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親友はチートしていた

内容は変わりませんが、細かい所を手直ししています


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


それは余りに理不尽で……

「はあ、獲得経験値八分の一って…装備は良いの貰えたけど、あんまり過ぎるよ……!!」


 キーノは立ち直り切れず、涙を目端に溜めながら下の階に降りて行く。

その間に、支給された装備一式をゲームシステムで一括装備する事は忘れない。


「にしても、ウルナさんやたらご機嫌だったな…笑い声が外まで漏れてたけど何がそんなに嬉しかったんだろ?」


 AWOはその性質上、壁を隔てた別エリアでも壁が薄かったり音が大きければ向こう側まで音が響く。

それ故に、今までのVRよりも諜報活動がリアルになったのだ。

具体的に言えば、安全圏からスキルを使った一方的な諜報、と言うのが出来なくなったのである。

こんな事を言えばユーザーに不満が生まれると思うだろう。

しかし実際の所、相手の諜報を妨害しやすく成ったり、逆に音を拾いやすくなって諜報部隊の配置場所を選びやすくなったりと利点も有るので、不満もそれ程沸いては来なかった。


「そう言えば刀弥を待たせてたっけ…確かギルド前広場にリアル時間7時だったよな……?」


 下に降りてリアルの時間をチラリと確認すると、時間は午後6時38分となっている。

此処は現実の八倍の早さで時間が流れているので、AWO時間に換算すると後約三時間もの間、キーノは暇を潰さなくてはならない。


「………市場でも見て回ろうかな……」


(ログアウトするってのも手だけど、それは勿体無いしねぇ……時間が有るなら少しでもAWOの中を見て回る方が良いよね♪)


