声
手直しでは無い完全新作です
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それは、まるで十字架のようで……
声が、聞こえた……
――――――――――いだ!
―――――――――せいだ!
それは、何時か聞いた声……
―――――――のせいだ!
――――お前のせいだ!
聴きたく無いと記憶の奥に押し込めた、怨嗟の声……
――――お前さえ失敗しなければ!!俺達は失敗しなかった!全滅しなかった!
――――全部お前のせいだ!
皆が僕を責め立てる……
何時までも何時までも、皆が僕を責め立てる……
それは僕の罪……
いや、本来なら罪とも言えない筈の小さな失敗……
たった1秒だった……
たった1秒、支援の魔法が遅れた。
それだけで僕が居たパーティーは瓦解して、全滅した。
其処は最難関ダンジョンの最下層で、ボスを倒せばクリアだった。
そしてボスのHPは残り一割。
そんな場面で、僕は支援魔法の遅れと言うミスでパーティーを全滅させた。
良く有る話だ。
別に珍しくも無い話。
何時もなら本気で謝れば赦して貰える程度の話だった。
だけどその時だけは赦され無かった。
どんなに誠意を尽くしても、どれだけ謝意を重ねても……
その時だけは、赦され無かった。
ああ、違うな……
僕はその時から、赦され無くなった。
僕はその日その時から、どんなミスも赦され無くなった。
少しでも失敗すれば、またあの声が聴こえて来るから……
―――お前のせいだ!
―――お前さえ失敗しなければ、上手くいったんだ!!
―――お前が悪い!全部お前が悪い!!
―――恥を知れよ恥知らず!!
―――よくのうのうと生きてられるな!!死ねよ役立たず!!
―――何でその程度も出来ないんだ!?脳ミソあんのかよ!!!?
『―――――んなさい……ごめんなさい……!!』
僕は謝り続けた……
謝って謝って、謝り続けて、そして―――
『―――もう、失敗するのは嫌だ……!!!どんな事しても、僕はもう負けてなんかやらない……!!絶対敵を倒して、誰にも文句は言わせない!!』
―――僕は、「外道魔導師」になった。
初めに僕は敵の研究をした。
どんな攻撃が有効なのか、毒は?麻痺は?効くのか……?
走る速度は何れ位だ?
防御を突破するのに適した箇所は?
内臓の有無、目潰しの有用性は?
思考能力は何れ程有る?
考えうる可能性をしらみ潰しに検証した。
次は武器やアイテムの研究だった。
何れ程自由に創れる?
付与出来る属性やスキルの限界は?
使える素材はどんな物が有る?
現実の技術はどれだけ有用?
あらゆる技術を試していった。
次は地形についての研究だった。
何処まで弄れる?
どの程度まで変更出来る?
どんな状況を作る事が出来る?
それは何れだけの手間が掛かる?
考え付く範囲で実行した。
最後はスキル関連の研究だった。
何を組み合わせられる?
何と組み合わせられる?
何処まで拡大、あるいは縮小解釈が可能だ?
アイテムとの親和性は?
今までの知識と結果を全て使った。
そうやって、あらゆる事を試した。
そうしてる内に、僕はいつの間にか「外道魔導師」と呼ばれ、恐れられる様になった。
でも―――
―――お前のせいだ!
―――お前が悪い!!
―――お前だけが悪い!!
―――悪いのは、全部お前だ!!!
あの声は、僕を赦してくれなかった。
ただの一度も赦してくれなかった……
だからは僕は頑張った。
どんな敵にも対応出来る様に、自分から危険地帯に飛び込んだ。
勿論一人で……
出会った敵全てを考えうる中で、最も安全で的確な方法で虐殺した。
時には右往左往している新人を手助けしたりもした。
そうやって経験を積んで、色んな所で成果を上げて実績も積み上げた。
だけど――
―――お前のせいだ!
―――お前のせいだ!
―――お前のせいだ!!!
あの声は、何時までも何時までも何時までも何時までも何時までも何時までも何時までも何時までも何時までも何時までも僕を責め立てる。
どれだけ記憶の奥に押し込めても、必ず出て来て僕を責め立てる。
今も、昔も……
―――お前が悪い!!
―――全部お前が失敗したせいだ!
―――ほら、またお前のせいで全滅だ!!
あの声は、僕を離してくれない……
―――――――――――ーノ!
ああ、また声がする……
今度は誰だろう?
何だか、いつも聴いていた気がする……
――――――――――キーノ!!
なんだ、カナタか……
カナタも僕を責めるの?
いいよ、もう好きに言ってくれ……
どうせ、カナタも呆れてるんだろ?
だから―――
――――起きろキーノ!!!
パシンッ!!
そこまで考えた時、軽い音と衝撃が左の頬に走った所で、僕は目を覚ました。
〇〇〇〇
「起きろキーノ!!!」
パシンッ!!
