薬
診察を終えた先生が奥の棚をガサゴソを漁り、手に持ってきたのは透明な液体に白い花が入った瓶。青味がかっていて少しとろみがある。
「これを飲ませると良いだろう。最高級の月光花入りの上級ポーションだ」
横でレアンダーが「あ」と漏らした口を押さえた。
「これはどんな怪我も治せるものだ。まあ幻獣にはちと効果が足りんかもしれないが」
手にとって光に透かすと月光花から細かい光の粒子が今尚零れて底に溜まっている。
「大丈夫ですかジオさん。このポーション、かなりのお値段ですよ……」
「……」
こそっとレアンダーが耳打ちしてくる。
ちらり。
手元の瓶に目をやる。さりげなく反対の手に竜を抱っこする。そして普段あまり活躍しない表情筋をフル稼働させてにっこりと笑いかける。
「ありがたく頂戴しま」
「先にお代だ」
瓶を持った手を掴まれた。歳の割に力が強い。やはり雰囲気で流されてはくれなかったか。
更に笑顔を深める。
「払えません」
「何だ?」
「無一文です」
胡乱げな目で改めて全身見られた。何しろ自害用に持たされていたナイフ以外の手荷物すらない。怪しすぎるだろう。
「おい、レアンダーどういうことだ」
「助けて下さいレアンダーさん」
怪我をした竜を前面に押し出したらこいつの可愛さで懐柔できないだろうか。
「えーと。僕にもそれはちょっと……すぐには出せない金額ですね……」
2人に詰め寄られ、引き攣った笑みでそっと竜を押し返される。
隠していたわけではないと一言置いて、レアンダーが俺の境遇を話すと天を仰がれた。
しかし困った。本当にどうしようか。
そのまま連れてこられたから騎士団の方で怪我をさせたお詫びに治療費は払ってもらえるかと期待していた。
もう拾ってしまったのも何かの縁だし、なんとかしてやりたいのは山々だが、金に替えることが出来るものが何一つない。
「……仕方ない。幻獣をお目にかかることが出来たのだ。融通をきかせてやろう」
先生は大きく息をつく。俺の手から瓶を受け取ると竜の口にあてて少しずつ飲ませる。
「グ」
皆黙って見守っていると、飲んだそばから逆再生されるかのように折れて破れた翼が修復されていく。痛くはないのか気持ちが良さそうに目を瞑っている。
「これでいいだろう」
完全に元どおりになり、竜は1度大きく翼を広げ羽ばたかせた。
「ピー!」
「ありがとうございます。どうしようかと思いました」
立ち上がって礼をする。
下げていた頭をあげるとき、竜にスリスリされて顔が緩んでいるのが一瞬見えた気がするが、次の瞬間には元の仏頂面になっていたから気のせいだろう。
「幻獣のためだ。しかし、タダとは誰も言っておらん」
「え」
「働いて返してもらおう」