 さっきまでの陰鬱な気分を吹き飛ばす様に、キーノは軽い足取りで鼻歌を歌いながら街中へと向かって行った。

その後ろに、複数の人影を連れながら……


〇〇〇〇


「ハッ…ハッ…ハッ……」


 少女は深い森の中を走っていた。

少しレベルが上がったからと調子に乗ったのが行けなかった。

そこは掲示板でも警告を出される程の危険区域。

駆け出しの…それもレベル10程度の通常・・冒険者が挑んで良いエリアでは無かったのだ。


「まさか、此処のモンスターがあんなに強いなんて……!!もっとレベル上げてからにすれば良かったぁ~~……」


 今更泣き言を言っても現状が好転する訳では無い。

それでも、泣き言の一つや二つは言いたくなると言うものだ。

何せ、彼女は今追われているのだ。

それも自分より強いモンスターの群に……


「わふぅ……!私も狼なのにぃ!!何でしつこく追ってくるのよおおおおお!!」


 そう、今彼女を追っているのは群での狩に定評のある狼である。

しかも普通の狼では無く魔物、モンスターなのである。

名はウィンドウルフ。

その名が示す通り、奴らは風の魔法を使う。

今はその魔法で速度を上げ、彼女、金髪の狼獣人である、ハルナを追いかけ回していた。


「誰かあああ!助けてええええええ!!!」


 正直、そんな風に叫んだ所で誰かが助けてくれるとは思っていない。

なんせ今の彼女は、MMOで嫌われる行いベスト3に入る行い、モンスタートレイン状態なのだから……

しかもやむを得ない事情が有る訳でも無い完全な自業自得ともなれば、助けが入るなど有り得ない。

そもそも此処は推奨レベル25の危険区域だ。

まだ低レベルが多い今の環境では、此所に入って来る者がまず居ない。

まあ、だからこそ穴場かも―――なんてアホな事を思ったのだが……


「っわ!?いっ……つ~~~……」


 無駄だと思いつつも人影を探しながら走っていたせいだろう。

ハルナは地面に出ていた木の根に足を捕られて派手に転ぶ。

直ぐに起き上がり体勢を立て直すも既に周りはウィンドウルフによって囲まれていた。


「も、もうこうなったら自棄よ!どうせ死ぬなら少しでも経験値を稼いでやるんだから!!」


 そう叫ぶと同時に、ハルナは腰の後ろにクロスさせて挿した双剣を引き抜き構える。

このまま只殺られただけでは経験値と所持金の三分の一に、幾つかのアイテムをランダムに失うだけだ。

故にハルナは覚悟を決めて戦う事にする。


 このゲームではドロップ品にお金、ゴルドは期待出来ない。

ウィンドウルフでは皆無だ。

だが、倒せばレベル差も有ってかなりの経験値が手に入るし、ドロップに毛皮等が有れば、幾つかのアイテムを失った所でお釣が来るだろう。

そう言う意味ではこの選択は間違いではない。

が―――――


「……っの!何で当たんないのよおおお!?避けないでよ!倒せないでしょ!!?」


 ハルナの戦い方はあまりにお粗末だった。

間合いの把握もなっていなければ、スキルの使い方もデタラメである。

しかも速度の早いウィンドウルフに真正面から突っ込むと言う、自殺行為でしかない攻撃ばかりしている。

これでは他のVRよりAIの性能が高いAWOのモンスター――しかも自分よりレベルの高い―――を倒す事など出来る筈も無い。

しかも向こうは双剣の届かない安全圏から風魔法のカマイタチで徐々にハルナのHPを削ってくる。


「っくぅ……も、もうダメ……立ってらんないよぉーー……」


 ずっと追われながら走って来た上に、ひたすら空振る攻撃とカマイタチによるダメージで、ハルナは体力もストレスも限界だった。

だから、ハルナの膝が地面につくのは当たり前の事であろう。

寧ろ気力体力共に尽きて尚倒れなかった事は、褒めても良かったかもしれない。

だからだろうか、こんなお約束な展開に遭遇したのは―――


「なかなか頑張ったみたいだなあんた。後は俺が何とかしてやるから、其処で休んでろよ?」


 其処に立って居たのは、焔だった。

いや、焔の様な青年だった。

燃え上がる様な赤い散切り頭に、赤い――武者鎧と西洋甲冑を合わせた様な――鎧に身を包み、腰に太刀と脇差しを挿している。

その出で立ちはどう見ても侍や武士といった感じである。

しかし、極限まで追い詰められていたハルナには、彼のそんな姿が、白馬の王子さまの様に見えたのだった。


(あ、ああ…助かっ……た……)


 そう安心した所で、彼女は緊張の糸が切れて気を失ったのだった。


〇〇〇〇


「さて、先ずはコイツら釣って離れるかなっ……と!『挑発』!!」


 ハルナの前で柄に手を掛けて構える青年――まあ刀弥なのだが――は、スキル『挑発』を使いウィンドウルフの群のヘイトを自分に集め、ハルナへの注意を反らす。


「よーしよしよし!こっちだ犬っころども!!」


 大きな声で挑発しながら、刀弥はウィンドウルフを引き連れてその場を離れる。

そして少しずつ方向を変えながら、ハルナを背に、群が正面に来る配置を作り出す。

一見すると簡単な様に思えるが、実はこれは非常に高度な事をしている。

何故なら狙い目なハルナに目が行かないよう、ウィンドウルフの注意を自分に集め続けなければいけない上、十数頭からなる群の動きを自分の移動によって誘導しなくてはいけないからだ。

