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アルブス  作者: シバザキアツシ
旅立ち

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12/21

風の塔

「と、言う事で、船を作るしかなくなったわけじゃな」


クラーケン戦後、イカパの後。


リイア達の乗ってきた船は、クラーケンにより粉々にされ、残ったのはローレア王国のエンブレムだけになってしまった。

これでは、旅に出るどころの話ではない。


「は?」

「作るって?じいちゃんどうやって?」

「実はこの島には、【船の材料】が各所に分けて隠してある」

「始めて聞いた…」

僕は驚いて、それ以上言葉が出てこなかった。

「始めて言ったからの、全部で3カ所じゃ」

指を三本前に出すじいちゃん。

「えと…?」

「では、張り切っていってこい」

「は?」

「じいちゃんは手伝ってはくれないの?」

「甘えるんじゃない、わしが出る幕じゃない、お前らで何とかするんじゃ」

じいちゃんの鋭い眼光が、五人を射すくめる。

「う、まぁ、当然っちゃ当然だな」

じいちゃんの正論に、何故か後ずさるラインハルト。

「船が作れると分かっただけでも有り難いです、これ以上の助力は申し訳なさすぎます」

ジルはじいちゃんに頭を下げる。

「制作自体はわしがしてやる、心配せんでいい」

「ふん、我々だけで問題なかろう」

ヤーツはくいっと眼鏡を押し上げ、自信を示す。

「お前も残ってても良いぞ、じいさんと茶でもしてろよ」

ラインハルトのテーブルのカップを弄びながらの一言に、ヤーツが激昂する。

「ふ!ふざけないで下さい!ワタシは騎士として…」

「熱くならないでヤーツ」

リイアはヤーツを窘める。

「そうだぞヤーツ、大人なんだから」

更に油を注ぐラインハルトは茶を啜る。

その姿にヤーツは青筋を浮かべる。

「誰のせいでこ「ヤーツ!?」」

リイアは下から、ヤーツの目を覗き込む。

リイアの眼力にヤーツは折れ、降参とばかりに両手を上げた。

「分かりました…すみせんでした、大人気(おとなげ)なかったです」

「ラインハルト、貴方もいちいち突っかからないで下さい」

「へいへい」


「ひとつ、確認したいのですが?」

「なんじゃね?」

「貴方の正体が知りたい」

「唐突じゃな」

ジルの緑翠の目で、じいちゃんの黒瞳を真っ直ぐ覗く。

正体の分からない人物の情報を信じられないとか、そう言う事ではない、ただ、単純に時折見せる絶対的強者の風格が、気になって仕方がなかっただけ。

「しょうがない奴じゃなぁ」

皆が固唾を呑んで見守る中、じいちゃんは一つ咳払いをして一気に言う。

「わしはローレア王国、国王直属の親衛隊、元【十二臣将】、【序列】4位、【大僧正】、チュルパン=スザーラじゃ」

思いがけぬ大物の出現に、冷や汗が止まらない面々。

「…まさかそんなに素直に教えてもらえるとは思っていませんでした」

「おいおい、超大物じゃねぇか!」

ジルは嘆息し、リイアは固まり、ヤーツは目を閉じ、ラインハルトは歯を鳴らす。

「なに、昔の話じゃからな」

じいちゃんは片目を瞑る。


