襲撃
クラーケンは、北西部の居住区を襲った後、再び海へ戻った。
そして、その1時間後。
「おいおい」
遠巻きにクラーケンを監視していた、ラインハルトとジルとアル。
「完全に壊れましたね…」
クラーケンの触手が当たり、リイア達の乗ってきた船は、海の藻屑となった。
その船に付いていた【エンブレム】だけが、波間に浮いている。
僕は後に回収するその船のエンブレムを、その形を本で見たことがある。
ローレア王国のものだった。
じいちゃんの家の北側の海岸へとクラーケンは上陸し、何かを感じたのか再び海へと引いた。
「さて、退治しますか、今日は【イカパーティー】ですな」
「久しぶりじゃのう」
二人は想像でよだれを垂らす。
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
リイアは首を振る。
「は?バカなの?無理でしょ?超害獣よ!?」
一度、じいちゃんの家に集合し話し合う一同。
「敵わないからって、諦めるの?」
真っ直ぐリイアの青い目を見る僕。
「それは…」
その真っ直ぐに気圧されるリイアは、後ろへ一歩引く。
「僕はこの島の人達が好きだし、この島自体も好きだ、だから戦う、敵う敵わないじゃないんだ」
一気にまくし立てる僕。
「リイア嬢よ、やられたな」
ニヤけながら、からかうラインハルト。
「うっさい!」
「やるかやらないかの問題だよ」
無表情で更に押しの一手を言う僕。
「むぅ…」
まぁ、実はそんなに苦労しないで勝てるんだけども。
「さて、行きますか」
「そうじゃな」
家を出る前に、じいちゃんの神働術でヤーツを回復させた。
海の悪魔、クラーケン。
イカ状の魔獣、その大きさは三階建てのビルに相当する。
クラーケン、水属性
LV3000
HP210000
MP5900
固有スキル∶千手観音
アルの祖父の家での、三人の話し合い。
アル、その祖父、ラインハルトが出て行った後。
「彼が味方になってくれれば」
ジルは自分の考えを二人に伝える。
「私は…止めたほうがいいと思う」
リイアは何故か反論する。
「理由を聞いても?」
「主にはレベル至上主義」
「確かにそれは…」
「もう一つは、スキル至上主義、そのどちらも彼には無い」
「しかし!彼はスキルを何度も…」
抗議するジルは途中で口ごもる。
「ホントにあれがスキルなの?あなたも気付いているんでしょ?」
「しかし、それなら何故、彼が…彼は…」
あれ程強いのか?と、声に出せなかった。
「尋常じゃない程の鍛錬…でしょうね」
ヤーツが割って入ってきた。
「………」
「お二人は見たんですよね?その一端を」
「…えぇ、そうですね」
「やめたほうが良いとは言ったけど、その力は魅力的よね」
揺れるリイアは深く椅子に座り直す。
「彼がいるのといないとでは、戦力に大きな違いがでます」
押すジルは、立ち上がり机に手を置き前のめりになる。
クラーケンとの開戦の少し前。
アルは外で筋トレをしている。
室内はアルの祖父、リイア、ジル、ラインハルトの四人。
「あなた方はここに居なさい、わしとアルだけで大丈夫だから」
「…アルの力って、なんなの?」
唐突に問うリイアはいつも通りの直球、何でも口にする性格は変えられない。
「隠し通せないか…しかし、他言は無用だぞ」
三人は首肯し、それを見たアルの祖父は長いため息を吐く。
「お願いします」
固唾を呑んで、言葉を待つ三人。
「アルの固有スキルは、無限じゃ」
「無限って?どういう?」
「無限は無限じゃよ、際限なく強くなる」
「でも、アルのレベルって4では?」
「アルのステータスを見たのなら話は早い、そのレベルは004と言う表記じゃったろう?」
「そうです」
「通常レベルのカンストは999じゃ」
そこで言葉を切り、答えに辿り着けるように暫し待つ。
「まさか…」
いち早く辿り着いたジルは絶句する。
「その通り、999以上、上がる、それ以上になると3桁しか表示出来ないステータス画面はそのような表記となる」
ラインハルトは黙って下を向いている。
「まさか、アルのレベルって…1004ってこと?」
現在、北の海岸でクラーケンを目視。
未だ海上にある。
「さて、どうやって攻めますかね」
一度上陸したが、今はまた海上へと出てしまっている。
「上陸するのを待つかの?」
何故かラインハルトもついてきた。
「邪魔になんねぇようにするから、見学させてくれ」
強くなる事に貪欲なラインハルトは、鼻を膨らます。
「まぁ、いいじゃろ」
「【ジーちゃん】呼んで上から攻めるかな?」
「おい、じいちゃんならそこにいるだろ」
ラインハルトが、じいちゃんを指差してツッコミを入れる。
「じいちゃんじゃなくて、ジーちゃんだから」
「???」
違いが分からないラインハルト。
「もしくは、【サンちゃん】呼んで闘うか」
「それだと怪獣戦争になってしまわないか?」
「被害が広がる?かぁ…」
ラインハルトには二人の会話は、何を言っているかさっぱり分からない。
「??????」
