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PKはボーナス袋です

内容は特に変わりませんが、細かい所を手直ししています


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


人を食い物にする奴は恐ろしいが、それすら食い物にする奴はもっと恐ろしい……

 男達は気配を殺していた。

視線の先には市場を散策している可憐な少女――に見える少年、キーノが居た。


「クックックッ、間違いねぇ…ありゃ外道魔導師だ。」


「ああ…だが、気を付けろよ?あいつ、ホルダーだぞ!どんな鬼畜外道な能力を持ってるか分かりゃしない。」


「なぁに、安心しな。ここじゃ街中PKは出来ねぇ仕様だ。つまり俺らからも、あいつからも手は出せねえ。ただ―――」


 男はニタリと醜悪な笑顔を見せると、心底楽しそうに続きを口にする。


「多対一のPVPは出来る。しかも奴の性格からして特に何も考え無いで受ける筈だ。何せ、奴にとってPKはボーナスの詰まった茶封筒でしかねえからな。ホルダーだって言うなら多人数相手でもやる!間違いなく!」


 男は思い出していた。

昔キーノを狩ろうとPK仲間数人とフィールドで待ち伏せしていた時の事を……

そして簡単に蹴散らされ、動けなくされた自分達に止めを刺しながら呟いていたキーノの言葉を……


『いやぁー、やっぱりPK狩りは美味しいなぁ。有り難うボーナスを運んで来てくれて♪今後も頼むね?』


 屈辱だった……

これでも、それなりに恐れられて来たと言う自信やプライドが有った。

しかしキーノにとっては、自分も他のPK同様単なるボーナス袋でしかなかったのである。

負けた事よりも、寧ろそんな認識しか持たれなかった事の方が、彼にとっては耐え難かったのだ。


「だがそれも今日までだ……!今の奴ならホルダーでも大した事はねえだろう。なんせ報告通りなら、奴はまだレベル1!そしてこっちは10が四人だ!!」


「そうだな!今までのツケを払って貰おうぜ?」


「ふひひひひ!キーノたんハァハァ……」


「殺す前にひん剥いて晒してやりたいとこだぜ!まあシステムのせいで無理だけど……」


 一人別ベクトルでヤバイのが居たが、誰も突っ込む事はせず、キーノの尾行を続ける。

そしてキーノが人気の無い路地に入った所で、四人は一気に接近し、取り囲む。


「よお、外道魔導師。一人とは珍しいなぁ?何時もの「羅刹」は一緒じゃねえのかい?」


 ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべながら迫る男達を睨み付けながら、キーノは支給されたばかりの腕輪着けた右手を前方にかざし構える。

その瞬間―――


         ピコンッ!!


『キーノがPVPを了承しました。これよりチーム戦形式のバトルが開始される為、半径50メートルに結界が展開されます。この結界はバトル終了まで解ける事はありません。バトル終了はどちらかの全滅となります。』


「っ!!!?」


「ヒャハハハハハッ!こいつは良い!!!AWOの中じゃPVP申請に構えを取ると即座に了承になるみてえだなぁ?ま、お前なら普通に受諾したんだろうがな!」


 そう言った男の手には、いつの間にか大剣が握られていた。

どうやらストレージに仕舞っていたらしい。


「そんじゃ―――行くぜっ!!!!」


〇〇〇〇


「っ~~~!!」


 キーノは焦っていた。

何時もなら男達の言うように、複数人だろうとPVPは受けただろう。

だが、今はまだレベル1の上、ユニークスキルも存分に使いこなせていないのだ、四人相手に勝てる筈も無い。

救いがあるとすれば、高い種族値に高価な装備のおかげで爆上げされたステータスにより、何とか敵の攻撃を躱す事が出来ていると言う点だろう。


(けど、正直じり貧だよ……攻撃が判りやすいから避けれるけど、魔法を使う隙がない……!)


 今のキーノはジョブこそ冒険者だが、ビルドは完全に後衛魔導師である。

しかも得意な戦法は敵を魔法罠に嵌めてからの弾幕制圧だ。

真正面からの多対一等、専門外なのである。

だいたい今はレベル1、初期も初期だ。

ユニークは非戦闘系にクソスキルのみ。

まともな戦闘手段は通常スキルの攻撃魔法二種のみときている。


(あ、詰んだかも……なら、少しでもスキルの実験をして散ってやる!)


