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17. 後ろ盾があるから

 翌日。

 お昼休みに入ってから計画は始まった。


 午前中の講義を終えてアルト様との待ち合わせ場所に向かう私。

 誰かに後をつけられている気がするけれど、気にしないで足を進める。


 そして待ち合わせ場所が見えるようになると、視線の先には既にアルト様の姿があった。


「お待たせしてしまって申し訳ないですわ」

「俺も今来たところだから気にしなくて良い」


 当たり障りの無い会話を交わし、食堂へと向かう私。

 一瞬だけ後ろを振り返ってみると、炎のような赤い色の髪が遅れて角に隠れるのが見えた。


 私の後をつけているのはアリスだったのね……。


 私が殿下を奪おうとしていると、本当に思い込まされている影響かしら?


「何かあったか?」

「いえ、気のせいでしたわ」


 アリスが見ているならと、私は笑顔を浮かべながら言葉を交わす。


 楽しそうにしているとアピールするのにはちょうど良いから。


「楽しそうだな?」

「これも演技ですわ」

「なるほど、天才令嬢の二つ名は伊達では無いということか。俺も負けていられないな」


 どうやら、私の笑顔はアルト様の競争心に火をつけてしまったらしい。

 彼は眩しい笑顔を浮かべ、それでいて楽しそうにしている雰囲気を纏い始めた。


 これが次期宰相様の力なのね。恐ろしいわ……。

 



 私が感心していると、計画を考えている時から心配していたことが早速起きてしまった。


「ソフィア様、婚約破棄されたばかりなのにもうアルト様を狙っているのね」

「アルト様って、男色の噂があるお方よね? そんな方に気に入られようだなんて、余程頭が足りないとしか思えないわ」


 ……私たちに向けられる好奇の視線の数々。

 わざとらしく私たちに聞こえるように、陰口も言われている。


 けれど、ほとんどは私を非難するものばかり。


「まったく、揃いも揃って……」

「同感ですわ……」


 アルト様の言葉に頷く私。

 今はアルト様が味方として隣にいるから、怯えたりはしない。


「ですが、聞いていて気分の良いものではありませんわ……」

「そうだろうな。この俺ですら怒りを感じているくらいだ」


 すっかり笑顔を浮かべる気分ではなくなって、表情を消す私。

 アルト様は笑顔を崩してはいないけれど、目は全く笑っていなかった。



 そんな状況でカフェテリアに入り、いつもの席から離れている壁際の席に座る私達。

 今日は向かい合ったりはせず、私もアルト様も壁に背中を向ける形で席に着いている。


「この方が誰かが手を出そうとしてきても、すぐに対応出来るからな。

 それに、視線を向けていれば陰口も言いにくくなる」

「背中を向けていても視線は感じますものね……」


 アルト様の言っていた通り、耳に入る陰口の数はかなり減っている。

 けれど、そんな状況が気に入らない人がいた。


「貴女、婚約破棄されたばかりの身で、今度はアルト様を我が物にしようとしますのね? 立場を(わきま)えた方が良いですわよ?」


 また、セレスティア様だった。

 私なら何も言い返さないと思っての行動だと思うけれど、今は違うわ。


「ええ、私だけの考えでしたら、このような状況は避けるべきだと思っていますわ。

 ですが、アルト様からのお誘いは断れませんの。私のような家格の低い立場では、断れば無礼になってしまいますから。

 セレスティア様ならご存じだとは思いますけれど……」


 今の私には王家とカーヴレイ家の後ろ盾がある。

 だから、セレスティア様の言いなりになんてならないのよ。


「そ、そういう事情でしたのね。念のため忠告しておきますわ。

 適度に距離を置かなかったら、最初からアルト様を狙っていたと思われますわよ」


 私の反撃が気に入らなかったのか、口調は穏やかに、けれども怒りのこもった視線を私に向けながら。

 セレスティア様はそんなことを口にしてから去っていった。


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