決定[2-3]
全員食事を終えるとアイザックがいい香りのする紅茶を淹れてくれた。
「さ、お二人とも考えましたか?」
「ああ、もちろん。とびきりのをな。」
イーサンが自信満々で逆にいい予感がしないのはなぜだろう。
「まあね。」
ラディアンは仕方なく考えたようだった。
「では私から。クロエはどうでしょう。咲き誇るという意味の名です。」
「俺が考えたのは、オリヴィア。美しい響きだろ?」
「さっきも言ったけど、呼びやすいを優先してエマ。あと、なんか顔がエマっぽい。」
どれも綺麗な響きで私にはもったいない気がした。エマっぽい顔とはなんだろうか…掘り下げなくていいか。
「オリヴィアは響きが絵本の中のお姫様みたい。」
「おっ、決まりか―」
「でも、なんだかしっくりこない感じがあります。」
「しっくりくるというのは大事ですね。クロエはいかがでしょうか。」
「素敵なのですが、私にはもったいないです。やっぱり呼びやすくて馴染みやすいエマがいいのかなって。」
「ほらね、あんまり凝らないほうがいいんだよ。イーサン。」
ラディアンは勝ち誇ったように双子の兄を鼻で笑って立ち上がった。イーサンは悔しそうではあったがどこか楽しそうだ。
複雑な気持ちでその様子を見ていた私に
「そんなお顔しないでください。人の名前は仮とはいえ大切なものです。そんな大役を私たちに託してくださって嬉しいですし、何よりこんな賑やかなのは久しぶりでした。エマ、私のことはアイザックとお呼びください。」
「そうだな。俺のことは好きなように呼んでくれ。兄さんでもいいぞ。」
イーサンが期待を込めたキラキラした目を向けてくるがそれはさすがに呼びづらい。何よりラディアンにすごく見られている。
「お二人ともありがとう。だけれど兄さんと呼ぶのははやめておくわ。私はエマ。これからよろしく。」
三人で改めて自己紹介をしあっていると食堂を出ていこうとしていたラディアンがぽつりと呟いた。
「…エマ、その、よろしく。」
ラディアンから意外な言葉が出て驚いたが、うれしくなって勢いよく立ち上がった
「こちらこそ! ラディアン。」
「ラディ。ラディでいいよ。」
「ふふ、わかった。」
そんな私たちのやり取りをじっと見ていたイーサンが嬉しそうにほほ笑み、交互に二人を見ながら優しく言った。
「ラディが自分から名前を呼ぶなんて家の人間以外はじめてだな。」
「うるさいよ、イーサン。」
「いつものラディに戻った。」
兄弟らしいテンポの会話が繰り広げられている中、私は睡魔に襲われかけていた。食器を片付け終わったアイザックがそんな私に気づき
「さて、エマさん寝室にご案内しますよ。」
「ありがとうございます。イーサン、ラディおやすみ。」
「ん、おやすみ。ゆっくり休め。」
「おやすみ。」
寝室には一人で寝るには大きいベッドとテーブルと椅子にクローゼット、そして大きな窓があった。
「わあ、前の部屋と違う。」
「あちらの部屋はベッドしかない小さな客間だったのでこちらの身内用の部屋をエマさんの部屋にしました。気に入りましたか?」
「こんな広いお部屋と大きなベッド初めてです。ありがとうございます!」
「ここ数年誰も身内はいらっしゃってないですし、自由に使ってください。明日色々と買いに行きましょう。」
「わかりました。今日は本当にありがとうございました。」
「おやすみなさい。ごゆっくり。」
そう言ってドアを閉めるともう気配はなくなった。今日のことを一つ一つ思い出しながらそっとベッドに座ると体が沈み倒れこんだ。そのまま微睡、深い眠りについた。
珍しく賑やかだった屋敷は月明かりに照らされ静まり返った。