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俺のケツは限界だ。

 ヘリオライの街は活気に溢れている街だ。


 この街は何度か来ているし、呪いに関して新しい発見はなさそうだ。ケツを拭くハーブだけ買って、船で別大陸へ向かおう。




 港町であり、他国との交流も盛んなこの街はいつでもお祭りのようだ。しかし、今日はやけに人が少ない。


 それに、店頭に並んでいる商品も在庫切ればかりだ。




「あれ、ここも品切れ。あっちも品切れですよ。何かあったんでしょうか?」


「流通が滞っているのか?」




 俺のケツは限界だ。


 なんでハーブが売っていないんだ。俺のケツに死ねと言うのか?調子が悪い日は、ケツの摩擦の負担に耐えられなるから、ハーブじゃないとダメなんだよ。




 すると、店主がピカリオに話し掛けてきた。




「勇者様、実は砂漠地帯にサンドワームが出まして、ベクトールの港町からの物資がまだ届かないんですよ。」


「サンドワームか。狂暴化してるのか?」




 サンドワームは一言でいえば狂暴な大ミミズだ。大きな毒牙の生えた口で人や動物を飲み込む。牙の毒は遅行性なのですぐに治療すれば問題はないが、それでも数年に何人かは治療が遅れ命を落としている。




 それだけ聞くと怖い魔物だが、目がなく獲物を匂いで追っているため、複雑な動きには対応出来ない。なので何度も砂漠越えをしている慣れた人であれば、そこまで怖くない魔物である。




「いえ、ただ大量発生したので、バコード国に討伐依頼をしていましてね。なのでヘリオライ中の店が在庫切れですよ。」




 バコード国に依頼しているとなれば、俺の出番は無さそうだ。


 狂暴化ではないということだが、大量発生か…。少し気になる所でもある。




「もしお急ぎならば、砂漠地帯に向かわれては?そろそろ討伐も終わり、商人達も砂漠越えしているでしょうし、鉢合わせすると思いますよ。」




 なるほど。俺のケツの痛みは限界だ。一刻でも早く最高級ハーブでケツを拭きたいところだ。




「チェンリン。狂暴化には関係ないと思うが、念のため見てこよう。それに砂漠を抜けた先のベクトールの港町から、他の大陸へ行ける。」


「そうですね。早速向かいましょう。」




 街を出て暫く歩いていると、段々と大地が荒廃し、ひび割れた地面になってくる。やがて草花が消えていき、砂漠地帯に入る。




 砂漠は危険だ。夜は寒いし、昼は暑いが汗で衣服が冷える。大量に水を飲んでしまい腹も緩くなる。隠れるところも無い。


 さして広い砂漠ではないが、前述の通り砂漠は危険だ。うんこ的な意味で。




 しかしこう歩いていると、腸の動きが活発になって…うんこがしたくなる。




 少しの便意を感じながら砂漠の入口に差しかかろうとした時、バコードの国旗が描かれているテントを見付けた。




「あれはバコード国の野営テントか。やけに怪我人が多いな。」




 テント前には腕に包帯を巻いた兵士や、倒れ込んでいる者までいる。


 その近くには商人達。ベクトールに向かいたかったが、足止めというところだろう。




「これはこれは、勇者様!」




 ピカリオの存在に気が付いた兵隊長らしき人が話し掛けてきた。この人も腕を怪我しており、包帯から血が滲んでいる。




「随分やられているみたいだが、何かあったのか?」


「お恥ずかしい話なのですが、サンドワームの数が多くてですね。兵が疲弊してきまして…。」




 バコードの優秀な王宮ヒーラーが兵士に回復呪文を掛けているが、間に合っていない。このままではあのヒーラーも魔力が尽きてしまうだろう。




「チェンリン、怪我している人に回復呪文を掛けてあげてくれ。」


「ピカリオ様は?」


「俺はサンドワーム退治に加勢してくる。」




 一人になれば、うんこしたくなっても気軽に出来るしな。




「勇者様、ありがとうございます!…実はもう一人加勢してくれた女性の戦士がいたのですが、一人で行くと言って聞かずに…私も心配で様子を見に行きたいのですが…。」




 兵隊長は怪我した腕を悔しそうに見つめる。


 サンドワームの毒だ。治療が遅れると命を落とす。




「俺が見て来よう。だからその毒傷はちゃんと治した方がいい。兵が整ったら来てくれ。」




 出来るだけゆっくり来てくれていいんだぞ。ケツ丸出しの時に来て貰うのも恥ずかしいからな。




 そうしてピカリオは一人、砂漠入りした。




 強烈な日差し、地面からの照り返しの熱気。呼吸をすると鼻が痛くなる。


 そして何より大量発生したサンドワームが砂から這い出ているのだ。




「これは…すごい数だな。見渡しただけで20匹はいるぞ。」




 ちょっと気持ち悪いな…なんて思いながら剣を片手にサンドワームに歩み寄った。早々に片付けて、颯爽とうんこをしよう。


 すると、サンドワームの群れの近くに佇む人影を見つけた。




「ん?もしかしてあの人が女戦士か?」




 女戦士はサンドワームが暴れる中、腕を組んで悠然と立っている。


 背には大きな斧を抱えており、よく手入れされているのがわかる。


 その威風堂々たる立ち姿たるや、




 …この戦士、出来る。




 ピカリオが近付くと、戦士は震えていた。なるほど、これだけの敵を目の前にして、奮い立っているのか。


 そして一人で立ち向かう勇気。きっと正義感に燃えて、一刻も早くこの惨状を救いたいという強い意志があったのだろう。そして腕前への自信。なんとも勇敢な戦士だ。




 ピカリオは戦士に近付いて声を掛けた。




「武者震いか?」


「武者震いではない、ものすごく怖いだけだ。」




 何言ってるんだ、こいつは。


 その時、サンドワームが体を大きく揺らし、二人に襲ってきた。




「来るぞ!!」


「…………………。」




 しかし戦士は避けない。ピカリオはサンドワームの攻撃を避けて、横から剣で斬り付けた。




 よし、手ごたえあり!




