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自棄になった外道のエリアボス戦1

特に変更はありません


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


それは切実な思い。

「今だよカナタ。」


「よっしゃあああああ!!!」


ズバッ!!


ズシャッ……!


 此処は中級者用のフィールドである林の中。

キーノとカナタは二人でパーティーを組林に出現するモンスターを狩っていた。

本当ならハルナも来る予定だったが、今日の昼休みの事を考えると自分は居ない方が良いだろうと、フォローをカナタに任せたのである。


 一方、そのキーノはと言うと、緩急自在と補助魔法による支援や攻撃魔法による牽制で、カナタが戦いやすい用に自分の役割を淡々とこなしている。

その瞳には光が無く、何処を見詰めているか分からない為、非常に危うい雰囲気を醸し出していた。

どうやら、桜華の言葉に相当ショックを受けたらしい。

まあ、それも当然か……


「どうだー?レベルは上がったか?」


「まだだよカナタ。多分後二、三匹で上がると思う。」


「そうか……じゃ、サクサクいこうぜ。」


「そうだね。サクサク行こう。」


「………なあ?昼の事だけど―――」


「カナタ、右斜め前方にオークが二体だ。準備して。」


「お、おう……!」


(くそ、やりづれえ……)


 仕事は着実にこなすし、動きが悪い訳でも無い。

何より指示は的確だし、支援のタイミングは何時も以上に完璧だ。

だが、何かが違う。

何処かが引っ掛かってやけにやりづらい。

体は動く、技は冴えてる。

敵は問題なく――所か何時も以上にサクサク倒せる。

なのに気持ち悪さが拭えない。

理由は分かっている。


(自棄に、なってるんだろうなーー……)


 親友の幼なじみは、多分今日本気の初恋をしたのだ。

だが、その初恋相手はゲーム内のキーノの悪評を聞いて、キーノに対して警戒していた。

自分の友人にキーノには近付くなと注意していた位だ、よっぽどだろう。


(でも、このままじゃ集中出来ねえよ……)


 なんとも言えない空気の悪さを感じ、カナタは精神的に少し疲弊していた。

既に発見したオークは殲滅しているが、このままではいつミスをするか分からない。


「なあ、キーノ。ちょっと休まないか?俺なんか変に疲れてちゃってさあ……なあ?聞いてる?」


 戦闘が終わってから動きの無い親友を訝しみ、近付くカナタ。

良く見るとその目は文字を追う様に動いており、ステータスを視ている事が直ぐに分かった。


「おい、まさかレベルアップしたのか!?」


 思いだすのは戦闘前の会話。

確かに後二、三匹でレベルアップすると言っていた。

そして先程の戦闘で倒したのは確かに二体。

なら、キーノがレベルアップしたとしても不思議は無い。

問題はそのレベルアップによって解放されるユニークスキルの能力だ。


「うん、レベルアップしたけど…今回は緩急自在以外あんまり凄くは無いかな?」


「どんな能力が解放されたんだ?」


「万物先生がレア度鑑定とレア度認識。緩急自在がクールタイム半減だね。後、効果時間が24秒になって、対象が四人に増えてる。これで、効果時間がクールタイムより長くなったよ。」


