契約
「契約期間は1年もあれば返済は終わるだろう」
薬代の代わりとして先生の仕事を手伝うことが交換条件だった。
正直、無一文なので是非もない。収入手段が得られただけ御の字だ。
貴重な幻獣の素材である竜の鱗と竜のしずくを竜からお礼として受け取ったため、ジオへの借金残高は給料からの天引き1年程度で返済できるくらいまでに減った。
竜のしずくとは涙のイメージが強かったが、体液なら似た効能があるらしい。
竜が先生に渡された瓶を抱えて、んばあ〜とよだれを垂らす姿は大変シュールでした。はい。
紙と筆を用意し、早速先生との間に契約を結ぶ。
「ここに名前を」
簡単な契約書を認めレアンダーにも立ち会ってもらってお互いに血判を押す。すると血から線が伸び、お互いの線と混ざり合って一つの花のような紋様を作り出して契約は無事に締結された。
後で知った話だが、こちらの国では魔法が使えるか使えないかは別として、各々必ず魔力を持っているとされる。契約を結ぶ時や個人を識別するのにも使用されているらしい。
「さて、お前さんにやってもらうことだがこの町で出来ることはない」
あー。
納得の声が思わず出る。
「小さい町だから先生だけで足りてますよね」
「手伝ってもらうのはここより更に内地に行ったところにあるケアランという街で弟子がやってる雑貨屋だ」
この小さな町でそんなに人手はいらない。
ここから馬で3日程離れた辺りにあるヘルデイオ国第三の街ケアラン。
定期的に先生が薬や素材などを卸している弟子が経営する雑貨屋があるが、第三の街とだけあって圧倒的にお客の数も多く、薬に使う素材なども足りない。そこに客先への配達や注文の受注、素材の確保などを代行するということで話はついた。
「ところで、さっきの紙と筆って普通のものじゃないですよね?」
インク壺を用意していないから不思議に思っていた。
筆を見せてもらうと二人から変な目で見られる。
「……魔道具も知らないとはどんな田舎からきたのだ?」
「魔道具、ですか」
「王都にいる研究所の人達の研究の賜物ですね。神話時代に使われていた古代語の中から解読できた一部分を応用しているらしく一般的に普及しはじめたんですよ」
僕たちにはさっぱりですがね、と肩を竦めながらアレンダーは筆の柄の部分を指差す。
解読出来た古代語の中から意味のある言葉を魔力を込めながら刻印すると魔道具が出来上がる。
「『鉛筆』……ですかね? え、こんな簡単なことで魔道具になるんですか」
「お主これを読めるのか?!」
ぎょっとした顔で詰め寄られる。
あら?
これはもしかすると俺の魔法陣擬きの方が精度が高くないか?
ジオ作魔法陣は漢字と数字の組みわせである。漢字がここでいう古代語の意味のある言葉で、数字を威力と仮定し作成した。
もしここに、古代語として前世の日本語が当てはめることが出来たのなら。漢字だけでなくひらがなやカタカナ、果てはローマ字まで応用できるとしたら。
「日本語チートか」