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「柵の楔」ダンジョン6 悪夢

だいぶ遅くなりましたが更新です。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


それは奥底に押し込んだ恐怖の記憶……

―――ダンジョン十階―――


 そこは、円形のホールになっていた。

床や壁、天井に至る迄が白磁器の様なツルツルピカピカの真っ白な素材で造られている。

継ぎ目の様なものは一切無く。

凹凸すらも存在しない為、キーノ達の姿がうっすらとだが映っている。


 美しさすら感じる程の見事な階層。

しかし、幻想的と言うよりは無機質な感じで、何処か観る者の心に不安を呼び起こす、そんな印象を与えて来る。

まるで、全てを見透かされた様な、そんな不安が、僅かだが、六人の心に浮かんでいた。


「綺麗なのに、不気味ですね……」


「ええ…何だか少し、不安になってしまいますね。」


 呟く様なキリアーネの言葉。

しかしこの部屋では音が反響しやすいのか、その呟きがはっきりと聴こえる。

それに応えたキーノは、思わず本音を洩らす。


「壁や床もこんなに綺麗なのに、ハッキリ姿が映らないのは不思議ですね。」


「私やキリアーネさんは下がスカート系なので、ハッキリ見えない方が助かりますけどね。それとも、マー君はその方が良かったですか?」


「そ、そんな訳無いでしょう!?もう!あんまりからかわないで下さい!!―――キョムさんのを他人に見せたく無いですし……」


「はい?最後何て言ったんですか?」


「何も言って無いですよ。」


「え~~?ホントにござるか~~?」


「だからその手のネタはどこから仕入れて来るんですか……」


 と、マートとキョムが無意識に人目も憚らずイチャイチャしている横で、ピスタチオとファネルは白い目を二人に向けていた。

何と言うか…「また始まったよ……」感満載の表情で二人を見ている。


「あの二人、隙あらばイチャついてるよね……」


「うむ…もう少し周りの目を気にして貰いたいものだな。」


「アレで付き合ってないとか信じられる!?それ聞いた時ウチは自分の耳を疑ったよ!!?」


「何?!あれだけ仲が良くて両方共フリーなのかっ!!?流石にそれは無いだろう?」


「それがホントなの!しかも、キーノさん達もカナタ様達もあれだけ仲良くてもまだ付き合ってないフリーな状態なんだって……それでどうしてあんなに突け入る隙が無い関係を築けるのか不思議だよね……?」


「それは、確かに……そこまで行くと、健全を通り越して逆に不健全な気がして来るから不思議だな。」


「いっそもう付き合っちゃえば良いのにーー…観てる方がヤキモキして辛いんだけどぉーー!!」


「まあ、気持ちは解るが一旦落ち着け。何時も通りならそろそろ―――」


 と、ファネルが何かを言い掛けた時だった。

部屋の中央から突然目が眩む程の蒼白い光が溢れ、六人の視界を埋め尽くす。


「――――――ッ!!!!?」


「なっ、何っですか!?この光は!!!!」


「眩し、い……!!」


「目がぁ!!目がああああああぁぁぁあ!!」


「何時もと違うんだけどおおおおおお!?」


「何が起きていると言うんだ!?!!」


 光は止む処かホール全体を包み込み、六人もその光に呑まれてしまう。

そして、六人が気が付いた時、そこは先程迄居た所とは、全く違う所に立って居た。


「此処は?」


「暗い、ですね……」


「その割に、視界はハッキリしてるって、ちょっとどころでなく可笑しくないですか?」


「転移、でしょうか?」


「どうかなあ?ウチが見た感じ、その手の罠は無かったよ?」


「と言うか、この手の事はキーノ殿が分かるのではないのか?」


 そこで、五人の視線が一斉にキーノへと注がれる。


「……っ!?―――ハァ……ちょっと待ってて下さい。」


「「「「「うんうん!!」」」」」


 そこでキーノは万物先生の全能力を解放し、この空間そのものを鑑定する。


『試練の間〈極〉 本来なら存在しない筈だった場所。実際にはバルナム内に存在している訳では無く。所謂精神世界的な場所である。故にダンジョン最下層には〈眠り〉状態の体が有る。しかし、此処で受けたダメージはダンジョンの体にフィードバックするので注意!死亡すれば本当に死亡してしまう。今回の挑戦者が試練を早々にクリアした為に、ダンジョン管理者である「心傷神(しんしょうしん)コンプトウラ」によって創られた特別使用となっている。やったね♪敵は挑戦者が一番怖い存在で、攻撃は通るけど克服しないと数が減らないよ?因みに出て来るのは一種類!選出はパーティーメンバーの中からランダムだよ!発狂しない様に注意してね?』


「は???????」


 意味が、分からなかった。

いや、意味は分かる。

ただ、理解はしたくない内容だった。

そして後半から鑑定結果の文章が何時もと違う仕様になっているのは本当に、意味が分からなかった。


〇〇〇〇


「あの?キーノさん?大丈夫ですか?」


 余りにもショックを受けてしまった為に、何時もの如くフリーズしてしまったキーノを案じ、マートが声を掛けるも、まるで反応が無い。


「キーノさん!?キーノさーーん!!!」


 全く反応が無い為に心配になり、体を揺するも、キーノは依然として放心したままでなかなか戻って来てくれない。

それがメンバーの不安を大きくしていく。

キーノを揺するマートなど既に半狂乱に陥っている。


「仕方ありませんね……」


 それを見かねたキリアーネがマートをやんわりと押し退け、キーノの目の前に進み出る。

その両手は淡く青白い光を帯びており、何かの魔法を発動させているようだ―――


パアアアアン!!!


