番外編① 賑やかになりそうです
長いようで短かった2年の婚約期間が終わり、私とアルト様は結婚することになった。
公爵家同士の結婚ということもあって、王都にある大聖堂で私達も式を挙げることになっている。
代々の王族が式を挙げてきたという神聖な場所で挙げられるのは嬉しいのだけど、少し私の身に余るような気もしている。
「緊張しているのかな?」
「ええ。こんなにも沢山の方に注目されるのは初めてですから……」
招待者の一覧を見て、言葉を失ったのはついさっきの話。
でも、時間が経っても緊張が和らぐことはなくて、むしろ少しずつ増していっている。
そんな私だけれど、今は最高級のシルクで仕立てられたウェディングドレスを身に纏い、今までの人生で一番輝かしい装いをしている。
アクセサリーも全て高級品で、今の私が身に着けているものだけで伯爵家の屋敷が買えてしまうというのだから驚きしかない。
きっと、その重みも緊張の原因になっている。
それでも宝石やドレスそのものの重さはあまり感じていない。アクセサリーの一部に重さを軽くする効果のある魔導具が混ざっているから。
「大丈夫、ソフィアは世界で一番綺麗だよ。注目されても恥なんてかかないさ。それに、何かあっても俺が助ける」
「一番は言い過ぎですわ」
「謙遜しなくてもいい。本当に今すぐ抱きしめたいくらいだ」
冗談を言っている様子もなく、そんなことを口にするアルト様。
その言葉は毎日のように言われているけれど、久しぶりに赤面してしまった。
「アルト様。ドレスが乱れてしまうので抱きしめないでくださいね?」
そんな時、侍女さんがアルトにこんなことを注意していた。
「分かっている。だが口付けくらいは良いだろう?」
「式の最中にされるのですから、問題ありません」
口付けくらい? そっちの方が恥ずかしいのだけど?
でも、式の時に大勢の前で……。
想像してみたら、恥ずかしさや私が知らない気持ちで胸が熱くなってしまう。
そういえば、恥ずかしい時は自分から行動を起こすと良いってアリスが言っていたわね……。
ええ、覚悟を決めました。
「アルト様、少し屈んで頂けますか?」
「これでいい?」
「ありがとうございます」
お礼を言ってから、不意を突くように彼の頬に口付ける私。
少ししてから離れると、アルト様は驚いたような表情をしていた。でも、赤面はしていない。
けれども、その直後。
「ソフィアのせいで心臓がバクバク言ってるんだけど? これはお返し」
「えっ……?」
私が戸惑っていると、慣れた様子で顔を寄せられ、唇を重ねられてしまった。
不意打ちに不意打ちで返すのは良くないと思うのだけど!?
心の中で抗議してみてもアルト様が離れる気配は無くて。
しばらくして彼が離れた時には、すっかり私の顔は茹だってしまっていた。
「やっぱり可愛い」
「もう、追い打ちをかけるのは止めてください!」
「式の時に赤面する方が恥ずかしいと思うから、今のうちに慣らしておかないとね」
アルト様なりの配慮だったのか、それとも言葉通りに私に対するお返しだったのか、それとも両方なのかは分からない。
でも、そんな彼の配慮が嬉しくて。
胸の熱は心地よい温かさに変わっていた。
それから少しして、私達は結婚式のときを迎えた。
今まで赤面してきたお陰か、今はもう頬の熱は引いている。
けれど大聖堂の入り口に立った時、参列の方々の視線が私に集まっているから、緊張が強くなってしまった。
その緊張を悟られないように、祭壇の前で微笑みを浮かべているアルト様に倣って、私も微笑みを浮かべる。
それから、お父様のエスコートで赤い毛氈の上を進んでいく。
祭壇の前に辿り着くと、私の手はお父様から離れてアルト様へと渡った
彼の隣に並んで祭壇の方を向くと、神官様からこう問いかけられる。
「新郎アルト。
貴方はここにいるソフィアを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も。
妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
アルト様はいつもの真面目な声色で即答していた。
私の方に視線を向けて、甘い微笑みを向けてきているのだけど、ここは神官様の目の前なのに。
でも、神官様が気にした様子は無くて、今度は私にも問いかけてきた。
「……事を誓いますか?」
「誓います」
その問いかけが終わったら、お互いに向かい合って誓いの言葉を口にする。
好きという気持ちを伝えたことは一度や二度ではないけれど、こんな風に大勢の前で誓うというのは、やっぱり恥ずかしかった。
でも、もっと恥ずかしいことが待っているのよね。
誓いの口付け。
大勢の前ですることで、私達が夫婦になることを認めてもらうためのものなのだけど、注目もされる。
だから、ベールを上げられてアルト様のお顔が近付いてくるにつれて、胸の鼓動がうるさくなっていく。
初めてじゃないのに、幸せな気持ちなのに。
どうして鎮まってくれないの……?
自分の身体が少しだけ恨めしかった。
でも、唇が触れあっている間はふわふわとした感覚に包まれて、なんだか不思議だった。
こうして私達は無事に夫婦になって、披露宴では多くの方々からお祝いお言葉を頂いた。
中にはアルト様を羨む視線を向ける殿方や、私を羨むような視線や嫉妬の視線を向けてくる人たちもいたけれど、私達がずっと寄り添ったまま離れなかったらか嫉妬の視線は向けられなくなった。
「どうやら付け入る隙が無いと分かってくれたみたいだね」
「本当に失礼な方達ですわ」
そんなことを小声で話していたら、私達の会話を聞いていたらしいアルト様のお母様がこんなことを口にした。
「それだけ幸せそうに見えていますのよ。貴方達が羨ましくもなりますわ」
「母上、嫉妬してソフィアを虐めたら許しませんからね?」
「あら、私こそソフィアさんを泣かせたりしたら許さないわよ?」
バチバチと火花を散らすアルト様とお義母様を見て、苦笑いを浮かべる私。
少し過保護になりそうな未来が見えたけれど、今は気にしないことにした。
◇
それから二年。
私達は三人家族になって、今も変わらず幸せな日々を送っている。
「おぎゃああああ」
「ソフィア、レティが泣き止まないのだが、どうすればいい?」
慌てるアルト様の手から娘のレティシアを抱き上げ、あやす私。
するとすぐに泣き止んでくれた。
「やっぱりお母さんの方が良いのだな……」
「そんなことはないと思うのですけど……」
しょぼん、という音が聞こえそうなくらい落ち込むアルト様にレティをまた抱いてもらう。
するとまた泣き出してしまって、私は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「やはり母というのは偉大だな……。君は父さんを嫌わないでくれるか?」
「あら、レティも嫌ってはいないと思いますわ。今日は私と居たい気分なだけです」
私のお腹に語り掛けるアルト様に、そんな言葉を返す私。
私達の家はもう少し賑やかになりそうです。
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