大弐乳母の見舞い1
17歳の光源氏はもう一つ大きく短い恋をする。その時期が来たのである。
わたしの乳母が言っていた。
「大弐乳母が病気になり出家されました」
と。
大弐乳母は兄の乳母で惟光の母だ。
「私もお見舞いに行ったら迷惑かしら?」
「いえ、お喜びになると思います。」
「そう。なら、おにいさまに一緒に連れて行ってくださるようお願いして。」
「かしこまりました。」
後日、兄と車に同乗し、大弐乳母の家のある五条へ向かう。後ろにもう一台車を連れている。
「おにいさま、どこかへ行かれますの?」
「うん。ちょっとね。」
「あら、お教えいただけませんのね。」
「かの方は並大抵の方ではないのでね。」
あ、内緒にする気だな。でもちょっと自慢したい気持ちが透けて見えている。
「わたくしたちの間に秘密はございませんことよ。」
「ふふ。そうだな。」
軽く甘えて見せる。隠せると思うなよ。
「お名前は申せないが、もう少し向こうにお住まいのとても高貴な方だよ。とても近寄りがたくて会うだけで緊張するぐらいだよ。」
住んでるところ言ったらバレバレです。言いたいけど、言うほどの出来事がないということですね。聞くのちょっと早かったかな。失敗。
「また、お話してくださいませね。」
「ああ、今度時間のある時にね。」
さて、到着だ。夕顔の家はどこかな?檜垣を新しく作ってあって、半蔀が上がっていて、白くて新しい簾がかかっているお家。そして、品のよさそうな女の人が覗いている・・・あ、あれだ。
兄も気が緩んでいるのか、車から顔を出して、その家を眺めている。
切縣みたいな板壁につる草が巻き付いていて、白い花が咲いている。
「をちかた人にもの申す。」
本当に言った!古歌を引用して白い花の名前を聞いているのだ。
「あの白い花は夕顔と申します。花の名前は人のようで、このようにみすぼらしい垣根に咲きます」
と聞きつけたお供の随身が答えてくれた。
「気の毒な花だ。姫宮も見たいかい?」
「はい。見とうございます。」
「一房折って持ってまいれ。」
「は。」
家の中からこぎれいな女童が出てきた。女童が随身に何か渡している。白い扇だ。
聞こえないが、
「これに置いて差し上げよ。枝も頼りない花だもの。」
ぐらい言っているのだろう。
惟光が出てきた。随身が、惟光に扇を渡している。
惟光が扇を兄に渡し、言った。
「門の鍵が見つからなくてご不便をおかけしました。このような場所でお待たせ申し上げるなんて・・・」
とても恐縮しているようだ。
いいんだよ。そのおかげて有名なシーンに立ち会えたから。




