閑話 その頃の管理運営
暫く閑話や幕間の話が続きます
時間は遡り、緊急メンテが入る数時間前。
その日、運営管理室では何名ものスタッフが唸り声を上げていた。
「あ、あの外道…なんちゅう事をするのですかな……!?」
「ヤバイです…ヤバ過ぎです…正に外道魔導師……!!」
「男として、アレは見ているだけでも痛い……!!」
「彼には人としての道徳心は無いんですかね……!?」
運営が観ていたのはキーノ達のエリアボス戦の動画だった。
今はちょうど、キーノがフルードの股間を破裂させた所である。
それを見て男性スタッフの内何名かが股を押さえて蹲ってしまっていた。
「ほら、男共!何時までも蹲って無いで仕事しなさい!!ある程度予想してたとは言え、これで次の街が開放されるのは確定なんだから!あの外道の「邪神」の能力が第一段階とは言え全解放されるってオマケ付きで!!!」
菫のその言葉で、蹲っていた男性スタッフが全員立ち上がり、素早く持ち場へと戻る。
その顔は焦りに満ちていた。
「今回のエリアボス戦で、あの外道は何やら覚悟を決めた様子でござった…つまりこれまでの様に自重する可能性が低いと言う訳でござる……!!」
「確かに……しかし誰ですか?あんなユニーククエストなんてものと、称号を作ったのは?外道魔法は以前から有りましたがあの2つは新規ですよね?」
「多分、それも「世界意思システム」の仕業だろうな……」
「「世界意思システム」と言えば…例の件はどうなっているんですかね……?」
「ああ、色々見付かりましたよ。戦闘関連に関しては、さっきの外道の戦いを見れば何と無く解るでしょう。」
「アイテムやモンスターに隠し要素なんかもてんこ盛りになってたわよ!こっちが元々用意してたモノの約5倍に膨れ上がってたわ……!!しかもご丁寧に隠蔽までされてたわよ!!尤も、イベント関係は逆に激減してたけどね。それどころか減ったり増えたりで総数なんか把握出来ない状態だったわ。これも「世界意思システム」と「ゲノムプログラム」のせいよ。どっちもゲーム開発前から雛型が完成してたとは言え、まさか密かにゲーム内に歴史を作ってたなんて……オマケにNPCだけでなく全モンスターに迄高度な思考能力に独自進化能力が与えられてたのよ……もう、AWOはただのゲームじゃない…独自の歴史と文化、生態系を持つ1つの世界になっているの。」
ザワリ……!
と菫の言葉に運営管理室内が騒がしくなる。
「あのー…それだと某達の仕事はどうなるのですかな?と言うか、このまま運営するのでござるか?ヤバくありませんかな?」
スタッフを代表する様な古久保の発言に皆が頷き同意する。
「仕方無いじゃない…上の意向なんだもの……!私だってマズイと思って提言したわよ!!だけど専務も、社長すら!『大丈夫、全ては予定通りだよ、菫君。君は此方の指示が有るまで何時も通りにしていたまえ。』って言うのよ!?後、AWOには我々しか触れないブラックボックスが有る以上、私達の仕事は無くならないから、そのつもりで。」
「はぁ…了解にござる。チーフも苦労されているのですなぁ。」
「全くよ……」
ピコンッ!!
菫の話が一区切りし、皆が作業を再開しようとした時だった。
突然聞きなれた電子音が辺りに響いた。
「…………………………チーフ、見ないのですかな?」
「古久保こそ見ないの?」
「某今胃潰瘍の予防中でして……」
「なら小沢!貴方が開きなさい!!」
「僕、胃腸が弱いんですよ。先月もストレスで胃腸炎になりかけたばかりなので遠慮します。」
「ヤ○ザ見たいな顔して何言ってんのよこの唐変木!!」
ムキーーッ!!!
と怒っているが、菫も開ける気0なのは一緒である。
「………んっ!分かりました!私が読みます!!」
見かねてそう名乗り出たのは、最年少スタッフの佐野島陽子だった。
「ちょっ!?ちょっと佐野島!別に貴女が読む必要は無いのよ?こう言うのは若くて可愛い貴女の様な未来ある女の子より、ああ言う先の無い歳ばかり重ねたオタクな男共に任せれば良いの!観なさいアレを、落武者にデブにヤ○ザよ?その上オタクって、もう失う物は命くらいよ?」
「「「「酷過ぎでござる(です……)(なんですが)!!」」」」
「何よ。事実でしょう?」
「いや、某これでも妻子持ちにござる。結婚6年目でラブラブなんですが?」
「私も、交際4年目の彼女が居ます……」
「僕は去年結婚したばかりの新婚です。」
「自分も娘と息子が一人づつ。妻とは大分前に死に別れましたが……」
「なっ……!!」
仕事一筋12年、女学校の出であったため男性経験どころかデートすらした事が無い隠れ喪女、木下菫33歳、これ迄の人生で一番の衝撃に、それ以上の言葉が出て来ないのだった。
「チーフ?どうしたんですか?チーフーー!?」
「はっ!?今のは、夢……?」
陽子の呼び方で正気に戻る菫。
いや、まだ少し現実逃避している。
「現実逃避は止めた方が良いでござる。」
「くっ、うぅ……良いわよ!分かったわよ!こんちくしょーー!!!」
涙目の菫はヤケクソ気味に届いた電子メールを開封する。
開封と同時に、文章が全スタッフの前に展開される。
内容は以下の通りである。
『AWO内のシステムが「世界意思システム」により一部書き換えられました。これによりゲームシステムは独立し、運営による修正等が出来なくなります。』
「「「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」」」
運営管理室の時が止まった瞬間だった。
「やっぱこれマズく有りませんかな……?」
それは、スタッフ全員が思った事だった。
結局その後、何とかゲームシステムを取り戻そうと緊急メンテを入れるも、途中で上から禁止され、システムはそのままにゲームの運営を続ける事になったのである。
〇〇〇〇
「くっ、ふふふふ!!もう間も無くだ!もう間も無く我が夢が叶う!!!」
AWOを運営する会社の社長室、その室内で、革張りの高級リクライニングチェアに座り、怪しく嗤う男が居た。
長身痩躯に端整な顔立ちで、豊かな黒髪をオールバックにしている。
鷹のように鋭い眼差しを楕円形の銀縁眼鏡の奥に隠した三十代前半のこの男こそ、この会社「Infinite Network Solutions」の代表取締役社長、岩崎義文である。
「Another World Onlineはもうすぐ「もう1つの世界」と呼べる世界になる!ああ、楽しみだ!!いったい、プレイヤー達はどんな物語を繰り広げてくれるのか!くっ、ふふふふ!!わざわざバルナムに指示して彼らが創った四大スキルを与えたんだ、楽しませてくれよ?マカロフ君、キッタ君、キリアーネ君、それにキーノ君。くっ、ふふふふ!!」
薄暗い室内で、彼は嗤う。
己が夢の集大成、それがもうじき叶うと知っているから……
「くっ、ふふふふふふふふふ!!」
実は社長に振り回されていた管理運営スタッフ
彼等が報われる日は来るのだろうか……
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