時間が惜しいという事で、3手に分かれる事にした。

思わぬ大物の登場の熱がまだ冷めぬ中、行動に移す。



ターマス島、最北部、【風の塔】。

「思ってたより、低いな」

外から塔を見上げる二人。

「全5階らしいからね」

「ちゃちゃっとやっつけよう」

とラインハルト

「そう簡単にいくかなぁ?」

とリイア

「まぁ、最上階のボス次第だな」



風の塔、ボス。

【ジン】∶風の精霊。

手に入れるべきは、船に張る【風の帆】。

アルの祖父、チュルパンに塔の攻略法は教わった。


一階。

「【コボルト】がいっぱいだな」

コボルト、犬人の魔獣。

「そうみたいね、どうする?」

正直、雑魚に構っている暇はない。

「全部相手してる暇はねぇな、邪魔な奴だけ斬り捨てて走り抜けるぞ」

そう判断を下すラインハルト。

「りょ〜かい」

ラインハルトの後を追うリイア。


二階。

「【オーク】がいっぱいね」

オーク、豚人の魔獣。

「ここも通り抜けよう」

動きが遅いので、難なく通り抜ける二人。

「は~い」


三階。

「これはちょっと…」

「倒すしかねぇな」

【トロール】が二体、完全に道を塞いでいる。

避けて通る隙間はない。

毛むくじゃらの巨人の魔獣は、二人に気付いてゆっくりと立ち上がる。

トロールが口を開けると、臭い息が部屋に充満する。

「うえ…」

「なんつー刺激臭だよ!」

ラインハルトは二本のダガーを構える。

リイアは一歩下がって、メイスを掲げる。

「一気に行くぜ!二刀流、さらに固有スキル加速(アクセル)!」

ラインハルトの身体が軽くなり、瞬時に一体目の懐に入り、ダガーを乱れ撃つ。

『ぐあぁあ!!』

腹を裂かれ前のめりに倒れる一体目、その脇をすり抜け二体目の背後に回り、その背中をやはりダガーで乱れ撃つ。

『ぐおぉおん!!』

「断末魔も臭え!!」

「うぷ…」

鼻をつまみながら、急いで階上へ向かう二人だった。


四階。

「また、厄介な…」

「今度は一体だけね」

「【キマイラ】だ、今までとはレベルが違う」

目の前の魔獣はキマイラ、本体は獅子そのものだが、首の辺りから山羊の頭が生え、尻尾は蛇となっている合成獣である。

「こっから本気って事ね」

乾いた唇を舐めるリイア。

「次の階が残ってる、出来るだけ温存しておきたい所だが…」

それは相手の力量次第と言うことは、分かりきった事だった。

キマイラはこちらに気付き、一つ唸りを上げた。

二人は敵と認識されたようだ。

「スキル∶二刀流、固有スキル、加速(アクセル)!」

ラインハルトは、二つ同時にスキルを発動する。

「スキル、光の波動」

眩い光が部屋を覆う、視界が白に染まった。

キマイラは視力を一時的に失うが、背後に光を浴びるラインハルトには効かない。

風のように加速したラインハルトは、キマイラの蛇を斬り裂いた。

『うぉおあ!』

叫ぶキマイラは獅子の口を大きく開け、瞬時に毒のブレスを吐いてきた。

「やば!」

「私の後ろへ下がって!」

「お前は!?」

「問題ないわ」

自信満々の発言に、ラインハルトは言われるがまま、超速でリイアの後ろへと回った。

女の子の影に隠れる日が来るとは、何とも言い難い屈辱を感じるラインハルト。

反射(リフレクト)

