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肛門からの声

 猛烈にうんこがしたい。


 勇者ピカリオ一行は、ジャングルの道なき道をただひたすらに進んでいた。




 俺は先頭に立ち、クールに魔物を倒したり、行く手を遮る草木を颯爽と剣で斬ったりしているが、心の中ではうんこのチャンスを狙っている。


 今回も既に肛門から「ヤバイヨー」という声が聞こえきているのだ。




「ピカリオ、顔が真っ青だぞ。調子でも悪いのか?」


「そうか?俺は色白だからな…。」




 ポムラは心配そうにピカリオの顔を覗き込む。


 ああ、自分の体のことは自分がよくわかっているさ。




「もしかしてお腹痛いとかですか?うんこするといいですよ?」




 チェンリン、お前は少し黙っていろ。


 だが勘が鋭いな。1ピカリオポイントを贈呈しよう。




「チェンリン、勇者に対して下品なことを言うな。」




 ポムラ、お前は戦闘中以外は本当にいい奴だ。旅が終わっても文通とかしような。




「私はヒーラーとして適切な治療法を提案したまでです!」


「そんなのは治療法には入らない。それに、言い方というものがあるだろう。」


「うんこの他になんて言えばいいんですか!!おうんこですか?!」


「お前達戦ってくれないかなあ?!魔物が出たんですけど?!」




 二人がくだらない言い合いをしている中、ピカリオは肛門を締めながら、一人で魔物と交戦をしていた。




 いや、これはチャンスか?このまま魔物と交戦しながら離れたところまで行ってそこで用を足そう。


 ピカリオはうんこうんこと言い合いをする二人を横目に、上手く魔物を誘導しながら二人から離れることに成功した。







「ギリギリの戦いだった…。」




 魔物との戦いではない。己の消化器官との戦いの話だ。


 少し遠くの方から俺を探す二人の声が聞こえる。さて、仕上げに一拭きして颯爽と登場するか。


 ピカリオがフィニッシュにハーブでケツを一拭きをしようとした瞬間、強烈な殺気に襲われて咄嗟に横に飛ぶ。




「何者だ!!」




 その判断は正解だった。先程までピカリオがいた場所には、矢が刺さっていたのだ。


 うんこの上に刺さる矢を見て冷や汗をが噴き出る。あやうく俺の下半身が使い物にならなくなるところだった。




 ピカリオは下半身丸出しで剣を構える。




「我々ノ聖地ニ入ル者、殺ス!!」




 藪の中から木彫りの仮面をした男が見えた。弓を構え、こちらに狙いを定める。


 どうやら彼は、攻撃的な少数民族の一人のようだ。




 くそ、下半身丸出しとは最悪なファーストインプレッションだ。ここから挽回出来るのか?




