閑話 外道と聖女と羅刹2
前話の裏側になります。
ザザザザザザッ……
AWO内午後8時。
キーノ、カナタ、キリアーネは森の中を万月草の丘に向かって走っていた。
狙いは目の前を走る白毛の角が生えた狼だ。
「くっそ!AGIじゃ負けてねえのに!!森の木が邪魔で距離が詰められねえ!!キーノ!何か良い魔法はねえのか!?このままじゃ丘のハルナちゃんの邪魔しちまう!!」
「無茶言わないでよ!僕だってスロウエリアが展開出来なくて焦ってるんだから!!キリアーネさん!セイントフィールドはまだ無理ですか!?」
「すみません……!この距離だと多分展開が間に合わないです……!!」
三人は獲物である狼―――月角狼を見付けたは良いが、予想外に逃げ足が速く、捕らえられずにいた。
「どうするキーノ?奴さん、多分ムンクリ食って力にするつもりだぞ?」
「それは気にしなくて大丈夫だよ。ハルナの敵じゃない。だけどそれじゃ僕らの経験値にならない。だから、新しくアーツを創る。」
「わざとハルナちゃんに近付けさせるんですか……?」
「僕としてはその前に捕らえたい所ですが…捕まえられなかった場合は、ハルナに隙を作って貰う事になるでしょうね……」
悔しそうにそう話しながら、キーノは少し速度を落として、手早く新しいアーツを創っていく。
『場所「存在感」、効果「薄く」、効力「最大」、タイミング「瞬時」、反動「無し」、持続時間「最大」』
ハイ・ハイド:対象の存在感を希釈し、周囲に同化する 消費MP30 対象一人
『場所「移動音」、効果「小さく」、効力「最大」、タイミング「瞬時」、反動「無し」、持続時間「最大」』
微弱音:対象が移動の際に立てる音全てを小さくする 消費MP25 対象一人
『場所「におい」、効果「薄く」、効力「最大」、タイミング「瞬時」、反動「無し」、持続時間「最大」』
微弱臭:対象からの匂いや臭い全てを薄める 消費MP25 対象一人
「行くよ!「ハイ・ハイド」×3!「微弱音」×3!「微弱臭」×3!」
キーノが出来立ての魔法を行使した瞬間、三人の姿が突然消えた。
いや、実際には消えた様に見えるだけで、三人は普通に存在している。
キーノが薄くしたのはあくまでも「存在感」であって、「存在」そのものでは無い。
もしこれが「存在」の希釈であれば、異界と融合したニューヨーク、ヘルサ○ムズ・ロ○トに住まう人狼達の様に物を通り抜ける処か、フィラデルフィア計画の犠牲者の様に周りに存在する物と融合しているところだ。
まあ、キーノはそれを解っていたから「存在感」の希釈に留めたのだが……
「おっ!月角の奴、俺達の事見失ったみてえだな!!な、キー………の……?」
そこでカナタは右隣に居る相棒へと視線を移すが、キーノの姿は何処にも見受けられない。
それ処かキーノが走る音すら聞こえない。
時折掻き分けられる草木を見る事が無かったら、其処に誰かが居るとは思わなかっただろう。
それだけ、この魔法による隠蔽は完璧だった。
(マジで何処に居るかわかんねぇ……って言うか、声も聞こえないのか?)
そう、微弱音は移動中の話し声まで小さくしてしまう為、この3連コンボを決めた場合、お互いの事も見失うと言う欠点が有るのである。
しかし其処は我らが外道魔導師。
しっかり対処してくれる。
『あーあー!聴こえる?聴こえたら返事して。』
『うおっ!?いきなり耳元で声が!?』
『び、びっくりしました……』
『ごめんごめん!これは空間魔法の「ウィスパーチャット」って言うんだ。ゲートを覚える為の練習用の魔法だね。それで先に謝るね?ごめん!後5秒で森抜けて丘に出ちゃう……』
『『マジ(です)かぁ……』』
『後で一緒に謝ってね?』
『『了解(です)……』』
そして5秒後、月角狼と三人は森を抜け、ハルナとムンクリの居る丘に出たのだった。
そして―――
「わふぅ♪今の私なら、貴方なんて楽勝なんだから!!」
―――予想通り、月角狼はハルナと対峙しており、完全に三人の事を忘れている。
『二人は僕が「殺った」と合図したら軽く殴り付けて下さい。そしたら僕が奴を“箱庭”に収納します。』
『『了解(です)……!』』
僅かな時間でそんなやり取りを交わす三人。
そして、ハルナが月角狼に飛び掛かろうとした瞬間―――
「ふふふ!さぁ~~覚悟して―――」
「殺ったああああああぁぁぁ!!!“箱庭”収納!!」
キャインッ!!!?