ブレスは回れ右をしてキマイラへ直撃した。

「何その反則技!?」

ラインハルトは目を見開く。

「攻撃スキルがない分、こういうのが多いのよ」

リイアは片目を瞑る。

「何にせよ助かった」

ラインハルトはリイアの前へ飛び出る。

「トドメを宜しく」

「任せとけ!」

加速するラインハルトは、アクティブスキルを発動する。

「天下無双ぉ!」

左右のダガーで回転しながら、無数の斬撃を放つスキル。

キマイラは無す術なく切り裂かれる。

『ぐおぉお!!!』

ラインハルトが剣舞を終了し、ダガーを納めた。

一瞬遅れて、キマイラの巨体は床に沈んだ。

地鳴りとともに戦闘は終了した。

「はぁ、はぁ」

息を切らすラインハルト、体力を使い過ぎたかも知れない。

「次は最上階ね」

「ボスのお出ましだな」

汗を拭い、息を整え、不敵に嗤うラインハルトは指を鳴らした。


五階、白い部屋。

20m四方の部屋の奥に、一体の人型の魔獣が浮いていた。

「これが…」

「風のジン!」

人型の魔獣で身長は170cm程、上半身は布を斜めに掛けただけの半裸、下半身はダボッとした白い衣を履いている。

輝く鋭い目が二人を捉える。

不気味な顔は、耳や鼻と言う、目以外のものが存在してなかった。


ジンは風を纏い、敵と見定めたラインハルトへ迫る。

音も無く、空中を凄い速度で走る。

避ける余裕はない、ダガーを交差して堪える。

「くそ!」

掌底を腕に喰らっただけなのに、ラインハルトは壁際まで吹き飛ばされる。


身体の至る所に薄い切り傷が付いていた。

ジンの纏っている風は、カミソリのように鋭かった。

「コイツ、力も強い!」

速いだけと高を括っていたが、とんでもない誤算だった。

「どうすんのよ」

「スキル無効フロアじゃ、正直しんどいが…事前に打ち合わせた通りだ!」

「あぁ、そ〜だったわね、了解!」

忘れていた事に驚愕だが、リイアは気にせず親指を立て返事とする。

攻略前に、チュルパンから風の塔の事を聞いていたおかげで、対策を練る時間が取れた。

「こっちよ!」

『!?』

リイアの瞳を見てしまったジンに、魅了が発動する。

これは体質でありスキルではない為、発動は出来る。

いわゆる賭けであったが成功したようだ。

しかし、当然ジンには耐性がある為弾かれる。

「それでも、一瞬隙ができる!」

ジンは一瞬動きを止めた。

魅了を弾く1秒で、ジンの真横に迫ったラインハルトは、両手のダガーを振り回す。

「おらぁ!!」

三撃命中したが、後ろへ飛んで距離を取られてしまった。

全ての傷は右肩に集約されていた。

「致命傷には程遠いか…やっぱスキル使えねぇのは痛いな」

距離ができた両者、遠距離はジンの得意な範囲だ。

「反撃…くるわよ!」

ジンは右手を前に出し、二人に向けスキルを放つ。

『斬風』

目に見えない斬撃が二人を襲う。

「横へ飛べ!!」

掛け声と共に、二人は左右に分かれて跳んだ。

「!!」

直撃は避けたが、リイアの右足首から血が滲む。

直後、ラインハルトがジンへと真っ直ぐ走る。

しかし、ジンは気にせず、動きの鈍ったリイアを標的にする。

「くそっ!」

『斬風』

続けて、真っ直ぐリイアに向かって斬撃が飛ぶ。

「間に合わ…」

リイアの身体に痺れるような感覚が走った。

これは、スキルが発動する時のそれだと理解した。

「え?これって…ラインハルト!避けて!」

「は!?」

言われるがままに咄嗟に方向を変え、バックステップするラインハルト。

「何が…」

ラインハルトの問いがリイアに届くより先に、自らの放った斬風に切り刻まれるジン。

『ぐぁあ!!』

「まさか…」

パッシブスキルの反射が発動し、ジンとその後ろの空間を刻む。

「うお!?」

避けてなければ、ラインハルトも刻まれていた。

「スキル無効って、アクティブスキルに限るのか!?」

「それなら、やりようはあるわね!」

肝心な所を伏せていたチュルパンに、少し怒りを覚えるラインハルト。

だが、今はよそ事を考えている暇はない。


「固有スキル、栄光!」

パーティメンバーの能力を解放する。

何ともざっくりした説明のスキルだが、確実に味方の戦闘力は上がる。

淡く光る二人。

「助かる!更に、固有スキル加速(アクセル)!」

思った通り、アクティブスキル以外は発動出来る。

リイアのパッシブスキルで相手のスキルを反射し、超加速で靴底を溶かしながら、ラインハルトがダガーでジンを切り刻む。

『うぉおおおおお!!!』

ジンの反撃叶わず、無数に切り刻まれる。

断末魔の叫びの後、ジンは光の粒子になって舞い散った。


「しんど…」

床に大の字に転がるラインハルト。

身体中に切り傷が刻まれている。

「足痛い…」

ジンの攻撃で、リイアの足首からは未だに血が滲んでいる。

「待ってな、今、応急処置してやるから」

ラインハルトは身体を起こし、リイアに向かおうとする。

「大丈夫よ…私、聖職者だから、回復スキル使えるの」

「そうか」

その一言を聞き、安心したラインハルトはもう一度その場に寝転がる。

寝転んだまま頭だけ傾け、ジンの消えた床を見るリイア。

「アレが風の帆?」

白い床には、白い大きな布が残されていた。

「みたいだな」

暫く二人で、冷たい床で戦闘の熱を冷ましながら、仲良く大の字で寝転がっていた。


「他の皆は大丈夫かな?」

【船の材料】

三種類ある、風の帆、炎の核、ミスリルの塊。


【十二臣将】

王の親衛隊、最大十二人存在する。


【序列】

一位が一番上。

その功績や能力によって、年二回評価される。

因みに一位は、二十年間変わっていない。


【大僧正】

ローレア王国の王に、意見できる希少な存在。

通常は地位の名でだが、チュルパンはジョブも大僧正である。


【風の塔】

全五階の塔。

最上階のボスは、風の精霊ジン。


【風の帆】

ジンの纏っている衣である。

風を味方につけることが出来、雨に濡れることもない。

耐久力も高い。


【ジン】

風の精霊。


【コボルト】

犬人の魔獣。

小さい。


【オーク】

豚人の魔獣。

大きい。


【トロール】

毛むくじゃらの巨人の魔獣。


【キマイラ】

合成獣、獅子の魔獣であり、首から山羊の頭部が生え、尻尾は蛇である。

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