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魔法の手鏡

「ああ、まだ名前も言って無かったね

 私は、シャロン この森に住んでいる魔法使いだ」

 ユリウスの正面の椅子に座りながら名前を教えてくれた

「ユリウス……」

 ユリウスは、あえて自分の名前しか言わず家名をふせた


「ユリウス・ザンダーだろ ザンダー辺境伯家の一人息子」


「なんでもわかるのですね」


「ああ、君は驚きもしないのだな

 まあ、当たり前か…… 君は感情という大切なものを言霊の呪縛によって君の中の奥深くに閉じ込められているのだものな」


「感情……」


「嬉しい 悲しい 怒り 楽しい それだけじゃない

 君は、そういったものを感じたことがないのではないだろう」


「確かに…… なにも感じたことがない

 でも……」

 その後を言いかけてユリウスは言うのをやめた


「お父様がいらっしゃった頃は、まだそういった感情をもっていた……と言いたかったのかい?」


「どうしてわかるのですか」


「私はね、視えるんだよ

 でも、君は今のままでは駄目だ

 感情を失ってしまったままでは……

 今のままでは君は壊れてしまうよ」


「壊れる…… 」


「ああ、君は、君のおじい様の玩具のまま壊れていくのは嫌だろう?」


「嫌だ」


「ほぉう、嫌という感情はとりあえず残ってあるんだな

 じゃあ少し待ってな」

 そう言ってシャロンは、部屋の奥にある扉を開けて入って行った


 しばらくすると扉が開きシャロンが扉を開けたまま立っていてユリウスに声をかけた


「ユリウス、おいで……」

 シャロンに言われるままにユリウスは扉に近づき

 中に入っていくと

 そこには空と海が広がっていた

 空と海の境目がわからないほどの蒼い世界が広がっている

 蒼い世界に大きな魔法陣が現れた


 魔法陣が現れると共にユリウスの身体が宙に浮かび魔法陣の中央へと運ばれたのである


 シャロンが呪文を唱えると魔法陣は光を放ちユリウスを包み込んだ

 シャロンの呪文が「言の葉」となりユリウスのまわりを光ながらクルクルと回り続けると

 ユリウスの中から大きな鎖が彼の身体に巻きついた形で現れた


 パキーン と大きな音をたてて鎖は粉々に砕け散り

 ユリウスは、気を失い ポスンとシャロンの腕の中におちていった

 ユリウスは、すぐに気がつき目を開くと大きな瞳からは、涙がポロポロと落ちた


「君は、ずっと泣きたかったんだね」


「そうだったのかもしれません……」

 自分の手のひらに落ちていく涙を見つめながらユリウスは、シャロンにこたえた


 シャロンは、ユリウスを抱き抱えたまま、リビングへと戻った


「さて、呪縛の鎖から君を解き放つことまでが私か出来ることだ

 感情をだすことは、きっとまだできないだろう

 まあ、それが一番難しいことなんだけどね」


「難しい…… 確かに」


「そうだな……」シャロンは、少し考えて手のひらに銀色の手鏡をだした


「ユリウス、この鏡を君にあげるよ

 この手鏡は君の中のもう一人の君を映し出す鏡だ」


「もう1人の自分…… 」


「君がなりたい自分だ

 彼と向き合ってごらん 君が表にだせない感情を彼がかわりに見せてくれるよ」


「ありがとうございます

 でもこれで感情がだせるようになれるんでしょうか……」


「感情というのは人それぞれだからね

 そうだね、セシルなんかは感情が豊かだからね

 表情がくるくると変わるよ

 まあ、だから君も彼女に興味を持ったんだろうけど」


 手鏡をみると手鏡に映る自分がいきなり微笑んだ

 ビクッとすると

「おい!ユリウス 手を放すなよ 」

 そう言いながら彼は、鏡の中から出てきた


「ふ〜!今まで鎖でしばられていたから身体中がバキバキだ」


「鏡の彼は、3時間だけこうして外にでることができる

 彼の言動をみながら君自身を取り戻せるようにしてみたらどうかな」


「色々とありがとうございます」


「まあ、このお返しは君が全てを取り戻したときに返してくれたらいいよ」


「全てを取り戻した時?」


「まあ、大人になったらわかるさ

 まずは、鏡の彼と仲良くすることだな」


「はい…… あのところでシャロンさんは、男性の方なんですか?」


「ああ…… なんだ女性かと思っていたのか

 まあ、そう思われることが多いけどな」

 と頭をかきながらシャロンは笑っていた


「すみません」


「いいよ いつかまた何かあればいつでもおいで」


「ありがとうございます」

 シャロンに礼を言って森の家を後にした


 ゴールドウィン家の邸に帰る頃にはもう日が落ちかけていた

 邸では、やはりセシルが忙しそうに大人の手伝いをしていた


 幼い彼女がどうしてこんなにも色々なことに頑張っているのかがわからないままだったのだが

 いつか彼女と話がしたいと初めて思えたユリウスだった


 次の朝、いつもと同じような朝の光がなんとなく違うように感じながらゴールドウィン家を後にした


 ソファに座りながらセシルに初めて会った頃を思い出しながら手鏡を手にするユリウス

 手鏡にユリウスが映ると黒髪のユリウスに変わり手鏡の中からシャドが現れた


「なんだ、ユリウス 柄にもなくあの頃の事を思い出したのか」


「まあな……」


「感情を取り戻してもあれから何年経ってもいまだに感情を表にお前がだせないから俺も中々お役ごめんにならないな……」


「……」


「まあ、ゆっくりすればいいさ

 俺もこの生活気に入ってるしな

 せっかくでてきたし、歌でも歌ってくるかな」


 そう言ってシャドは、バルコニーから出て行った


 残されたユリウスは、大きなため息をついて手鏡をにぎりしめて項垂れていた














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