私たちの正体
巣立つ時が来たら
それはきっと、世界との別れの時
人間は、少なくとも1日2回はやって来る。
毎日だ。
「1日」と言ったが、私にとっての1日は推測の域を出ない。
何故なら、この部屋からは外が見えないからだ。
いつ太陽が昇り、そして沈むのか、私たちには分からない。
煌々と点灯するライトの光に照らされて、私たちは生きている。
このライト、恐らく夜間に数時間消されるようだ。
ここに来てすぐは長時間つけられていたが、しばらくすると消灯する時間が設けられ、それもだんだんと延びてきた。
最近はもう安定して同じ時間消えているようだ。
このライトが点灯している間(恐らく昼間)に、人間は2回以上やってくる。
人間はやってきて何をするかと言うと、まぁ色々な作業をする。
先日説明したとおり、死んだ兄弟や死にかけた兄弟を拾い上げて行くこともそうだし、フォークで床を掘り起こすこともある。
私たちの居住スペースを広げていく作業もしてきたし、換気扇や部屋の中の設備をいじっていることも多い。
要するに、私たちの世話をしているのだ。
なぜ世話をするのか? こんなに手間をかけて。
分かりきったことだ。金になるからだ。
趣味でこんな羽数の鳥は飼わないだろう。
鳥、もっと正確に言うと鶏。
私たちは、紛うことなき鶏だ。
徐々に立派になってきた鶏冠と肉髯が、どう頑張っても飛べそうにない翼が、『私たちは鶏だ』と物語っている。
そして、そんな知識を持つ私は、人間から生まれ変わった存在。
記憶はなくとも、人生の痕跡が脳裏の深いところに残っているようだ。
私たちは鶏。
それも、人間に世話されながら生きる、何千若しくは何万羽もの鶏の群れ。
飼育の目的は金。
これから私たちはどのように金に換えられるのか。
2つのルートが考えられる。
1つは、卵を産ませ、卵を売る。
比較的長く生きられるルートだ。
卵を産むのは大人の鶏にならなければ出来ない。
しかし残念ながら、こちらの可能性は著しく低い。
何故なら私は雄であり、ざっと見たところ、この部屋の雄と雌の割合に大きな差はなさそうだからだ。
雄はもちろん卵を産まない。
食用の卵を取るなら、雌だけいればいいこと。
孵化させ、雛を取る目的の卵ならば、雄も必要になるだろう。
しかしその場合も、こんなに多くの雄は要らないはずだ。
雄は雌の1/10程度で十分だろう。
つまり、残念ながら1つ目のルートはあり得ない。
少なくとも、今の状況を見ればね。
2つ目のルートは、肉として売る。
長く生きられないパターンだ。
私の今の体型から、この可能性が高い。
どこまで大きくなれば、殺され、肉にされるのか分からないが、今の時点で結構な体格になっている。
特に胸の筋肉がしっかりと付き、身体が重くて歩くのも億劫なくらいだ。
殺されるのはもちろん怖い。
しかし、身近で死んでいく兄弟を見ていると、最後まで生き残って肉にされる方がマシな気もしてくる。
どのように殺されるのか、想像もしたくないが、長く苦しめるようなことはないだろう。
そう願う。
生まれてから27日目。