フィールドは宝の山でした
内容はほぼ変わりませんが、細かい所を手直ししています
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宝は道に落ちている!
「さて、取り敢えずフィールドに出てみるか?」
ある程度の情報共有も終わり、キーノの精神が落ち着いて来た頃、それを見計らってカナタがそう提案する。
別段やるべき事も存在していない、所か、解放されたユニークスキルの性能を確める為にも、1度はフィールドに出なければいけない。
それは早い方が良いのだから、キーノとしてはその提案を断る理由は無かった。
「フィールド出るのは良いけど、ちゃんと適正レベルに合った所にしてよ?」
「わーってるって!ま、キーノの能力考えると多少高レベルでも問題はなさそうだけどな。」
が、それで親友の不興を買うのは勘弁願いたい所だろう。
(多分俺には容赦無く使って来るだろうからなぁ……便意でログアウトなんて情けない事態は絶対に避けたい所だぜ……)
「取り敢えず初心者用から中級者用迄を探索してみるか。そうすりゃいくらかは能力を把握出来んだろ。」
「そうだね。それが良いかも。で、この娘はどうすんの?」
そこで、此処まで成り行きと言うか強引な力業で引っ付いて来たハルナを指差すキーノ。
その表情はとても苦々しいものだった。
だが、キーノは言ってしまったのだ、ハルナに……
この前向きが服を来て歩いている様なウザさMAXのポジティブシンキングゴーイングマイウエイガールに、言ってしまったのだ。
『期間限定で弟子にする』と……
迂闊だった……
あまりにも迂闊だった……
が、寧ろそこはハルナの押しの強さを褒めるべきだろう。
何せキーノに期間限定とは言え弟子入りすると言う事は、ちゃっかりキーノとカナタのパーティーに同行すると言う事なのだから。
まあ、本人はそんな事迄考えていなかったので、今のキーノの言葉で気付いて「ラッキー♪」とか思っていたりするのだが、それを知らないキーノはハルナのやり口に戦慄していたりする。
「いや、お前さっき弟子にする宣言しちゃっただろ?多分AWOで採用されてる「師弟システム」が作動してる筈だ。だから、ハルナちゃんはほぼ強制的にお前とパーティーになってる。だからまあ、あれだ……責任は取ろうぜ?だいたい実害と言えるもんが無い以上、GMコールで対応して貰えるかも怪しいしな。」
「お前がそれを言うなあああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」
「あ、はい…すんません。」
キーノ怒りの絶叫に正座からの土下座謝罪をするカナタ。
その怒り様にユニークスキルを使われないかと内心ビクビクである。
しかしまあ、キーノも絶叫はしたものの、カナタの言い分も分かっているのだ。
AWOの情報を軽く調べた時に、師弟システムの事は目にしていたし、覚えてもいた。
それにサービス開始からそれほど経ってない今、GMコールした所で、対応して貰える可能性は低い。
だから、ハルナの弟子入り志願を半ば脅された形でとは言え了承した時にしまったとは思った。
が、了承したのは自分の責任だ。
他人に任せて良いものでは無い。
だいたい、キーノ自身実は満更でも無い気持ちは有るのだ。
「取り敢えず、期限を決めよっか……僕がハルナに手解きをするのはAWOの一ヶ月間だけ。つまりリアル換算で約4日だけだね。それ以降は自力で頑張ってね?」
「えー…ちょっと短く無いですか?師匠。せめて二ヶ月は面倒見て下さいよう……!!」
「駄目!だいたい戦力外通告した相手をパーティーに入れるってだけで、かなりのストレスだからね?お荷物を何時までもおんぶしてられないの!僕だってレベル上げたいしね。」
「師匠がこれ以上レベル上げても外道に磨きが掛かるだけなんじゃないですかねぇ?」
それは、純粋に思った事を言っただけだった。
何と無くそう思ったから、特に考える事無く思ったままにそう口にした。
ただそれだけ。
しかしそれがいけなかった。
ハルナは忘れていたのである。
キーノが外道魔導師たるその所以を……
それ即ち―――
「はうっ!!?し、ししょおおう……!まさか、スキルを……!!!!?」