―――と、他のメンバーが思った瞬間、辺りの空間に特大のクラッカーが破裂した様な音が響き渡る。

見れば、キリアーネがキーノ顔の両側を両手を使ってサンドしている姿がそこにはあった。


 両手の光が消えているのと、キーノがあまりダメージを受けた感じが無い所を見るに、先程の魔法はどうやら回復魔法だったようだ。

何処ぞの治癒魔法使いの様に、サンドしたダメージを魔法で癒したのだろう。

でなければ多分キーノの顔は潰れている。


「ぐふ、う……」


チーーーン……


「あ、遣り過ぎました……」


「「「「え~~~……」」」」


 傷は回復しても衝撃はそのままな為に、キーノは堪えられず気絶してしまったらしい。

これには他のメンバーも皆呆れ返ってしまう。


「仕方ありません……此処は水魔法でちょっとした気付けを―――っ……!!」


 キリアーネが最近覚えた水魔法をキーノの顔に掛けようとした時、ソレ(・・)は聴こえた。


『~~こ、~らこ♪~~この~~~~~~~は♪い~つ~い~つ~……』


 ソレ(・・)は、歌だった。

歌詞はまだ上手く聞き取れ無いが、そのリズムは童謡のかごめかごめに似ていた。

そう認識した瞬間、キリアーネ達に浮かんだのは疑問だった。


            何故?


 そんな疑問ばかりが、頭の中を埋め尽くす。

そしてその答えを知るだろう人物に視線を移した瞬間、五人は驚愕する。


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……


 震えて居たのだ。

誰が?

キーノが。

今迄見た事が無い程真っ青な顔をして、細かく振動していると言える程に激しく体が震えていた。

その顔に浮かんでいたのは尋常では無い程の恐怖……


 普段、他人を恐怖させる事は有っても、自身が恐怖する事等無いキーノが、此処まで恐怖する等、珍しい所の話では無い。


「でも、確か、一度だけ……アレは、ネストの……まさか……!!」


 そこまで思い至った時、ソレ(・・)は姿を現した。

目視で約50m前方……いや、半径50m先の全周囲を、地平が見えなくなる程に犇めき、蠢く存在。

赤に近いピンク色をした、全長5cm程のナニ(・・)か……

楕円に近い形で、縦に立っているのも、上が下より僅かに大きいのも解るが、全体像はモザイクが掛かって解らない、そんなモンスターが、其処にはいた。


『第10の試練。はっじっまっるよーー!!』


 甲高い子供の様な声でそう告げると、モンスター達は距離を保ったまま六人の周りを回り始め、先程聴こえて来た歌を歌う。


た~ら~こ~た~ら~こ~♪


タラコのま~えのひ~と~は~♪


い~つ~い~つ~た~べえる~?


あ~さ~ひ~る~ば~ん~に~♪


パスタにか~けてた~べえる~♪


おくちのな~かのあ~じぃは~♪


な~ーあ~~に?


 そう歌い終わった所で、モンスター達は動きをピタリと止める。

一見すると、ただキーノ達の周りを回っただけだが、変化は確実に訪れていた。


「あれ?何か、微妙に近付いてませんか?」


「あら、そう言われて見れば、確かに。ほんの少し近くなった気がします。」


「え~?そうかなぁ?」


「アタシには分からん違いだな。」


「いえ、確かに近付いてますね……恐らく、ほんの1m程……」


 最初に気付いたのはマートだった。

その事に対する反応は様々だったが、キリアーネの言葉に、その場がシン、と静まり返る。


「えっ、と、その、つまり…あの歌が後40回から50回位歌われたら、あの数が攻めいって来る、って事ですか?」


 マートが顔を引き吊らせながら指を指す先は、果てが見えない程にピンク色で染められている。

その全てがあの詳細不明なモンスターとなれば顔も引き吊ると言うものだ。


「違いますよ……」


「え?違うんですか?」


 あからさまにほっとしたマート。

しかし次の言葉でその顔は盛大に引き吊る事になる。


「ええ……アレは、人の口に入って来るそうです……」


「え……?」


「えぇ……」


「うっげ……!!」


「何なのだその拷問は!?」


 キリアーネの言葉に、四人は一瞬で顔を青ざめさせる。

地平を埋め尽くす程の量もさる事ながら、正体不明のモンスターが、生きたまま口に飛び込んで来るともなれば、拷問処の話では無いのだから当然だろう。

と言うか、そんな事になれば普通に死ねる。


「これが試練だと言うなら、私達が助かるには、キーノさんに頑張って貰うしか無いでしょうね……」


 そう言ってキリアーネが見つめる先では、未だに顔を青ざめさせたキーノが、震え続けているのだった。

一応次でダンジョン攻略は終了です

もしかしたら1話くらいプラスになるかもですが……


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