キャウ―――
「―――え?」
―――カナタとキリアーネが合図と共に左右から軽く殴り付け、真後ろから迫っていたキーノが空かさず月角狼を箱庭へと収納した。
現在、箱庭は生物が生きれる環境では無い為、月角狼は数分で窒息死するだろう。
死骸はそのまま時が止まり保存されるのである。
尤も、今の三人にはもっと大切な事が有るので、気持ちはそちらに向いている。
「し、師匠?まさか、アーネちゃん達も―――」
「居るよ……?ハルナちゃん……」
「ああ、居るぜ?ハルナちゃん。」
「ぴゃっ??!い、いいいいいつの間に居たんですか!?」
月角狼を襲った時にアーツの効果は全て切っていたのだが、気が動転してハルナは直ぐには気が付かなかったらしい。
「来ちゃダメーー!!」
状況が飲み込めた瞬間、何かを隠す様に双剣を三人に突き出し威嚇するハルナ。
「何にもいないの!!何にもいないの!!!」
そう叫んだ時、ムンクリがハルナの足の間から顔を出し、ハルナは○蟲の子供を守るナウ○カの様にそのムンクリを草むらに押し返す。
「出てきちゃダメ!」
「やっぱり、ムンクリに会いに来てたんだな。」
「そうだな。」
「ハルナちゃん……」
「お願い、殺さないで!!お願い……!」
涙を目に溜めながら必死に頼み込むハルナの姿に、三人は苦笑いを浮かべる。
元から危害を加える気など無いのだ。
ただ、普段の行いのせいで、この手の事は信用されていないのだなと痛感させられて、少し情けない気持ちになったのだった。
そして―――
ポン……
「ごめんね、ハルナ……別に怖がらせる気は無かったんだ。」
ナデナデ
「ハルナちゃんがムンクリと仲良くしたがってたのは、実は結構前から知ってたんだぜ?」
ギュッ
「だから、もう隠さなくて良いんだよ……?皆、その子の事を狙ったりしないから……」
「ふぇ…?ほ、んと……?」
「うん、本当。」
「ホントに本当?」
「ああ、間違いなく本当だ。」
「ホントのホントに本当?」
「もう、ホントのホントに本当、だよ……?」
―――三人はハルナに謝罪しながら宥めるのだった。
キリアーネに至っては涙目になりながら強く抱き締めている。
「ふぇ、え……うぇえええええ……!ふ、うぅ!よがっだあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!ほんどによがっだあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
やっと安心したハルナはそのまま5分程キリアーネを抱き締めながら大声で泣き続け、そして―――
「ひっく…ひっく…わふぅ……さっきは、ごめんなさい……」
「良いよ。基本カナタとキリアーネさんが経験値ゾンビなのが悪いんだし。」
「「うぐっ!?」」
パチィッ!!
「わふっ!?」
ピコンッ!
『月晶兎が従魔契約を希望しています。契約に応じますか?Yes/No』
「ムンクリちゃん……」
―――念願の月晶兎との従魔契約を―――
「うん、これから宜しくね?ムクちゃん!!」
「キュッ!」
―――完了するのだった。
その光景を、三人は暖かい目で見守り、もう少しモンスター狩りは―――特にカナタとキリアーネは―――自重しようと思うのだった。
余談だが、今回仕留めた月角狼はキーノが一人で解体し、必要になりそうな部位以外は全て売り払ってしまい、他の二人と少し揉めていた。
その結果、キーノが「ゲート」の呪文を覚えたらまた月角狼狩りに付き合う約束をさせられたのだった。
「どうしてこうなった!!」
自業自得である。
キーノのアーツに犯罪臭がするものが増えて来た気がします…
次回は幕間で技能喰らい戦を考えてます
良いなと思えたら評価、感想の方よろしくお願いいたします




