「柵の楔」ダンジョン3
かなり間が開きましたが更新です。
また少しずつ書いて行くので今後ともよろしくお願いいたします。
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人の心は、測れない程に深い……
―――キーノ&キョムペア―――
「と、最初はキョムさんですか。」
「はい、よろしくお願いします、キーノさん。」
六階層に降りたキーノの右隣に居たのはマートの相棒であるキョムだった。
彼女は普段通りポーカーフェイスだが、若干表情が固い気がする。
もしかしたら、キーノと二人になった事で緊張しているのかも知れない。
「そう言えば、随分前に他のゲームでも一緒した事がありましたね。その時はまだキョムさん一人で、マート君は居なかったんですよね。」
キーノはキョムと初めて会った時を思い出す。
それは三年前にプレイしていた、キーノが外道魔導師となるきっかけになったゲームでの話だ。
あの失敗を経験する1ヶ月前に、初めてログインして戸惑っていたキョムに世話を焼き、1週間程手解きをしてやったのである。
「そうですね。あの時は本当にお世話になりました。」
その時の事を思い出し深々とお辞儀するキョム。
キーノは両手を突き出しワタワタと降って顔を上げさせる。
「ちょっ!?いいですから!顔を上げて下さい!そろそろ来ますよ!!」
と、キーノがそう言って直ぐの事だった。
ズル…ズル…ズルゥ……!
粘度の高い何かが這う様な音が聞こえ、二人はその音がする方へ視線を移す。
其処には最早お馴染みになった虹色の不定形なアメーバ状の生物が二体居た。
そしてそれらは今まで同様、段々とキーノとキョムの姿へと姿を変えて行く。
「早速お出ましですか。仕事が早いなぁ。」
「キーノさん、指示をお願いします。」
「了解です。」
敵が完全に変身する前に気持ちを切り替える二人。
流石にベテランゲーマーなだけありその辺りの切り替えは早い。
が、まだ攻撃は仕掛けない。
何故ならこの敵、口上を終えるまで無敵状態になるからだ。
ただ、それはモンスターの能力では無く、このダンジョンのギミックであり、ルールである為、キーノ達にはどうにも出来ない。
因みに変身前のモンスターのステータスは次の様になる。
『粘体変身生物 Lv?
ダンジョンエネミー ソロ級 推奨Lv?
???モンスター レア度?
現パーティー勝率?%
取得可能経験値???(???)
ドロップ???
HP:???
MP:???
STR:???
VIT:???
AGI:???
DEX:???
INT:??? 』
そう、このモンスター、変身を終えるまでステータスが決まっていないのだ。
正確に言うとランダムに揺れ動き続けており、正確に把握する事が出来ないのである。
まあ、倒せなくは無いが非常に面倒臭いのは間違いないだろう。
(―――って言っても、どうも野生じゃ出ないっぽいんだよね……基本この手のダンジョンモンスターはダンジョン限定みたいだなぁ……)
―――と、そんな事を考えている間に敵は変身を終えてキーノとキョムそっくりな姿に変わる。
「「―――此処は心を鍛える場所。自身と向き合う修練場。さあ、覚悟は良いですか?今から第六の試練の始まりです!!」」
「キョムさん!左に全力で跳んで下さい!!」
「っ!?はい!!」
敵の口上が終わると同時に出されたキーノの指示に直ぐ様応えて左へ前転するように跳ぶキョム。
それに合わせる様にキーノは右へと跳ぶ。
その瞬間、二人が立っていた場所の空間が歪み、球場に圧縮される。
―――空間圧縮 、この頃のキーノの十八番となりつつある空間魔法だ。
とは言え、実はこの空間圧縮は攻撃魔法では無い。
このゲーム――Another World Online――AWOには大別すると5つの魔法系統がある。
1つは、敵を殲滅する為の攻撃魔法。
1つは、味方を守る為の防御魔法。
1つは、バフ、デバフ等の支援魔法。
1つは、傷を癒し、呪いを祓う回復魔法。
そして最後に鍛冶や錬金、土木等で使う作業魔法。
空間圧縮はこの最後の作業魔法に分類される魔法系アーツであり、実際は障害物の排除や掘削に使う土木作業用魔法(キーノが最初にそう言った目的で創った為)であり、攻撃力は副産物でしかない。
しかし、その威力はえげつないの一言であり、キーノやキョムが喰らえば即死は免れない。
その上―――
「僕らがトラウマや心の闇を克服しなきゃ、攻撃は通らない、か……厄介だなぁーー…しかも、さっきのは詠唱も何も無かった。つまり―――」
―――スロウエリア×4!!
