アロマキャンドル
アロマキャンドルが閉店セールで大安売りしていたので、いくつか買ってきた。
ぼっ
…ああ、これは。
初めてつけた、リップと同じ香りだ。
唇の感覚が変で、すぐにぬぐってしまった思い出。
ぼっ
…ああ、これは。
おばあちゃんがつけていたコロンと同じ香りだ。
内緒でつけて学校に行ったら友達にくさいって言われたなあ。
ぼっ
…ああ、これは。
初めて行った、ハワイのおみやげやさんと同じ香りだ。
お店の人が何いってるのかさっぱり分からなくて、チョコを20個も買っちゃったんだった。
ぼっ
…ああ、これは。
子供の頃に通っていた古本屋と同じ香りだ。
木製の棚がいっぱいあって、迷路みたいなお店で、宝探しのつもりで本を選んだ記憶。
ぼっ
…ああ、これは。
あの人の、車の中と同じ香りだ。
最後に会ったあの日も、この香りに包まれて、幸せな日々が続くと思っていたんだった。
ああ。
しまった。
ここでこの香りに出会えるとは思ってなくて。
思いがけず、涙がこぼれて。
鼻が詰まってしまった。
これでは、アロマキャンドルは、楽しめないな。
残りの5つは、また明日楽しむことにしましょうか。
香りは記憶を呼び覚ます。
久しぶりの風景が、こんなにも次々に浮かんでくるもの。
ゆれるアロマキャンドルの炎を見つめて、いたけれど。
しばらく私の鼻は利かなくなって、しまったから。
ふうっと息を吹きかけて、火を消した。
思いがけない、香りのサプライズ。
散財も、してみるものだと、思って、みる。
…きっと今日は、いい夢が見られるはず。
おやすみなさい。