第一章 Lehrer(レーラー)(先生)
学校でふとある出来事。
其れは一人の少女の恋物語。
紡ぐ答えは何を指し示すのか…
小説 Liebesgeschichte~恋物語~
第一章 Lehrer(先生)
授業終了のチャイムが鳴る。
「よし、今日は此処までにしよう。」
先生がそう言う。それに答える様に宿直の係が号令を掛ける。それに合わせて生徒全員が先生に礼をする。そう、学校の教室でよくある光景だ。
先生は教材を片付けて手に持った後、教室を出ようとしてあたしの前で立ち止まった。そして言う。
「どうした。結城。最近余り元気が無いように見えるが?」
そう語りかけてきた。あたしは、出来るだけ普段通りにしようと心掛けながら答えて言う。
「あ…いえ、元気はあります、其れなりに。大丈夫ですよ。」
そう言って先生に答えた。しかし流石に顔は見れなかった。先生は、
「そうか、しかし、多少気に為ったんでな。もし困った事があるなら俺に言って来い。」
そう言ってくれた。あたしは「はい…。」とだけ答えておいた。そして其の侭先生は教室を出て行く。
「はぁぁぁぁ……。」
出て行った後、あたしは大きく溜息を吐く。まさかあたしに声を掛けてくるなんて思わなかったから、心臓がどきどきだよぉ…。
そんな時後ろからあたしの肩を叩く者が居た。
「いよ!結城、如何したんだ?」
「きゃあぁぁぁ!」
吃驚してあたしはついそう叫んでしまった。肩を叩いた男子生徒はそんなあたしを見てそれ以上に吃驚する。あたしは落ち着きを取り戻しながら其の男子生徒に言う。
「あ、ああ…。小林。御免、考え事してたから。驚いちゃった。」
小林のほうに身体を振り向きながらあたしはそう言った。小林はあたしの後ろの席に腰掛けながら言う。
「ん~……。金山先生か?」
「な?!」
ストレートな質問にあたしはすぐさま反応してしまった。其れを見つつ小林が続けて言う。
「ほっほう…結城の好みはおじ様か……メモメモっと。」
「な、ちょ、ちょっと……。」
あたしは顔を真っ赤にしながら小林を捕まえる。抗議をしながら小林が答えてこう言った。
「おいおい、お前が暴露しただけじゃないか。俺は誰かに言ったりはしないぞ。って言うか、お前、此の事先生には言うつもりなのか?」
そう聞かれてあたしは言葉に詰まった。金山先生の事は本当に大好きだけど、だからと言って此れから如何しようかなんて考えても無かった…。
「其の…。そう言う先の事なんて考えてなかった…。」
あたしは正直にそう言った。小林はやや呆れて言う。
「おいおい……お前の気持ちも分からない訳じゃないが、はっきりした方が良いって事もあるんだぞ?」
「え?どう言う事?」
小林の質問にあたしは逆に尋ねる。小林は答えてあたしにこう言った。
「このまま引きずって卒業まで放置したら、お前、他の男子に失礼だろう?」
「え??」
言っている意味が分からずにあたしはそう答える。小林は呆れたように言う。
「お前…自分がもててるって自覚ぐらい持てよな。結構騒がれてるんだぜ男子の間では。」
「は?!」
小林の言う内容が理解できずに素っ頓狂にあたしは答えていた。小林はやれやれと両手を広げる動作をしつつ、こう言う。
「人は容姿だけでは見ないんだ。容姿なんて時と共に変わっていくしな。第一お前だってそうだろうが。金山先生は立派な人だが容姿はいいって方じゃないぞ。」
そう言われてあたしは少し考えた。こいつはあたしの事を考えて言ってくれている。其れは分かるんだけど…。
分かるんだけど…
やっぱり…
「でも…あたし言えるほど勇気が出ないよ…。」
そんなあたしを見て小林はやれやれと再び両手を広げていた。
はぁ…
今日は特に体調が悪い…
朝ごはんもっと食べて来るんだったな…
調子が悪いとつい抜いてくる、そして其れが逆に調子の悪さに拍車を掛ける。理屈は分かるのだが実際に当てはめるのが中々出来ない。
「まるで、あたしの恋わずらいと同じよね…。」
ふとあたしは声に出してそう言っていた。そんな時、
「おや、結城、お前恋でもしてるのか?」
え……??