「やっぱりか!!」
二人が左右に跳んで攻撃を躱した瞬間、その間に不可視の壁が形成される。
これまたキーノお得意のアーツである。
その効果は指定空間内の時間遅延。
あくまでも時間遅延なので本来なら壁とは言えないが、触れたモノの動きを制限出来る為、壁の役割は十分に果たせる。
それどころかこの手の戦闘においては只の壁よりより厄介かも知れない。
(オマケにさっきの空間圧縮は、緩急自在の方のMP消費無しバージョン!だからあっちのMPはまだそんなに減って無い筈……)
緩急自在の能力は、使うのに手間こそ掛かるがMPの消費は無い。
それがどんな破格の効果であれ、である。
しかもクールタイムはほんの数秒で、10個までなら同一のモノを同時展開可能と言う化け物スキルだ。
勿論重ね掛けによる効果の重複や効果の高さ等に限度はあるが、それが恐ろしく高いのだから、他人にしてみればふざけるなと言う話である。
「―――って!?不味い!!」
―――スロウエリア×6!!
万物鑑定と万物認識の能力、前兆鑑定と前兆認識、それに思考鑑定と思考認識の効果により、キーノは敵が何をして来るのかを知り、即座にその対策として敵二人を時間の牢獄に閉じ込める。
しかし―――
「「クロックアップ」×6!!」
「だ・よ・ね!!」
―――それは偽キーノも同じと言う事だ。
スロウエリアが空間内の時間を遅くするのに対し、クロックアップは対象の時間を速くする効果がある。
つまり、スロウエリア内てあっても普通に動けると言う事だ。
―――酸素希釈!!
クロックアップの後、偽キーノが間髪入れずに繰り出したのはキーノが創った事の無いアーツだった。
しかし、キーノはその効果もその危険性も良く理解している。
何故なら、それはキーノですら創る事を躊躇していたアーツだからだ。
酸素希釈:対象空間内の酸素濃度を5分の1にする 消費MP20 対象指定した空間
以前これを緩急自在で試した時、酸素濃度の薄くなった空間に入ったウルフ系のモンスターが、白目を向いて倒れ、激しく痙攣した後に身体中から色々な液を垂れ流して数分掛けて死亡する姿を見て、アーツとして創るのは止めた経験があるのだ。
流石のキーノもアレはドン引きだった……
「くっそ……!!」
―――酸素濃縮!!
酸素濃縮:対象空間内の酸素濃度を5倍にする 消費MP25 対象指定した空間
酸素希釈を試した際に、もしもに備えて創っておいたアーツである。
尤も、意外と火魔法や風魔法等との相性が良いので出番は割りとあったりする。
まあ、酸素は濃度が高くても人体に多大な影響を与えるので、もしかしたら単体でも使えるかもしれないが、酸素中毒は酸素分圧やら色々条件があるのでそう簡単では無いだろう事を考えると、やっぱり単体の出番は少ないかもしれない。
―――関節硬化×2!!
―――関節軟化×2!!
―――気道狭窄×2!!
―――気道拡張×2!!
―――筋肉緊張×2!!
―――筋肉弛緩×2!!
―――血管収縮×2!!
―――血管拡張×2!!
―――――…………
――――――……………
ひっきりなしに続く偽キーノとキーノの見えない攻防。
しかしそのどれもが決まれば直ぐに決着がついてしまう程恐ろしいアーツばかりだ。
特に偽キーノの使うアーツはキーノが創るのを戸惑う程エグい効果のものばかりである。
そう、あのキーノが対抗策となるアーツを念のために創る程の……
「ここのコンセプトから考えて、これらの攻撃が来るってことは…つまり、僕の克服しないといけないモノはこれらに対する苦手意識か……!!」
そんな事を呟きながら、キーノは緩急自在で自身のMP回復速度を引き上げる。
先程までのアーツの連発で、キーノも偽キーノもMPが切れてしまったのだ。
今は互いにMP回復を図りながら万物先生と緩急自在で牽制しあっている所である。
「キョムさんが上手くやってくれると良いけど……」
完全に膠着状態になってしまったキーノは、そう、この階層でのパートナーへと期待するのだった。
〇〇〇〇
「鬱陶しいですね……」
キーノが苦戦している一方で、キョムもまた苦戦していた。
付与術師のキョムの直接戦闘能力はとても低い。
しかもまだ見習いなので尚更だ。
せいぜいLv10の冒険者よりマシかな?程度である。
そしてそれは、偽キョムにも言える事だった。
二人はその戦闘能力の低さから、互いに杖での雑な殴り合いをしている最中である。
「「速度増加」、「打撃強化」、「腕力増加」、「双拳」、「幻惑移動」!」
「「速度低下」、「打撃弱化」、「腕力低下」、「拳止」、「幻惑妨害」!」
次々繰り出される偽キョムのバフをキョムがデバフで打ち消して行く。
しかし、出来るのはそこまでで、キョムも偽キョムも互いにダメージを与えられずにいた。
それもそうだろう。
キョムは根っからの支援系で、戦闘力が低い上に、回避だけは人一倍上手いのだ。
つまり、スキルに杖術があれど素人同然のヘッポコ攻撃しか出来ないキョム達では、互いに攻撃を擦らせる事すら出来ないのである。
「いい加減諦めませんか?」
膠着状態が続く中で、突然偽キョムがそう話し掛ける。
しかしキョムは取り合わず、無言で攻撃を続ける。
が、当たらない。
当然、お返しとばかりに繰り出される偽キョムの攻撃も当たらない。
繰り返される同じ光景。
そんな中、偽キョムは話し掛け続ける。
「貴女は何時も何時も同じ事の繰り返し……変化を恐れて、痛みを恐れて、一定以上は踏み込まない。彼の側に近寄る他人が許せないのに…自分に向けられる不躾な視線が煩わしいのに…貴女は何時も何でも無い様に、澄ました顔で対応していく。必要以上に期待せず、だから必要以上に傷付かない……ホントは独占したくてしたくて仕方無くて、彼に近寄る悪い虫を全部排除したいのに、それがバレた時に、彼に嫌われるのが怖くて何も出来ない。思いを告げる事にすら臆病になって、今の関係を変える事すら出来ない。なのに諦め悪く彼の優しさに甘えてる。そしてそんな自分に呆れてる。そんな事なら、いい加減―――」
――――――諦めませんか?
