リア充爆発しろと思った
内容は変わりませんが、細かい所を手直ししています
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独り者にその空気は堪えます……
「まだかなぁ……」
キーノは広場の噴水近くのベンチに腰掛けてボーッとしていた。
今は現実時間の午後7時5分。
刀弥――カナタとの待ち合わせ時間を5分オーバーしている。
AWO時間だと40分だ。
それなのに未だにキーノはカナタと合流出来ていなかった。
「おっかしいなぁ…自分で言った事破るような奴じゃ無いのに……まさか、また何か厄介事に首突っ込んだとかじゃ無いよね?だとしたらそろそろ―――――」
「おーい!キーノ!此方だこっち!!」
と、そこで街の入口方面から此方へ向かって来る赤い人影が見えた。
「もーー…遅いよカナ…た?」
「悪い悪いって…どした?固まったりして?」
いつもより気持ちゆっくり目に歩いて近付いて来るカナタ。
それを見て固まるキーノの視線の先には、両腕でカナタの左腕に抱き付く、金髪紫眼の狼獣人の美少女―――ハルナが映っていた。
「か、カナタ、その女はどちら様なのかな?」
キーノはガクガクと震えながらハルナに向かって指を指す。
その様はまるで彼氏の浮気を目撃した彼女のようだ。
まあ、キーノは男で、親友で、幼なじみなだけだが。
「あっ…あーあれだ……ほら、いつもの……」
「なんなの…ホントにお前はなんなのさ……」
ツゥと言えばカァと鳴くように、それだけの短い会話でキーノは全てを察した。
「いつもの」と言う言葉が出たように、二人にとってはこの状況も何時もの事なのである。
まあ、馴れはしないが……
そして、薄々感じている読者もいるだろうが敢えて言おう。
カナタは鈍感では無い!!
自分が好意を持たれている事位分かっている。
故にいつも困るのだ。
「あれ?カナタさん立ち止まってどしたんですか?お友達がいらっしゃっ……」
さっきまでカナタしか見えていなかったからか、ハルナは突然現れた(ように感じている)キーノを見て、固まった。
その目は驚愕に彩られている。
それを見て、キーノとカナタは「またか……」と深い溜め息を吐いて、勘違いしたハルナが暴走しないように素早く行動する。
「いいか?ハルナちゃん。俺には彼女は居ない。あいつは俺の友達だ。後、見た目はあんなだけど男でノーマルだからな?で、俺もノーマルだからな?分かった?OK?リピートアフタミー。」
力強い眼差しと声音で念押しするような言葉に、ハルナは顔を赤らめながらコクコクと高速で頷く。
しかし、その表情を見るにまだ何か勘違いしてそうな気がする二人。
とは言えあまり深く突っ込む気にはなれないのであった。
「………取り敢えず何処か行こうよ。此処じゃゆっくり出来ないし、僕小腹が空いちゃった。」
「そうだな。俺もお前に話したい事あるし何処かの飯屋でも行くか!」
「ってな訳で、取り敢えず貴女は離れてもらえませんか?」
これからキーノはカナタに色々相談したい事が有り、正直他人に居られるのは迷惑だった。
が―――
「え?嫌ですけど?」
ハルナにはそんな事、知ったこっちゃねえだったのである。
ぶっちゃけハルナにとってキーノはお邪魔虫としか思えない程、カナタにデレデレなのだ。
「毎度思うけどさぁー…カナタって異常だよね。なんでいつも初対面の女性にそんな好かれるの?ってか何で何時もタイミング良く美少女を救い出せるの?それでいて何時も「まだ友達と遊んでたいから付き合えない」ってフルの凄いよね。で、今回のこの人はどうする気?ってかホントリア充爆発してよ……」
何処か疲れた様な声音で捲し立てかと思うと座り込んでしまうキーノ。
「僕も百合や変態以外にモテたい……」
それは、重みと切実さが詰まった呟きだった……
そしてカナタに降り注ぐ嫉妬と批難と殺意と悪意と少しの憧れが籠った視線。
鬱陶しい事この上ない。
「と、兎に角移動するぞ!って、ちゃんと立ってくれよ!あーもうっ!!」
カナタはキーノの腕を引いて立たせようとするも、一向に立ち上がろうとしない為、仕方なく右の脇に抱えて移動を開始するのだった。
〇〇〇〇
「着いたぞ。此処が俺のお勧め「春風の雲亭」だ!」