な、な、なぁぁぁぁぁ!!
金山先生、どうしてこんなところに…って此処は学校だからそりゃ居てもおかしくは無いけど…
先生は、あたしの答えを待ちつつこちらを見ている。恥ずかしいけど、此処は正直に言うしかないのかな…
「あ、あの……。」
言わなければいけないのは分かるのだが、其処で結局あたしは言えなくなってしまう。金山先生は暫く待ってくれていた。
あたしは少し深呼吸をしてから答えて言った。
「はい、あたし恋をしています。」
それに頷きつつ金山先生が言う。
「うんうん、若いのはイイコトだな。相手にはもう言ったのか?」
ドストレートな質問が来た。あたしはあわてつつも答えてこう言った。
「あ、いや、其の…その人、少し歳が離れた人でちょっと思いを伝えるのが難しいかな…なんて…。」
其の答えをうんうんと暫く金山先生は聞いていたが、しばし悩んだ後にこう言った。
「しかし、伝えないと進展しないんじゃないか?」
「あ、いや、其れは正論なんですけど…勇気と言うか…機会と言うか…中々掴めなくて…。」
実は目の前に居る人です!なんて言える訳の無いあたしはそう言って誤魔化してしまった。金山先生は真面目に悩みながら少し考えてからこう言った。
「確かに其れは難しいな。だがな、結城。やらないで後悔するよりは、全てやりつくして後悔した方がいいと思うぞ。偉い学者もそんなこと言ってたしなぁ…。」
はぁ…其れはそうかもしれないけれど…。目の前にその人が居て、その人にそんな事を言われるなんて…。あたしって、運がいいの?悪いの?
思い悩んであたしは暫く黙り込んでしまっていた。金山先生は其の間もあたしを見守ってくれている。勿論教師としてなんだろうけれど。
もし、あたしだけのものに出来たら…。どんなにか良いだろう…。独善的な独占欲だとは思いつつも、あたしはそう考えていた。
そして…
「あの…金山先生…聞いてもらえますか?」
一握りの勇気と共にあたしは思いを伝える決心をしていた。
帰り道。
何時もの様に小林があたしの肩を叩いてきた。
「どうした、元気が無いようだけど。」
そうあたしに言ってくる。あたしはボソッと言う。
「振られちゃった…。」
其の答えに小林は暫く何も言わなかった。少ししてから、多分何を言おうか考えたんだろう、こう言った。
「そうか。金山先生も見る目が無かったって事だな。俺が見てもお前は良い女なのにな。」
「え?…。」
言われた事が理解出来ずにあたしはついそう言っていた。小林は顔を赤くしつつ言う。
「おまえなぁ…人が折角告白してるんだから、少しは普通に聞いてくれよ…。」
あ、いや、だって…そんな事考えてなかったし…。あたしは混乱しつつも答えて言った。
「えっと、あたしでいいの?」
そんな馬鹿な質問をしたあたしに小林は呆れて両手を広げつつこう言う。
「相変わらずだな、結城。俺は、お前がいいんだ。分かるか?」
そう言われてあたしは頷いた。そうして小林はあたしを抱いてきた。なんだか其れがすごく嬉しかった。
そして喜びながら小林が言う。
「勇気を出して言って良かった。やっぱり、言わないで後悔するよりは言って後悔した方がいいな。」
其の答えにあたしは小林の胸の中で小さく「うん、そうだね。」と答えた。
金山先生、貴方の言う通りでした。確かに、どうせ後悔するなら全てやった方がいいですね。
有難う先生…
ご愛読頂き有難う御座いました。
今回は短い作品ですが楽しんで頂ければ幸いです。
不定期ですがこれからも少しずつ書いて行きたいと思います。
今後とも宜しく御願いしますね。