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第一幕 取り調べの寸劇

「お兄ちゃん、自分が何をしたかわかってる?」


 スカルヘッド、ホラーマスク、ヴァンパイアのポスター、それに先週買ったばかりのバフォメットをあしらったゴブレット。その完璧な空間にそぐわない、ファンシーでちっちゃなファッションモンスターは、俺のひじ掛け椅子に悪役のごとくふんぞり返った。


「ははあ」と俺は床に額をくっつけて土下座する。


「つい、出来心だったんです。どうか温情のある措置を」

「うるさーい!!」


 アンナがぴしゃりと机をたたく。ポニーテールを留めているでっかいリボンが反動でポヨンと揺れた。


「言ってごらんよ。自分が何をしたのか」

「……妹のお年玉を偶然見つけて、ちょっと借りてゲームを買いました」

「5千円はちょっととは言わないでしょ!」


 もう一度机をぴしゃり。ポヨンと揺れるリボン。

 ポーズだけは貫禄に満ちているが、ポヨンで相殺されている。


「7歳の子どもにとって5千円がどれだけの大金かわかる? うちはおこづかいは中学生になってからって決められているし、1年のうちで唯一もらえるまとまった収入がお年玉なんだよ。おばあちゃんとおじちゃんとおばちゃん、合わせて5千円なんだよ。それに比べてお兄ちゃんは高一だし、そこそこもらってたよね? いくらもらっていくら使ったの?」

「えーと、全部で2万くらいかな。いくら使ったかはわからない」

「そんなんだから、ダメなんだよ」


 アンナはひょいっと椅子をおり、腕を組んで部屋を行ったり来たりした。腰まである長い髪がシャランシャランと跳ねる。


「よく考えてごらんよ。勉強もスポーツもできない、顔もイマイチ、大した人徳も人脈もなし。これで貯蓄もなかったらいったい誰がお兄ちゃんみたいな人といっしょになってくれるの?」


 どうして10歳も年下の妹にそこまで言われねばならないのか。

 しかし概ね正論なので、ここは怒りをぐっとこらえて静かな反撃に転じる。


「でもふつう自分の本にぽち袋がはさまっていたら、自分のものだと思うだろ?」


 ぐう、とアンナがつまる。こいつは時々俺の部屋から本や漫画を持ち出して勝手に読んでいるのだ。たぶん手近にあったぽち袋をしおりにしてはさんで、そのまま棚に戻してしまったのだろう。


「そりゃ勝手に使ったのは悪かったけれど、お金の管理ができていないのはお互い様じゃないか」

「……!」


 アンナの顔に動揺が広がる。

 まずい、このままだと泣き出すかもしれない。

 しかし、我が妹はぎりぎりのところで踏みとどまった。


「……たとえ拾ったものでも、持ち主が現れたら返すのがすじなんじゃないの?」


 いかにもかわいらしい少女趣味のいでたちなのに、口が達者なのが妹の難点だ。


「それもそうかな」というとアンナは勝ち誇ったように胸をそらした。


 そこで俺は話の方向性をずらす。


「まあ俺だって悪気があってやったわけじゃないんだ。使っちゃった分は来月おこづかいをもらったときに返すから、それでいいだろ?」

「だめ!」と勢いよく否定する妹。

「なんで?」

「なんでって……わたしにだって今すぐほしいものとかあるし」

「へえ、何が欲しいんだ?」

「……今度リリアちゃんのお誕生日会があるから、そのプレゼントとか」

「今度っていつ?」

「2月15日……」

「まだ1か月以上あるじゃん」

「かわいいペンケースを見つけたの! 早く買わないとなくなっちゃうかもしれないでしょ!」


 ……どうも怪しいな。さっきから受け答えの歯切れが悪い。


「ペンケースぐらいなら父さんか母さんにおねだりして買ってもらえばいいだろ。得意じゃないか、おねだり」

「人聞きの悪い言い方しないでくれる? それにね、お兄ちゃん。おねだりにも節度ってものがあるんだよ。いくら見た目がかわいくても、分別のないワガママ娘じゃ憎たらしいでしょう?」

「そんな事情知るか!」


 すでに十分憎たらしいと思うのは俺だけか?

 でもこれで確信が持てた。こいつは何か隠している!


「……さあ、そろそろ吐いたらどうなんだ? 本当は何に金を使うつもりなのか」


「ひっ」と青ざめるアンナ。

 なっ、なんでわたしが問い詰めていたはずなのに逆に追い詰められているの!?

 とでも言いたげな表情だ。

 犯人はやがてあきらめたように自白した。


「ママが大事にしてたバレリーナの置物が、割れちゃったの……」

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