幕間 アップデート
タイトルとは裏腹にアップデートが始まる直前の話です
―――昼休み屋上―――
良く晴れた何時もと変わらない、しかし夏に近付き暑くなり始めた晩春の日差しの中、菊之と刀弥は何時もと同じ場所に腰を下ろし昼食を食べていた。
刀弥は親が作った茶色味の強い焼肉弁当で、菊之は何時もの購買ナポリタンドッグでは無く、お気に入りのパン屋「ウグイスベーカリー」で買って来たプレミアムナポリタンドッグ(結局ナポリタンドッグ)である。
今日は桜華と春は少し遅れていて、二人はぼーっと空を眺めては、ゆっくり昼食を食べながら過ごしていた。
そんな時、ふと刀弥がある事を思い出し、菊之に話し掛ける。
「なあ、そう言えば菊之は聞いたか?」
「何を?」
「明後日のアップデートの話だよ。何でも、アップデートが終わる前に、運営会社の社長が記者会見するらしいぞ?」
「へー、何話すんだろうね?」
「アップデート後の仕様とかについてとか、今迄で伏せられてた情報とかだって聞いたけど…実際どうだろうなぁ……」
AWOは既に発売から一月半が経とうとしている。
つまりAWO内時間ではもうすぐ一年になろうとしているのだ。
しかし、それだけ経っているにも関わらず、未だ全容が杳として知れないのである。
寧ろやればやるだけ、その広大で膨大な世界性に目眩が起きそうな程だ。
その世界の情報がいくらか開示されるとなれば、かなりの数のプレイヤーが注目するのは必然と言えるだろう。
しかし菊之は―――
「そっかぁー…まあ、僕らは別に攻略組って訳じゃ無いし、ゆっくり探検出来れば良いから、正直どうでも良いかな。」
―――とかなりマイペースな事を言う。
「お前なぁ…もしスキルについて重要な情報が出たらどうする気だ?お前はただでさえヤバいもん抱えてんだから少しでも情報は必要だろ?」
「っっ!!!!?」
「今気付いたって顔すんな!!まったく、戦いに関する情報以外に反応が鈍いの止めとけ?な?だから肝心な所で常識知らずになるんだぞ?」
「うっ……!!」
菊之はまだレベル12と駆け出し冒険者の様なレベルだが、その強さは既に上級者入りを果たしている。
元から通り名、二つ名持ちなのだから、基礎レベルやスキルレベルが上がればそうなるのは当然だろう。
しかし、AWO内に関する一般常識は始めたばかりの初心者の方が下手すれば詳しかったりする。
と言うのも、戦闘関係以外は最低限の知識しか調べ無いので、非常に知識に偏りが有るのだ。
これは菊之の悪癖である。
自覚が有る故に、刀弥の言葉に呻く事しか出来ない菊之。
視線が泳いでいる。
「師匠~!刀弥さーーん!!おっ待たせーー!!」
「遅くなりました……」
と、菊之の態度に刀弥が呆れていると、所要で遅れていた桜華と春がお弁当を持って現れる。
「あーー!師匠ってばまたナポリタンドッグ食べてる~~毎日毎日飽きないんですか?」
「春ちゃん?春ちゃんも人の事言えないでしょ……?毎日毎日飽きずに帰りのコンビニで揚げ鶏食べてるの私知ってるんだからね……?油っこい物ばかり食べてると、太るよ……!」
「うぐっ!?」
菊之の食事に疑問をぶつける春だったが、自身の食生活を引き合いに出されて口をつぐむ。
しかし桜華は左手を静かに春の脇腹に伸ばし―――
「待って待って!そこはドントストップ!乙女の秘密領域は親友でも絶対不可侵なの!!つまんじゃ駄目!絶対!!」
寸での所で桜華の魔の手から逃れる春。
だが桜華にとってはその言葉だけで充分だった。
「春ちゃん……」
「えっと、何かな?桜華ちゃん。」
「その台詞は太った事を自白してるのと同じだと思う……」
「ぐはっ……!!?」
「後、顎の辺りが若干丸く成った気が……」
「い、いやあああああああああ!!」
その後約3分間、春はショックでフリーズしてしまうのだった。
〇〇〇〇
「さて、飯も食い終わったし、話の続きと行くか。」
