足首から血が滲む。
直後、ラインハルトがジンへと真っ直ぐ走る。
しかし、ジンは気にせず、動きの鈍ったリイアを標的にする。
「くそっ!」
『斬風』
続けて、真っ直ぐリイアに向かって斬撃が飛ぶ。
「間に合わ…」
リイアの身体に痺れるような感覚が走った。
これは、スキルが発動する時のそれだと理解した。
「え?これって…ラインハルト!避けて!」
「は!?」
言われるがままに咄嗟に方向を変え、バックステップするラインハルト。
「何が…」
ラインハルトの問いがリイアに届くより先に、自らの放った斬風に切り刻まれるジン。
『ぐぁあ!!』
「まさか…」
パッシブスキルの反射が発動し、ジンとその後ろの空間を刻む。
「うお!?」
避けてなければ、ラインハルトも刻まれていた。
「スキル無効って、アクティブスキルに限るのか!?」
「それなら、やりようはあるわね!」
肝心な所を伏せていたチュルパンに、少し怒りを覚えるラインハルト。
だが、今はよそ事を考えている暇はない。
「固有スキル、栄光!」
パーティメンバーの能力を解放する。
何ともざっくりした説明のスキルだが、確実に味方の戦闘力は上がる。
淡く光る二人。
「助かる!更に、固有スキル加速!」
思った通り、アクティブスキル以外は発動出来る。
リイアのパッシブスキルで相手のスキルを反射し、超加速で靴底を溶かしながら、ラインハルトがダガーでジンを切り刻む。
『うぉおおおおお!!!』
ジンの反撃叶わず、無数に切り刻まれる。
断末魔の叫びの後、ジンは光の粒子になって舞い散った。
「しんど…」
床に大の字に転がるラインハルト。
身体中に切り傷が刻まれている。
「足痛い…」
ジンの攻撃で、リイアの足首からは未だに血が滲んでいる。
「待ってな、今、応急処置してやるから」
ラインハルトは身体を起こし、リイアに向かおうとする。
「大丈夫よ…私、聖職者だから、回復スキル使えるの」
「そうか」
その一言を聞き、安心したラインハルトはもう一度その場に寝転がる。
寝転んだまま頭だけ傾け、ジンの消えた床を見るリイア。
「アレが風の帆?」
白い床には、白い大きな布が残されていた。
「みたいだな」
暫く二人で、冷たい床で戦闘の熱を冷ましながら、仲良く大の字で寝転がっていた。
「他の皆は大丈夫かな?」
【船の材料】
三種類ある、風の帆、炎の核、ミスリルの塊。
【十二臣将】
王の親衛隊、最大十二人存在する。
【序列】
一位が一番上。
その功績や能力によって、年二回評価される。
因みに一位は、二十年間変わっていない。
【大僧正】
ローレア王国の王に、意見できる希少な存在。
通常は地位の名でだが、チュルパンはジョブも大僧正である。
【風の塔】
全五階の塔。
最上階のボスは、風の精霊ジン。
【風の帆】
ジンの纏っている衣である。
風を味方につけることが出来、雨に濡れることもない。
耐久力も高い。
【ジン】
風の精霊。
【コボルト】
犬人の魔獣。
小さい。
【オーク】
豚人の魔獣。
大きい。
【トロール】
毛むくじゃらの巨人の魔獣。
【キマイラ】
合成獣、獅子の魔獣であり、首から山羊の頭部が生え、尻尾は蛇である。




