虚言使いの本領
いつもより長めになっております。
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意味は、人が思っているよりも曖昧なものだ。
作戦会議を終えた宵闇のメンバーは、二手に別れていた。
一つは、リーダーのファネルとマートのチームで、もう一つは、サブリーダーのキョムとピスタチオのチームだ。
四人が決めた作戦は至ってシンプルだった。
陽動と奇襲である。
先ずファネルのチームが食堂で騒ぎを起こし、廊下に出て出口へ向かいながら追ってを撃退する。
その隙にキョムとピスタチオは隠し通路が有るであろう地下室へと向かい、秘密の部屋に安置されている筈の進化する宝玉をアイテムボックスに仕舞い込む。
あまり時間が無い中で、今居る人員で出来る作戦としては上出来な方だろう。
懸念として、進化する宝玉を守る存在が居た場合、この戦力でその存在を倒せるかが問題だったのだが―――
「此処に居るのが、彼らの様な自我を持った存在であるなら、心配は要りません。」
「いや、しかし、キョム殿は対抗手段が無いのではないか?キョム殿はまだただの付与術士だろう?一応魔法職では有るから、ゴーストにもダメージを与えられる攻撃は出来るだろうが―――」
「確かに、物理無効のゴーストでは、私がピスタチオさんに火属性や光属性を付与した所で、物量――まあ、数で押し切られる可能性は、有ります。ですが、本当に大丈夫です。会話が出来て、望みが有って、その望みを叶えられる可能性が有る。そんな状況が、整っている。で、あれば、私の“虚言”は、モンスターにさえ、聴くでしょう。」
「虚言?嘘と言う事か?だが、そんなモノで何が出来ると言うんだ?」
「いいえ?一般的には間違っていません。ですが、私の“虚言”は、嘘では無いのです。けれど、真実でも無い。中身の無い空っぽな言葉。意味の無い虚しい言葉。鏡の様な虚像、それを音にして、言葉に聴こえる様に紡いだだけの、言葉とも言えない言葉。それが、私の“虚言”です。」
「は?何だそれは?まさか、何かの異能なのか?」
「ふふふ。ただの技術ですよ。単に、私の言葉を無視し辛くして、従い易く誘導する。ただそれだけです。」
「ふむ…まるで政治家か詐欺師の様な技術だな?」
「ふふ、あながち、間違いではありませんね。政治家なんて、詐欺師みたいなものですし…まあ、全員が全員そうだとは思いませんけれど。ただ、彼らの言葉には「力」があります。私はそれに似た事をするだけ。即ち、聞き手の都合の良い様に、解釈出来る「言葉」を紡ぐ。それだけです。」
「それが、貴殿の“虚言”だと?だが、やはりその程度でどうにか出来るとは思えないのだが……」
「大丈夫ですよ。その点は僕が保証します。何せ、彼女は他の世界で、僕らと敵対して来たクランを10個程、“虚言”だけで壊滅させていますから。しかも、相手の自滅と言う形で。」
「なっ!!!?そ、それが本当だと言うなら、国にバレた時点で封印指定をされるぞっ!?」
「あーー…多分それ本当だよ?ウチも聞いた事あるもんその噂。確か“口災の魔女”とか呼ばれてたっけ?後はそう―――」
「「虚言使い」」
「―――そうそう、それそれ!だけどキーノさん達の噂で直ぐ目立たなくなっちゃったんだよね。」
「えぇ…異邦人と言うのは、誰も彼もそんなふざけた真似が出来るものなのか?」
「「いや、普通無理だから。一緒にしないで(下さい)。」」
―――と言う感じで、キョムが押し切ったのである。
そして、現在一行は作戦の為に、それぞれの配置へと着いた所だった。
「3つ数えたら突撃する。準備は?」
「OKです。」
「良し。では1―――」
カチャ……
「2―――」
グッ!
「3!突撃!!」
「ハアアアアアアアアアアアアアッ!!」
バガンッ!!!!
『なっ、何だっ!??』
「覚悟しろ悪霊共!!!!」
―――光の矢!!