それをそつなくこなせたのは単に刀弥のPSプレイヤースキルの高さが為せる技だろう。


 ところで、ハルナは囲まれていた。

つまり刀弥はその囲いを二度に渡って崩していると言う事だ。

それは少なくとも2頭のウィンドウルフと戦っていると言う事になる。

しかし、刀弥は全くの無傷で、しかも他のウィンドウルフ達は刀弥の侵入に気付かなかった。

となれば、答えは決まっている。

まあ、そういう(・・・・)事である。


「―――――ったく、ホルダーってのはホントに理不尽な位強いんだな。まあ、助かるから良いけど。」


 刀弥は太刀を軽く振り血を飛ばす様な仕草をすると、白い布で刀身に付いた脂を拭い去る真似をする。

まあ、ゲームなのでそこら辺は気にしなくて良いのだが、こういうのは気分の問題であろう。

そしてそんな刀弥の目の前には、先程の群が落としたアイテムの数々が転がっていた。


「さて、アイテム回収したら街に戻るか…と、その前にあの子起こさないとな。」


 刀弥の目の前では、未だに気絶しているハルナの姿があった。


「おーい、起きろーー。」


 ペチペチと軽く頬を叩いて覚醒を促す刀弥。

ハルナは頬を叩かれる度に目元と狼耳がピクピク動くが、一向に目覚める気配が無い。


「仕方ない……」


 そう呟くと、刀弥はハルナの耳を軽く摘まむと口を近付け、そして―――


「わっっっ!!!!」


「キャアアアアアアア!!!」


 耳元で突然大きな声を出されたはハルナは驚き飛び起きる。

比喩でも何でも無く、本当に2メートル位上に飛び上がったのだから、獣人の身体能力がいかに高いかが分かろうと言うものだ。


「ハハハ!スゲェなあんた。あんな見事な起き方初めて観たよ。」


「凄いなじゃありません!いきなり何するんですか!?心臓止まるかと思いましたよ!!?」


「いや、いくら起こそうとしても全然起きないからさ…悪いとは思ったけどあのまんまにもしとけ無いんで、ちっとばっかり乱暴に起こさせてもらったんだ。」


「ら、乱暴!?と言うか貴方はどちら様なんです!?何が目的ですか!!」


 刀弥の言葉に身を硬くし、少しずつ後ずさるハルナ。

完全に誤解している辺り、気絶する前の記憶が混濁しているらしい。


「制限掛かってんだからあんたが考えてる様なこたぁできねえって……って言うか、これでもあんたを助けた恩人なんだがね?その反応はちっと傷付くぜ?」


「え?あ、さっきの……」


 と、そこで先程の光景を思い出し、周りを見渡す。

そこには、自分を追い掛けていた狼達の姿は無い。

もう一度視線を戻せば、自分の前に立ってモンスターから守ってくれた青年が居た。

それを理解した瞬間、ハルナは真っ赤になって物凄い勢いで土下座する。


「すみませんでしたああああ!わ、私、記憶がごっちゃになってるからって恩人に酷いことをおおおぉぉ!あ、私ハルナと言います!今回は本当にありがとうございました!!今度是非お礼をしたいので名前と連絡先を教えて下さい!!!」


 そんな風に謝礼の為と言いながら、ちゃっかり名前と連絡先を手に入れようとする辺り、ハルナは意外と強かであった。

と言うか意外過ぎる位肉食系だった。

いや、狼獣人なのだから不思議では無いのかもしれない。


「ちょ、落ち着いて!流石に本気で気にしてる訳じゃ無いから、大丈夫だって。取り敢えず自己紹介からな?俺はカナタ。前衛で侍を目指してる。連絡先はフレンド登録でいいか?今そっちに申請送ったから受諾してくれ。」


「はい。受諾しました!これからよろしくお願いしますね?カナタ様♪」


「いや、普通に呼び捨てで……様とか付けられるとむず痒い……」


「ではカナタさんとお呼びします。」


「ま、まあそれで良いか……」


 ハルナの押せ押せ状態に少々引き気味の刀弥改めカナタ。

どうやらこの手の展開が苦手らしい。


「取り敢えず、俺は一旦街に戻るがハルナちゃんはどうする?」


 この状態から早く脱したいカナタは、先程のドロップ品を拾いながらハルナに問い掛ける。


「出来れば御一緒させていただきたいんですが……」


「ま、そうだよな。このエリアじゃハルナちゃんは危ないしな。」


「カナタさんはβテスターだったんですか?」


「いんや、リアルで二日前に始めたばっかだよ。」


「えっ!!?」


 カナタの言葉に固まるハルナ。

驚くのも無理は無い。

ハルナはβテスターでは無いが、サービス開始当日からやっているのだ。

流石に一日中やれる訳では無いが、それでもそれなりにログインしてレベル上げに勤しんでいる。

それでもまだレベルは10なのである。

なのに、自分より遅く始めたカナタがもうこのエリアで普通に狩りが出来ると言う事実に、ハルナは目眩がした。


「カナタさん…ま、まさかほ、ほ……」


「ノーコメントだ。」


 それはもう、言っているのと同じである。


「ユニークチートだああああああああぁぁぁぁ!!」


 それはハルナの心からの叫びだった。

一応、此処でカナタのフォローを入れておく。

確かにカナタもまたユニークホルダーであるが、カナタとハルナの最大の違いはそのPSにある。

つまりハルナがド素人で、カナタがプロ、位の差があると言う事だ。

なので、ハルナがユニークホルダーでも、結果はほぼ同じだったのである。


 この後、カナタはぐずるハルナを何とか宥めすかして街へと戻る。

そこで相棒が最早テンプレとなった騒ぎを起こしているとも知らずに……

サブヒロイン候補の登場です


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