「俺に敵意は無い!!」




 こちらには戦う理由は無い。ピカリオはそれを示すために剣を投げ捨てた。


 しかし相手は攻撃の構えを止めようとはしない。




「もう武器はない!!ケツすら丸出しだ!!」


「…ソレハ オ前ガ ウンコシテタカラダロ!!」


「うるせえええええーーー!!敵意は無いんだってんだろおおおおーーー!!」




 ピカリオは勢いでごまかした。


 うんこの事を指摘されたりすると結構恥ずかしいから、動揺してしまった。




 男は突然の叫び声に男はビクッと体を震わせる。


 暫くじっとピカリオを見つめていたが、敵意がないことがわかったのか、弓を下ろした。




「俺達は遺跡を見に来ただけだ。」


「……ツイテ来イ。」




 どうやら俺の熱い思いは伝わったらしい。仮面の男はピカリオに背を向けて、歩き始めた。


 ピカリオもズボンを上げて、慌てて後を追い掛ける。そうしていると、すぐ後ろにチェンリンとポムラの声が聞こえた。




「ピカリオ、無事だったんだな。」


「ああ、少数民族との接触に成功した。彼の後を追おう。」


「さすがピカリオ様!…あれ、顔色が先程よりいいですね。」




 出すもの出したからな。




 男は振り返ることも無く黙々と歩き続ける。その後を追い掛ける3人。


 チェンリンがコミュニケーションを図ろうと「彼女いるんですか?」とか「人とか食べそうですね」とか話し掛けるが、男は無視をし続けた。




 まあ俺でもそんな質問されたら無視するかな。




 暫く歩くと、開けた所に出る。どうやら民族の村に着いたらしい。


 村には藁で出来た家が何件かあり、人々は老若男女全員が木彫りの仮面を着たり、腰みのを身に着けていたりなど、独自の文化が発達しているようだった。




 我々のイメージしてた通りの普通の民族的な村…と思えるが、ピカリオ達が到着すると全員が手を止めてこちらを凝視していた。


 仮面を着けた人々が一斉にこちらに視線を向けている。…少し不気味さを感じてしまった。




 すると、ここまで案内してくれた男が一人の老人の元へ行き、耳打ちを始める。


 老人は深く頷くと、ピカリオ達の元へやってきた。




「私ガ 民族“ハバエルァ” ノ おさデアル。」


「ピカリオ・マルクトスです。」




 さすがおさの仮面は年季が違う。うんこみたいなマークまで描かれているから、少し親近感が沸く。


 チェンリンが小声で「うんこだ」って呟いたのは聞かれていない。よかった。友好の橋が崩れ落ちるところだった。




「遺跡ハ コノ先ニアル。ガ、モウ日ガ暮レル。今日ハ 泊マッテイクト イイ。」




 ピカリオ達はお言葉に甘えて、泊めて貰うことにした。


 なんだ、良い人達じゃないか。あの学者が襲われた頃とは、考えが変わったのかもしれない。






 その夜、ハバエルァの民は食事を振舞ってくれた。


 火を囲みながら民の人々の踊りを見て食事をするのは、非日常を感じられてとてもいい。


 しかしこの踊り、恐ろしさを感じる。怪物を模した人が、生贄役の人間を食べる…そんなストーリーに見える。




「この肉…なんの肉だろうか。」




 ポムラがピカリオにコソッと耳打ちしてきた。


 確かに何の肉か判断はつかない。牛肉のようにも思えるが、羊っぽいような部分もある。




 人…じゃあないよな?まさか、さすがに、な…?




「ポムラ、友好のためだ。笑顔で食べるんだ。チェンリンを見習え。」


「これ美味しいですね!あっこれもー!」


「ソレハ 皿二シテル 葉ナンダガ…。」




 俺は忘れない。ハバエルァの民の仮面から見えた表情…チェンリンにドン引きしてた。


 人はあんな顔を出来るものなんだな…。






 “モウデルヨー”“ハヤクオキテ…”


 …いつの間に寝ていたのだろう。


 いつの間にか眠りについていたようで、肛門からの助けを呼ぶ声でピカリオは体を起こした。




 食事をした辺りから記憶がない。それにしても寒いな。腹が冷えて寝起きから便意がマックスだ。ここは…外か?


 ピカリオが目を開けと、チェンリンとポムラが眠りこけている。




「これは牢屋か…?」




 驚いたことに、原始的な生活をする民族には似つかわしくない、鉄製の強固な牢屋。そこに3人は閉じ込められている。


 牢屋の周りにはかがり火が焚かれているので夜だが薄暗く辺りが窺える。が、周りには鬱蒼と茂る木々のみで、人はおろか生物の気配さえ感じ取れない。




「おい、二人とも、起きろ。」




 様子がおかしい。ハバエルァという民族達の罠に嵌まったのか?


 ピカリオは二人の体を揺さぶり起こす。




「……どうやら眠らされていたようだな。」


「ここはどこでしょう。牢屋も引きちぎれませんね。」




 ヒーラーが鉄製の牢屋を引きちぎろうとするな。




「何かはわからない。だが武器も奪われていないし…待て、なんだ。この気配は。」




 木々が風に揺れる。その音に混じって、何かが近付いてくる音が聞こえてきた。大きな翼を羽ばたかせる音…巨大な鳥か?


