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編集者の目論見  作者: body
4/17

予定変更と執筆開始

岩清水は、思い付いた怪異である「耳狩り女」の事を電話で甲斐に相談してみた。

すると設定自体は良いと言って貰えたが、キャラとシチュエーションが弱いとのダメ出し。

そしてあれこれ考えた末に作った設定が…


・女は繁華街に現れる。

・見た目はその都度違い、ターゲットにした男の好みの容姿で登場する。

・声を掛けられ二人きりになった時に犯行に及ぶ。

・防犯カメラに映りはするが、何故か彼女の部分だけノイズが入りはっきりと視認は出来ない。

・耳を狩る凶器は決まっておらず、その時々でハサミであったりカミソリであったりする。時には道具を使わず食いちぎったり指で引きちぎったりもする。


これらの案で再び甲斐へとプレゼンすると、呆気ない程すぐにOKが出た。

そしてその流れで意外な事を告げられる。


「あ!先生!一つお話があるんですよぅ。当初の契約では5話ほどのオムニバスで出版という話でしたが、連載に変更したいと思ってるんですよ。勿論、書いて頂いた作品は後々に集めて短編集として出版させて貰います。如何でしょうか?」


「連載…ですか…?それは全然構わないんですが、連載する媒体はあるんですか?」


「実は今、ホラーやオカルトを取り扱う雑誌を作成してまして、どうせならそちらで小説も掲載しちゃおうって事になりましてね、それで先生に白羽の矢が立った…そんな次第ですぅ♪」


「はぁ…そうっすか…」


「おや?ご不満ですかね?何かあれば今の内に遠慮なく言って貰った方が助かりますぅ。後々のトラブルを避ける為にも…ね?」


「いやいや!不満とかでは無くてですね…仕事の段取りとして短編を一気に書き上げるのと、連載って形で少しずつ書くのとでは、どちらが自分に向いてるかなぁ…とか…」


「とか?」


「……ギャラの面とか…」


「とか?」


「契約書を全部書き換えるの面倒だなぁなんて…ハハハ…ハハ…ハ……」


「ギャラについては原稿用紙の枚数による単価プラス、雑誌の発行部数によるパーセンテージでお支払いしようと考えてますよ。実務&歩合ですねぇ♪それと契約書は新たな物を郵送しますので、お手数ですが署名捺印のほど宜しくですぅ」


「ですよねぇ…承知しました…因みに雑誌の創刊はいつのご予定ですかね?」


「3ヵ月後ですがイケそうですか?」


「まぁ連載なら1話分くらいは問題なく書けますが。あ!因みに1話あたりの文字数はどれくらいで?」


「1つの話を数回に分けて書くなら、1回あたり5000文字くらいが妥当じゃないですかねぇ?1話完結ならもっと多くても全然大丈夫っすよ!まぁその辺は社長権限でどうにでも上手くやりますよ、職権乱用ってやつで!エヘヘ♪」


「はぁ…」(適当だなぁ)


「あ!今、適当だとか思ったでしょ!?」


「え!あ…いや!その……」


「ハハハ♪絵に描いたような動揺っぷりですねぇ!小説家なんだから絵じゃなくて文字を書かなきゃダメっすよ先生~!なんてね♪それに適当なのは間違ってないですし!アハハハ♪まぁ冗談はさて置いて…2~3日中に契約書は届くと思いますので、なるだけ早い返送をお願いしますね!もちろん原稿も早めが助かりますぅ…なんてね♪それでは失礼しま~す」


ご陽気に捲し立てた甲斐が一方的に会話を終えた。口下手な岩清水は強風に煽られた洗濯物の様に成す術もなく、気がついた時にはスマホから「プー…プー…」という音が鳴っていた。

深い溜め息と同時に通話終了をタッチした岩清水は、スマホをペンに持ち変えると直ぐさま執筆に入った。

プロットは既に出来上がっている。

あとは書くだけだ。


パソコンもあるのだから、そちらで執筆すれば原稿もデータで送れるし色々と便利なのは解っている。

しかし岩清水は昔ながらの小説家に憧れていた。

原稿用紙を前にウンウン唸り、数行を書いてはウンウン唸る。気に入らない部分は乱暴に線で消し、挙句の果てはクシャクシャに丸めてゴミ箱へポイッ!

ついつい遊んでしまい〆切までの時間が迫る、それに焦った担当編集者に張り付かれて原稿を書き上げる。

これが岩清水の中の小説家像なのだ。

まるでサザ○さんに出てくる伊○坂先生とノリ○ケだ。今時こんな事はそうそう無いだろうに時代錯誤も甚だしい。


設定もプロットも練っていたお陰で1日で書き上げる事が出来た。ここから推敲に入り、言葉の足し算と引き算で完成させる。

全部で8000文字とちょっと…

1話完結を想定して書いたが、2話に分けても良い様に区切られる点は作ってある。

何度も何度も読み返す。僅かな加筆と削除を繰り返し、ようやく納得のいく形に仕上がった。

気がつけば推敲を始めて5時間以上が経過している。慌てて甲斐にLINEを送った。


“一応は完成しました”

すると1分と経たずにピコンッ♪とスマホが鳴る。


“流石!仕事が早い!!”

どこぞの企業のキャッチコピーみたいだし「アンタの返信の方が早いわ!」と突っ込みながら本題を打ち込む。


“近く御社にお伺いしますので、原稿のチェックをお願いします”

送信と同時に既読がつく。そしてまたも直ぐさまピコンッ♪


“先生のご自宅、コピー兼FAXありましたよね?こちらもありますのでFAXで送って頂ければ大丈夫ですよ”


そう言えばそんな物もあったな…と。

コピーは頻繁に使うが、このご時世にFAXを使う事などそうそう無く、そんな機能がある事が完全に頭から抜け落ちていた。


“それもそうですね!FAXの存在を完全に失念していました(笑)では直ぐに送らせて貰います”


“楽しみにお待ちしております♪”

最後にアニメキャラがルンルンで踊っているスタンプが届き、このやり取りは終了した。


一方その頃、やり取りを終えた甲斐はと言うと…

顔の下で組んだ掌に顎を乗せ、邪悪とも愉悦とも取れる何とも不気味な笑みを浮かべていた…




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