「ふっふっふっ…ホントに操作出来るんだね。さて、次は下半身の筋肉でも弛めようか?」
―――素が外道である事を……
「わ、わふぅぅ……!ご、ごめんなさい!ちょっと調子にのりましたああああ!ですから!ですからそれだけは何卒ごかんべんをおおおおお!!」
見事なDO・GE・ZA☆を繰り出すハルナ。
乙女として、ゲームとは言え好きな人の前で粗相をするのは絶対に避けたかった。
と言うか、普通にそんな言葉が出て来る辺り、キーノはやはり外道である。
カナタはそんな親友の容赦の無さに戦慄するのだった。
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所変わって現在、三人はパーティーを組んで初心者用のフィールドである草原地帯に居る。
「あはっ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!凄い!凄すぎる!なんだこれ!?何なんだこれ!!?こんな何も無い平原なのに、お宝がそこかしこに転がってるなんて!!!」
呆然とするカナタとハルナを後目に、キーノは狂喜乱舞しながら採取に勤しんでいた。
と言うのも、万物鑑定と万物認識…いや纏めて「万物先生」のお陰で、採取のレベルに合わせて換金率が高い素材や調合で使える素材を簡単に見付ける事が出来るからだ。
レベルアップによって解放された万物先生の機能、取得可能経験値の鑑定と取得可能経験値の認識、それに概念の鑑定と概念の認識、この四つが組合わさる事で、キーノの目には採取のスキルレベルを上げるのに必要な経験値を持つ素材や換金率の高い素材、更には調合レベル1でも簡単に調合可能な素材が一目で分かるのだ。
そのお陰でキーノの採取レベルは先程から爆上がり中である。
経験値八分の一でも、数をこなせば当然そうなる。
因みにキーノの目には取得可能経験値が青い光の柱に見えており、その柱から数値が浮かんで見えている。
換金率の高い素材なら金のアイコンが浮かび、素材なら草と種が並んだアイコンが、両方なら二つのアイコンが浮かんで見えている。
そしてそのアイコンを見ると内容が鑑定され、その詳細を知ることが出来るのだ。
はっきり言ってこれだけでチートである。
生産系プレイヤーなら血涙を流しているところだ。
「ふう…ちょっと調子に乗りすぎたな。もう採取がレベル5になっちゃったよ。」
やっと落ち着き手を止めるキーノ。
軽く伸びをして辺りを見渡すと、そこには素材に成る物も、金に成る物も何も残っていなかった。
正に根こそぎである。
「ちょ、ちょーっとやり過ぎたかなぁ?」
ちょっと所では無い。
AWOはかなりリアリティーが高い為、此処まで荒らされると素材が回復するまでかなり時間が掛かる。
つまり、低ランクの薬草採取等の依頼達成の為に、わざわざ中級者用の林地帯まで行かなくてはならなくなり、初心者プレイヤーが苦労する嵌めになるのだ。
つまり運営にとっても、初心者プレイヤーにとっても頭の痛い問題と言うわけである。
「師匠~~…いくら何でもこれは無いでしょう?」
「確かに…こんなん災害じゃねえか……」
二人から冷ややかな視線と言葉が飛んで来る。
キーノとしてもやり過ぎたと思っているので、その言葉には反論出来なかった。
「いやぁ、ハハハ…つい楽しくて……」
目が泳いでいる辺りあまり反省はしていなそうである。
一行は一先ずその場を離れ、手頃なモンスターを探す。
キーノが暴走していた時は何故か全く出て来なかったが、数分程探すと直ぐに、額から10㎝程の角を生やした兎、異世界居る居るのホーンラビットが見付かった。
数は一羽で、まだ此方には気付いていないらしい。
因みにキーノにはホーンラビットの意識の方向、視界の広さに聴力の範囲等が分かるので奇襲がかけ放題だったりする。
本当に万物先生様々である。
「本当、師匠の万物先生は理不尽ですね……」
「鑑定系のスキルだけでも強いのに、その頂点みたいなスキルだもんな。そりゃ凄えわ。」
頂点も頂点、全スキル中最強と言えるセットなのだから当然だ。
まあ、彼等は知らないのだけど……
「しっ!今から概念コンバーターと概念干渉を使うから待ってて……」
キーノはまず概念の鑑定と認識を行う。
それにより次の様な情報が目の前に開示される。
