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ケツに吹く風

 初代勇者のパーティの一人、アロイス・キランジェ。彼もまた魔王からの呪いを受けて、子孫であるポムラを苦しめている。


「初代勇者が魔王を打ち滅ぼした。しかし、倒したと思われた魔王はまだ息が有った。そして最後の力を振り絞り、勇者に呪いを掛けたのだ。」

「……ふむ。」


 ここまでは俺も知っている。だが、呪いは勇者のみだった筈だ。俺の知らない話の続きがあるのかもしれない。


 ピカリオはゴクリと喉を鳴らした。


「魔王が呪いを放ったその瞬間!我が先祖アロイスは、恋人である勇者をかばったのだ!」

「ちょっと待て!初代勇者パーティは 全 員 男 だ ぞ !」


 アロイスは屈強な男だし、初代勇者も男だ。ヒーラーのオクスポイントも男だし、魔法使いも男。男男男。男臭いパーティだ。恋仲な訳がないだろう!!


「それ以来、偉大なる戦士の血を引き継ぐものにはその呪いも継承される…。」

「無視するなよ!俺の先祖に関わる重要なところだぞ!」

「その呪いを知りたいか?げに恐ろしきこの呪いは…見た者をも恐怖のどん底に叩き落とすだろう。」


 ポムラはそう言うと、履いていたブーツを脱ぎ始めた。

 足に何かあるのか?命を食い荒らすアザがあるのか?はたまた腐っていたり…。

 チェンリンもいつになく深刻な顔をしている。


 そして、ブーツは脱がれた。




「ただの水虫じゃねえかよ。」


 ポムラの足の指は、酷い皮剥けと掻き毟ったような赤い腫れが広がっていた。

 いや、水虫だろ。


「侮るな勇者よ。呪いだと言っただろう。如何なる回復魔法も利かず、気休め程度だが薬草が必須なのだ。今も耐えてるが、かなり痒い。」


 うーん。俺の呪いも世間的に見たら「ただのうんこぶりぶりじゃん」と言われるだけだろうし、ポムラも本人にしか言えない苦しみを背負っているんだろう。

 戦士の重装備は蒸れるからな…気軽に掻けないし、下痢と同じくらい大変だろう。


「すまないポムラ。お前も苦しんでいたんだな…。」


 ピカリオはそう言うと、コクリと頷いた。


「私もたまに足がかゆいのですが、もしかして魔王の呪いですかね…?」

「チェンリン、お前はただの水虫だ。」


 お前も便乗するな。

 それにしても初代勇者と戦士アロイスは恋仲だった?にわかには信じがたいが、今度帰宅した時に家にある文献を読み漁って確認するとしよう…。


 ともあれ、ここでアロイスの祖先に出会ったのも運命を感じる。


「ポムラ、一緒に魔物の狂暴化の原因を突き止めに行かないか?その道中で呪いを解く方法も見つかるかもしれない。」

「こちらとしても、苦しむ人々と水虫の苦しみを放っておくことは出来ない。よろしく頼む。」


 水虫と人々への苦しみが同列に語られている…。まあ、俺も人のことは言えないが。


 ヒーラーのオクスポイントの祖先、・チェンリン。

 戦士アロイスの祖先・ポムラ


 まるで魔王討伐の再来のような…なんだろうか。この胸騒ぎは。


「で、ピカリオ達は次はどこへ向かうんだ?」

「次に目指すはベクトールの港町だ。船に乗って別大陸に向かう。」


 だが、その前に…俺のケツから「モウデルヨー!」と知らせる声が届いた。ここで限界、というところだな。

 自分の体のことは、自分がよくわかっている。

 ピカリオはそっと腹に手を当てた。


「俺は砂漠の様子を見てくる。狂暴化に関係あるのかもしれないしな。」

「私は怖いので先に帰っている。」


 よしよし。ポムラがビビりで助かった。


「私も行きますよ!」

「チェンリンは魔法の使い過ぎで疲れてるだろ?ザリガニも返さないといけないし、二人は一旦テントまで戻っていてくれ。」


 最もらしいとこを言って、二人を先に帰らせた。ここからがうんこタイムだ。

 サンドワームとの熱き戦いの最中、近くによさげなサボテンの群集を見付けたのだ。

 サボテン、いつものお前は針で人を寄せ付けない冷たさがあるのに、今だけはこの俺を隠してくれる温かさを持っているんだな…。




「ふう…やっとうんこが出来た…。」


 ベクトールから来る商人と鉢合わせることが無くハーブは間に合わなかったが、うんこは間に合った。まあ良しとしよう。


 …紙じゃなく、砂で拭くと痛くないのでは?何かの文献で砂で拭いている地域もあると聞いたことがある。


 そんなことを考えながらうんこをしていると、目の前の砂の中に何か光る物を見付けた。


「なんだ?宝石?……うッ…?!」


 砂から掘り起こすと、5センチ程の紫色の宝石だった。光を帯びており、異様に魔の匂いがする。(俺のうんこが掛かったとかいう訳じゃない。)


 呪術の一種か?何人もの魔物の命を閉じ込め、その怨念を撒き散らしているようだ。もしかしてサンドワームはこの魔力に当てられて大量発生したのか?それだけの力は秘めている。


「ただの魔物の落としものなのか…それとも…?」


 ピカリオは荷物から聖水を取り出し宝石に掛け、手のひらで握りしめ、強く念じた。手を開くと、宝石からは光が消えた。

 勇者の聖なる力で魔を払ったのだ。このまま放っておけば魔物に悪影響を及ぼす。


「…これは一体なんなんだ。」


 胸騒ぎが止まらない。

 乾いた砂漠の風が、丸出しの勇者のケツを撫でていった。


 *【青い海、白い雲、隣にはゲロ】へ続く*

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