第六話 三匹の鼠
村を魔族の手から救い、また歩き出したセイエン一行にさらなる魔の手が襲いかかる。彼らの行く末はいかに──
魔族だ……!この気配は村で対峙したあの時と同じ……いや、あれよりも強い気配を感じる!
「この感じ……。どうやら魔獣、魔族がかなりの数いるらしいな……」
気配がいきなり四方八方に現れた……。僕たちが今いるのは森の中。数もわからない連中とは戦えない。はやくこの包囲から抜けないと。
「ふたりとも走るよ」ふたりも間髪いれずに走り出した。
ドドッドドッ──
背後から足音……!まずい、位置がバレてる。
「カイリ!」
ザンッ!!
かけ声と同時、迫ってきていた獣を斬り、再び走り出した。相手はどれくらいの数なんだ?ダメだ……、数がわからない。
「ざっと魔獣だけでも100は超えてる。私たちじゃ勝てない!ここは逃げるしかないよ」
僕の疑問にエリスは冷汗を滲ませながらこたえる。
これに魔族もいるんだ、正面からやっても勝てない。そのとき、必死に走る僕たちの正面に光が見えた。出口だ……!森を出た僕たちの前に広がっていたのは平野だった。
(なっ……)
姿を隠せる場所がない。いや、それでも逃げるしかない。僕たちはもう一度走り出した。
ドドッドドッ!
また足音……!それも3体いる。こんなところでいちいち止まっていられないのに!即座に剣で薙ぎ払い、逃げながら後ろの様子をうかがった。まだまだ来てる……!2、4、6……ざっと10体か。ダメだ、さっきの3体ですらギリギリだったのに、10体は流石に捌ききれない。キンッ、と甲高い金属音を立てて火をつける。
「セイエン!」
「焼却!」
後方に放った火は2体にしか命中しなかった。さらに複数の魔獣が森を出てこちらへ向かってくるのが見えた。このままじゃ逃げきれない……。けど、わかっていても打開できる策が思いつかない。
「セイエン、もう無理だ。これ以上走ってもいずれ奴らに追いつかれる」
「わかってるけど、だからといって立ち止まるわけにはいかないよ」
今は逃げられるところまでとにかく走らなきゃ。
また地を蹴る音が近づいてくる。カイリはまた獣と相対して剣を振るった。
ギンッッッ!
しかし、それは肉を削ぐことなく弾かれた。
(こいつッ──)
その隙を埋めるようにセイエンが獣の頸を落とした。
「こいつら……」
「さっきのよりも強い!」
先程襲ってきた3体よりも露骨に強くなっている。魔族の天啓か?こんなの相手にしていられない。
「おいおい。全く、大したこともないじゃないか」
不気味な声とともに魔獣の陰から魔族が現れた。
「トレス様も失望されるだろう。まさかフーマをやったのがこの程度のやつらだったとは」
フーマ……、まさかあの村の魔族のことか。こいつの気配、さっき森の中で感じたものとは別のものだ。多分もう1体いる。
「俺はスレイヴァ。お前たちの命、もらい受けにきた」
「仇討ちにでも来たのか?」
カイリのその問いかけに、実にくだらん、と笑った。
「そんなことをするのはお前たち人間だけだろう?我らは魔族だ。フーマを殺したお前たちを脅威とトレス様が判断したから始末しに来たのだ」
こいつ、強いぞ……。身構えるセイエンをよそにスレイヴァが口を開く。
「俺のイルミナは暴獣。魔獣を強化して自分の意のままに操る力だ」
頼んでもいないのに自分の能力をべらべらと……!
「なぜ明かした?という顔をしているな。フッ、決まっているだろう。これから無惨に殺される弱者へのせめてもの情けだ」
その瞬間、やつの両脇にいた魔獣たちがとびかかってきた。焼却は撃ててあと3発……。無闇にこいつらには使えない。
「セイエン、下がってろ。ここは俺がやる」
おそいかかってきた魔獣たちを勢いよく薙ぎ払ってセイエンの前に立った。
「無茶だ!こいつはあの村にいたやつよりも強い!ふたりで力を合わせないと」
「だが、こいつの他にトレスとかいうやつもいるんだろ?なら尚更ふたりして消耗するのはリスキーだ」
そういったカイリの天力が増していく。最初から全力でいくつもりなのか!
「スレイヴァ、お前の相手は俺だ」一歩前に出て剣を構える。
「名乗れ。名前くらいは覚えておいてやる」
「カイリ」 「お前を倒す人間の名だ。冥土に行っても忘れるなよ」
それを聞いたスレイヴァが笑みを浮かべた。
「お前ひとりで俺を倒す?口だけは達者だな人間。その傲慢がお前の敗因だ!」
近くの2体にビーストでさらに力を与えた。間髪入れずに他の魔獣が突っ込んでくる。
ザンッッ──
一息のうちに両断し2体と向かい合った。あの魔獣は一筋縄じゃいかない。僕も加勢しないと……!
「セイエン、余計なことはするなよ?これは俺の勝負だ」
でも……!と言いかけたセイエンにエリスも黙って首を横に振った。カイリ……。ここは見届けるしかない。この戦いの行方を。




