幕間 親友はデートしていた
以前書いた話しの手直しになります。
時間は少し巻き戻り、キーノ達がダンジョンに入って直ぐの頃、カナタとハルナはネスト近くの草原に居た。
サワサワとそよ風に揺れる草花の音、驚く程に澄んだ美しい川は太陽の光を反射しキラキラと輝いている。
土は太陽の光に照らされ優しい匂いを放ち、虫や小動物達の動き回る姿が微笑ましい。
此処はネスト出身のオルンの駆け出し冒険者用フィールドの草原に存在する泉の直ぐ近く。
観光スポットとして冒険者達に人気のエリアだ。
そこに、二人の人影が釣りをして居た。
「平和ですね~~」
「平和だな~~」
そう呟きながら、小川に釣糸を垂らすのは何時もの鎧姿では無くもっとラフな格好で、赤いインナーに黒い革ジャンを羽織、青いGパン風のズボンを履いたカナタと、淡いクリーム色のチュニックワンピースに身を包み、水色の薄手のカーディガンを羽織って、薄緑色のレギンスパンツを履いたハルナだった。
因みに今現実は4月後半、ゴールデンウィーク直前だが、AWO内は1月前半となっている。
この世界の1年は365日で、1ヶ月が30~31日と現実の暦とほぼ同じである為、時間が四倍である現在は現実の1ヶ月がAWOの4ヶ月となる。
一応、閏年や月毎の日数の違いできっちり同じにはならないが、そこら辺は色々な調整がされているので、殆ど1ヶ月で4ヶ月と見なして問題は無い。
で、普通なら寒い季節の筈だが、この辺りは一年中温暖な気候なので、例え12月や1月だろうとポカポカ陽気で心地好く過ごせるのでとても暮らしやすい。
その為、皆肌寒くない程度の薄着で過ごしているのだ。
「それにしても、気持ち良いですね~ポカポカでふにゃふにゃになっちゃいそうです。」
体育座りをしながら、これ迄に無い位幸せそうな顔でそう告げるハルナ。
それに対しカナタは僅かに赤面しながら、顔を反らし―――
「そうだな。」
―――とだけ告げて目の前の浮きに視線を戻す。
何とも甘い――いや、甘酸っぱい空間がそこには広がっていた。
まるで恋を自覚し始めた男女が何処かギクシャクしながらも、不器用に互いの距離を縮め合おうとしている様な、そんな初な青春を送るような姿が、そこにはあった。
まあ、様なと言うか観たままそのまんまな状態な訳だが……
そう、留守番組の二人はAWO内でお散歩デート中なのである。
って言っても、此処は本来弱くても狂暴なモンスターがやって来るフィールドなので、こんな風にのほほんとデートしてられる様な場所では無いのだが……
そこはユニークホルダー、周辺のモンスターを根こそぎにした上でモンスター避けのアイテムでゆっくり出来る空間を確保したのであった。
「けど今日は有り難うございます。まさかカナタさんがデートに応じてくれるとは思ってませんでした。」
「ま、まあ…今までこんなに真剣に誘われた事なんて無かったからな。流石に無下にすんのも悪くってさ。それに―――」
カナタはそこで一旦言葉を止め、チラリと横目でハルナの姿を確認する。
ハルナはカナタの言葉に興味を示し、何かを期待するかの様に、両手を地面に着け四つん這いに近い格好で、キラキラとした瞳で此方を見詰めていた。
「―――いや、やっぱ、何でも無い。」
それを見て、更に顔を赤くして視線を反らすカナタ。
「何ですか~~!気になるじゃないですか~~!!そんな漫画みたいな思わせ振りな態度されると、その…そう言う……事なのかなって…………思っちゃう……」
最初は何時もの勢いが有ったのだが、言葉が進むに連れて勢いは無くなり尻すぼみになって行く。
最後の言葉を言った時には、ハルナは顔を真っ赤に染めて、目尻に涙を溜めながら、ジッ…とカナタを見詰めていた。
その視線に耐えられ無かったのか、カナタはそっとハルナの頭に左手を乗せ、徐に撫で始める。
「わふっ!?え、え?な、何ですか!?何で撫でるんですか!!?ちょ、ま、待ってください!!まだ、まだ心の準備がーー!!わふぅ!あ、あ、だ、駄目でふぅ~~そんななでたりゃ、わ、わらひぃ~~わ、わふぅぅうううう!!!!」
無言のまま頭や狼耳を撫でまくるカナタ。
ハルナは既にふにゃふにゃで、普段は動かない耳や尻尾が残像を残す速さで振られている。
それを見て、カナタが手を離そうとすると―――
ガッ!!
―――とハルナが両手でその手を掴み、自分から頬擦りをして来る。
その瞳は、ハートが浮かびそうな位とろんとしており、思わずドキリとしてしまう位には蠱惑的で、色っぽかった。
(こ、これは、ちょっと所じゃ無くやり過ぎた……!!?)