 部が悪い所では無いこの状況に開き直るキーノ。

その瞬間、一つのメッセージが浮かび上がる。


『「万物鑑定」、「万物認識」がパッシブになりました。これにより自動鑑定、自動認識状態に移行します。』


「へ?なっ……!!」


 そのメッセージと共に、キーノの目の前に先程までは無かった情報が所狭しと表示される。


「こ、れは……っと!?あっぶな……」


 あまりの情報量に数瞬動きが止まってしまい、その隙を突いたタックルが迫っていたが、ギリギリの所でなんとか躱す。


(さっきのは本気で危なかった…にしても、何?これ……)


 今キーノの目には不思議な光景が映っていた。

相手が様々な色で、大小様々な大きさの半透明な球体に包まれている上に、一人一人から矢印が自分に向かって伸びているのである。

しかも、地面を視れば赤色で扇状の「効果範囲」と思わしきエフェクトが敵から伸びていた。

それが伸びているのは二人。

一人は弓装備で、もう一人はキーノと同じ魔法職らしく杖装備だ。


「余所見してる暇なんかあんのか?オラァッ!!」


 列帛の気合いと共に繰り出される重さの乗った豪剣……

しかしキーノはそれを苦も無く避ける。


「なっ……!くそっ!」


 更に連続で唐竹、逆袈裟斬り、袈裟斬り、横薙ぎと次々攻撃を繰り出すPKの大剣使い。

そこに双剣使いや弓、魔法の援護が有るも、キーノはそれらをヒラリヒラリと余裕を持って躱していく。

それどころか―――


―――火矢ファイアアロー


―――遂には魔法での反撃迄行ってみせたのである。

その動きは、襲撃当初とは明らかに別物だった。

戦いながら成長している、と言うべき変わりよう。

その最たる要因はやはり、先程パッシブになったスキル、万物鑑定と万物認識であろう。

その中でも万物認識の効果がヤバかった。


(間違いない。万物認識のお陰で、攻撃のタイミング、軌道、範囲、全部判る!しかも相手の意識の方向や安全地帯まで判るから、詠唱の隙まで作れるなんて!これはホントに凄いスキルだっ!!)


 そう、万物認識は本当にありとあらゆるモノを認識出来るようにするスキルだったのである。

しかもこれでもまだ、能力は十分の一しか解放されていないのだから、そのチートさも分かろうと言うものだ。

更に言うと、此処までスムーズに使えるのは万物鑑定により、それぞれが何を表しているのか判るよう名称を表示しているからだ。

正にセットなのである。


「くそっ!くそくそくそくそっ!!!!こんな、こんな筈じゃねえんだ!ろくに装備もねえ駆け出しに俺達が負けるわけギャアアアア!あが、が……」


 苛立ちから立ち止まり、大声を上げていた大剣使いは、大きく開けていた口内をキーノの火矢に撃ち抜かれて絶命し、光となって消えた。


「まず一人……」


 勝利の余韻に浸る事も無く、キーノは次の獲物に狙いを付ける。


「カマイタチ!」


 キーノから放たれた真空の刃は、狙い通り魔法の詠唱に入っていた魔法使いの首へと当たり、一撃でその命を刈り取る。

当然、魔法使いは光になって消えた。


「成る程、やっぱり急所への攻撃はダメージもデカいんだな。」


 此処にいたり、残った二人は立場が逆転した事を悟る。


(レベル差が有ってもこれかよ!化物が!!)


「キーノたん…キーノたんハァハァ……」


「っていつまでやってんだお前は!そんなに好きなら抱き付いて動きでも止めて来い!一緒に切り捨ててやっから!!」


 そう言って、双剣使いは弓使いをキーノに向かって蹴り飛ばす。


「キィィーノたああああん!!!!」


 それを受けて弾丸の様に迫って来る弓使い。

キーノはそれをサイドステップで軽く躱し、置き土産に火魔法のボムをくれてやる。

顔面から突っ込んだ弓使いは良い笑顔で光になった。


「後一人だね。」


「くそっ!テメエチート過ぎだろ!!?」


「文句なら運営に言ってよね?」


(とは言え、まだまだ油断出来ないんだよなぁ……万物鑑定と万物認識で、弱点とかが判るし隙も付けるけど、警戒された状態で正面から来られるのはキッツいなぁ…あ、そうだこれ試してみよう。)


「緩急自在……!」


 双剣使いに聴こえない声量でボソリとそのクソスキルの名前を呟く。

すると、キーノの目の前に場所、効果、効力、タイミング等のパラメーターが表示される。

キーノはなんとか双剣使いの攻撃を躱しながらそれらを弄っていく。


「場所「ベルト」、効果「緩める」、効力「最大」、タイミング「攻撃時」!」


 スキルの実行と共に繰り出された双剣からの十字斬り!