「おお!そいつはスゲエじゃん!!やったな!」


「けど、今までと同じ使い方は難しいかな。これ、効果時間任意で切れないから、今度は決めの一撃用に取っておかないと駄目かも。」


 それは効果時間が伸びた事による弊害だった。

緩急自在は強力だが、今一つ痒い所に手が届かない性能しか発揮できていないのが現状である。

まあ、まだ全ての能力を解放出来ていないのだから、当然と言えば当然か……


「取り敢えず一旦戻ろうか?ポイントの割り振りも考えないといけないし……「アレ」は、準備を整えてからじゃないと無理そうだしね。」


「アレ?」


 親友の口から聞こえた不穏な響きを持った言葉。

嫌な予感を覚えたカナタはキーノが見つめる先へ視線を向ける。

それは、上級者用の森のフィールドの方角にある木々の切れ目、空の彼方へと向けられていた。


「キーノ…お前、を見てるんだ……?」


「凄いよカナタ。アレ、レア度Bだって。ここら辺は高くてもC位しか居ないのに。経験値も凄いや。アレなら僕も、8レベ位にはなれるかも!」


「おい!キーノ!一体何が見えてるんだ!?いや、お前は…何を、考えてるんだ……?まさかキーノ、お前、エリアボスに挑もうなんて思ってないよな?」


 遠くを見つめるキーノの瞳に、危険な光を見付けたカナタは両肩を掴み真っ直ぐ視線を合わせる。

しかし酷く暗いその瞳からは、キーノの意思を読み取る事が出来ない。

そもそも―――


「何言ってんのさカナタ。エリアボスなんて居るって噂だけで、誰も居場所を知らないし、姿も視たこと無いって話だろ?僕が分かる筈無いじゃないか。」


「―――うん、そうだよな。キーノが分かる筈無いか。なんせ誰も知らねえんだからな!うん、そうだよな!!」


―――そう、誰も知らない。

居ると言う噂だけで、誰も居場所も、姿も知らない。

未だ謎に包まれた噂だけのモンスター。

それが上級者用のフィールド「賢武猿けんぶえんの森」に住むエリアボスなのである。


 それでも、カナタには不安があった。


(もしかしたら、キーノの万物先生なら……)


 親友が手にした未知なるスキル、万物鑑定に万物認識。

この二つの性能は、異常である。

特に取得可能経験値が分かる様になったお陰で、敵を視認出来なくとも、経験値の光で、隠れた敵を見付けられる様になっていた。

ぶっ飛んでいると言うしか無いだろう。

おまけに今はレア度まで分かると言う。

ならば、そのレア度Bのモンスターがエリアボスと言う可能性はけして低いものでは無いのでは?

と、そう考えてしまう。


(ただのEXPボーナスキャラなら良いんだが……嫌な予感しかしねえ……)


「さ、一旦街に戻ろ?ちょっと疲れたし休もうよ。」


「あ、ああ…そうだな。そうしよう……!!」


 こうして、カナタは不安を抱えたまま、一旦街まで戻るのだった。


〇〇〇〇


「ふんふんふーん♪ふんふんふふーん♪」


 此処は始まりの街「ファステム」屈指の高級宿、「月夜の灯り亭」の受付ロビー。

そこでは一人の少女が機嫌良さげに鼻歌を歌いながら帳簿の整理をしていた。

フワフワセミロングの栗毛が似合う翠の眼をした彼女は、この宿の看板娘で、名をサルマ・ハートマンと言う。

彼女は今、誰が見てもご機嫌だった。


「ふふふ!今月は長期のお客様が一杯だなぁ~!金払いが良いお陰で私のお給金もたんまり!ホント、異邦人様々だよ~~しかも、美形が多いから眼の保養にもなるしね~~♪」


 彼女はこのところ宿が好景気である為、チップや給料がたんまり入って来るので酷く機嫌が良いのだった。

しかし、そんな彼女にも不満が有る。


「それにしても、なんで異邦人の人達って全然付き合ってくれないんだろう~~?」


 何度も彼女の居なそうな男性に声を掛けてみたのだが、サルマの誘いに乗ってくれる人が全く居ないのだ。

これだけ金払いが良いのだから、女性の一人や二人養えない筈は無いのに、全く引っ掛からない事が不思議で仕方無かった。

それにサルマはそれなりにモテるのだ。

街に買い物へ出れば一度や二度ナンパされるのは当たり前な位には、サルマは容姿に自信があった。

だからこその不満である。


カランカラーーン!


「あ、いらっしゃいませ~~!って、カナタ様とキーノ様でしたか、お帰りなさいませ!」


「ただいま、サルマちゃん。」


「ただいま、サルマさん。」


「狩りはどうでした~~?」


「ああ!キーノのお陰で順調だったよ!ただ、狩り過ぎて疲れちゃってさ。」


「では食堂でオヤツなんていかがですか~~?」


 現在AWO時間で、午後3時35分。

一応オヤツ時である。


「そうだね。それじゃそうしようか。良かったらサルマさんも一緒にどうです?」


「あ、私はまだ受付をしないといけないので~~」


 内心では(キタ━(゜∀゜)━!)になっているが、そこは流石に看板娘、自分が任された仕事はキチンとこなすプロ意識を持っている。


「そうですか…残念です。それじゃあまた機会があれば。」


「はい~喜んで~~♪」


(ふっふっふっ!遂に私も玉の輿ですかね~~?)