『「鋭い角」が「生えた」、「強力な脚力」を「持つ」「兎」の「魔物」』
それを確認し、概念コンバーターと概念干渉を同時に発動すると次の様な指示が表示される。
『コンバートしたい概念を「」の中に入れて下さい。』
キーノは「強力な脚力」をセットする。
すると次の指示が表示される。
『コンバート先の概念を選んで下さい。「超強力な脚力」、『虚弱な脚力』』
(やっぱりか……)
キーノはこの能力名を見た時から感じていた事を此処で確信する。
『「超強力な脚力」を概念に上書きします。宜しいですか?』
「Yes。」
『「鋭い角」が「生えた」、「超強力な脚力」を「持つ」「兎」の「魔物」。に概念が変更されました。効果は12秒です。』
「二人共、僕が合図する迄大人しくしてて。」
キーノは二人にそう告げると、緩急自在の効果が切れるまでホーンラビットの様子を観察する。
そして12秒後、ホーンラビットの概念は次の様に変化していた。
『「鋭い角」が「生えた」、「虚弱な脚力」を「持つ」「兎」の「魔物」。』
「今だ!!」
確認した瞬間、キーノはホーンラビットに向かって突っ込んで行った。
通常いくら雑魚に分類されるホーンラビットとは言え、真っ直ぐ突っ込んで行くような馬鹿は居ない。
何故ならホーンラビットの突進は、下手に受ければ低レベルの初心者なら致命傷になるからだ。
だからカナタもハルナも反射的にキーノを止めようとした。
しかし、ホーンラビットの様子を見て直ぐに疑問の声が上がる。
「な、何だよあれ?」
「嘘でしょ?!ホーンラビットが立てずにもがいてる……」
そう、ホーンラビットは飛び掛かる所かまともに立ち上がる事すら出来ずにもがいていた。
そして、キーノはそんなホーンラビットに無慈悲な風魔法のカマイタチを食らわせて倒す。
傍目には単なる虐めにしか見えない酷い絵面であった。
だからキーノは外道魔導師なのである。
「やっぱり、思った通りだった!これは凄いぞ!!」
「うん…凄い外道ぶりだったな。」
「通り名ってホントにそのまんまなのが付くんですね。こんな形で実感するとは思わなかったです……」
明らかにドン引きしている二人に不機嫌になるキーノ。
「なんだよー!今の何がそんなに駄目だったんだよ!」
「いや、全部だと思いますけど?」
「っ!!!!?」
ハルナの素直な意見にショックを受けるキーノ。
そこにカナタが止めの一言を口にする。
「いいか?キーノ。よく考えろ。まともに動けない小動物を魔法で殺して喜ぶ人間を見たらどう思う?まともな奴だと思うか?俺は事情を知らなければサイコパスだと思うし、知ってても外道だと思うぞ?」
「た、確かに……!!」
カナタのその言葉で、キーノは先程の行動を客観的な位置から振り返って見る。
まともに立ち上がる事すら出来ない可愛らしい小動物の様な魔物に、ヒャッハー!な感じで突撃し至近距離から魔法を当てて殺し、喜ぶ少女の様な少年。
外道以外では鬼畜かサイコパスと言う言葉が似合う屑だった。
「ぐはっ!!」
ズシャッ!!
精神に大ダメージを受け、キーノは膝から崩れ落ちる。
どうやら自分の外道っぷりを自覚したらしい。
「まあ、確かにお前のユニークスキルが強力なのは分かったよ。正直こんなん人に知られる訳にはいかない。便意操作が無くても強すぎる……!概念コンバーターに概念干渉…こいつがあれば、多少格上が相手でも問題なく勝てるだろうな……」
「ですねぇ…時間は短いし、反動が有るとは言え、バフやデバフとして優秀かと。」
「いや、多分これ二人が思ってる以上にヤバイよ?」
何とか立ち直ったキーノは二人の認識を否定する。
「「どういう事だ(です)?」」
「これは、存在の定義そのものを変化させるんだよ。つまり、AをA+にするんじゃなく、AをBと言う存在に変更するんだ。何が緩急自在だよ……何が悪魔の力だ……!存在の位階そのものを変化させるなんて、神そのものじゃないか!!危な過ぎて知られる訳にはいかないよ!!!」
それは、キーノがこのスキルの危険性を正確に認識した瞬間だった。
そしてこれが、後のAWOにおける四大プレイヤーが一人、「外道魔導神キーノ」の本当の始まりだった。
緩急自在は理不尽の塊のようです
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