 それと同時に、肛門の限界が近付いてくる気配も感じる。これはまずい。




 ピカリオの額に、一滴の冷や汗が流れた。


 ポムラも暗闇をじっと睨みつけている。




「……ピカリオ。」


「わかっている。魔物だな。しかもかなり強い気配を感じる。」




 しかしこの牢屋の中。敵にやられてしまうかもしれない。


 俺の攻撃魔法で蹴散らすか?いや、魔物に檻を壊させて脱出し、その辺でうんこをするか?




 ピカリオは剣を構えながらそんなことを考えていた。




「違う。逃走経路についての相談だ。」


「お前、帰れ!!」


「あっ、牢屋の片隅に鍵を見付けました!」




 チェンリンが急いで鍵を開け、3人は牢屋から飛び出した。


 なんで閉じ込めた牢屋の中に鍵があるんだ?ハバエルァの民の真意がわからない。


 いや…そんなことより今は目の前の敵に集中すべきだな。




「来るぞ!!」




 脱出と同時に、何か素早い攻撃がこちらに向かって繰り出されてきた。


 咄嗟に剣で受け止めると、剣が捕えたのは岩をも切り裂きそうな鋭い爪だった。




 鷲の翼を持ち、獅子の下半身を持つ強力な魔物だ、こいつは…!!




「グリフォンだ!!」




 鋭い爪で相手を引き裂き、強靭な下半身で蹴りを繰り出す。大きな翼は竜巻をも巻き起こすといわれる。


 今の自分達には荷が重い程のレベルの高い魔物だ。ガディアロにグリフォンが生息しているとは、聞いたことがない。




「ゲェエエエッ!!」




 グリフォンが強烈な匂いのする黄色い液体を辺りに吐き散らした。


 鼻をつんざくような酸のような匂いに、思わずむせてしまう。




「くっさ!ゲロ吐きましたよ!」


「…違う、これは消化液だ!触ると溶かされるぞ!」




 吐いた周囲に白い煙が立ち上る。草が溶かされているのだ。


 あの鋭い爪攻撃だけでも精一杯なのに、消化液まで吐いてくるとなるとは。




「こいつはすごいな…今、走馬灯が脳内で流れている。」


「ポムラ!現実に戻って来い!」




 グリフォンの素早い攻撃についていくのがやっとだ。しかもいつ消化液を吐くのかもわからず、接近戦は不利にも思う。


 それにこっちは下痢という、下手すると人間の尊厳を失いかねない、大きなハンデを背負っているのだ。




 肛門が熱い。感じるぞ。すぐそこまで“ヤツ”は来ている。少しでも緩めると“漏らす”。




 ピカリオはグリフォンから少し距離を取った。




「攻撃魔法の詠唱に入る!時間を稼いでくれ!」




 ピカリオは立ち竦んでいるポムラに向かって叫んだ。


 しかし、返事をしたのは後方支援役のチェンリンだった。




「わかりましたピカリオ様!うおおおおおおお!」


「ちがう!ポムラに言ったんだ!」




 うちのヒーラーは頼もしい。グリフォンに向かって突進していった。


 さすがにマズイと思ったのか、意を決したポムラも後を追う。グリフォンと距離を取り、二人で注意を引き付けてくれてる。




「オオオオン!!」




 が、やはり自分の間合いではないと上手くいかないようで、二人はグリフォンのけたたましい叫び声と共に、翼に薙ぎ払われた。しかし受け身が取れているため怪我はなさそうだ。




 よし、魔力が高まった、今だ!




「………宿れ炎よ!!フレイムバースト!!」




 炎が旋風を巻き起こしながらグリフォンを襲う。辺り一帯が明るく照らし出される程の火力だ。


 俺のありったけの魔力をぶち込んだんだ。これで倒れてくれ…俺にはもう時間がないんだ!肛門から限界を教える叫び声が聞こえてくる。




「グオオオオオン!!」




 しかしグリフォンは翼を羽ばたかせるとすぐに炎をかき消してしまった。


 俺の火力だと致命傷を与えるには足りないようだ。やはり俺の剣で直接攻撃しかない。


 あの消化液さえなんとかなれば…あの臭い消化液さえ…。臭い…?そうか、正解はこれだ…!!