カナタは刀を脇に置いて、キーノの左頬を右の平手で軽く叩く。
思いの外軽快な音が鳴ったが、ダメージは入っていないだろう。
そしてその音が止んだ所でキーノは目を覚まし、辺りを見回す。
「ごめん…もしかして死んでた?」
「ああ、何とかキリアーネちゃんが蘇生させてくれたが、正直俺らもヤバかった。」
「なら、ハルナも一回死んだんじゃない?」
「ハルナちゃんは基礎ステータスが俺より上だから大丈夫だったよ。」
「そっか……なら僕だけか……ホント、ごめんね?迷惑掛けて……」
「今は謝んなくていい。それより早く立て!今はハルナちゃんとキリアーネちゃんが時間を稼いでくれてるけど、もう長くは持たねえ……!!」
「だけど、もう―――」
キーノは視界の端に映る万物先生の鑑定ログを確認する。
『フルードがボス専用???「ブレイカードラミング」を発動、効果によりセイントフィールド、スロウエリアが砕かれ、パーティー全体に200Ptの固定ダメージが入ります。現パーティーの勝率が0%になりました。』
そこにあったのは勝ち目が無くなったと言う情報だった。
しかも、これを見る限りフルードは領域展開系スキルを無効化した上に、固定ダメージの全体攻撃が出来る能力が有る事になる。
もしかしたら他にも何か有るのかも知れない上に、キーノにはその能力が視れなかったのだ。
だが、そんな言葉を受けたカナタの表情に、悲観の色は無かった。
それどころか、呆れた様に溜め息を吐いている。
いや、様にと言うか本当に呆れている。
「いいか?キーノ。一度しか言わないから良く聴け。」
「う、うん……」
「俺はな?お前が居て負けるなんてこれっぽっちも思ってねえんだよ。」
「だけど―――」
「良いから聴け。確かに死にかけたし今でも負けそうだ。だけど俺はお前があの程度のモンスターに負けるとは思ってねえんだよ。」
カナタは何かを言いかけたキーノの言葉を遮り、話を続けていく。
「確かにあの日、お前が支援魔法を遅れたせいで全滅したかもしれない。」
そこでキーノが一瞬びくりと肩を跳ねらせた事をカナタは見逃さない。
しかし、それでも彼は言葉を紡いで行く。
「けどな?お前が出来なかったって事は、他の奴にも無理だったって事だ。」
「………え?」
「お前の腕は異常だった。なんせ二回りは格上の相手に余裕で勝てたんだからな。だから皆調子に乗っちまった。俺だって、気を付けなけりゃ同じになってた。だから、お前が塞ぎ込んでログインしなくなった期間は、本当に大変だったんだぜ?なんせ、今まで雑魚だった奴にさえ勝てなかったんだから。」
「……………………………………」
「だから、謝るなら俺達の方だ。今まで言え無かったけどさ…本当に悪かった。俺がもっと強けりゃ、お前が「外道魔導師」なんて呼ばれる程頑張らずに済んだ筈なんだ。」
涙を堪える様に顔をしかめて謝罪する親友に、キーノは溢れて来る涙を堪え切れなかった。
そして、込み上げて来る思いが、口から漏れるのを防ぐ事が出来なかった。
「―――ずっと、声がするんだ……お前のせいだって、お前が悪いって、そうやって、僕を責める声がするんだ……」
「うん……」
「もう少しで勝てたんだって!お前が失敗したせいだって!!!何度謝っても赦してくれないんだ!!!!」
「うん……」
「僕は、僕はどうすれば良いの?どうしたら、この声は僕を赦してくれるの?僕は後、どれだけ頑張れば良いの……?」
それは、その日からずっと抱え続け、誰にも言えなかったキーノの、神雫菊之の心の闇だった。
ずっと吐き出したかった心からの叫びだった。
それを聴いて、カナタは―――
「そんなん知るか!!」
ズビシッ!
「いっったい!!!」
―――キーノの脳天にチョップを繰り出した。
「お前の気持ちはわかった。正直なんで言わなかったんだって思うけど、今言ってくれたからそれは良い。けどな?それ以外はお前自身の問題だ。」
トンッ
と、カナタはキーノの胸に右の人差し指を触れさせる。
「さっき言ったろ?だからさ、もう赦してやれよ。三年も昔の話だろ?それに、お前はもう十分頑張ったんだから。」
「…………………うん……!」
本当は、気付いていた。
あの声が、誰のものか……
それでも、止められ無かった。
キーノはずっと、自分自身を赦せ無かった。
だけど―――
「行こう、カナタ!安心して、僕は、僕らはもう、負けない!なんせ僕はどんな手を使っても勝ちを取る「外道魔導師」だからね!!」
「ああ!そうだな!頼りにしてるぜ?相棒!!」
「ああ!やっと来たーー!!師匠もカナタさんも遅いですよーー!!!」
「ふ、ふふふ……!男の子同士の熱い友情……!!これは良いです!最高です!!!」
「皆、行くよ!此処からはまた僕らのターンだ!!さあ、反撃だ!!!」
「「「了解(です)!!」」」
―――今はもう、あの声は聴こえ無い。
代わりに聴こえるのは、仲間達の頼もしい声だけだった。
早すぎる気もしますが、菊之君の抱えていた闇を吐き出させてみました。
ずっと溜め込んでいたんです……
結構繊細な子なんですよ
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