「あ、あーー…ハルナちゃん?」
「………って………さい……」
「え?なに?」
「……ナって、……さい……!!」
「えっと、もう一回良いかな?」
「ハルナって!呼んで下さい!!」
ハルナがそう叫んだ時、彼女は既にカナタの息が届く程近くに居て、その両手は彼の首に回されていた。
その目はとろんとしていながらも、何処か決意に満ちていて、カナタはそこから何故か視線を外せ無かった。
「私、私カナタさんが、貴方が…好きです……!何度フラれても、やっぱり、好きなんです……!!こうして、触れられただけでも、胸が、苦しくて、今にも、張り裂けそうで……!だから、だから今日、デートしてくれるって聞いた時、ホントに嬉しくて…泣きそうな位、ホントに嬉しくて……だから、その………!~~~~!!」
「ハルナちゃん……」
カナタは、ハルナの覚悟が今まで出会った女性達と違う事には気付いていた。
と言うか、今まではだいたい二回もフレば諦めていたのに、十回以上フッても諦めないのだから違う事は嫌でも分かる。
それでも、これだけ真剣な好意を示す彼女に対して、カナタは何処かで歩み寄る事に躊躇していた。
それはやはり、親友である菊之の存在が大きいのだろう。
何処かで―――
「アイツより先になんて……」
―――とそんな気持ちが有った。
だが、この間のダブルデートでちょっとしたハプニング起き、そこからカナタの中で少しだけ、ハルナの存在は大きくなっていた。
だからこそ、今回のデートに応じたのだ。
カナタ自信が、その気持ちを確める為に……
「ハルナちゃん…いや、ハルナ……」
「―――――――っ!!!!はいっ!!」
呼び捨てにされた事で、ハルナは満面の笑みで返答する。
その顔にやられて、一瞬目を反らしかけるも、カナタは覚悟の籠った瞳で、その顔を見詰める。
「ハルナ、俺は、ずっと…ずっと怖かったんだ……キーノ、菊之を一人にする事が、怖くて……だから、俺は彼女を持とうって気になれ無かった。だけど、アイツは俺が思ってたより強かったよ……だから、俺も強くなろうと思った。先ずはこの気持ちに向き合おうって、思ったんだ。」
「それって……!!」
カナタの言葉を聞いて、ハルナの目は大きく見開かれる。
「ハルナ、俺は、俺も―――」
と、その時だった。
バシャンッ!!!!
辺りに大きな水音が響き渡る。
二人がその音源に目を向けると、そこには物凄いしなって軋みを上げている二本の釣竿の姿が映ってた。
今にも立て掛けた所から抜けるかそのまま竿が折れるかしそうである。
「わ、わあああああ!?何だこれ!!?ちょちょちょい!!スゲエ大物掛かってんじゃん!!!!!!」
「これ早く引き上げないと竿が、竿が折れちゃいますよ~~!!!!」
先程迄の砂糖を吐きそうな甘い空間は何処かに飛んで鳴りを潜め、二人はわたわたと自分の竿を握り直して、掛かった獲物との真剣勝負を始めるのだった。
「「もう!空気読めよな(読んで下さいよね)!!!!」」
〇〇〇〇
―――3時間後―――
キーノ達が試練を終え、コンプトウラと話している頃、二人はネスト内の喫茶店「常春の日射し亭」に居た。
その顔は疲れ切っていて、とても悔しそうである。
「後、ちょっとだったのにな……」
「ホントですよ……後ちょっとだったのに……」
(後ちょっとで答えが聞けたのに~~!!)
「まさか二人とも竿が折れちまうなんて……どんな大物だよ……!!」
「え、あ…そっちですか……」
「え?なに?」
「いえ、なんでも……」
(まあ、1時間以上粘ってあの結果だったもんね…うん……グスン……)
カナタの様子から今日はもう返事は聞けそうに無いと思い心の中で涙を飲むハルナ。
「…………ハルナ。」
「何ですかぁ~~?」
「おれ―――」
ピコンッ!!
カナタが何かを言おうとした所で、今度はメッセージを報せる何時もの電子音が鳴り響く。
((またかよ(ですか)!!空気読めよ(読んで下さい)!!!!))
心の中で同じ事を考えながら、カナタはメッセージの差出人と内容を確認する。
「って、キーノか……」
「師匠ですか?もうダンジョンアタック終わったんですか?」
「ああ、序でに凄い装備も手に入れたってさ……それで、合流地点に来てくれだと。」
「ちぇーーー……もうデートは終わり何ですね……」
「ま、仕方ないさ……だから―――」
チュッ
「―――今度は、ゆっくりデートしようか。」
ハルナの手を取り、立たせると同時に、額に軽くキスをしそう告げるカナタ。
その顔はもう見るからに真っ赤で、自分の行いに自分で照れているのが諸分かりである。
ハルナの方は今一つ状況が呑み込めていないのか、キーノの如くフリーズしてしまっている。
が、少しずつ呑み込めて来たらしく、その顔は湯気が出そうな程赤くなり、目は涙でウルウルと潤み、口は満面の笑みを浮かべると言うなかなかカオスな様相を呈している。
「はい……!はい!はい!!はいっ!!!また二人で!!今度はゆっくりデートしたいです!!!!!!」
千切れんばかりに尻尾を振りながら、上機嫌でカナタと腕を組み、共に店を後にするハルナ。
その二人の後ろ姿に、羨望と憧憬と憎悪と妬み嫉みに嫉妬の感情を乗せた視線を贈る男女が十数人居た事を載せておく。
因みに余談だが、パーティーのマスコット、月晶兎のムクは、宿屋で寂しくお留守番である。
ハルナがその機嫌を直すのに苦労したのは、言うまでも無い。
随分キザな事してんなカナタ…
照れなきゃ完璧だったのに
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