「――――――――――っ!!!」
ズドンッ!!!
偽キョムの言葉に激昂したキョムの大振りの振り下ろしが躱され、硬い石の床を叩き付ける音が響き渡る。
それは、このダンジョンに入ってから、キョムが初めて見せる動揺だった。
何時でも飄々としながら、ほとんど表情を崩す事の無い彼女が、この時ばかりは苦虫を噛み潰した様な渋い表情を浮かべる。
尤も、それも一瞬の事で、直ぐに元の無表情の変わったが。
しかし偽キョムの言葉は投げ続けられている。
「怒りました?怒りましたよね?でも怒った所で、現実は、事実は変わりません。貴女は結局何も出来ないまま、寄生虫みたいに彼に引っ付いて、その優しさを啜るだけ。そうやって彼の幸せを潰すだけ。はた迷惑極まりない汚んなです。だったらいっそのこと諦めましょう?素直に彼から離れましょう?その方が自分と彼の為になります。だから、さあ、諦めましょう?」
笑顔で諭す様に話し掛け続ける偽キョムに、キョムは杖の振り下ろしでもって応える。
ズドンッ!!
ズドンッ!!
ズドンッ!!
ズドンッ!!
連続4回の振り下ろしと空振りによる床への打撃音。
偽キョムは怪訝な顔で、キョムへと目を向ける。
「何故、無駄だと分からないんですか?貴女は私に攻撃を当てられ無い。キーノさんも膠着して動けないのに何を――――っ!?」
偽キョムが言葉を続けようとした時、不可視の力場が偽キョムを拘束し、言葉を止める。
「(パクパクパクパクパク)」
声も出せず口を動かす事しか出来ない偽キョム。
「ふ、ふふふふふふ……!!」
そんな偽キョムの姿を見て、キョムは珍しく頬を薄く紅潮させながら暗い笑顔を浮かべる。
「設置型のトラップ、「無言の檻」に囚われた気分はどうですか?これ、床にポイントを5つ設置しないといけないので、怪しまれずに配置するのに苦労しましたよ?まあ、その分名称を言う必要が無いのは助かりますけどね。」
無言の檻:床に設置した5つのポイントの内部に拘束用の結界を作り、捕らえた対象に状態異常サイレントを付与する 消費MP50 対象5つのポイント内の敵
「まさか、私があの程度で本当に怒るとでも思ったんですか?演技に決まっているでしょう?」
クスクスクス
キョムはそう言って、再び杖を振り上げる。
その顔は暗い笑みを湛えたままで、キョムの顔の造りが整っているだけに、恐ろしさが強調される。
「私、信じているんです。きっと彼は私を選んでくれるって。だって、私はずっと、ずーーっと彼の側で、そうなる様に仕向けて来たんですから。だから、私は焦らないんです。だから、私は諦めないんです。彼が私に思いを告げてくれるまで、私は待ち続けます。だって、彼の選択肢は私だけですからね♪だから―――」
――――――心配無用です♪
グシャッ!!!
生々しい音と共に、偽キョムの体が消えて行く。
その頭は、キョムの手にする杖によって砕かれ、表情は分からない。
ただ、その顔はキーノや偽キーノの様に、恐怖に歪んでいたのでは無いかと思われる。
何せ、キョムの中にはダンジョンが突き付ける以上の闇が蠢いていたのだから。
その後、キーノとキョムは難なく偽キーノを倒して次の階層へと降りて行った。
キーノに新たなトラウマを刻み込んで……
「今聞いた事、内緒にして下さいね?キーノさん。」
「ふぁい!!」
はい、キョムは病んでます
それはもうかなり病んでます
理性的に病んでるとか言うやっかいな状態なので、こんな時でも無ければ分からないでしょう
正直これからどうなるか不安です…
まあ、何とかなるでしょう←現実逃避
評価、感想などよろしくお願いいたします