 ピカリオはひらめいた。




「俺が敵を引きつける。その隙にポムラが攻撃をするんだ。絶対にポムラの方にはいかせない。」




 ピカリオの提案に、二人は目を丸くした。


 それもそうだ。怪我する前提で敵に突っ込むっていうんだから。




「ですがあの消化液は厄介ですよ!接近戦は危険です!全然わかってないじゃないですか!」


「だからチェンリン。俺に常に回復魔法を唱え続けてくれ。瞬時に回復すれば死ぬことはない。」


「だめだ!危険すぎる!距離を取って隙をみよう!」




 俺はポムラより攻撃威力が弱い。おとり役は俺が適任だ。


 それに、俺は仲間にこういう役をやらせたくないんだ。これは勇者の役目だ。




「ポムラ、お前がやらないと俺はいつまでも消化液まみれのままになる!頼むぞ!」


「くっ…!やるしかない…この震えた手で…!」




 ポムラはやっと重い腰を上げて、斧を構える。


 すでにチェンリンは回復呪文をピカリオに掛け続けている。彼女の魔力が切れる前になんとか決着を着けないと。


 それに、ケツも限界が来ているんだ。この作戦に賭けるしかないがあった。




 ピカリオはグリフォンに向かって飛び出していった。それと同時にポムラはグリフォンの視界から消える様に動く。




「ケエーーー!!」




 グリフォンの振り下ろした爪を剣で受け止める。獅子の下半身ということもあり、凄まじい威力だ。


 蹴りと爪攻撃の怒涛のラッシュがピカリオを襲う。ピカリオはなんとか食らいついて攻撃を剣で受け止め続けている。


 腹に喰らったら終わりだ…出すべき時は今ではない!




「ゲエエエエッ!!」


「ぐううっ…!!」




 ついにグリフォンが消化液を吐き出した。


 強烈な臭気が鼻を襲ったと同時に、全身を溶かす激痛が走る。しかし瞬時に回復魔法がピカリオの怪我を癒す。




「ピカリオ様…私が治しますから!」




 チェンリンの温かな回復魔法が身体に染み渡る。しかし同時にグリフォンの消化液の痛みも襲う。回復と負傷、頭がどうにかなってしまいそうだ。




「くらえっっ!!うおおおおーーー!!」




 ポムラの叫び声が聞こえた瞬間、グリフォンの首が切断された。もう動くことは無いだろう。




「ピカリオ様!ご無事ですか?!」


「ああ、チェンリンの回復魔法のお陰だ。ポムラも怖いのによく頑張ったな!」


「全く…心臓に悪い作戦だ。」




「村に戻ってハバエルァの民に問い詰めたいところだが…消化液が臭すぎる。俺はそこの川に入ってくるから待っていてくれ。」








「はあ…今回も間に合ったぜ。」




 消化液は死ぬほど痛かったが、水浴びの口実で長々とうんこが出来るからな。これが今回の正解だろうな。


 それに、あの戦法以外に勝機が見えなかったのも事実だ。




 しかしグリフォンはあんなに強い魔物だったのか。強いとは聞いていたが、あそこまでとは。


 まだまだパーティとしては駆け出しだということを実感した一戦だった。




「さて、水浴びもするか。……ん?」




 服を脱いだと同時に、何かが服の中から飛び出した。


 ピカリオは拾って手に取ってみる。




「宝石…?じゃああのグリフォン、狂暴化してたのか…?」




 それは砂漠で拾ったものと同じ宝石だった。禍々しい力をひしひしと感じる。グリフォンの腹の中にあり、消化液と共に吐き出されたのだろう。


 ピカリオは宝石を手で握りしめた。




 *8話へ続く*

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