30. 証明するために
あれからしばらくして、学院の講義を終えた私達は王宮に集まっていた。
セレスティア様が殿下に魔法をかけていたことを証明するために。
「証明とは言っても、そのための魔法が儀式魔法なのが厄介だな……」
ここ500年ほどは、王国の政治は安定したものになっている。
だから王家に魔法を使う人なんていなかったから、その対策も十分にされていない現実がある。
魔法で罪を犯した人を裁くための魔法も廃れてしまって、扱いが面倒な儀式魔法しか残っていない。
陛下は最悪の場合、証拠がなくてもセレスティア様を裁くとおっしゃっているけれど、そうすれば貴族から不満が出てしまう。
だから、陛下や公爵様達はセレスティア様やバルケーヌ公爵家が犯した罪が他にないか探している。
私達がこの儀式魔法を任されたのは、人手が足りていないからなのよね……。
「文句言ってないで始めましょう」
「そうだな」
「魔力を使うのはソフィア嬢で本当にいいのか?」
「ええ、大丈夫ですわ」
確認のためのやり取りをする私達。
目の前にある魔法陣は完成しているから、あとは魔力を流して儀式を始めるだけ。
ちなみに、魔法陣の中心には殿下が立っている。
この儀式魔法は、魔法陣の中心にいる人に今までにかけられた魔法を示すためのものだから。
「では、ソフィア嬢。詠唱を始めてくれ」
「分かりましたわ」
返事をして、詠唱を始める私。
儀式魔法は参加している人が順番に詠唱していき、複数の精霊の力を借りるというものになっている。
その分詠唱は複雑になっていて、時間も必要になってしまう。
でも……。
「成功、だな……」
「そうですわね」
殿下にかけられた光属性魔法のみを目に見えるようにしてみると、魔法陣の上に魔力の流れが浮かび上がっていた。
そして、魔法陣の縁の上に白い光の球が現れていた。
「この白く光っている方向に魔法をかけた人がいるんだったな」
「魔法書にはそう書いてありますわ」
「ソフィア嬢に向いているということは、この魔法は信用出来るということか」
試しに私が台の上に乗ってみると、その光も私を追いかけるようにして移動した。魔法陣の周りを一周してみても、光はぴったり追いかけてくる。
だから、この儀式魔法は魔法が正しく働いている。そのことが明らかになった。
今度は少し詠唱して、闇魔法だけが見えるようにする。
すると、紫色の光が浮かび上がってきた。
「この方向……貴人牢だな」
「セレスティア様はそこで拘束されているのですよね?」
「ああ。つまり……」
頷き合う私達。
「俺に闇魔法をかけたのはセレスティアで間違いないということか」
「ええ」
この儀式魔法を裁判の場で実際に見せれば、セレスティア様が殿下に魔法をかけたことを証明できる。
そのことが分かったから、私達は陛下に提出する報告書の作成に取り掛かった。
けれども、その報告書を書いているときだった。
「報告いたします。セレスティア様が先ほど、勘当されたとの知らせが入りました」
「そうか」
この儀式魔法はバルケーヌ公爵様を納得させるためのものだったけれど、不要になってしまったのね……。
「今までの苦労は何だったのでしょうね……」
「無駄ではないよ。セレスティア以外の誰かが関わっていた可能性もあったけど、それを否定することが出来たからね」
そう口にする殿下。確かに、セレスティア様……いえ、もう平民なのだからセレスティアね。彼女本人が罪を犯していたことがはっきりしたのは、確かに大事なことだと思った。
それに、この証明があればバルケーヌ家寄りの立場にいる貴族の反発を抑え込めることにも気づいた。
「証拠も無しに罪と決めつけていれば、いずれ間違いを犯してしまうからな。少なくとも俺は好まない。証拠は必要だ」
「そうですわね」
アルト様の言葉に頷く私達。
この後は報告書をまとめて陛下の執務室に向かった。




