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戦慄と初級装備と絶望

自分の行いは、何処までも付いて回って来るらしいです。

「此処が、AWOの中か……」


 キーノが降り立った所は何処かの建物の中らしく、床、壁、天井と全体的に木造で、目の前にはこれまた木造のカウンターがいくつも並んでいる。

周りにはキーノと同じ様な格好の人が並んで、目の前のカウンターへと進んで行く。


「ホントに冒険者登録からのスタートなんだな…なんか変な感じ……」


 このゲーム、Anotherアナザー Worldワールド Onlineオンラインでは、プレイヤーは異邦人と呼ばれ、いつ居なくなるとも分からない旅人の様な存在として扱われる。

故に、始めに冒険者登録して貰う事で人数の確認や実力等に合った職の斡旋等をする為、出現場所にギルドが建設された――と言う設定で、プレイヤーはギルドの受け付け前に現れるのである。


 キーノもそこら辺の主な流れは事前に確認している為、特に迷う事無く列に並ぶ。

しかし、キーノ的には何時もなら有る筈のテンプレ展開――――


『おいおい、お嬢ちゃんみてぇな娘が冒険者なんて――――』


――――から始まるPV戦からのフルボッコ&戦利品の獲得が無くなったのは少々不満だったりする。


(臨時収入として美味しいんだよねぇ…ああいうテンプレって。まあ、最近は少なかったけどさ……)


 その理由が外道魔導師の通り名と共に、キーノの事がプレイヤー間で広まった為だとは思い付きもしないキーノであった。

そしてそんな事を繰り返しているから外道魔導師の悪名が轟いていった事等、当の本人は全く気付いていないのである。

だから、今此の場でキーノを見てひそひそ話をしているプレイヤーが何組も居ること等、キーノは気にも留めてはいない。

せいぜい皆盛り上がってるな――と思う程度である。


 キーノがそんな風に呑気な事を考えている間、ギルドで有望そうな新人を探していた二人組の男達がキーノを見付けてその動きを止める。

サービス開始から1週間が経ち、内部の時間は現実の八倍早く流れている為に、一部のプレイヤーは既にレベルがある程度上がり装備も充実しはじめている。

この二人もそんな上級者なのだが、キーノを見る目は何処か怯えており、若干腰が引けていた。

と言うのも、この時代のVRはあまり現実から離れた容姿に成れない仕様になっており(種族的特徴は除く)、外見だけである程度どのゲーム出身か判断が出来るのである。

その為、攻略組と呼ばれる上級者達は余計な装備を着けていない初ログイン者を見て、ある程度の目星を付けるのだ。

が、そんな事も忘れて、二人はキーノに視線をやりながらひそひそと話し始める。


「な、なぁ…彼処に居るの、もしかして外道魔導師じゃねえか?」


「確かに似てるけど、流石に此の場で断定は出来ないって……」


「でもよ、もし本人だったらヤバくね?だってあのインナー…ホルダー組(・・・・・)だろ?」


「た、確かにありゃあ噂に聞くホルダーインナー…あいつ、ユニークスキルを貰ったのか!?やべえ、やべえよ……もし本当に外道魔導師なら大変だ……!掲示板で注意換気しねえと!!」