「ギャアアアアア!!」




 ピカリオの攻撃は強烈な一撃となったようで、サンドワームは砂の中へ戻ることも出来ずに、苦しみ悶えて叫び声を上げながら地面を転がる。




 よし、コイツはもう無力化した。他のサンドワームだ。


 ピカリオは戦士をチラリと見るが全く動く気配はなく、ただただ突っ立っている。




「おい!そろそろ動かないと死ぬぞ!」


「私の前で死ぬとか気軽に言うな。怖いから。」




 ちがう、コイツは勇敢な戦士などではない。


 正 真 正 銘 の ビ ビ り だ 。




 ピカリオはサンドワームの攻撃を受け流しつつ、戦士を守る。


 うんこしたいのに守りの戦い…中々ハードだ。腹に一発喰らったら終わる…緊張感が走り、思わず肛門を引き締めた。




「お前ッ…その背にしている斧は飾りか?!」


「たわけが。この斧はスーパーアスカロンスペシャルサンダーエクスカリバーアックスと言って、我が一族に伝わる由緒正しい斧だ。」


「名前長いな!!じゃあその由緒正しいスーパーなんとかって斧で戦ったらどうだ!!」




 ピカリオはサンドワームの体に剣を刺し、また一体仕留める。


 くそ、暑さで体力を消耗するし、腹も痛くなってきた。何体か仕留めたらうんこの為にも一度撤退もやむを得ない。




「スーパーアスカロンスペシャルサンダーエクスカリバーアックスだ!!」


「覚えられるか!!戦え!!死にたくないんだろう!!」




 戦士の後ろからサンドワームが襲い掛かってきた。


 しまった、剣での攻撃も、魔法の詠唱も間に合わない!!




「後ろだ!!避けろ!!」




 ピカリオはうんこが漏れそうな程、力一杯戦士に向かって叫んだ。




「う…うおおおおおお!!来るなああああああ!!」




 戦士は振り返ると同時に、斧でサンドワームを一刀両断していた。


 恐るべきはそのスピード。目で追うのがやっとだった。


 切断されたサンドワームはピクピクと動いて、やがて完全に生命運動を停止した。




「つ、強いじゃあないか…。」


「もうだめだ!!心の底から帰りたい!!やはり一人では無理だったんだ!!」




 戦士は涙目で訴えて来た。


 こっちだってうんこしたいけど頑張ってるんだから、お前も頑張ってくれ。




「じゃあ何で来たんだよ!!」


「ヘリオライの街に薬草を待つ病気の女の子がいた!!戦士ポムラ・キランジェの名において、見過ごす訳にはいかない!!」




 なんだコイツ、良い奴じゃないか。


 このポムラという戦士、心底ビビりだが優しさに溢れているらしい。




「よしわかったポムラ!!その女の子のためにも一掃しよう!!」




 俺もやる気が湧いてきた!俺はこういう誰かの為に自分を奮い立たせる奴が、大好きだ!




「聞いていたのか?!私は帰りたいんだ!!」


「キレるな!!俺にキレるな!!」




 ポムラは戦い出すまではスロースターターだったが、一度斧を振るうと鬼の様に強い。巨大な斧を寸分の狂いも無く振り回し、2匹同時にサンドワームの体を切断する。




 そうしてポムラの「もうだめだ」「ここが墓場なのか」「帰らせてください」という叫び声を聞きながら、気が付けばサンドワームの討伐が終わっていた。




「ピカリオ様~!!」




 遠くから自分を呼ぶチェンリンの声が聞こえて来た。声のする方を振り向けば、チェンリンが走り寄ってくる。




 しまった、うんこチャンスを逃したか。しかしこうやって心配して走って来てくれるのは、嬉しいものだ。




「そこのオアシスにでっかいザリガニがいましたよ~!」


「そうか、返して来い。そいつにも家族がいるから。」




 チェンリンは何故か手にはザリガニを持っていた。


 お前、俺を心配してたんじゃないんかよ。




「そちらの方が戦士さんですね。お二人とも、回復呪文を掛けますね。」




 チェンリンを魔法を掛けると、傷が見る見る内に治り始める。


 しかし手に持ってるザリガニが気になってしまう。




 ザリガニとか取る奴じゃなければ本当にいい子なんだよなあ。回復呪文の腕もいいし…。




「これで商人達が通れるようになった。女の子も喜ぶだろうな、ポムラ。」


「ああ、私の足も歓喜の叫び声を上げている。」


「足?」




 ポムラはじっとピカリオを見据える。ポムラの瞳がピカリオを捉えた。




「ああ。…私はどうしても薬草が必要だったのだ。」


「ほう。」




 その真剣な眼差しに、括約筋が引き締まる。




「私の名は、ポムラ。かの魔王を打ち滅ぼした勇者の仲間、戦士アロイス・キランジェの末裔だ。貴殿が勇者ピカリオ・マルクトスとお見受けした上で、我がキランジェ家にまつわる呪いを打ち明けよう。」




「……詳しく聞かせてくれないか、ポムラ。」




 *【4.ケツに吹く風】へ続く*

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