光の矢:光属性の魔力を矢の形にして撃ち出す 消費MP30 対象前方の敵
突撃と共に繰り出されたのはゴースト系に特攻効果の有る光魔法の「光の矢」だ。
この魔法は低コストで発射から着弾までが非常に速く、余程のステータスで無ければ視認すら出来ない。
しかし真っ直ぐしか飛ばない上、ダメージも大きく無いので、暗殺にすら使われない魔法であり、専ら低級ゴーストを倒すのに使われている。
が、効果はてきめんだった。
『『『『『ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!???!?』』』』』
まだまだ密集していたゴースト達が、たまたま魔法の前に一直線に並んだ為に、一度で十数体を消滅させる事に成功したのだ。
これで、食堂に残っていたゴーストの四分の一近くが消し飛んだ事になる。
「………これ、もう撤退で良いんじゃないですか?」
「―――いや、念のためもう少し削っておこう。」
そう言って、ファネルが再び魔法を放とうとした時だった。
『パパ!パパァーー!!しっかりして!』
『消えちゃやだよぉーー!!』
『私達を置いて行かないで!!』
『う、うう……すまない、私はもう―――』
声が聞こえた方に視線を向けると、其処には金髪ツインテの双子らしき7、8歳位の少女のゴーストと、プラチナブロントのサラサラロングヘアな美女が、下半身が消し飛んだ禿げ頭のゴースト、ゼニーニ元伯爵の手を取り励ましている姿があった。
「あーー…さっきの攻撃、当たっていたのか……」
「あの場面だけなら感じいっちゃいそうになりますけどね……サクッと止めを刺して来ますか。折角武器に光属性付与して貰った事ですし。」
「え?いや、ちょっとま―――」
バサッ!
と翼を広げ、素早くゼニーニ達の元へ近付くと、マートは容赦なくまとめて凪払う様に剣を一閃する。
その攻撃は見事なもので、ゲバリー一家に何かアクションさせる間も無く、妻子諸ともゼニーニを消し去ってしまった。
そして、マートは何も無かった様にファネルの元へ戻る。
「さ、作戦通り逃げるとしましょうか?」
「………貴殿は意外と冷血なのだな。」
「えっ!?何でそんな評価に!!?」
「はぁ…先が思いやられる……」
「ちょっ!どう言う事ですかぁーーーっ!?」
ファネルの中でのマートの評価がちょっと下がると言うハプニングが起こったものの、二人は当初の予定通り、大量のゴーストを引き連れながら、廊下を出口に向かって走り始めるのだった。
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時を同じくして、キョム達は隠密系の付与とスキルを使いながら、ファネルに渡された地図を便りに地下室を目指していた。
実はこの地図、キーノに渡された物らしい。
この屋敷に入った時渡されて、最初は屋敷の案内用かと思ったのだが―――
「まさか、隠し通路に秘密の部屋まで描かれているなんて、思いもしませんでした。」
「完璧にウチらにやらせる気満々だよね。」
―――と言う訳で、二人は慎重に目的の場所へと向かっていた。
そうして進む事数分、二人は目的地への階段が隠された部屋の前に到着する。
此処にたどり着くまで、屋敷のゴーストには見つかっていない。
どうやら、陽動は上手くいっているようだ。
「見張りは、居ない様ですね。」
「まあ、見張りなんて居たら居場所を言ってる様なもんだしね。罠も無いみたいだからさっさと入っちゃおうか?」
「そうですね。さっさと進みましょう。」
そうして、二人は素早く中に入り、床に隠された階段を地図に従う事で見つけ、其処を下って行く。
下り終えると、奥に真っ直ぐ道が続いているが、キョムは右側の壁に付けられた燭台を掴むと、それを手前に引いた。
ズズズズズ……
引いた瞬間、キョムの目の前の壁が床に沈み、新たな通路が現れる。
どうやらこれが隠し通路らしい。
「おー、何ともワクワクしますね。」
「確かにワクワクするね。男の子だともっとテンション凄そう!」
「テンションの上がったマー君……ふ、ふふふ。とても良いですね!」
(これで何で付き合って無いんだろう?)
