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10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?  作者: 水空 葵


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28. 気持ち

 偽りではなく、本当の婚約者になるという提案。

 捉え方次第では、私はアルト様にも告白されている……ということになるのだけれど……。


 アルト様は女性嫌いのはず。

 彼が公言していたから。何か意図があって偽っているかもしれないけれど……。


 だから、やっぱりアルト様の考えていることが分からなかった。


「意味はそのままだ。

 俺は……貴女を好きになってしまったらしい」

「えっ……?」


 礼儀なんて忘れて、間抜けな声を出してしまった。

 女性嫌いを公言しているアルト様が私を好きになった?


 理解が追いつかない。


「アルト様、正気ですか?」

「至って正気だ」


 これも誰かに操られてるのかしら? 念のために治癒魔法を……。


「なんで詠唱した?」


 ……誰にも操られていなかった。

 つまり、これはアルト様の本心……。


「私なんかで良いのですか?」

「ソフィアじゃ無いと駄目だ。だが、嫌と言うなら潔く諦める」


 そう口にする彼は、もう覚悟を決めているらしかった。

 でも、私の心の準備は全く出来ていない。


「返事は待って頂けますか? 婚約者に裏切られたばかりで、殿方をまだ信用し切れないのです」

「分かった。いくらでも待とう」


 もっともらしい理由をつけて、返事を先延ばしにする私。

 けれども、彼からの提案は嬉しく感じていた。


「ですので、婚約者の演技は続ける方向でお願いしますわ」

「分かった。いつか本物の婚約者になれるように、全力で務めよう」

「ほどほどでお願いしますわ……」


 拳を握りしめるアルト様を見て何ともいえない不安に襲われた私は、咄嗟にそんな言葉を返していた。




 それからしばらくして、夕方。

 私は後悔していた。


「なんで頷かなかったのよ、さっきの私の馬鹿……」


 今更だけれど、アルト様に良くしてもらっていたことを思い返していたら、彼のことを好ましく思っていた。


 元婚約者はしてくれなかった私を気遣ってくれていると分かる行動。

 自らの危険を顧みずに私を守ってくれたこと。

 これは直感になるけれど、彼なら絶対に裏切らないと思っている。



 それに、この機会を逃したら私の将来は絶望的になる。

 私と歳の近い貴族の殿方はほぼ全員婚約者がいるから。


 そんな状況だから、一度婚約破棄された私の将来は、男爵家や子爵家のような家格の低い家に嫁いでいるか、公爵様や侯爵様の後妻になっているかの二択なのよね……。


 アルト様の提案は嬉しかったはずなのに、あの時の私は返事を先延ばしにしまった。

 自分の気持ちが分からなかったからだけれど、今はもうはっきりしている。


 ──人として、彼のことを好ましく思っている。


(手紙、書いた方がいいわよね……)


 明日は休日だから、私はアルト様にお茶のお誘いをすることに決めた。

 この機会を逃したくはないから。


 好きになった人と結婚出来ることなんて、政略婚が当たり前の貴族社会の中では稀。

 私を裏切った人にも好意はあったけれど、今感じている気持ちとは違った。あれは友達として好んでいただけ……。


「色々あったけど、私は恵まれているのね……」

「普通、だと思いますよ。不幸の後は幸福が待っているものです。

 ですが、これだけは言わせてください。お嬢様が積み重ねてきた努力は、分かる人には分かるのです」


 お茶を用意しに行っていた侍女がタイミングよく戻ってきて、そんな言葉を返してきた。


「明日会えることになったら、好きになってくださった理由も聞いてみるわ」


 そんなことを口にする私。

 バルケーヌ公爵家のことを忘れてはいないけれど、今はすっかりアルト様のことが気になってしまっていた。





 翌日。

 私はアルト様の暮らすカーヴレイ邸に来ていた。今は庭園が見渡せるテラスに出て、アルト様とお茶をしている。


「……ずっと疑問に思っていたのですけど、アルト様は私の何を見て好ましく感じているのですか?」 

「貴女の努力を惜しまない姿勢が一番の理由だ。美しく、それでいて飾らずとも可愛らしさを感じられる容姿も、貴女の性格も好ましいと思っている。何よりも、貴女のことを守っていきたいと強く思っている」


 はっきりと口にするアルト様。

 私が思っていた以上に、彼は本気なのね……。


 彼の言葉を聞いて、アルト様なら私のことを大切にしてくれる。そう思った。

 彼は必ず約束を守るお方だから、どんなことがあっても守ってくれると信じられる。


「そうでしたのね。昨日のお返事なのですけど……。

 こんな私でも宜しければ、これからもよろしくお願いしますわ」

「ありがとう。一生大切にすると誓う」


 花々が揺れて、私達を祝福してくれた。

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