(あー…なんかサルマちゃん勘違いしてっぽいなーー……多分キーノの奴、誰でも良いから女の人に優しくされたいだけなんだと思うんだよなーー……)


 サルマの表情から、その心情を何と無く読み取ったカナタ。

しかし敢えて指摘したりせずにそのまま勘違いさせて上げるのも優しさかと思い、何も言わずに食堂へと向かうのだった。


「ふっふっふっ!キーノ様はちょっと見た目が女の子っぽ過ぎるけど、ギルド期待の新星だって話だし~~♪かなりの優良物件よね~~♪」


 と、再び上機嫌で帳簿の整理を再開するサルマだった。

しかし、AWOのNPC用AIの性能の高さは少々では無く高いと思う。

その思考ルーチンはほぼ、人間と変わらないと言えるレベルだ。

正に、「もう1つの世界」と呼ぶに相応しいだろう。


〇〇〇〇


「それで?次はどうするんだ?」


「さっき視たアレを狩りに行こう。ただ、このまま二人じゃ厳しいと思うから、仲間を見付ける必要はあるかな?」


「つっても野良は無理だろ?お前の能力を考えれば、秘密を守れる固定パーティーを探す必要がある。」


「まあ、そうだろうねぇ。こうなると、多少不安は有るけどハルナを連れてくしか無いかな?」


「まあ、そうなると思うけど、ハルナちゃん呼んだら多分桜華ちゃんも来ると思うぞ?」


ビクッ!!


 とキーノの肩が一瞬強く揺れる。

明らかに動揺している。


「やっぱ止めとくか?」


「いや、呼ぼう。」


 カナタの言葉に意外にもしっかりとした口調で応えるキーノ。


「ここで呼んで、一緒に戦って貰えば、きっと、いや絶対僕が噂の様なド鬼畜ド外道な奴じゃ無いって分かって貰える筈だ。その証拠に今日はいつもよりクリーンな戦いだったろ?必要以上に目や脚を攻撃して敵をいたぶったり、過剰な迄にデバフ使ったり必要以上にバフでカナタを強化してオーバーキルに持っていったりして無かったでしょ?僕だって綺麗なクリーンな戦いを出来るんだよ!今日の狩りでそれは証明出来た筈でしょ?ね?そうだよね!?」


「あ、ああ…そうだな。うん……」


「そうさ!そうなんだよ!!!僕だってやれば出来るんだ!!!」


 カナタは今の言葉で理解した。

今日の狩りで感じていた違和感、言い様の無い気持ち悪さの正体を、理解した。

そう、戦い方が綺麗過ぎたのだ。

キーノらしい泥臭さとでも呼ぶべき、過剰な迄の安全マージンを取る為の策が、全くと言って良い程張り巡らされていなかったのだ。


(だからあんな不安になったのか……まあ、キーノの気持ちを考えれば解らなくは無い。無いけど……やっぱりなーー……)


 カナタは知っている。

キーノが戦闘で容赦が無いのは、友人である自分を守る為だと言う事を―――


 カナタは知っている。

ド鬼畜ド外道と呼ばれながらも、一度味方と認識した相手なら、キーノは全力を持って守り通す位仲間思いである事を―――


 カナタは知っている。

結局、キーノが外道魔導師と呼ばれる一番の原因が、カナタや友人達を思う優しさから来ている事を―――


 だから、本当ならカナタは今日の様な戦い方は反対だった。

そこにキーノの存在を感じれなかったから。

何時もの安心感が無かったせいで、精神的に落ち着け無かった。

だが、キーノは変わる事を望んでいる。

好きな人の為に変わりたいと思っている。

なら―――


(―――応援、してやるべきなんだろうな……)


 少しの寂しさを感じながら、カナタは親友の初恋を実らせてやろうと、そう決意するのだった。

尤も、その為の方策等は全く思い浮かばないのだけど……


「僕は、外道魔導師を卒業する!!」


「うん、応援してやるから頑張れ……!」


「有り難う!」


 こうして、キーノとカナタは謎のレア度Bのモンスターへ挑む為の仲間を引き入れる事を決めたのだった。

そして二人は知る事になる。

三田川桜華の正体を……

キーノは少々情緒が不安定になっているようです


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