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リアルの外道は春に出会う

特に変更はありません


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


それは嵐の様に突然で……

「おはよう……」


「おう、おはよう……!」


 翌日、菊之は登校中の刀弥と合流し、一緒に学校を目指す。

その顔はかなり疲れているようだった。


「随分疲れた顔してんな。」


「それはそっちもでしょ?」


「まあなぁ…あんなスキルだとは思わなかったしなぁ……」


 そう呟く刀弥の瞳は、何処か遠くを見つめているようで、酷く疲れを感じさせるものだった。


 昨日、あれから三人は時間の許す限り、万物先生と緩急自在の能力検証を行っていた。

結果だけで言うなら、刀弥――カナタのユニークである剣鬼等問題では無くなる程のぶっ壊れチートスキルだった。

今現在はまだ、剣鬼の方が上だろう。

しかし、今ですら剣鬼に迫る能力なのに、それでもまだ十分の三しか能力が解放されていないのである。

もしこれが全能力解放となれば、その強さは想像すら出来ない。


 菊之はその時の事を思うと溜め息を吐くのが止められ無かった。

しかしアカウントの削除からの作り直し等やりたくないし、そもそも脳波登録のお陰で出来ない。

それに、問題が起きる可能性を考えるとめんどくさいがあの能力は魅力的でもあるのは事実だ。

使いこなせればこれ以上の武器はそうそう無いだろう。


 緩急自在の能力検証で分かった事は3つ。

まず、能力の射程距離。

これはキーノの認識出来る範囲であれば、射程が存在しない事が分かった。

なので、視界以外での認識方法が有れば、そちらでも使用可能か今後検証する事になる。

次に、レベルに5以上の差が有る場合、三分の二の確率でレジストされる事が分かった。

これは敵に対してのみであり、パーティーや弟子には関係無いらしい。

また、レベルに5以上差が有っても、装備している武具には関係無く効くことが分かった。

最後に効力についてだが、これは概念干渉以外であれば、~%で調整が可能であった。

概念干渉では今の所、最小か最大の二択しか無い。

因みに概念コンバーターだけの場合次の様になる。


『場所「脚力」、効果「ゆるい or きつい」、効力「0~最大」、タイミング「瞬時~任意」』


となり、応用の幅が広い。

また此方であればバフ、デバフの範疇と言えるので気分的にも優しいのが菊之としては有り難かった。

運営としても問題に成り難いので有難い。

しかもこの能力、ステータスやスキルにも適用出来るので使い勝手が良いのである。

まあ、その分信頼出来る相手 (ハルナは仕方ない)にしか使えないが基本的にレイドでも無ければパーティー以外と組む事など無いしそれほど問題は無いだろう。


「ホント、こんな能力創った運営は何考えてんだろうね?これ、明らかにゲームマスター用の能力だと思うんだけど。」


 酒で酔った勢いで創った挙げ句、何故かメインプログラムと複雑に絡み合ってて下手に手出し出来ないから大型アプデに合わせてデチューン出来る様に進めてた所、菊之が引き当てた事で更に手出しが出来なくなってしまっただけだったりするのだが、それを菊之達が知ることは無い。


「ま、取り敢えず今日も色々試してみようぜ?それにそろそろお前も本格的にレベル上げしたいだろ?っても万物先生有るからそこらは簡単に出来そうだが……」


「だね!万物先生はホントに凄いよ!正直先生だけで良かったのにと思う位だよ。」


 それは運営も思っている。


「取り敢えず万物先生を活かす事を考えると、僕は何時も通り後衛で指令兼支援の方が良いね。緩急自在も前衛より後衛向き出し。そう考えると、何時も通りの事が出来るスキルで助かったとも言えるね。」


「確かにな。多分セットには前衛用とか中衛用も有ったんだろうし。そう言う意味では運が良かったか。まあ、そう思わねえとやってらんねえって気持ちが強いってだけなんだが……」


