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少女と屋敷の人々[2-1]

身体の違和感で目を覚ました。見慣れない天井に知らないにおい。窓の外には木々が生い茂っている。ここに至った経緯を思い出せずボーッとしていたが、自分の身体をよく観察したところ見慣れた身体ではなく、細く華奢で所々切り傷痕や痣がある。

「あれ、私の名前なんだっけ…」

名前も自分の素性も思い出せない。ただ、日本の東京都新宿区にいたことは覚えているし、花屋でアルバイトしていたことも、その花屋が「Geheime Gärtenガハイムガーテン(秘密の花園)」という名前だったことも。名前、年齢、此処へ来た経緯が記憶から抜け落ちている。

       

「目が覚めたか。」

状況に混乱していると、いつの間にか戸口に長身の青年が二人立っていた。

「俺はイーサン、こっちは双子の弟ラディだ。」

「…ラディアン。」

彼らの容姿は今まで見てきた男性の中で群を抜いて端麗だった。身長はだいたい175cmくらい、髪は深海のような深い緑色、オッドアイ。イーサンは右目が透明感のある青、左目が琥珀色をしている。ラディアンはイーサンを鏡で反転したような容姿だが、キリッとした雰囲気のイーサンと比べて冷たい雰囲気を漂わせていたがどこか賢そうだ。

「あの、ここは?」

「お前は草むらで倒れてたんだ。あんな所で何してた?」

「…ここは僕たちの家だよ。」

理解が追い付かない。見慣れない場所に自分じゃない体で記憶もまばらにしかない。

「わ、わかりません。私が誰なのかどうしてこんな場所にいるのか…。あっ!助けて頂いてありがとうございます。」

「ふっ、そんな慌てて話すことはない。が、記憶がないのか?」

柔らかく笑うとイーサンは怪訝そうな心配そうな何とも言えない表情をしていた。そんな表情になるのも頷ける。見ず知らずの少女が記憶がないとのたまうのだから。

「そうみたいです。」

それしか言えなかった。すると、ラディアンが口を開いた

「名前、何て呼べばいいの。」

私もイーサンもハッとした。そんな私を見てイーサンとラディアンは顔を見合わせて困ったようにクスッと笑った。そんな空気の中、いつの間にか黒髪のこれまた美しい顔立ちの燕尾服をまとった男が戸口をくぐってきていた。

「あ、あの…?」

突然音もなく現れた男に戸惑っていると彼は丁寧にお辞儀しながら

「アイザックと申します。このお二人に仕えております。」

彼はずっと表情を崩さず名前を告げた。ただ、その吸い込まれるような黒い瞳の奥は冷たいように感じた。

「お嬢さん、身を清めてはいかがでしょう。着替えも準備しておきます。温かいお食事も。」

「ありがとうございます。そうします。」

案内してもらった先は大きなタイル張りの古風だけどお洒落な浴場だった。温泉施設のような広い湯舟がある。恐る恐る足をお湯に足をつけてみると丁度良く温かい。肩までつかると不思議と疲労や緊張が解けた。

「やっぱり日本人はお風呂ね。」

と呟いたものの肌の色は白く、所々に痣や傷痕。東洋人の肌色ではない。見慣れない自分の身体を眺めていたが、ふと、湯につかりながら自分の名前を思い出そうとしてみた。

「なんだかぼんやり文字のシルエットだけ見えるのよね。」

漢字が思い出したいのに考えてもなんとなく雰囲気しか思い出せないあのもどかしい感覚。脳をフル回転させても思い出せそうにない。

考えている間にずいぶん時間が経っていたようでアイザックが扉越しに声をかけてきた。

「なにか不具合はありませんか?」

と丁寧に尋ねられ少し焦りながら

「え、あッ、もう出ます、大丈夫です!!」

と、とんちんかんな返答をしてしまい一人で恥ずかしくなった。

「ふふ、ごゆっくり。タオルと着替えを置いておきますね。」

扉越しに目を細める姿を想像できるくらいはっきりとアイザックは笑った。そのやさしさに

「ありがとうございます・・・」

と恥ずかしさに語尾をすぼめながら返した。

置いておいてくれたタオルはふかふかで着替えは少し古びたワンピースだ。鏡を見ると胸あたりまでのびた金に近いベージュの髪、くりっとした目は光のない薄茶色の瞳が見つめ返す。十二、三歳だろうか。少しの間だけ身体を貸してねと呟きその場をあとにした。


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