「だなっ!!」


 そう言うやいなや、二人は入って来たばかりだと言うのにそそくさとその場を後にする。

実はこのゲーム、ユニークスキルの有る無しで、初ログイン時に自動で配られるインナーの色が違うのだ。

通常は白色で、襟に赤い刺繍が入っているが、ユニークホルダーは黒で襟に金の刺繍がされているのである。

しかしこの情報はあまり出回っていない為、キーノは知らなかったりする。

しかも知られているユニークスキルはどれも強力な為、あの二人は外道魔導師が強力なスキルを持ってやって来たと恐れたのである。

まあ、それはしょうがないだろう……

あの二人はキーノに突っ掛かって散々やられた経験が有るのだから……


〇〇〇〇


「次の方、どうぞ。」


「あ、はーい。」


 キーノが並ぶのもそろそろ限界だと感じ始めた頃、やっと順番が回って来る。


「では此方に必要事項を御記入下さい。」


 手渡されたのは良くある記入用紙で、名前、性別、年齢、特技等を順に書いていく。

記入が終わると、次に装備の選択を行う事になる。

このゲームは自由度の高さから、ジョブ毎の専用装備と言うのがとても少ない。

故に一律5000Gを初期費用として渡して、ギルドで初期装備を整えさせるのだ。

尤も、別に必ず選ぶ必要は無く、そのまま金だけ持って出る事は出来る。

しかしその場合ろくな装備は手に入らない。

何故ならギルドは採算度外視で装備を格安提供してくれているからだ。

理由は先行投資である。

何せ異邦人であるプレイヤーは死んでもデスペナで生き返る。

つまりゲームを止めない、もしくは悪堕ちプレイをしない限り、いくらでもギルドに貢献してくれるのだ。

これを利用しない手は無いだろう。

故に、ユニークホルダーともなれば―――


「お待ち下さい。キーノ様はユニークホルダーでございますね?」


「えっ…?!なんでそれを……!!」


「ユニークホルダーの方はインナーが違いますので、直ぐに分かるのです。」


 受け付けのお姉さんにそう指摘され、キーノはやっと自分のインナーが他の人と違う事に気付いた。

それと同時に、運営に余計な事を…と怨念を飛ばしておく。


「ユニークホルダーの方は特別な装備を支給するよう、上より仰せつかっております。ですのでキーノ様は彼方の職員に従って上の階へと向かって下さい。」


 お姉さんにそう促され、左に視線を向けると、黒のカチッとした制服に身を包んだ青年がキーノに向かって恭しく頭を下げる。


「上ではマスターがお待ちの筈です。装備を受け取られましたら、カードの授与とギルド規約についてお話があると思います。」


「は、はあ…分かりました。それにしても凄い待遇ですね……」


「当然です。貴殿方異邦人は不死の存在。それだけでも友好を結ぶ価値がある。その上ユニークホルダーとなれば尚更です。ですから―――」


 その瞬間、キーノは机に乗せていた右手を掴まれ、何かを握らされる。


「私も、個人的にあなた様とお付き合いを持ちたいですわ。キーノ様。あ、私の名前はユリナ・ファークルです。ユリナとお呼び下さい。」


 と、飛びきりの笑顔と共に手を放され、キーノは顔を真っ赤にしてその場を離れた。

まさかNPCである筈の受付嬢があんな事をしてくるとは思わなかった為、何を手渡されたのかすら確認せず、先程の青年職員の元へと急いだ。


(び、ビックリしたぁぁあああ!!な、何あれ!?ここ、ゲームだよね?何か息遣いから体温から触感から何から何まで本物みたいだったんだけど!!?何か石鹸みたいな匂いまでして来て凄いドキドキしたんだけど!にしても、可愛いお姉さんだったなぁ…銀髪のセミロングにエメラルドグリーンの大きな瞳が良く似合ってて……ユリナさんかぁ…えへへ……)


 等と考えながらだらしない顔を浮かべるキーノ。

まあ、周りから見ればそれはだらしないと言うより、小動物が喜んでいるような愛らしさ溢れる笑顔にしか見えない為、プレイヤー、NPC共にかなりの人数がそれにやられている。

毎度の如くキーノにとっては知った事では無いが……


「あの、大丈夫ですか?」


「え?あ、すいません。大丈夫です……」


 職員に声を掛けられ、正気に戻ると恥ずかしさから視線を外す。

その姿に職員の男性まで顔を赤くしている事に、キーノは最後まで気付かなかった。

そしてその職員に案内されるまま、二階の一番奥の部屋へと辿り着くと、他の部屋と比べて少し立派な扉が開けられ、中へ入る様に促される。


「失礼します。」


「おう、いらっしゃい。あんたがユニークホルダーの嬢ちゃん?いや、坊やかい?まあ、どっちでも良いさね!大事なのはユニークホルダーの異邦人って事さ!」


 大声でそう出迎えてくれたのは二十代から三十代位のグラマーな美女だった。

赤髪灼眼で好戦的な笑みを浮かべる褐色肌の女性で、特徴的な尖った耳から、ダークエルフである事が伺える。

因みにキャラメイキングに居なかっただろと思われるだろうが、実はエルフを選ぶと、通常のエルフ(白色)、ウッドエルフ(黄色)、ダークエルフ(褐色)、ハーフエルフ(色々)の四種が選べたのである。

