空蝉の君とのお話
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世間の人は、光源氏の行動に注目しているので、私のもとにはどんどん噂が入ってくる。
いわく、
「源氏の君が、紀伊守の館に方違えにいらっしゃったそうよ。」
と。
来た。空蝉の君と出会ったのだ。今は物思いにふけっていることだろう。
兄に文をしたためる。会いに来いという圧力を込めて。
「やあ、姫宮。調子はどうだい?」
兄が来た。光源氏のご登場だ。女房たちも楽しそうで何より。
「皆が気遣ってくれるので、恙なく。おにいさまはいかがですか?最近は左大臣邸で物思いにふけっているとお聞きしました。」
「よく知ってるね。」
「はい。皆、おにいさまに注目していらっしゃるのですわ。」
ふふふと笑って、御簾の中にお誘いする。
「困ったものだね。」
兄が几帳を隔てた向こうに座った。
「そういえば、紀伊守の館に片違えに行かれたそうで・・・」
「耳が早いね。」
「はい。物思いの原因はそちらで?」
ふふふ。お話してくださいませ。
「どうかな。」
「おにいさま。唯一の同母の兄妹ではございませんか。」
「ほんと、わたしの姫宮は聞きたがりだ。」
もちろんです。
「お願いいたしますわ。」
「聞いても、この兄をせめないでおくれよ。」
「はい。もちろんですわ。」
「先日、あのあと、左大臣家に行ったんだ。左大臣が部屋まで来てお話をしたりとゆるりと過ごしていたんだが、その日は方違えの日だったんだ。」
「あら。我が家に来てもよろしゅうございましたのに。」
「それが、こちらの方角も悪くてさ。」
「じゃあ二条院も無理でございますわね。」
「そうなんだ。行くところがなくて。」
「あら、たくさんの女人の家がございましょう?」
「久しぶりに来た夫が、方違えだからと他の女人の元へ行ったらいやだろう?」
「そうですわね。」
「行く場所ないし、牛車のまま行きたいなと言ったら紀伊守の館を勧められたんだ。」
「急に。紀伊守も大変でしたでしょう。」
「父の伊予介の家族も来ているからごちゃごちゃしてます。とか、あまりに急なのでとか言っていたな。」
迷惑がってるんだよー。
「それで紀伊守の家に行くことになったんだ。」
ふむふむ。紀伊守も気の毒に・・・
「紀伊守のおうちはどうでしたの?」
「寝殿の東面を整えくれてね。庭も風流に造られていたよ。柴垣があって、虫が鳴いて、蛍も飛んでいたよ。」
「まあ。素敵なお屋敷でしたのね。」
違うよ。聞きたいのはそっちじゃない。
「うん。供の者たちも渡殿から湧き出る泉に行ったしてくつろいでいたよ。紀伊守もいろいろよくしてくれてね。」
紀伊守おつかれさま。ここいらで話の舵をきらせてもらおうか。
「この間のお話の中の品の方はそのようなお家の方なのかしら?」
「そう、私もそう思ったんだ。」
「いらっしゃいましたの?」
「ああ。」
「どんな方でしたの?」
「そんな・・・奥にいらっしゃる方なので、交流などしようがないよ。」
嘘ですよー。
「あら?それにしては何かを思い出されたような顔をしていらしてよ?」
「そうかい?姫宮には何も隠せないね。」
「ええ。わたくしたちの間に隠し事はなしですわ。お話しくださいませ。」
さあ、話せ。話すんだ。
「仕方ないね。もともと伊予守の妻の話は聞いていたんだ。君も聞いたことがないかい?」
「ありますわ。亡き衛門督の娘でしたか?」
「そう。中納言も兼任していた。」
「亡きおじいさまと同じ高い望みをお持ちだったとか・・・」
「私もそう考えていたんだ。その方がいらっしゃるかなと。」
「気になってお耳をそばだてていらっしゃったと。」
「お見通しだね。そうしたら、女人の声が聞こえたんだ。でも、わざとらしくてね。紀伊守もそう思ったのか、格子を下げてしまったよ。」
「ふふふ。残念でしたわね。でも、まだ続きがおありになるのでしょう?」
「そう思ってふと襖子(今のふすま))の方を見たら、明かりが漏れていたので近づいてみたよ。」
「垣間見れまして?」
「それが隙間がなかったので無理だったよ。」
「あら、お話は聞こえましたの?」
「私の噂話だったよ。式部卿宮の姫君に朝顔の花を差し上げたことまでも知っていてね。君と言い、女人は物知りだね。」
「皆、世に聞こえる光源氏に興味がある証拠ですわ。でも、直接お聞きできるのはわたくしだけだと思うと優越感ですわ。」
「そうかい。よかったよ。」
「ええ。続きをどうぞ。」
「いや、もうここまで聞いてちょっと飽きてきたんだよね。ちょうど、紀伊守が来たから、ちょっと冗談でもと思って・・・」
「何をおっしゃったんですの?」
「どばり帳もいかにぞや。と」
「あらまあ。」
寝室はどうなっているか?といいながら、女の方は用意できているのかという問いかけだ。
「冗談だよ。」
「紀伊守はお困りになったでしょうに。」
「真面目くさって何のことかわからないと言っていたよ。」
「お気の毒に・・・」
「そうしていたら、童が何人かいてね、どの子が誰の子か聞いてみたんだ。」
「そうなんですね。」
「やはり亡き衛門督の子がいてね。気の毒に感じたよ。」
「そうですわね。姉君の方は帝も気にしておりましたようで・・・」
「その話もしたよ。宮仕えさせたいという話はどうなったとおっしゃっていたことを伝えたよ。若い母を持ったねと。」
「ままならぬものですわね。」
「伊予介は、主君のように扱っているようだよ。でも、息子たちは好色ななことと認めていないようだよ。」
「お会いさせてもらえたんですの?」
「いや、どこに?っときいてもはぐらかされたよ。」
ふふふ。それで終わりではないだろう。
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