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ズィロー砦の崩壊(後編)

すみません!

だいぶ遅くなりましたが更新です!


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


終わりはいつも突然訪れる。

―――15分前―――


 キーノ、カナタ、ハルナ、キリアーネの四人は街道を砦に向けてひた走っていた。

そんな中、キーノは視界の端に映るズィロー砦崩落までのカウントダウンに時折視線を向ける。


(カウントダウンが早まってる?)


 1秒刻みで刻まれているかに思われたカウントは、しかし一定では無く、時折10秒や5分位一気に数値が跳ぶ事が有り、これがただのゲームイベントでは無い事を如実に伝えて来る。

そしてそんなものを見せられれば、当然焦りも出始めると言うもの。

だが、キーノは冷静だった。


「皆、ちょっと止まって!」


「ん?分かった。」


「どしたんです?急に。」


「何か起きたんですか……?」


 キーノの言葉に素直に止まる三人。

カナタは当然として、ハルナとキリアーネも、もうキーノが無駄な指示を出さないと分かっているので、疑問は口にしても指示に逆らう事は無い。


「少し進行速度を上げます。その為の準備をするので少し待ってて下さい。」


「新しいアーツか?」


「いや、アーツだと多分かなりMPを使うだろうから、素の能力だけでいくよ。」


「わふぅ~いつ聞いても頭ぶっ飛んだ能力ですよね。アーツにしないならMP消費無し(・・・・・・)だなんて。」


「でも、こう言う時は助かりますね……」


「だな。」


「じゃ、ちょっと待ってて下さい。」


 そう言ってキーノは緩急自在を起動する。

この緩急自在、何と無くそうなんだろうと感付いていた方も居たのだろうが、先程ハルナが発言した様に、アーツでは無く、素の能力だけであればMPを消費する事無く、補助や攻撃が出来るチートスキルである。

ただし、設定画面に意識を割かなければならない為、その隙を付かれる危険性は有る。

故に、同じ理由で事故が起きないようにする為、キーノは一旦この場に止まったのだ。


『場所「速度」、効果「速く(きつく)」、効力「最大」、タイミング「瞬時」、反動「無し」』


『場所「時流」、効果「速く(きつく)」、効力「最大」、タイミング「瞬時」、反動「無し」』



 以上の2つを、キーノは上から順に皆へと掛けていく。

因みにバフやデバフの場合、生物には同じ効果のモノを重ね掛け出来ないのが難点なのだが、似た効果にすれば幾らでも掛けられるのが利点だ。

その分どうするか考えなければいけないのが大変だけれど……

またこの2つは一応アーツとして保存する事にしたようだ。

効果は以下の通りである。


高速化(ハイスピード):対象のAGIを2倍にする 消費MP60 対象一人


クロックアップ:対象の時間の流れを2倍にする 消費MP75 対象一人


 これにより四人の速度は単純計算で4倍となった。

更に道は歩き易くなるよう整備された街道である。

そして時間はまだ一時間程余裕があり、行程は半分近く来ている。

間に合わない筈が無かった。


「行こう!崩落する前に、なるべく助けないと!」


「ああ、此処まで来たならトップギアだ!!」


「わふぅ!師匠もカナタさんもアーネちゃんだって置いてっちゃうんだから!!」


「ふふふ、それじゃあハルナちゃんは生け贄になっちゃうよ……?」


「それ私じゃ勝てないって事ーー!?」


「「「うん。」」」


「わふぅーーーー!?!?」


 などとコントをしながらも、四人は砦へ向かって走り出す。

その速度は尋常では無く、後ろに砂煙が立昇る程だった。

そして―――


「―――しっ!何とか間に合ったか?」


「そうだね。危ない所だったけどなんとか間に合ったみたい。」


「全く!ホントに許せないモンスターですね!!」


「そうだね……本当に、許せない……!!」


―――四人は、騎士達のピンチに間に合ったのである。


〇〇〇〇


「あ、貴方達は誰っすか?」


 ミルアは、今目の前に広がっている光景が理解出来なかった。

いや、理解したく無かった。


 突如として現れた正体不明の蟻型モンスターに、そのモンスターに捕まり凌辱されかけた上司と同僚。

更に手足を滅茶苦茶にされた同僚も居て、どうすれば良いかも分からなくなってしまい困惑の極みに至った所で、まるで物語の勇者や英雄の様に現れた四人の男女。

あまりにも出来すぎた事態を前に混乱は更に度合いを深めて行くのだが、それをより深める要素が其処には有った。


(似てる(・・・)っす……)