「どうかしました?」
「んーん。何でも無いよ。」
そんな会話を交わしながら、二人はその通路を進んで行く。
そして、20m程進んだ所で、今度は左側の壁に付けられた燭台を手前に引く。
再び床に沈む壁、その先には短い通路と広い空間が見える。
更に部屋の中央には祭壇らしき物と、進化する宝玉と思わしき紫色の真球状の宝玉が見える。
「アレですね。」
「……そうだね。だけど―――」
『誰だ!あんた達わっ!!!!』
「―――やっぱり、守りが居たかぁ……」
壁が沈んで直ぐに、この部屋で進化する宝玉を守っていた少年の悪霊が、出入口を陣取り二人を睨み付ける。
『ははぁーん……さては今朝の冒険者達の仲間だな?この部屋に来たって事は、宝玉が狙いか!!だけど僕が居る限り、宝玉には指一本触れさせはしない!!そして、此処を見た以上、あんた達には死んで貰う!』
次第に体が肥大化していく少年霊。
それに伴い、感じる圧も強く、大きくなっていく。
だが、ピスタチオが慌て始める横で、キョムは至って冷静に―――
ふぅ……
―――と、軽く溜め息を吐いて、話し始める。
「それは『困った』事に『成ります』ね。『貴方』が。」
『は?何を言ってるんだ?死んで困るのはあんた達の方だろう?』
「私達は『異邦人』ですから。『死んでも生き返り』ます。でも、『貴方』は『倒されたら終わり』です。そして、『私達』が『死ねば』その内、『外に情報』が『漏れます』。そしたら、『貴方』が、『倒される』まで、『異邦人』が『攻めて来る』んですよ?ほら、『貴方』が『困る』事に、『成る』でしょう?」
『な、何を言って…そもそも異邦人なんて、そんなの―――』
「今は、『沢山居る』んですよ。ですから、『貴方』が『困らない方法』を『考えるべき』では?」
『で、出鱈目だ!!だったら今此処で!あんたを殺して確かめてやるよ!!だいたい、此処がダンジョンに成れば、モンスターになった僕達はリポップするんだ!!何も心配無い!!』
「『ダンジョンが残っていれば』ですけどね。『まあ、良いです。好きになさったらどうですか?』」
『ああ!そうさせて貰うよ!!』
そう言って襲い掛かろうとする少年霊。
しかし全く身動きしようとしないキョムに、ピスタチオは心配よりも違和感を覚える。
いや、そもそも先程の会話からして、妙な感覚だったのだ。
なんだか、普段微かに感じている感覚が、全く感じ無い瞬間が有る様な、そんな曖昧な感じが纏わり付いて来る不思議な会話だった。
(あれが、“虚言”なのかな?つまり、今のあの子の行動は、キョムちゃんに誘導された?いやでも―――)
そこまで考えた時、少年霊はキョムの直ぐ目の前に来ていた。
『死ねええええええええええええええ!!!!』
少年霊が叫びながら腕を振り落とそうとした、その時だった。
ハアアァァァァ……
大きな落胆の溜め息に、少年霊の動きが、一瞬止まる。
そして―――
「『折角、生き返れる可能性が有るのに…勿体無いですね……』」
『え―――』
ピタッ!!
―――キョムの言葉に、少年霊の動きが、完全に止まる。
『生き、返れるの?こんな、こんな状態から?』
「『可能性は、有ります。そう、彼処に。』」
戸惑う様に自分の透ける体を見る少年霊に、キョムは奥を指差し視線を誘導する。
『進化する、宝玉……』
「『尤も、それだけでは、モンスターとして、討伐されて終わりです。ですが、討伐されない方法が、有ります。』」
『方法が、有る?』
期待に胸を膨らませる様な表情の少年霊を見て、ピスタチオは戦慄していた。
(これ、新興宗教の教祖が一般人洗脳して信者にしてる場面みたいな感じなんだけどっ!!?怖い!怖いよキョムちゃん!?ってかあのメイドゴーストの子、幾らなんでもチョロ過ぎ無い!!!??)
たった少し会話をしただけで、少年霊はもう、キョムの言葉に耳を傾けていた。
それは確かに、宗教にハマる信者が誕生する瞬間の様たった。
それを自然に行えるキョムは、仲間であるピスタチオから見ても、恐ろしく映っていた。
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キョムは、本名を「言括理希世夢」と言う、代々政治家や弁護士等の、言葉のスペシャリストの家系に産まれた。
当然、希世夢は両親や祖父母から、様々な英才教育を施されている。
そして、彼女はその全てを身に付けて来た。
だが、彼女には決定的に足りないものがあったのだ。
それは―――
「希世夢は、言葉が軽いな……」
「ええ…理論立てて順序良く上手く説明出来ているし、解りやすい良いプレゼンを出来るんですよ?でも、それが内側に響いて来ないんです……」
「うむぅ…もしかしたら希世夢は、確固とした自分と言うのが持てて居ないのやも知れん……」
「まあまあ。まだ希世夢は10代なんですよ?これからじゃありませんか。」
―――そう、希世夢の言葉には、何の力も無かったのだ。
人を衝動的に突き動かす様な魅力が!
何処までも引っ張って行く様な力強さが!
胸を焦がす様な熱い気持ちが!
生き方さえ変えてしまう様な感動が!
思わず膝を屈してしまいそうな重さが!
何一つとして!!
彼女の言葉には、無かったのである。
だが、両親や祖父母のそんな会話を日常的に聞いていた彼女は、そんな事全く気にしなかった。
何故なら、彼女は気付いていたからだ。
何に?