カナタに抱えられたまま来たのはログハウス風の味のある喫茶店だった。
本日のオススメが書かれた表の立て看板がなかなかお洒落だ。
「なのに本日のオススメがオークの生姜焼定食って…なんでこんな男らしいの?って言うか喫茶店じゃ無いの?」
「なんでも定食喫茶とか言う新ジャンルの開拓をしてるらしいぞ?」
「もう定食屋で良いじゃん……」
「でも女性プレイヤーの間では「そこが良い!!」って話題ですよ?なのでお昼の時間は凄く並んでます!」
「女子ってホント時々良く分からないものに食い付くよね……ってか普通に付いて来るんだね……」
「当たり前です!恋は戦争なんです!諦めたらそこで試合終了なんですよ?二度や三度フラれた位じゃ諦めませんから!」
右手でカナタの左腕に抱き付きながら左手で握り拳を作り、鼻息荒くそう宣言するハルナ。
「って!もうフラれてた!?それなのにそんな距離近いとかメンタルヤバ過ぎて逆に尊敬しちゃうんだけど……!怖いわー、この人怖いわー…。僕、こんなに将来が不安な人初めて見たよ。」
「うん…俺もだよ。で、さっきの質問の答えな、「どうにもできん」だ……」
カナタのその言葉に、こいつはこいつで苦労してんだな…と同情し、少しだけ機嫌を直すキーノだった。
「取り敢えず入ろっか。」
「だな。」
「ですねえ~~」
約一名だけ二人とは全く別の空気を量産しながら、三人は春風の雲亭へと入って行く。
中は思いの外広く、入口正面には清算用のカウンターが有り、その横に八人掛けのカウンター席、窓際には二人掛けのテーブルがL字に八卓に余白を埋める四卓の四人掛けテーブルが有り、全部で四十席となかなかの人数が座れるようになっている。
そんな春風の雲亭はピークを過ぎたからか、客はまばらで殆どの席が空いていた。
三人は取り敢えず近くの四人掛けに座り定員に注文を頼む。
「俺はグラスバイソンのハンバーグ定食ね。」
「僕はマジカルパンケーキ定食で。」
「私はチョコレートパフェメガMAX定食!!」
「はーい!ご注文ありがとですにゃ!」
三人の注文を受け、厨房へと入って行く猫獣人の女性定員。
その後ろでキーノはハルナに先程の注文について質問していた。
「チョコレートパフェメガMAX定食って何?てかパンケーキならまだ分かるけどパフェの定食?意味不明過ぎて気になる……」
「ふっふーん、知らないんだぁ。今女性プレイヤーにインスタ栄えするって人気ですよぉ?何でも特大パフェにゼンザイとコーラフロートが付いて来るそうです。見応え抜群な上にこの世界ならいくら食べても太らない!だから、ダイエット女子垂涎の人気メニューなのです。」
「ああ…そういやNPCは太るが俺らは太らねえんだったなぁ。当然だけど、AWOの感覚が現実に近いからつい忘れちまう。」
カナタの言葉に頷く二人。
と、そこでキーノはあることを思い出す。
「忘れるって言えば、僕まだその人と自己紹介して無かったね。」
「そう言えばそうでしたね。まあ私はカナタさんさえ知っていれば他は割りとどうでもいいのですが……」
何処までもゴーイングマイウエイなハルナに、カナタもキーノも声が出ない。
「ん、ん!取り敢えず僕はカナタとパーティー組むからこいつとはだいたい一緒に居る事になる。だからまあ、彼女志望の貴女に会う事も増えるだろうから軽くだけ。」
一旦仕切り直す為に一度だけ息を深く吸い込む。
その後ゆっくりと吐き出してから口を開いた。
「僕はキーノ。半魔人で魔法使いめざしてます。貴女は?」
「私はハルナ。狼獣人で見習い双剣士だよ。これで良い?」
「取り敢えずわ。で、カナタ?どうするの?この人もパーティーに入れるの?」
ジト目を向けながら棘の混じった言葉をぶつけるキーノ。
それに頭を抱えながら迷う様に呻くカナタ。
しかし思いの外早く結論が出たのか顔を上げるとハルナに向き直る。
「はっきり言うとハルナちゃんがいくらパーティーに入りたくても今の君を入れんのは無理かなぁ…ちょっとしか見て無いけど、君の戦いかたかなりお粗末だったし。せめて草原地帯のグランドウルフの群を一人で殲滅出来ないと話にならない。」
それは完全な戦力外通告だった。
しかしそれも仕方が無い。
何せカナタは既に上位プレイヤーだ。
