初恋
阻まれた恋心。
幼いながら、その理不尽に砕かれる。
ぼんやりと佇む私。
木屑の上に放られてから、どれくらい経っただろう。
周りをアホみたいに走り回る兄弟。
おいかけっこか? 何が楽しいんだか…。
そう思いながら、何故か私まで脚が動いた。
走り回る兄弟が目に入ると、何故か走りなくて仕方なくなり
私は兄弟のお尻を追いかける。
なんなんだ? どうして私は走るのか?
分からない。
鳥の習性なのかもしれない。
息切れする程走って走って、立ち止まる。
目の前に立ちふさがる物体。
なんだこれ?
鉄格子のような、いや、ただの金網か?
その向こう側には、同じように黄色の絨毯が広がっている。
うごめき、ピイピイと鳴く絨毯だ。
「ピィ」
一羽の兄弟が、こちらに気付いて近付いてきた。
いや、兄弟ではない。
彼女は、雌だ。
なるほど、そういうことか。
生まれた当初は雌雄混ざっていたのに、途中から自分の周りに雄しかいなくなったから、妙だと思っていたんだ。
どこかの段階で分けられていたのだ。
そして今、この金網のこちらとあちらで、雄と雌は分かれている。
同じ室内にいながら、ロミオとジュリエットよろしく、交流することはできない。
分けられている、ということは、雄であること若しくは雌であること、或いはその両方に意味があるということだ。
わざわざ無意味に分けたりはしないだろう。
それより可愛い子だな。
先程近付いてきた雌を改めて見る。
まんまるく澄んだ瞳。
上嘴の先に幼い証拠の突起がひとつ。
ふわふわで淡い黄色の羽毛。
その下にチョコンと伸びる二本の脚。
爪先までパーフェクトに可愛い。
友達になりたい。
「ピ」
呼び掛けてみた。 彼女が一歩こちらに踏み出した刹那、彼女の周りの姉妹たちが走り出してしまった。
そうなってはもう衝動を止められない。
先程の私と同じだ。
彼女は行ってしまった。
姉妹の尻を追いかけて。
私の初恋は終わった。
ずっとここで待っていても、彼女と再びまみえることは難しいだろう。
ここには途方もない数の兄弟姉妹が集まっているのだから。
生まれてから1日目