小さな火種
最近、邸の使用人の間で話題になっていることがある
夜になると王都の広間の噴水に現れる黒いアイマスクをした吟遊詩人シャドの話である
夜な夜な現れては恋の歌を歌うその歌は聴く人々の心に沁み入り虜にしてしまうほどらしい
「吟遊詩人シャド・・・」
「そうなんですよ、セシル様本当に素敵な歌と歌声で邸のものも最近では仕事が終わればみんなで聴きに行くんですよ」
と侍女のステファニーが頬を染めながら離してくれる
「そうなのね・・・・」
「本当に素敵なのでセシル様にもお聞かせしたいほどです」
「今晩も行くのかしら?」
「ええ、もちろん」
「ステファニー申し訳ないけど私も連れて行ってくれないかしら
決して迷惑はかけないから」
「ええ!セシル様夜にお出かけなんて大丈夫ですか」
「あなたたちには迷惑をかけないわ 」
「でも・・・」
「ねっ!お願い」とうるうるした瞳でセシルはステファニーの顔を見つめた
「わかりました 今回だけですよ」
ステファニーはどうしようと思いながらも自分がセシルをそそのかしたようなものだから仕方がないなとセシルのお願いを受け入れた
よかった…… 実は、この間からずっと気になっていたことがある
ユリウス様と沢山話をするようになって気がついたのだが、ユリウス様とシャドの声が本当によく似ているのだ
シャドとは数回しか話したことがないがとても印象ときな低い声だが少しユリウスよりは高いかもしれない
まあ辺境伯と吟遊詩人が同一人物なんてことありえないし馬鹿げた話だ
セシルも何度もそう思ったがユリアスと話を交わすたびに小さく感じた火種が自分の中で大きくなっていくのであった
「ね、カトレアもお願い!」
「え・・・・でも夜の王都の街へ出かけたなんてユリウス様に見つかったら大変なことになりますよ」
「ねえ、お願いどうしても確かめたいことがあるの」
「では、私が調べてきますよ」
「ダメなの、私でないとわからないことなの」
「じゃあ、ユリウス様にご承諾いただいて・・・・」
「それは絶対だめ お願い内緒にして・・・」
ユリウスに知られたら元も子もない
「大丈夫、私護身術も心得があるからいざとなればね」
「ほんっとにもう・・・今回だけですからね」
とそう言いながらもカトレアも少し嬉しそうである
「やったー!カトレア愛してるわ」
「はいはい、私もセシル様のことを愛していますよ」
その日の夜、セシルは町娘の姿でステファニーと護衛騎士のカトレアとともに
夜の王都の街へと出掛けて行ったのである