「それは言わない約束だよ……」


「すまん……」


 そんな会話をしながら、二人は若干足取り重く教室へと向かうのだった。


〇〇〇〇


――昼休み屋上――


 二人は普段使う学生食堂は止め、気分転換を兼ねて屋上で購買パンを食べていた。


「あ~~良い天気だなぁ~~」


 季節は春、気温は高くも無く低くも無い程好さで、天気は適度に雲の有る晴れ、風はそよそよと肌を撫でる位で心地好い。

そんな気持ち良い環境の中、菊之は好物のナポリタンドックを頬張っていた。


「さて、今日はどこら辺でレベルを上げる?お前の事情を考えると中級者用の林辺りが妥当か?」


「そうだねーAWOの経験値がラストアタック総採りで無くて良かったよ。一、二回攻撃当てれば止め刺さなくても分配されるんだから。」


 MMOと言うかレベル制のゲームだと、経験値はだいたいパーティーで分配するか、止めを刺した者の総採りとなる為、レベルの上げ方と言うのはその都度変わって来る。

因みにAWOではパーティー分配式なのだが、攻撃に参加しなければ分配されない為、効かないとしてもモンスターに攻撃を当てる必要が有る。

ただラストアタックさせる為に弱らせて譲る手間が無い分レベルは上げやすい。


 と、そんな時だった、階段の方から話し声が聞こえて来たのは。


「――――――ちゃん、やっぱり屋上は止めない?立ち入り禁止かもしれないし……」


「大丈夫大丈夫!さっきも誰かが登ってくの見たし!私ずっと屋上で友達とご飯に憧れてたんだよね!!」


 そうして現れたのは二人の女子生徒。

黒髪セミロングで、何処か犬っぽい雰囲気の活発な少女が、もう一人の手を掴んで此方にやって来るのだが、もう一人は黒髪の娘に隠れて見えない。

と、そこでその子は先に来ていた菊之達に気付き、目を見開いて驚いた様子を見せる。


「んーー?先客の方ですか―――ってカナタさん!?それにそっちはもしかして師匠!?うわーほぼアバターのまんまだー!カナタさんは髪の色だけだし、師匠は目元と髪型以外おんなじなんだーー…へーーてか、同じ学校だったんですね。」


「へ?え?もしかして―――」


「そのぐいぐい来る感じはもしかして―――」


「「ハルナ(ちゃん)!!?」」


「はいー♪師匠の可愛い弟子にして、カナタさんの恋人(予定)のハルナちゃんです!因みにリアルでは小川春おがわはると言います。気軽に春ちゃんと呼んで下さいな。あ、こっちは親友の―――」


 そう言って、春は先程から手を引いていた相手を隣に立たせる。

それは、とても、綺麗な娘だった。

身長は170㎝程と女子にしては高く、スタイルも悪くない。

スラリとした脚は長く、顔は小柄で整った容姿をしている。

しかし、何より目を惹くのは、その見事なロングストレートの銀髪と、ガーネットの様な紅い瞳だった。


        ドクンッ!!


と、菊之の胸が強く脈打つ。


「あ、あの…三田川桜華みたがわおうかと言います。よろしくお願いします。」


 桜華はおずおずと二人に挨拶する。

春とは対称的に大人しい娘であるようだ。


「おう、俺は桂木刀弥だ。さっき春ちゃんが言ってたカナタってのはAWOのアバター名だ。あ、因みに付き合っては無いから。」


「あははは…やっぱり春ちゃんが勝手に言ってただけなんですね。それにしても、カナタって…もしかして「羅刹のカナタ」ですか?あの有名な?」


「もう!カナタさんの意地悪ーー!ってかカナタさんそんな有名何ですか?通り名持ちなんて凄かったんですねーー?」


「春ちゃん…まあ、春ちゃんはAWOが初めてだし仕方ないか……」


「ん?ってことは桜華ちゃんもAWOやってんだ?それにその口振りだと他にもやってんな?つか、どうした菊之?さっきから黙ったりして―――」


 と、そこで刀弥が先程から黙っていた菊之に話を振った瞬間、菊之は座った姿勢から立ち上がり、桜華の右手を両手で掴む。


「僕は神雫菊之です!AWOではキーノって名乗ってます!あの、僕と、僕と友達になってくれませんかっ!?」


「え?あ、はい……」


「やった!では、あの、連絡先の交換をお願いします……!」


「あ、と…その、一旦手を離して貰えると……」


「あ、ごめんなさい……」


「「………………は?」」


 急に捲し立てる様に桜華へ迫ったと思ったら、急に顔を赤くしてモジモジし出す菊之の姿に、刀弥と春は困惑していた。

なんせ、それはどう観ても恋する乙女――失礼、恋する少年そのものだったからだ。

しかし、積極的に迫っておいて出て来た言葉が「友達になってくれませんか」とは情けない。

まあ、「付き合って下さい」よりは確率は高いし、そこから関係をステップアップさせると言うのは、世間的には健全だと思われるので、そう言った打算込なら見事な手際だと言える。