 四人の男女、その内二人の人物に、見覚え――いや聞き覚え?があった。

赤い髪の細マッチョなイケメン剣士に、女顔の金髪碧眼美少年魔術師……


 ミルアは恐る恐る先程から無言でいるリーリエへと視線を向ける。

その瞳は魔術師の少年へとロックオンされ、ハートが見えるかの様に熱が籠った視線を注いでいる。

そしてミルアの視線に気付いたリーリエは、何故か勝ち誇った様なドヤ顔をしてきた。


イラッ……


としながらも視線を少年達に戻すと、魔術師の少年が此方を向いて少し早口で断りを入れ、他の三人に指示を出す。


「すみません、話は取り敢えずこのモンスター達を殲滅した後でお願いします。カナタ!キリアーネさん!残った技能喰らい(スキルイーター)の殲滅を!ハルナは被害者の確保!僕は増援の警戒と殲滅をする!」


「「「了解!!」」」


「え?なっ……?!」


 女顔の少年と思わしき魔術師が指示を出した後は、信じられない程迅速に事が運んだ。

まず、赤髪の剣士が刀で目の前の蟻共を紙でも切るかの様にあっさり斬り捨てていく。

勿論棚には一切傷付けずに、だ。

それに負けじと、真っ赤なガントレットを装備した神官か僧侶と思わしき銀髪の美少女が、思わず見蕩れるような美しい笑顔で、狂笑を上げながら反対側の蟻共を一撃で粉砕していく。

その中を、狼獣人のこれまた美少女が、目にも止まらぬ速さで駆け抜け、捕まっていた三人を救出して戻って来ていた。

そして、その直ぐ後で、大量のスキルオーブを抱えた剣士と僧侶が、倉庫の中から出て来たのだった。

この間、僅か2分の超早業である。


「え、え~~…なんっすかそれ……なんっっっすかそれ!!?何でそんな事も無げに未知のモンスター殲滅してるんすか!?マジであんたら何もんなんすか!!有り得ねーっす!!アタシら一応合計レベル150越えでB~Aランク相当の力が有るんすよっ!?そんなアタシらでも手が出せない様な化け物に何でそんなあっさり勝ってるんすか!!有り得ねーっす!!マジ有り得ねーっす!!見た感じ装備もまだCランク程度のもんなのに!?マジなんなんっすかーーーーーー!!!?!!?」


 激しく混乱するミルアは、頭を抱えながら矢継ぎ早に理解不能な現実に対する愚痴の様に有り得ない有り得ないと喚き散らす。

実際、スキルを使わなければキーノ達はミルアや捕まっていたベルニス達からあっさりやられる程度の力しか無い。

なんせキーノとキリアーネの合計レベルは40で、カナタは80、ハルナでやっと100なのだ。

あ、因みにだが、四人ともアップデート前にはレベルをMAXまで上げており、職業も見習いを卒業している。

そして職業レベルはアップデート後に確認したら、基礎レベルと同じだけ有ったのである。

故にこの数値なのだ。

後、見習い系が第二職業とかに回る事は無い。

どこぞの無職を辞められない成長チートとは違うのである。


「ちょっ、落ち着いて下さい!今説明しますから!!」


「そうっす!説明を求めるっす!!これじゃあ何でアタシらがこんな簡単に殲滅されたモンスターに簡単に負けたのか納得いかないっす!!だからさっさとせつべっ!!!?」


ゴンッ!!


 と、鈍い音が響いたかと思うと、ミルアは後頭部を押さえて蹲り、その隣に立っていたリーリエがニッコリと微笑み、少年魔術師―――キーノの右手を両手で取り礼を述べる。


「この度は私の同僚が失礼しました。そして隊長と同僚の隊員を助けて頂いて有り難う御座います!厚くお礼申し上げます。ところで、その~~貴方のお名前を伺ってもいいですか~~?それと、良ければお礼も兼ねて後日街でお食事でも――――」


「リーリエ!まだ気が早いぞ!それに気持ちは痛い程、本っっっ当に痛い程分かるが!先ずはマルクの治療と我々や他の隊員達の安全確保が先だ!!」


 リーリエがお礼の次いでにキーノを口説こうとした所で、助け起こされ、喰い奪われたスキルを技能喰らい(スキルイーター)からドロップしたスキルオーブで再習得したベルニスが諌める。