人は、自分の中に自分なりの意味を持っていると言う事に。
「人にとって、重要なのは、自分の中の意味であって、正しく決められた共用の意味じゃ、無いんです。」
彼女は、会話はキャッチボールじゃ無いと考えた。
彼女にとって、会話はジュースを注いだコップの渡し合いだった。
そのジュースの味が、コップのラベルと違うから、会話に齟齬が生まれるのだと考えた。
だから、彼女はコップからジュースを抜いて、空のコップを渡す事にした。
それが、“虚言”の始まりだった。
普通、そんな真似は出来る訳が無い。
例え出来ても、会話を成り立たせられる訳が無い。
まるでAI搭載型のロボットが、プログラムに従って会話している様に成る筈だ。
だが、彼女には才能が有った。
言葉から意味を抜き取る才能が。
故に、それは成立した。
してしまった。
因みにそれには、マート、つまりは現実の誠が多いに関わっており、それもあって希世夢は誠に執着する様になったのだが、今は脇に置いておこう。
まあ、つまり何が言いたいかと言えば、少年霊は渡された空のコップに、自分でジュースを注いで飲んでいる状態だと言う事だ。
其処には、会話の際に発生する違和感等微塵も存在しない。
ピスタチオが感じた感覚とは、ようは意味の食い違いで発生する僅かな違和感が無かったと、言う事だったのだ。
そして、こうなってしまえば、もうキョムの言葉に疑問など感じ無くなってしまう。
「『貴方には、二つの選択肢が有ります。』」
『二つの選択肢……』
「『一つ、このまま館をダンジョン化させ、討伐されるその日まで、ダンジョンに縛られ続ける道。スタンピードが起きても、マスターはダンジョンを離れられないと聞きました。』」
『それは、ヤだな……』
「『二つ、私達の誰かの従魔になり、進化する宝玉の力を使って、肉体を得られる可能性に賭ける道。上手くすれば、エルフか吸血鬼には成れる可能性が有りますよ?』」
『それは、本当?』
「『勿論です。私は、こんな場面で嘘を吐いたりしません。』」
(まあ、嘘じゃ無いけど……全部可能性の話でしか無いよね?何にも裏付け取って無い、与太の域を出てないと言えそうな事も言ってるよね?ホント怖いなこの娘……こりゃマート君も苦労しそうだなぁ……)
『だけど、僕は街に復讐を……!!』
「『50年も前なら、もう結構な人数が死んでいるでしょう。それに、生き返って幸せに暮らした方が、見返してやれるのでは?』」
『!』
少年霊の心が、大きく揺れたのが判った。
明らかに、動揺している。
「『私達のクランは、強くなりますよ?』」
ニヤリ
と笑い、右手を差し出すキョム。
少年霊は、ただ、その手を見詰めていた。
〇〇〇〇
「あ、戻って来ましたね。」
「うむ、作戦は上手く行ったようだ―――って!?何でゴーストを連れているんだ!!?」
殆どのゴーストを消滅させながら屋敷を脱出したファネルとマートは、屋敷の門前でキョム達を待っていた。
すると、暫くして二人が現れたのだが、その後ろには、宝玉を守っていたあの男の娘メイドのゴーストが、キョムの後ろに隠れる様に付いて来ていたのである。
どうやら、無事にテイムしたらしく、経緯を待っていた二人に話す。
「ま、まさか、マスター化しかけのゴーストを、言葉一つで下すなんて……有り得ん……しかし、実際目の前に実例が…だが……いや、此処はきちんと認めるべきか……その方がアタシの精神には優しそうだ。」
「まあ、どっちにしろ精神は削られそうですけどね。」
「言うな!頼むから言わないでくれ!!」
耳を塞いでイヤイヤと首を振るファネルの姿が何とも痛々しい……
「取り敢えず、宝玉を持ち出せたので、ダンジョン化は防げました。残りのゴーストはキーノさん達と合流してから討伐しましょう。」
「次いでに文句も言ってやるんだから!!」
ピスタチオはダンジョン化問題を丸投げされた事にお冠のようだ。
キョムとファネルも頷いている。
しかしマートは一人だけ視線を外し冷や汗を流していた。
どうやら自分のせいで時間を使ってしまった事に、若干負い目を感じているらしい。
そして、其処から1時間半程が経ち、キーノ達が合流するまで、キョム、ファネル、ピスタチオの三人は今回の事に関する愚痴を溢し続けるのだった。
『僕、これからどうなるんだろう……』
「大丈夫。きっと悪い事には成らない…と思う!」
『其処は断言して!!』
キョムが、ヤベエんす……
何だろうこの歩く洗脳装置……
もう少し軽くするつもりだったのにめっちゃヘビーな感じになってませんかね……?
今後上手く動かせるか不安ですわ……
面白いと思えましたら、感想、評価の方よろしくお願いいたします