数分後、昼食を食べ終えた四人は輪になって並び、アップデートに関する話を再開する。
「って言っても、現時点で言える事なんて憶測だけじゃないの?」
「まあ、それもそうなんだけどな…ちょっと気になる情報があるんだよ。これ観てみ?」
そう言って刀弥はスマフォを床に置き、画面を3Dホログラムモードに切り替え、皆に見える様にする。
因みに日本では2015年には触れるプラズマ・ホログラムが開発されている(マジです)。
それ以外にも空中投影されたパネルにより操作出来るATMが2018年頃に登場しており(これもマジです)、そこから更なる発展をした事で、菊之達の時代ではスマフォの画面を通常モードと3Dホログラムモードに切り替えれる様になっているのだ。
刀弥以外の三人は、その画面に表示されたスレッドの情報に目を通して行く。
その表情は真剣そのもので、かなり考え込んでいるのが分かる。
「………もし、この情報が本当だとしたら、かなり荒れる事になるんじゃないかな?」
「AWOを辞める人も出るでしょうね……」
「でも最後のがホントだったら嬉しいなぁ。多分色んな人が同じ事言うと思うよ?」
スレッドを読み終えた三人は三者三様の意見を口にするが、その意見は暗めのものが多い。
因みにスレッドの情報を簡潔に纏めると以下の3つになる。
1:AWOの時間加速が八倍から四倍になる
2:職業レベルや職業スキルが開放される
3:スキル進化によっては、ユニークスキルになる事が有る
と言った内容で、菊之と桜華が特に反応したのが、時間加速の倍率が減る事と、スキルの進化によるユニーク化だった。
時間加速は単純にプレイ出来る時間が二分の一になると言う事だし、スキルのユニーク化はレベルを上限まで上げた後に取得すれば最初から持っていた人より強いホルダーが出来ると言う事に繋がる。
そうなれば、元からプレイ時間が短い人や、菊之や刀弥、桜華と言ったホルダーにとっては大打撃になるのだ。
荒れたり辞める人が出ない方が可笑しい。
とは言え―――
「まだ完全にそうと決まった訳じゃねえしな。それに運営が考えも無しにそんな事するとは思えねえ。」
「確かにね……もし本当だったとしたら、その分のメリットも何かしら用意されてる可能性はあるか?」
「その可能性を信じましょう……」
「そうそう!悩んでたって結局成るようにしか成らないんだからもっと楽しく行こうよ!!」
「私、春ちゃんの能天気さが羨ましい……」
「桜華ちゃんひっどーーい!!」
ハハハハハハハハ!!
そんなやり取りをしながら昼休みを過ごし、その日はそのまま何事も無く静かに終わった。
〇〇〇〇
―――翌々日、アップデートの日―――
その日、Another World Onlineの運営会社、Infinite Network Solutionsは実に静かだった。
別に誰も居ないとかでは無く、部屋を覗けば数十人単位の人がいつも通りに仕事をしており、電話が鳴る音や人の話し声が絶え間なく聞こえて来る。
しかし、今日この日、この会社はAnother World Online、AWOの初アップデートに合わせたPRとしての発表記者会見を開く予定だと言うのに、誰もそれに関しての打ち合わせ等を行っていない。
それどころかアップデートに関する事ですら動いている様子が無い。
そんな中、社長室では、社長の義文が某人造人間兵器の司令官の様に手を組、怪しく嗤っていた。
「くっ、ふふふふ!!もう少しだ……後数時間で、我が夢は実現する!くっ、ふふふふ!!」
不気味な笑いが響く中、時間となりAWOのアップデートが、始まった。
次回から新章に突入いたします
そしてその次か更にその次位でクランを設立予定です
あ、今回の話に登場した技術はスマフォの以外は実際に存在しますので調べて見て下さい
きっと驚きますよ
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