だが、菊之はどう観ても舞い上がっていた。

と言うかいそいそと携帯を取り出す今の姿を視るに未だに舞い上がっている。


『どう言う事だと思います?』


『正直判断が難しい…あいつとは幼稚園からの付き合いだが、あんな様子は初めて見る。ただまあ、順当に考えると―――』


『ええ、間違い無く―――』


『『桜華ちゃんに惚れてる(ますね)……』』


 小声で話し合いながら、二人はそれ以外無いだろうと言う結論を出し、菊之と桜華の二人を観察する。


「えっと、これで連絡先の交換は完了ですね。にしても、キーノさん、ですか……もしかしなくとも「あの」?」


 桜華の確認するような言葉に、顔を青くするとサッと顔を反らす菊之。


「桜華さんが言ってるのが「どの」なのか分かりませんが、不名誉な通り名が付いてるのは確かです。」


 菊之のその言葉を聞いた瞬間、桜華は春に振り向き叫ぶ様に声を掛ける。


「春ちゃん!?私「外道魔導師キーノ」には気を付けてって言ったよね!!?」


「は、はははは…だってぇーーカナタさんの相棒だったんだから仕方ないじゃん。それに今は私の師匠だし~~?」


「だからって!ド鬼畜ド外道ってもっぱらの噂の人に近付くなんて何考えてるの!?」


「ぐふっ!!?」


 桜華の言葉のナイフ!!

菊之の心に99999のダメージ!!

効果は抜群だ!


          ドサッ


菊之は倒れた。


「き、菊之ーー!!大丈夫か?傷は深いがしっかりしろーー!!」


「ふ、ふふ、ふ……ド鬼畜、ド外道だって……僕、もう……」


「ぷ、だ、大丈夫だ…ぷ、ふふ、お、お前は世間のひょ、評判程、酷い奴じゃな、無いさ……!」


「笑いながら言っても説得力ないからああああああああああああああああああああああ!!!」


 菊之、心の絶叫……


「もー!桜華ちゃんが酷いこと言うから師匠が発狂しちゃったじゃん。どうするのーー?」


「えっ!?アレ私のせいなの……?」


「そだよーー?寧ろ本人の前で「ド鬼畜ド外道」って言ってなんで関係無いと思えるの??」


 どうやら、桜華は無自覚毒舌娘らしい。

聖女の様な見た目でとんでもない暴言を無自覚に吐く辺り、菊之が素で外道行為に走るのと良い勝負である。


「なんで僕の評判はそんなに悪いんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 何度も言うが、素が外道だからである。

と言うか、そうで無ければそんな通り名等付く筈も無い。


 結局、居たたまれなく成った菊之は、食べ掛けていたナポリタンドックを一気に食べると、逃げる様にその場を後にするのだった。

刀弥はその後を焼きそばパンを頬張りながら付いて行き、それを悲しそうな顔をしながら見送る春。


「師匠、大丈夫かな?随分落ち込んじゃってたけど……」


「ごめんなさい…私のせいで刀弥さんまで居なくなっちゃって……」


「そうだよー?だいたい師匠は桜華ちゃんが言う程悪い人じゃ…うん、多分、きっと、無いと…思う、よ……?」


 昨日ユニークスキルでされた事を思いだし歯切れが悪くなった春を見て、桜華が疑わしげな視線を向ける。


「ん、ん!取り敢えず、師匠は敵に情け容赦無いだけで、そこまで悪い人じゃ無いよ!失言するとお仕置きされるけど!そんな酷くは無いし!」


 便意操作は十分酷いことだと思われる。


「それに、何だかんだ言ってちゃんと色々教えてくれるしね!桜華ちゃんの百倍、いや億倍は分かりやすいよ。」


「え!?私の説明、そんな下手だった……?」


「桜華ちゃん感覚的過ぎて擬音が多いんだもん…分かんないよーー!」


 そう、菊之は物を教えるのが実は上手い。

感覚的な教え方も理論的な教え方も出来るので、感覚的な説明では分からない人にも分かる様に説明出来るのだ。

そして、驚いた事に春は理論派なのである。

決して感覚派では無いのである。

無いのである!

大事な事なので二回言いました。

因みに刀弥は感覚派なので、菊之に教えを乞うたのは賢明な判断だったと言える。


「だからまあ、もう少し仲良くしてあげて?ね?」


「う、うん…頑張って見る。」


 こうして、菊之の知らない所で、キーノに対するイメージが少しだけ改善されるのだった。

メインヒロイン候補の登場です

まあ、毒舌系なんですけどね……


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