お出掛け回[3-4]
外に出ると二人が話しながら待っていたので謝ると、二人とも何もされていないか変なこと吹きこまれてないかと質問攻め。笑ってお礼をしていただけで何もないよと答えると、二人の口から同時に安堵のため息が漏れた。
「さて、何か食べたいものはありますか?」
「俺は肉だなー」
「エマさん、何かありますか?」
イーサンの肉を無視してアイザックは振り返る。
「私は、せっかく海や河があるのでお魚が食べたいです。」
私も緊張が解けて、自分の意見が言えるようになった。そんな私を見て二人は目を合わせ、あそこだと意見が一致したようだった。
「このまま真っ直ぐここを行くと、テラスがあったでしょう?あそこはお肉料理もお魚料理も美味しいですよ。」
イーサンはさっさと歩いて行ってしまっているので、頷いて追いかけようとしたところでアイザックを振り返った。
「いいんですよ。イーサンがテーブルを取っておいてくれるでしょう。ゆっくり行きましょう。あ、急ぎたいくらいお腹すいていますか?」
そう言われればと速度を緩め、先ほどもらったお金のことを思い出した。
「アイザックさん、さっき店を出る前にイーサンが払ったお金のお釣りをお小遣いにってもらったの。イーサンには内緒だって…」
「ああ、それで。彼なりの好意だと思いますよ。私もいらないのでエマさんのお小遣いにしてくださいな。」
「ありがとう!そしたら、ラディに何か買って帰りたいわ。」
「優しいですね。でもそれはそのお金ではなく、私のお財布から出しましょう。エマさんが欲しいものを買ってください。ね?」
優しすぎる。そう思いながらドレスのポケットでほんのり熱を帯びたコインを握りしめた。
レストランで初めて見る綺麗な色の魚をペロリと平らげ、ラディへのお土産を選ぶために雑貨屋へ入った。
「こんな真剣に選んでくれるなら、俺も留守番してりゃよかった。」
あれこれ手に取る私を眺めながらイーサンがぼやいた。そんなことはほとんど聞こえていない私は、棚の上に飾られている持ち手が宇宙柄になっているナイフ、スプーン、フォークのカトラリーセットを見つけ手を伸ばした。が、やはり届かない。すると横から手が伸びてきて、カトラリーセットを取り上げた。
「あっ。」
「これかな?君が取りたかったのは。」
見上げた先には、すらっとしたイーサン、ラディに負けないくらいスタイルの良い灰色の髪に金色の瞳をした青年がほほ笑んでいた。
「は、はい!ありがとうございます。」
「いいえ、どういたしまして。どうぞ。」
もう一度お礼をと口を開きかけた時、アイザックがいつの間にか私の横にぴたりと付いた。青年を見ると、ハッとした顔をしてまたすぐににこやかな顔で私に向いた。
「綺麗なカトラリーセットですね。ラディも喜ぶこと間違いなしでしょう。さぁ、買って早く帰って渡しましょう。」
急かすように私の肩を押すので、彼に会釈して会計に向かった。出入口の横に立っていたイーサンに声をかけると、待ちくたびれた様子で一つ欠伸をした。
「買えたか?何買ったんだ?」
「秘密だよ。帰ったらラディに見せてもらって。」
「なんだよー。そんな意地悪どこで覚えたんだ。」
むくれる彼の右手には私と同じ袋が下がっている。
「イーサンもなにか買ったの?」
「ん?ああ、エマが秘密なら俺も秘密だ。帰るぞ。」
一人足早に店のドアをくぐり出て行った。彼を追いかけ私とアイザックも外に出ると、ちょうど隣が八百屋さんだったので立ち止まった。
「あー、帰り買おうって言ってたなそういや。どれがいいんだ?」
行きに気になっていた、スターフルーツのように可愛い星型でキウイのように細かい毛に覆われている真っ赤な果物を人数分手に取った。
「それでいいんだな?本当にいいんだな?」
「不味いの?」
執拗に確認を取ってくる彼に不安を覚える。
「俺は食べたことないが…ユニークな味らしい。」
なおさら興味が湧くじゃないか。しっかりと熟れていそうなものを見極めあまり乗り気ではないイーサンと会計に向かう。店のおばさんが黄色いりんごのような果物をおまけに入れてくれて、ワクワクしながら店を出て、通りの終わりでアイザックが指笛でアロンを呼んだ。
日が傾く西日降り注ぐ中、アロンは鼻を鳴らしながら帰路を進む。河がキラキラと輝き行きとは違う景色を楽しんだ。
「エマさん、着きましたよ。」
アイザックの声で目を開けた。眠ってしまっていたらしい。荷物を持って、今度は頭上に気を付けて降りた。
「アロン、ありがとう。またね。」
アロンに挨拶して屋敷のドアを開ける。
「新しい服、しまい込まれていたようなので一度綺麗にしておきますね。」
そう言ってアイザックは早々に屋敷の中へ入っていった。イーサンはというとアロンとまるで友達かのように話していた。そんな彼の姿に少しドキッとしつつ私も中へ入る。
一度ダイニングに果物を置いてラディの部屋の前で耳を澄ます。何も聞こえない。そっとドアを開けようとドアノブに手をかけると、ドアが勝手に開いた。
「なんだ、気配がすると思ってたらエマか。なに?エマの部屋なら向こうだよ。」
また迷ったと思われたらしく、手を引いてくれたので慌てて止めた。
「違うの、ラディにこれ買ってきたの。気に入るかわからないけれど。」
「え。ほんとに買ってきたの?絶対忘れてると思ってた。」
ラディは目を見開くと、袋からカトラリーセットを取り出す。すると、驚いたように笑った。
「なんで僕が宇宙好きなの知ってるの?アイザックにきいた?」
「んーん。私が綺麗だと思って、ラディが持ってたら映えるんじゃないかなって…よかった。」
今夜すぐ使う!とダイニングルームに向かう彼を見て思わず顔がほころんだ。
「あ。ありがとう、初めて食事が楽しみだよ。」
そんなことを振り向きざまに言われ、微笑まれたらキュンどころではない。
部屋に戻りひと段落つき、今日1日を振り返った。いろんなものを見たし、触れたし、感じた。そこでポケットのコインを思い出し取りだしてみた。大中小大きさも違うが、8角形のコインに驚いた。真ん中にLと彫られているので50だろうか。ボーッとしていたら、ふわっと美味しそうな匂いが漂ってきた。
「しまった!手伝わないと。」
急いでキッチンへ行くと食事はほぼ完成していた。アイザックに謝るといつもの調子でなだめられてしまった。
「疲れているでしょう。歩きましたし、何よりフェルディナンドさんの相手もしたんですから。」
「アイザックさんだって同じくらい疲れているはずなのに。」
「私は毎日この屋敷を動き回っていますから。」
そうなんだけど。これは住まわせてもらっている身で心底申し訳ない。
「それでは、テーブルに運んでいただけますか。ラディが珍しく一番に座って待っていますから。」