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青い海、白い雲、隣にはゲロ

 無事に砂漠を越え、その途中に商人達に会い、サンドワーム討伐のお礼にハーブと水虫に利く薬草を貰った。

 これでケツは一安心だし、ポムラも大喜びをしていた。

 やはり痛んだケツにはナイトミントハーブが効くんだ。俺のケツも癒されている。


 ベクトールの街に着いて、早速乗船手続を取る。

 船の出航まではまだ時間があるので、しばらく酒場で休むことにした。


「で、船でどこに行くんだ?」

「5大国のひとつ、ガディアロ国に行こうと思う。あそこは呪術に詳しい学者も多い。」


 ガディアロは南に位置する島国だ。島の多くがジャングルに覆われており、そこに古代遺跡がある。


 そのため、古代学者が多く住んでいるのだ。呪術は古代より盛んであった為、呪術に詳しい学者も多いと聞く。


「学者にポムラの(俺のも)魔王の呪いのことも聞きたいところだが、みんなにこれを見てほしい。」


 ピカリオは砂漠で拾った宝石を取り出し、机に置いた。


「ああ。今は普通の宝石なんだが、もっと魔の力に満ち溢れていた。これが砂漠に埋まっていたんだ。」

「魔の力ですか。もしかしてこの宝石の魔力に当てられて、サンドワームが大量発生したとか…ですか?」


 チェンリンが恐る恐る指で突く。しかし今の宝石は何の力も無いただの石だ。なんの反応もなかった。


「恐らくは。が、これが偶然なのか故意なのかはわからない。これも魔の力を利用したものなら、呪術の一種かもしれない。」

「よく見つけましたね、ピカリオ様。」

「ん…まあな。」


 うんこしてたら見つけたなんて言えない。




 乗船すると、広がる大海原がピカリオ達を迎える。振り返ればバコード大陸が段々遠くなり、小さくなっていった。


「あの大陸に俺達の家族や友がいると思うと、感慨深くなるな。旅の始まりを実感するよ。なあ、チェンリン。」

「オボエエッ…エッエッ…オボロロロロ…。」

「…チェンリン、大丈夫か?」


 チェンリンは盛大に船酔いをして、甲板の手すりで広がる大海原へゲロを吐いていた。同乗客がクスクス笑っている。もの凄く恥ずかしい。


 バコード国とガディアロ国を結ぶこの海峡は、年中穏やかな海だ。2日もあればガディアロに着くだろう。


 船はいい。なにより船にはトイレがある。確約された安心、ってところか。心なしか腹の調子も良い気がする。


 チェンリンとピカリオは、ゲロが止まらないチェンリンの隣で甲板で海を眺めていた。

 初代勇者パーティの血筋を引くこと、魔物の狂暴化について…そんな真面目なことを話していた。


「ピカリオは強いな。」

「オウエッ…」

「チェンリン、部屋で寝ていた方がいいんじゃあないか。」


 ピカリオは青い顔をしたチェンリンの背中をさすってやる。

 さっきから真剣な話をする度に、合いの手のようにチェンリンが吐く。

 ゲロで会話に入ろうとするな。


「いや、俺は強くない。ポムラのがよっぽど強いし、俺は一般の兵士より少し強いくらいじゃないか。」

「ウプッ…ぐおお…。」

「チェンリン、水飲むか?」


 ポムラはチェンリンに水を渡す。チェンリンはそれを飲むが、飲んだ瞬間にまた吐き始めるから意味がない。


「勇者は特別強い力を継承するわけじゃあない。俺が少しだけ強いのは、毎日1万回素振りをしてたり、寝る間を惜しんで魔導書を読んでいるからだ。」


 平和な世界と言えども、勇者の血筋を引いている。周囲からの期待の目や重圧がなかった訳ではない。だから結果が出る様に努力をする。


 投げ出したいと思ったことが無かった、といえば嘘になる。結果を出しても「勇者だから当たり前」と努力を認めてはもらえない。


 しかし、見知らぬ人が遠い国から「勇者様へ祈り捧げとうございます」と自分に会うために来てくれる。そんな人たちの期待に応える為に、俺はケツと腹の痛みに耐えて剣を振っているんだ。


「初代勇者は強かったのだろうけど。俺の父も、祖母もそこまで超人めいて強い訳ではなかったよ。勇者が引き継ぐのは“人を愛すること”なんだと思う。」


 あと、下痢体質も自動的に引き継がれる。

 人を愛することが出来れば、人を守ろうとして強くなれる。俺は胸を張って人間が好きだと言えるし、守りたいと思う。


「そうか。ピカリオは努力をしているんだな。」

「ポムラもそうだろう?」

「ああ、色んな薬草を試したり、皮膚にいい物を食べたり、かなり努力をしている。」

「いや、水虫の方じゃなくて。」


 なんでこの流れから、水虫の話だと思ったんだろう。

 きっと、普段はクールだけど頭の中では水虫の事を考えているから、自然に話題が水虫に変換されるんだろうな。今でも足をモジモジさせているし。


「ポムラは呪いを解く方法を探しに旅をしてたのか?」

「いや、呪いは半ば諦めていた。少しでもかゆくなくなるよう方法を探していたんだ。」


 そういえば初めて会ったのは砂漠だったな。あの辺りに水虫に利くようなものでもあったか?


「ほら、ヘリオライの街の近くに滝があるだろう。体を清めるとかなんとかの…あそこに足をつけていた。」


 勇者の聖なる滝…かつて、初代勇者がその滝で体を洗い清めた所で知られている、由緒ある場所だ。


 ん?その聖なる滝に…足を…?水虫の、足を?!!


「ポムラ、お前…勇者の聖なる滝で水虫を洗ったのか?!」

「おお…偶然にも勇者にゆかりある場所だったとは。運命を感じずにはいられん。」

「洗うなよ!!聖なる泉だって書いてあったろが!!」


 ポムラは「次は気をつけよう」と頷いた。

 クールなのに天然、そしてビビり。初代戦士もこんな感じだったんだろうか…。


「みなさんご心配をお掛けしました…全部出しきって何とか持ち直しました。」

「チェンリンはさっきの酒場で麦酒を10杯飲んでいたからな。」


 酒場で俺がトイレに行っている間に、こいつ何そんなに飲んだくれていたのか。


「遊びじゃないのはわかってるんですけど…皆で旅をするのが楽しくてはしゃいじゃいました。」

「私もだ。今まで呪いのことは誰にも言えなかったから、嬉しいんだ。」


 ポムラのその言葉に胸が痛んだ。俺は仲間にも呪いのことを言えないでいる。

 ポムラだって呪いのことを話してくれた。俺も話してもいいんじゃないか?と思うが、やはり言えないものだ。


 “勇者”として、平和を崩す要素を作ってはいけない。平和の象徴たる勇者が未だに魔王の呪いに苦しめられていることが知れたら。人々を不安にさせてはいけない。


 *【6.もってくれ、俺の括約筋】に続く*

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