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第八幕 マリオネットの喜劇

「……お兄ちゃん?」

「んん……」


 目を開けると、アンナが心配そうにのぞきこんでいた。


 俺は自分の部屋のベッドに横たわっている。


「体、なんともない?」

「え?……あ、いや普通だ……ふつうだ、元に戻ってる!!」


 懐かしの俺の体! ふつうってスバラシイ!!

 ベッドからがばっと飛び起きたら、急に動いたせいで目まいがした。


 と、ここで我にカエル。間違った、我に返る。さっきまでのことは全部夢だったんじゃないか?


「あのね、みんな心配してたよ。お兄ちゃんが矢木さんの呪いで動かなくなっちゃったから。今は元のカエルくんが、何事もなかったように歌ってるけど」

「歌ってる?」


 アンナがうなずく。その手には幸運のカエル¥100(税別)があった。


「別に何も聞こえねえけど」

「そっか……」


 妹は寂しそうに長いまつ毛を伏せた。


 そうだ、やっぱり全部夢だったんだ。ゲームのしすぎで見た変な夢。アンナの言動がおかしいのはお子様特有の妄想。これで万事解決だ。


 状況を把握したら気持ちに余裕が出てきた。こういう場合、年長者はお子様の妄想に付き合ってやるものだ。


「おお、やっぱり聞こえるぜ! かえるのうたを歌ってるんだな。いい声じゃねえか」

「はあ?」


 アンナは突如険しい表情になった。


「何言ってるの? 適当に話合わせられても不愉快なんだけど。聞いたことはないけどすごくかっこいい曲だよ。……へえ、『マリオネット』っていうんだって。お母さんなら知ってるかな?」


 アンナは棚の上にひょいとカエルを乗せた。となりには、梶本と矢木……じゃなかった、ガーゴイルとバフォメットのゴブレットが鎮座している。ちょっと向きが斜めなのは、背の低いアンナが背伸びして並べたせいだろう。


 ……待て待て。俺はアンナがあの2体をここから連れ出して元に戻したと認めるのか? いやでも、そうでないと説明のつかないことがいろいろとある。あれが夢なら、どうしてアンナがその内容を知っているのか?……


「お兄ちゃん、やっぱり具合悪いの? 矢木さん、精神には影響でないように手加減したって言ってたけど」

「ああもう、呪いだのなんだのやめてくれ。頭がおかしくなりそうだ」


 しっしっと、手を振る。


「それに俺は忙しいんだ。これからゲームをする。今日こそあの魔のステージをクリアしないと」

「あーあ、やっぱり呪い解けてないみたい。心配したけど、もうほっとこう」


 アンナはぷいっとそっぽを向き、退散していく。


「やれやれ、変な夢だった。これだけで一本小説が書けそうだぜ」


 俺は微妙に配置が変わってしまった置き物たちを並べ直した。これでよし、と満足して時計を見ると、もう日曜の夕方6時を回っていた。おい、嘘だろ……


「俺の貴重な休日がぁぁぁ!!」


 そのとき、バフォメットの目がピカッと赤く光った、ような気がした。気のせいだ、気のせい。



『どうだ、これでもう文句はないだろう。悪魔は存在する』

『ああ、もう疑ったりしないさ。しかし、あのアニーって子にフラれたのは残念だったな。いい子そうだったのに』

『フラれた? 俺は、フラれたのか?……』

『ゲコゲコッ 失恋ソング歌ってやろうか? 『リフレインが叫んでる』と『レイニーブルー』、どっちがいい?』

『なんかお前、曲のレパートリーが古くないか?』

『俺は断然『ラスト・クリスマス』が気に入っている』

『ゲコゲコ、あれもいい曲だよな』

『悪魔なのにクリスマスソングが好きってありなのか?』


 空耳、これは空耳だって。俺の頭はおかしくなんかなっていない。


『おい、久々津が泣いてるぞ』

『本当だ。お前も失恋したのか?』

『oh, baby……』


 部屋中に響く甘くて切ない歌声が、心を揺さぶる。


「くそっ、カエルのくせになんでそんなに歌上手いんだよ!」


『なんだ、逆ギレか?』

『このくらいの年頃にはありがちなことだ』

『Ooh……』


 俺は頭を抱えた。

 ああ、もう、寝ようかな。起きたら全部元通りになっているかもしれないし。


「お兄ちゃん」


 気がつくとアンナが半開きのドアからこっちをのぞいていた。


「やっぱり、ちゃんと聞こえるようになったんだね」

「ちゃんとって、俺にとっちゃこっちのほうが異状だ! どうしてくれんだよ、これ」


 恨めしげに言うと、アンナはにやにやして頭のリボンを揺らした。


「話し相手が増えてよかったじゃん。お兄ちゃん、友だち少ないんでしょ?」

「こいつ!」


 とっちめてやろうとしたが、アンナは素早くかわして廊下へ逃げた。


「きゃはは」

「待てーい! あ、そういやお前、俺の本返せ!!」

「やだよー!」


 くそ、なんてかわいくない妹だ! 次に危ない目に遭っても絶対に助けてやらないからな!!

 ……絶対だからな!!


『やれやれ、仲のいい兄妹だな』

『そうか? 俺にはナメられてるようにしか見えないが』

『Ooh-hoo……』


(終幕)

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