職業こそまだ剣士見習いだが、圧倒的なゲームキャリアと、ユニークスキルのお陰で、カナタの殲滅力はかなり高い。
故に、ハルナの様な素人では足手まといでしか無い。
「君としてはキーノが入れんのは不満なんだろうけど…こいつは俺と長年タッグ組んで来た相棒だからな。レベル1でも足手まといにはなりえねえ。だから、そこは勘違いしないでくれ。」
ハルナは、俯いたまま喋らない。
「ハルナちゃん?」
不審に思ったカナタが呼び掛けた所で、ハルナはバッと顔を上げる。
「カナタさん「今のまま」って言いましたよね?それにグランドウルフの群れを一人で殲滅出来ないと駄目って事は、今より成長して、グランドウルフの群れを一人でも余裕で倒せたら入れてくれるって事でいいんですよね!?」
「え?あ、ああ、まあ……」
「なら問題無いです。強くなれば良いだけですから♪」
ハルナは強かった。
想像以上につよか……いや、最早「想像異常」と言うべき前向きさだった。
そしてそんな二人のやり取りを見て、見せ付けられて、キーノの心は一人でやさぐれて行くのだった。
(ホントにリア充爆発してよ……!)
〇〇〇〇
「そういや、誰かが四対一のPVPで四人倒したって話を聞いたんだけどよ、キーノなんか知ってるか?」
「んー?多分それ僕だよ?」
「やっぱそうか。どうせボーナスが来たとか思って戦ったんだろ?」
「ひっどいなー!絡まれたから反射的に構えたら、何かPVPを了承した事になってて、やりたくも無いのに戦う羽目になったんだよ?」
運ばれて来た料理を食べながら、そんな会話を交わす二人。
その会話の中で聞き捨てなら無いワードが聞こえたハルナは、自分の顔とほぼ同じ高さのパフェを食べる手を止めた。
「あの、四対一のPVPに勝ったって聞こえたんですけど……」
「そうだよ?まだレベル1で能力も把握仕切れて無かったのに急に戦う事になってねぇ……もうホントやんなるよねぇ。」
「れ、レベル1で四対一……」
カチャンッ!
あまりの衝撃に持っていたスプーンを取り落とすハルナ。
無理もない……
ハルナは複数の格上に等勝てないのだから。
しかし、今はそんな事は言っていられない。
少しでも強くならなければ、好きなカナタの隣に立てないからだ。
そこまで考えたハルナの行動は素早かった。
すぐさま椅子から飛び退き、キーノの横に来て見事なDO・GE・ZA☆を決めたのである。
「私を弟子にして下さい!」
「無理☆」
即答だった。
しかしハルナはめげない。
「お願いします!月謝払うんで鍛えて下さい~~!!」
遂には両手でズボンを掴み出すハルナ。
必死である。
「ちょっ!止めて!引っ張らないで!?脱げるから!って言うかあんましつこいとGMコールするよ!?」
「なら弟子にして下さい!してもらえないならこのまま脱がしてスクショで広めますから!それもGMコールより速く!光のごときスピードで!!」
更に此方の脅しに屈せず、逆に脅しまでしてくる始末。
強敵である。
流石のキーノも、これには白旗を上げるしか無かった。
「分かったから!期間限定で良いなら弟子にするから離して!!って言うか既にちょっと脱げてるから!!マジで離してくれません!!!?」
その言葉を聞いてやっと離したハルナに溜め息を吐きつつ、カナタに恨みがましい視線を送るキーノだった。
「全く…ホント勘弁してくれないかなぁ……」
「まあまあ、少しは落ち着けよ。」
「誰のせいだと思って……」
「ははは…それより、PVPに勝ったんならレベルも上がってんじゃないか?確かPVPでは、負けても経験値が減ることは無いけど、勝つと相手の経験値の三分の一が、自分に入って来るんだろ?」
「へ?そうなの?」
「何だよ知らなかったのか?なら、今ステータス確認して見ろよ。」
「んー…取り敢えずこれ食べ終わってからね。」
そう言って、キーノは再び食事に戻るのだった。
何処までもマイペースな奴である。
因みに、ハルナは定員さんに新しいスプーンを貰ってパフェの攻略を再開していた。
ちょっと所では無い迷惑ですね
実際やられたら辟易するだけじゃ済まないかも……
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