 リーリエはそんなベルニスの姿に安堵し、キーノに軽く頭を下げると、蹲っていたミルアの手を引いてベルニスへと駆け寄った。

そして、捕まり文字通りズタボロにされてしまったマルクの治療を回復魔法で行っていく、が―――


「何で、回復魔法が効かないんだ……!?」


「私の魔法じゃ、これ以上のは無いですよ~~……」


「アタシの治癒魔法も効かないっす!どうなってるっすか!?」


「そ、そんな……それじゃあマルクは……!」


 助かったと言う安堵から一転、恋人が助からないかも知れない事に涙するサーナ。

その姿を見て、キーノ達四人はベルニス達の元へと集まる。


「四肢欠損を治せる人は居ますか?」


「え?一応、私が治せますけど…でも、さっきから何度掛けても失敗するんです……」


 キーノの問い掛けに力無く答えるリーリエ。

俯き微かに肩を震わせるその姿は実に痛々しい。


 キーノはそんなリーリエを見て、キリアーネにアイコンタクトを送ると、キリアーネは静かに頷き呪文を唱える。


「「浄化の後光」!」


 その瞬間、キリアーネの背後に光の輪が生まれ、前方に向けて白く強い光が放たれる。

その純白の光は、辺りを埋め尽くす程に強いのに、目を瞑らなくとも眩しさは無く、とても柔らかで美しい光だった。

そして、その光は僅か数秒で終わり、辺りは先程と何ら変わらない様子を見せる。

ただ一人、マルクを除いて。


浄化の後光:アンデッドに固定ダメージ600、呪いの解除 消費MP35 対象範囲前方全域

クールタイム

40秒


 それが天使魔法(エンジェルマジック)のアーツ、浄化の後光の効力である。

そしてそれを受けたマルクからは、どす黒い靄が立ち昇り、立ち昇った端から光の粒子に変わって消えていく。

そんな光景が十数秒続いた後、靄は出なくなった。


「これでもう大丈夫です。早く魔法で手足を治してあげて下さい。」


「は、はい…「リジェネレイション」!!」


 回復魔法の中級アーツである「リジェネレイション」により、革の水筒みたいにぐにゃぐにゃになっていたマルクの手足が、徐々に元の形へと戻っていく。

その様は見ていて気分の良いものでは無いが、これで犠牲者を出さずに済んだと、キーノ、カナタ、ハルナ、キリアーネの四人はホッと胸を撫で下ろす。

やがて傷が完全に治ると、マルクは気絶する様にそのまま寝てしまうのだった。


「取り敢えず、これでマルクは一安心だな。すまんなサーナ…結果的に助かったとは言え、一度は見捨てる様な真似をして……」


 一先ず落ち着いた所で、ベルニスはサーナへと頭を下げて謝罪する。

どうやら相当気にしていたらしく、その顔は泣きそうな程に歪んでいた。


「良いんです……隊長の立場なら仕方有りません。それに、隊長は助けようとしてくれたじゃないですか。それだけで十分です。」


「即座に捕まったがな……」


「それでもです。」


 自虐を込めた言葉に、サーナは首を横に振る。

その蔦色の瞳には、確かな感謝の念が込められている事が、部外者であるキーノ達にも分かった。


「そうか、有り難う……さて、待たせて済まない。改めて自己紹介しよう。私はミステス王国騎士団、「剣花(けんか)騎士団」所属の薔薇の小隊小隊長を務めるベルニス・グリッドだ。そちらは?」


「我々は異邦人のCランク冒険者です。本当は谷の調査のクエストだったのですが、とある事情により、この砦の窮状を知り駆け付けました。自分はこのパーティーのリーダーで、剣士のカナタと言います。よろしくお願いします。」


「う、うむ。しかし、そちらの魔術師がリーダーでは無かったのだな?」


 ベルニスは頬を僅かに赤らめながら、キーノへと視線を移す。


「初めまして、魔術師のキーノと言います。僕はリーダーでは有りませんが、戦闘における司令塔をさせてもらってます。」


「成る程、参謀か…ではそちらの少女達は?」


「わふぅ!私は双剣士のハルナです!マスコット兼遊撃手です~~!」


「私はキリアーネです……僧侶で、前衛をしながら回復と補助をしています……」


「な、なんとも個性的なメンバーなんだな……しかし、実力は折紙付きか…私達でさえあっさりとやられたモンスターをあっさりと殲滅してしまったのだからな。」


うーーむ……


 と顎に手を当て考え込むベルニスに、キーノが声を掛ける。


「取り敢えず、現状で僕らが知る情報をお伝えするので、一旦外に出ませんか?多分、建物の中よりも、見晴らしの良い場所の方があの手のモンスターには有効だと思いますよ?」


「それも、そうだな……うん、それでは君達の言葉に従うとしよう。リーリエ!サーナ!聞こえていたな?マルクを連れて一旦外に行くぞ!」


「「はい!!」」


 こうして、キーノ達は一旦ベルニス達を連れて外へと退避する。

キーノにしてみれば、それは単に死角からの強襲を警戒しなくて済む様にしたいからした提案だったが、結果的に、それはベルニス達の命を救う結果となるのだった。


ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


「な、なんだこの揺れは!?」


「くっ!?まさか……!!」


 外に出て、少し宿舎から距離を取った所で、突如としてそれは起こった。

凄まじい迄の地震だ。

キーノはまさかと思い、視界の端に映る残り時間を確認する。


   『砦崩落までの残り時間0時間00分00秒』


 それは、時間切れを報せる表示だった。

そして、その事を裏付ける様に、ズィロー砦は地盤沈下により地面の下へと崩落していく。

この日、ミステス王国前線基地のズィロー砦は、崩壊したのだった。

砦が崩壊してしまった…

中の人はどれ位生き残れる事やら…


良いなと思えたら評価、感想の方よろしくお願いいたします

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