また、種族進化クエストなるものも有り、クリアすると上位種族に成れるのだが、それはまた次の機会にするとしよう。


「えと、初めまして。新人のキーノと言います。一応男です。よろしくお願いします。」


「ああ初めまして。このギルドでギルドマスターやってるウルナ・バスタ・ミリアールだ。此方こそよろしくね、坊や。」


 お互いに自己紹介を終えるとウルナはキーノに座る様に促す。

それを受けてキーノが席に据わったところで、ウルナはキーノを案内した職員に装備の目録を持ってこさせた。


「そこに書いてあんのがあんたに渡せる装備さ。どうだい?気に入ったもんはあったかい?」


 キーノが一通り目録に目を通し終わったところで、ウルナはそう質問する。


「はい、一応一式分選び終わりました。」


「なら、この用紙に書いておくれ。今から持って来させるから。」


 そうして渡された用紙に、自分が欲しいと思った装備を書きながら、キーノは気になった事をウルナに質問する。


「あの、何で来たばかりの僕なんかにこんなに親切にして下さるんですか?さっきの目録の装備なんて、新人には勿体無いくらいの破格の装備ですよね?」


 キーノのその言葉に、ウルナはハッ――と鼻で笑ってから答える。


「この世界「バルナム」では実力が全てだ!そしてあんたら異邦人は強く成りやすい上に不死身と来てる。いや、不死身だから強く成りやすいのか?まあそれこそどっちでも良いか…とにかく、そんな異邦人の中でもユニークホルダーは別格さ。何せどれもこれも強烈だからねぇ……だからこそ先行投資は当然なのさ。」


それと―――


「ユニークホルダーはユニークスキルが所持者のレベルに依存してるせいかレベルが上がり難いからねぇ…1レベル毎のポイント数はユニークスキル一つにつき1.5倍と他より高いが、獲得経験値は逆に二分の一に成るって言うじゃないか。だから少し強めの装備を無償提供してんのさ。」


「え………?」


 キーノの手が、止まった。


「おや?知らなかったのかい?でもまあ、確かに誰かが説明してくれる訳でも無いんだから当然か。ただ、ユニークスキルはそんな制約が気にならなくなる位強いから安心しなよ!それにどう言うシステムかは知らないが、ポイントアップは加算方式らしいからね。あんたみたいなセットホルダー(・・・・・・・)なら最低でも三倍のポイントが入る。まあ、経験値抑制は除算方式だけどね……それでも何とかなるだろうさ!!」


 そう言って肩をバンバンと叩くウルナ。

しかしキーノにウルナのそんな言葉は届かなかった。

何せキーノのユニークスキルは三つ、つまり通常の八分の一しか経験値が入らない上、二つは非戦闘用で、最後の一つはユニークと言う名のクソスキルである。

これで固まるなと言う方が無茶と言うものだ。

結局、キーノはその後魂が抜けた様になり、装備とギルドカードを受け取り、軽く規約について説明を受けた後、フラフラとギルドマスター室を後にするのだった。


〇〇〇〇


 キーノが去った後、ギルドマスター室にはマスターのウルナとキーノを案内して来た男性職員、サブギルドマスターのカサルナ・パーバティーが残って話をしていた。


「それにしても、思い切りましたね?マスター。」


「何がだい?」


「惚けないで下さい。あの装備、このギルドが用意出来る初級者装備として最上級の物でしょう?中には初心者向けのとはいえ、ダンジョン産まで有ったじゃないですか。」


「なんだ、そんな事かい。当然さね。さっきもチラッと言ったがあの坊や、どうやらセット持ちらしいからね。」


「なっ!?セット持ち!それは、本当なんですか?」


 ウルナの言葉に酷く狼狽えた様子のカサルナ。

それはそうだろう。

ユニークホルダーと言うだけでも珍しいのにセットホルダーともなれば輪を掛けて珍しいのだ。

しかも強さも輪を掛けて強くなる。


「ああ本当さ。私の鑑定スキルに三つ程ユニークスキルの反応が有った!内容までは解らなかったが、ユニークスキルが複数有るって事は、セットホルダーって事さ。くくく、こいつは愉しくなって来たねぇ。見た目も私好みだし、成人したら味見するのも良いねぇ。」


「程々でお願いしますよ……」


(すまないキーノ君。私には君を庇う事は出来ないので自分で何とか出来るように強くなってくれ……)


「くっくっくっ、16年後が待ち遠しいねぇ。アーハッハッハッ!!」


 こうして、キーノの知らない所で、キーノの貞操が危機に陥っていくのであった。

救いがあるとすれば、ゲームの仕様上NPC達も18歳未満で、18禁解禁プログラムをインストールしていないプレイヤーに手は出せない事位であろう。

何にせよ、キーノは違う意味でも頑張らないといけないのであった。


「ハッ…!悪寒が……!?」

早速貞操が危ないキーノ……

システムに守られているとはいえ、早く強くならないと危ないのに、獲得経験値八分の一と言う絶望。

頑張れ!


計算方法を一部変更しました


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