救助
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木の板のような魔法陣を掘れるような素材もなく、手持ち無沙汰で竜をなでなでして早数時間。近づいてくる馬の蹄の音と人の声が聞こえた。
真っ暗な落とし穴に目が馴染んでいたところに急に光が差し込んだ。
「おー。本当に人が落ちてら」
男二人が穴から顔を覗かせる。
「大丈夫ですか? 今ロープ下ろしますから」
竜には服に掴まってもらいその上から上着を羽織る。しっかりとロープに掴まり、大人二人と馬二頭の力で引き上げてもらう。
「助かりました」
自力で出られないし内心どうしようか途方に暮れていたから無事に脱出できてほっとした。
黒地の制服を着たこの二人がアンナの言っていた騎士さんだろう。
一人は紺色の髪を後ろに撫で付け、あご髭を生やしたガタイの良い三十代後半くらいの男と、もう一人は俺と変わらないくらいの二十代前半くらいで前髪だけ上げた茶髪の青年。
「怪我はないか?」
「俺は大丈夫ですけど、こいつがちょっと」
ぺらっと上着を開いて腹に引っ付いてる竜を見せる。
驚いた顔の二人をちらりと見たが、小さく鼻を鳴らし目を閉じて素知らぬ顔だ。
「俺が落ちる前から罠に引っかかっていたみたいで、翼の怪我が結構酷いです」
「……」
二人は一緒に来ていたアンナの方に顔を向けた。
「アンナ、昨日は何もかかっていなかったって言ってなかったか?」
「昨日は何にもいなかったよ?」
「本当に、何もか?」
「……」
厳ついおじさんに顔を覗き込まれだんまりを決め込むが、すぐにばつが悪そうに首を振る。小声でヨロイ虫しか入ってなかったからまた閉じたのだと告白する。
「アンナ、何か罠にかかってたらどんなものでも俺たちに報告する約束だろう?」
「だって……」
スカートを両手で握り、完全に俯いてしまった。
「アンナちゃん、怒ってるわけじゃないよ。でも何で教えてくれなかったの?」
俯くアンナの頭を若い騎士さんが優しく撫でる。味方がいると気を取り戻したアンナは俺の腹に引っ付いてる竜を指差す。
「アンナ知ってるもん! あの白いのヨロイ虫って言うんだよ。食べれるところが少なくて美味しくないの!」
えっへんと自慢げなアンナ。
横で騎士さん二人が両手で顔を覆った。
ヨロイ虫とは。
鎧のような甲殻を持つ灰色の一抱えもある大きな虫のことだ。肉も無く、防具とするには強度も足りないただの虫。敵に見つかると丸まって防御することが特徴……はっきり言ってしまおう、前世で言うところの巨大なダンゴムシだ。
「……お前ダンゴムシに間違われて丸一日閉じ込められてたのかあ」
「グ」