「一番早いのは、わしの術でお前をあのデカイイカに飛ばして「僕が一撃で仕留めると」
被せて言う僕。
「そう言う事じゃな」
「じゃ、日も沈み始めて来た事ですし、ちゃちゃっと片付けますか」
「そうじゃな」
「?????????」
ラインハルトが口を挟む暇もなく、作戦会議は終了した。
「神働術サーム∶一撃!」
じいちゃんの背後から、淡く光る巨人の拳が現れ、真っ直ぐ海へ向かって放たれる。
「よいしょ!」
僕はその拳に、ひょいと飛び乗る。
「いけぇ!!」と、何故かラインハルトが叫ぶ。
物凄い勢いで、カタパルトのように弾き飛ばされる。
「なぁ、今のスキルでクラーケン叩けばよかったんじゃね?」
当然の疑問である。
「無理じゃ、射程が短くて届かんわい」
簡単な答えだった。
「あ〜、なる程な」
納得するしかないラインハルトだが、まだ攻めてみる。
「あんたのその、技?スキル?みたいのだけでは倒せないのか?」
「倒せるは倒せるが、わしのは燃費が悪いからの」
「どれくらい?」
「数十種の神働術は使えるが、一気に使えて、四種類くらいかの」
「四種類…消費MPは?」
「ひとつ1000じゃ」
「あんたのそのMPもバケモノクラスだな!」
チュルパンのMPは、4000ちょっとあるらしい。
「MP回復薬も安くはないからの、コレくらいなら、アルにやってもらったほうが楽で良い」
「クラーケンをコレくらいとは、恐れ入るぜ」
変な汗をかくラインハルトは、戦闘もしていないのに疲労する。
「そろそろじゃ」
「おう!」
「よし!ぴったりのコース」
僕は懐から一本の短剣を出す。
「何か出したな」
「君も目が良いな」
「何かの骨…か?」
「ホントによく見える目じゃな、アレはカオスドラゴンの牙を加工したものじゃ」
「カオス…!?まじかよ…」
その事実に驚愕するラインハルト、ドラゴン、それは魔獣の王、手に入れるのは容易な事ではない。
更にその上位の存在、その牙を削り短剣として使用している。
カオスドラゴンの牙の短剣には、柄に長い長い鎖が付けられている。
「行くよ!スキル…」
ラインハルトは、アルの一挙手一投足を見逃さなきように、目を見開く。
「投げる!」
乾いた極大のクラッカーのような音が鳴る。
カオスドラゴンの牙は音速で飛び、クラーケンの目と目の間に突き刺さり、後ろへと突き抜けた。
クラーケンは断末魔を叫ぶ暇もなく、命を刈り取られた。
「スキルっつうか…投げただけだよな?」
クラーケンから目を逸らさずに、ラインハルトが言う。
「ススス、スキルに決まっておろうが!」
じいちゃんが凄く動揺している、盛大に目が泳いでいる。
風船が弾けたような、気持ちいい音が鳴った。
「よし、コアを撃ち抜いた!」
僕は無表情でガッツポーズをとり、カオスドラゴンの牙に付いてる鎖を一気に引き、手元へと戻す。
「いっちょ上がりですな」
クラーケンの巨体が倒れ、海岸に高波が押し寄せる。
「瞬殺…圧勝じゃねぇか」
圧倒されるラインハルト、レベルが違いすぎて参考にならなかった。
「まぁ当然じゃな」
「じいちゃん!急がないと!」
何やらアルが焦っている。
「なんだ?まだ何かあんのか!?」
初めて見るアルの動揺ぶりに、ラインハルトも同時に焦る。
クラーケンとの戦闘の少し前に戻る。
「まさか、アルのレベルって1004?」
全員が驚愕する。
「違う、アルはカンスト11周目だ」
衝撃の事実を告げるアルの祖父。
「「「!!!」」」
「はあ?」
三人は目が落ちそうな程見開いている。
「つまりは…10004ってこと?」
アルの祖父はサムズアップで答える。
「そ…んな、馬鹿なこと…」
「………」
三人は小刻みに震える。
「そう言うことじゃ」
「おい!答えろ!何があるんだ?」
「早く解体して、捌いて処理をしないと…」
「しないと?」
「物凄く臭くなって、食えたもんじゃなくなる」
そういや、イカパーティーとか言ってたな。
「………人の手…いるか?呼んでこようか?」
ラインハルトは表情を無くしている。
「助かる、その間に海岸へ引き上げとくわ」
二人であの巨体を引き上げるなんて、正気の沙汰ではないのだが、一般的にはってだけである。
この二人は一般的には程遠い。
「ワカッタ、イッテクル、ヨンデクル、マッテテネ」
理解が及ばない状況になると、ラインハルトの言葉は全てカタカナになる。
ラインハルトは回れ右をして、無表情で北西部の居住区目指して走って行った。
再び、アルの祖父の家。
「そうね…やっぱりついてきて貰いましょう」
意見を変えたリイア。
「自分もそれが良いかと」
力んでた力を抜くジル。
「………」
いつも通りの平常心で眼鏡を上げるヤーツ。
三人の方向は一致した。
【エンブレム】
ローレア船籍の船には、世界樹の枝で作られたエンブレムが装備されている。
決して腐らない。
【イカパーティー】
通称イカパ、若者に人気らしい。
【無限】
際限無くレベルが上がるが、スキルは得られない。
【ジーちゃん】
王獣の一体ジズ、空の王。
【サンちゃん】
王獣の一体、リヴァイアサン、海の王。




