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LAST FLAME〜黒翼を焦がす炎〜  作者: 久遠恵悟
第一章 始まりの火
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第四話 再出発

先生との別れから数刻、セイエン、カイリ、エリスはプリメソリオへの一歩を踏み出せずにいた。

 その夜、僕達は野宿をした。寝床をつくって焚火を焚いた。静寂の中ただパチパチと火の粉の弾ける音だけが響き続けていた。

 「ここからは険しい道のりになる。ふたりとも準備をしてくれ」

そう言ったカイリの目線は目の前の火だけに向いていた。

 これといった会話もなく、火を消して眠りについた。けど、いくら時間が経とうとどうも眠れなかった。すこし歩こうかと立ちあがったとき、カイリがいないことに気づいた。

 まあカイリのことだ、きっとそこらにいるだろう。僕は拠点からすこし離れて、森を抜けた先の見晴らしのいい丘に移動した。そこには夜空を仰ぐカイリがいた。けど、僕は意外にも思わない。カイリは悩み事や辛い事があったときいつも夜空を見上げていた。ただ、夜空には薄く雲がかかっていて鮮明に見えたわけではなかった。

 「やっぱりここにいた。カイリも眠れなかった?」

カイリは上を向いたまま、ああそうだと一言言った。

 「先生は俺たちを護るために命を賭けた。そして道を示してくれた。進め、と。だから俺たちは進まなくちゃいけない。けど、どうしてもまだ忘れられないんだあの時の悲壮感が」

カイリの静かに語るその言葉が暗闇によく響いていた。

 「忘れなくていい。むしろ憶えておくべきだと僕は思う。ただそれを乗り越えて進んでいけばいいんだ。なにも僕たちは独りじゃないでしょ?」

それを聞いたカイリは僕の方を向いて、少し微笑んだ。僕もカイリにそう話すうちに胸のつかえが取れた気がした。僕たちの話を木の裏に隠れてエリスも聞いていた。

 「ありがとうなセイエン。お前と話したおかげで少し楽になったよ」

その時僕が見たカイリは先刻より表情も言葉も柔らかくなっていた。

 「お互いさまだよ。こっちこそありがとう」

そうして僕たちは夜風に吹かれ、しばらくして拠点に戻った。去り際、夜空には雲一つ残っていなかった。


 

 夜も明け、僕たちは出発に向けて荷物を整えて再び歩みはじめようとしていた。

 「じゃあ行こうかプリメソリオへ」

ふたりの元気な返事とともに僕らは走り出した。

このとき僕たちは知らなかった。この旅に数々の苦難が待ち受けていることを──


 野原を駆け、林を抜け、魔獣を倒しながら前へ前へと進んだ。再出発から2日後、僕たちはようやく人のいる村に辿り着いた。その夜は村長から直々にもてなしを受けた。

 「プリメソリオがあるのはこの先ですよね?」

それを聞いた村長は驚きの表情を浮かべた。

 「ああ、そうだが、あんたたちプリメソリオに向かってるのか?なら悪いことは言わないからやめておいたほうがいい」

村長の言葉にカイリはすぐ疑問の念を抱いた。

 「なぜです?」

 「魔族だ。魔族の連中がここ最近プリメソリオ近辺を彷徨いているんだ。もう何人も被害が出ているらしい」

真剣な顔をして語る様を見るに危険であることは間違いないようだ。それを聞いたエリスも口を開く。

 「私たちはどうしてもそこに行かなければならないんです。大切な人との約束なんです」

うーん、としばらく黙っていた村長が再び話し出した。

 「あんたらの覚悟は相当だな。だったら無理に止めはしない。だが、気をつけろ。奴等は魔獣とは違って知性を持ち、ワシら人間と同じように天啓(イルミナ)を操る」

村長の忠告を受けても僕たちの意思は変わらず、翌朝にはみんなに礼をして村を発った。


 しばらく歩いていると、辺りに霧が立ち込めてきた。

 「ふたりとも離れるなよ。ここではぐれたら合流するのは難しい」

僕もエリスもしっかりカイリのあとをついて歩いていた。霧は思ったより濃くなく、かろうじて辺りの状況はなんとなく把握できる。慎重に前へ進んでいると、微かに村が見えた。村に入ると少し霧が薄くなり、辺りがかなり見渡せるようになった。しかし見えたのは、地面に横たわる村民たちだった。

 「大丈夫ですか?」

エリスは突然目に入ったその光景に動揺しながらも素早く駆け寄った。全員意識は無かったが、幸いにも息はあった。ただ何者かに斬られた形跡があった。

 「カイリ、これって」

 「ああ、十中八九魔族だな。しかもこの傷まだ新しい。まだ近くにいるかもしれないから警戒を──」

ヒュォォォォ

カイリの言葉を遮るように強い風が吹いた。この気配、近くにいる。

 「エリスはみんなの治療をお願い。魔族に手出しはさせないから」

 「うん、ふたりとも気をつけて」

そう言ってエリスは治療に専念し始めた。

 「ほう、生き残りか?いいや違うな。冒険者といったところか?」

霧の中から不気味な声がする。ただ方角がわからない。

 「姿を見せろ!俺が相手をしてやる」

カイリは霧の中の獣にそう言ったが、返ってきたのは笑い声だった。

 「この状況で自ら姿を晒すわけがないだろう。だがその度胸は認めよう。お前たちもこの村の人間と同じように斬り捨ててやる」

その言葉と同時、僕たちも剣を構えた。


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