軽く躱すキーノ。

次の瞬間!


       ズルッ!


と、双剣使いのズボンがずり落ちた。

慌てて履き直そうとするも、上手くいかずずり落ちる。

そしてその3秒後――――


「いってえええ!?腹が、腹が締め付けられるうううう!!!!」


 双剣使いがズボンを持ち上げた所で効果が切れ、ベルトがいきなりしまったのだ。

しかしどう見ても最初よりきつくなっている様に見える。


(どうなってるんだ?)


 実はこのスキル、効果が切れると効果時間分だけ、逆の効果が現れるのだ。

つまり反動持ちスキルなのだ。

なので、双剣使いは今物凄い締め付けを喰らっているのだ。


「も、無理……」


 最後にそんな言葉を残して、双剣使いは光になって消えていった。


『勝者、キーノ!』


 戦闘終了を知らせるプレートが出現すると、周りの結界も解除される。

すると、先程の戦いを観ていたと思わしきプレイヤー達がひそひそと数グループに別れて話をしていた。

その内容はどれもキーノのヤバさについてだったが、またもやキーノは呆然としていた為、その話し声は一切届いていなかった。


(これ、もしかしなくても外道魔導師一直線じゃないの?今度こそ、その不名誉な通り名から解放されたかったのに……!)


 最早、キーノが外道魔導師と呼ばれるのは運命だった。

まあ、あんな鬼畜外道な倒しかたでは仕方ないだろう。


「はぁ~~…やんなるなぁ……」


(戦利品でも観ながら広場にいこぅ……)


 無理にでも気分を変えようと、キーノはメニューを開きログから戦利品を観ていく。


「わっ!四人で10万も入ってる。しかも火魔法はLv2になってるし、なかなか良さそうなアイテムも有るな。やっぱりPVPとかって美味しいなぁ♪」


 さっきまでの不機嫌さなど何処へやら。

キーノは足取り軽く、上機嫌に鼻歌を歌いながらギルド前広場へと戻っていったのだった。


〇〇〇〇


 キーノが戦っていた路地近くの暗い路地裏。

そこで二人の人影が話をしていた。


「おい、見たか?」


「ああ、見たぜ!」


「やっぱり外道魔導師はヤバイな。」


「だが、だからこそ名を上げるのに役立つ。だろ?」


 人影のうち一人が楽しそうにそう問い掛けると、もう一人は神妙に頷く。

その手には幾つかの名前らしきメモが書かれた手の平サイズのメモ帳が握られている。


「ああ、そうだ。この世界における冒険者の集まり、クラン。そこで成り上がるには、奴のような存在を引き入れるか倒すかしないといけない。まあ、まだシステムは解放されて無いけどな。」


「けど目星は付ける必要がある。オレとしては奴は是非引き入れたいね!」


 そう言った人影は実に楽しそうだった。

余程キーノが気に入ったらしい。

しかしもう一方は何処かキーノに対して怯えているように見える。


「私もそれには賛成だ。だが、だからこそ慎重にいくぞ!敵対したくないからな!」


「了解了解。」


「ホントに気を付けてよ?敵に回すと怖いんだから!?分かってるよね!!?」


「地が出てる地が出てる。」


「っ!と、とにかく今日は解散だ!ではな!!」


 顔を赤くしながら誤魔化す様にそう告げる人影。

その後、二人の人影はその場から忽然と消えたのだった。

そして、此処からAWOはキーノとキーノの友人達によって、どんどんとカオスな展開が増えて行く事になる。

まあ、毎度のごとく、キーノは一切気付いていないのだけど……


「クヒュンっ!んー…誰か僕の噂でもしてるのかな?」

此処からキーノのスキルが一変しだします


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